タイムベース競争で求められるのは、「外向き」で自律的な組織構造・文化の確立


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 時間という経営資源を使いこなすために迫られる転換

時間という経営資源を生かして資本回転率を高める方法 でも述べたように、時間は貴重な経営資源です。それを効果的に活用して、ウォルマートのように急激に成長した企業があります。

時間の使い方の巧拙を競う、タイムベース競争 の時代が始まっているのです。

経営者がその競争があることを理解したとして、具体的に何をすべきでしょうか?例として製造業を取り上げ、時間を効果的に使うことで知られているトヨタ生産方式を真似るために何をすべきかを考えてみましょう。

一番大きな思想上の変革は、装置の稼働率中心の考え方から顧客対応スピード重視への変革です。顧客への納入スピードを高めるために、多品種少量でも装置中心の生産から流れ生産へ変革するのです。

大量生産であれば、製品ごとの生産ラインを設計しますので、流れ生産はごく自然に実現されます。しかし、少量生産であれば、高額な装置を個別の製品専用にすることはできません。

高額装置を効率的にしようとすれば、製品の方が装置の間を渡り歩き徐々に加工されていく、というジョブショップの形態をとるのが自然です。しかし、この方式では、それぞれの装置を管理している装置センターの都合が優先され、顧客への納入スピードはどうしても遅くなります。

この不都合を除去するために、いくつかの類似製品をまとめて擬似的に専用ラインを作り、装置の段取り替えを高速化することで対応しようとするのが、流れ生産の考え方です。これは、装置センターが持っていた管理権限を製品ライン管理者に引き渡すので、これ自体非常に大きな組織構造の変革です。

しかし、これだけで顧客対応スピードが自動的に実現するわけではありません。

流れ生産が効果的に働くためには、各工程が常に同じスピードで動く、すなわち同期化する必要があります。しかし、生産現場では色々な事故が起こります。

この時、事故を起こした工程は、その影響が全体に波及する前に素早く対処することが求められます。そうでないと、そもそも目的としていた顧客対応スピードに致命的な影響を与えるからです。

この対処法の例としては、トヨタの自働化のように現場の裁量でラインを止め、素早く問題解決をすることが挙げられます。高速化のためには、現場の自律的な意思決定能力の向上が必須なのです。

このことは、タイムベース競争で優位に立つためには、組織構造を変革するだけでなく、それにふさわしい組織文化の確立も必要であることを意味しています。以下、その詳細を見ていきましょう。

タイムベース競争における「内向き」の従来型組織の問題

時間競争に勝つためには、自社内の効率優先の考え方から顧客への価値提供スピード向上の考え方に転換する必要があります。そのためには、従来の組織設計思想を理解した上で、それを根本から見直す必要があります。

歴史的には、企業の希少資源は専門技能とトップの経営判断力でした。その希少資源を有効に生かすために、企業は階層的な機能別組織を発達させてきました。

まず、アダム・スミスの国富論以来、分業が生産性を向上させることが認識されました。その知見を生かし、専門技能を向上させるための職能集団をベースとする機能別組織が発達してきました。

次に、20世紀前半のアメリカや戦後日本に見られるような中産階級が台頭し需要が供給を上回る時代には、スケールメリットを生かした大量生産方式が優位に立ちました。同じものを大量に作るためには指揮命令系統をはっきりさせた方が有利で、階層型組織が競争優位に立ったのです。

我々は今でもこの歴史を引きずっており、多くの企業は階層型機能別組織をベースに組織設計を行っています。身の回りで、「私は営業、彼は設計」、「私は課長、上司は部長」といった言葉遣いが広く行き渡っているのが、その証拠です。

先に述べたように、階層型機能別組織は専門技能とトップの経営判断力という希少資源を生かすためには有効です。しかし、専門技能や経営能力は自社内の「内向き」の経営資源です。

顧客への価値提供能力を高めるための「時間」が希少な経営資源となると、その考えが裏目に出ます。組織設計の視点を「外(顧客)」に向け、従来の組織の問題を克服する必要が出てきます。

機能別組織では、それぞれの部門が自分たちが担当とする仕事をまとめて片付けてから、それを後工程の部門に渡すというバケツ・リレー型の仕事をします。そのことだけで、顧客対応案件を1個単位で処理する場合よりも、顧客の待ち時間が長くなります。

階層的な組織では、顧客のクレームなど例外的な事項に対応しようとする時に、上司に判断を仰ぐ事項が多く、時間がかかりすぎます。

どちらの観点に立っても、同時に扱う案件数の細分化や現場への大幅な権限委譲など、顧客視点に立って仕事のやり方を大幅に考え直す必要が出てきます。

サプライチェーンでも、あちこちの企業で受発注処理の速さや在庫の過多をめぐる営業と生産の言い合いを見受けます。これらは顧客対応を遅らせるだけの不毛な現象です。

これらの言い争いは、機能別組織の評価指標の食い違いから起こるものなので、顧客への価値提供という観点から(流れ生産と同じ発想で)組織を再設計すべきです。顧客への価値提供プロセスを明確にし、機能横断でプロセス担当者を配置し、彼らの価値提供上の役割と責任を明確にすれば良いのです。

そうすれば言い合いは自然に消滅し、顧客への価値提供スピードがそれだけで大幅に向上します。

このような階層型機能別組織の欠点から脱却のためには、次のような点からの組織のあり方の根本的に見直しが必要となります。

  • 業務の構成
  • 意思決定のための情報生成・共有
  • 評価のための成果測定

以下、それぞれについて検討していきましょう。

業務の構成方法を変える

企業を運営していくためには、様々な業務の実行が必要です。

しかし、業務の中には顧客に価値を提供するために必要なもの(これを基幹業務と呼びましょう)と企業を維持するために必要なものとの2種類が存在します。後者は、顧客から見ればどうでも良いものです。

たとえば、受注処理で必要不可欠な業務に顧客の信用調査があります。商品を届けても顧客が対価を払ってくれなければ、企業は維持できないからです。

多くの企業では、まず信用調査を行い、それに合格してから注文された商品の製作に取り掛かります。そして、その信用調査に結構時間がかかるのが常です。

その間顧客は待たされます。この待ち時間は、顧客には何の付加価値も生みません。しかも、顧客の大半は信用上何の問題もない優良顧客です。

だとすれば、信用調査と商品の製作を並行して行うという方法があり得ます。多少の信用リスクを取っても、その方が優良顧客の待ち時間を減らせ、顧客のロイヤリティが向上するというメリットが得られます。

タイムベース企業への転換の第一歩は、このような企業側の都合による業務を取り除いた基幹業務だけの連鎖を作り出すことです。生産現場で段取り替え時間を外段取り化で短縮するのと同じように、非付加価値業務をこの連鎖の外側に追い出し、基幹業務と並行して処理するのです。

基幹業務の連鎖が取り出せたら、次はその時間の短縮です。従来の機能別組織では、顧客の注文をいくつかまとめてバッチ処理するのが普通です。その方が各部門の処理効率が上がるからです。

たとえば、月単位で注文をまとめて生産するなどがこの例です。しかしこの方法では、生産計画が終わった直後に来た注文は、それだけで1ヶ月待たされます。

時間競争の激しい業界では、このバッチ・サイズの短縮が至上命題となります。究極はトヨタの1個流しのように、バッチをなくし個別案件単位での処理による待ち時間短縮が求められます。

そのような流れができたら、顧客満足度とキャッシュフローを同時に向上させるための能率的な生産とは で述べたような能率化を図っていきます。

このような改革の最終形は、個別案件単位に処理するビジネス・プロセスの構築です。

機能別組織単位の業務処理のバケツリレー方式からビジネス・プロセスへの転換は、想像を絶する効果を生みます。たとえば、ある企業の融資担当部門の処理時間は7日から4時間に短縮されています。

このような例の詳細については、 リエンジニアリング革命 などを参照してください。

意思決定のための情報生成・共有を変える

基幹業務を流れ化して、それを実行するビジネス・プロセスを構築すればタイムベース企業として十分な備えができたことになるでしょうか?そうはいきませんね?

プロセスを作っても、その中の各業務では様々な意思決定が必要とされます。顧客からの注文変更、クレームの処理、生産現場での事故対応、などの様々な突発事項が生じるからです。

この意思決定に時間がかかるようでは、プロセスは迅速化できません。

従来の意思決定をし計画・実行を管理するやり方は、PDCAとして知られています。PDCAは今でも重要な管理技術です。

しかし、どちらかというとPDCAは中長期の改革実行を想定しています。実行中に計画の齟齬が生じた場合にその修正を図ることは想定されていますが、計画のもとになった情報が頻繁に更新されていく事態は想定されていません。

タイムベース競争では、意思決定に必要な情報が迅速に創出・共有され、しかも頻繁に更新されるという事態を想定する必要があります。創出された情報をもとに意思決定をしてアクションが取られ、そのフィードバック情報をもとにさらにアクションが取られる、というサイクルの高速回転が求められます。

この高速回転を組織的に行うためには、高速回転に向いた意思決定モデルの共有化が必要です。その参考となるのがOODAループです。

OODAループは、戦闘機のパイロットが空中戦で相手のパイロットと争う経験から抽出されました。ほぼ同じ性能の戦闘機を与えられていながら、いつも決まって一部のパイロットだけが勝つという現象から、常勝パイロットの行動を分析した結果得られたものです。

勝っているパイロットは、敵機を不利な位置に追い込み撃墜できるまでにする次のOODAループを高速に繰り返していることが発見されたのです。

  1. どのような未知の敵との遭遇戦でも、直ちに状況の全貌を見てとる(観察、Observe)
  2. 好機と危機を読み取る(情勢判断、Orient)
  3. 敵に対しどのような動きをすべきかを決定する(意思決定、Decide)
  4. 作戦行動に入る(行動、Act)

サウスウェスト航空が2空港間のピストン輸送で利益を上げるためには、いかなる状態でもゲートに到着してから15分以内に、次の乗客が登場できる状態にしなければなりません。このためには以下のような迅速な意思決定・行動が必要です

  • 乗客が残したゴミの処理などの状況を判断し、機長も一緒になって片付けを行う
  • 座席上部への積み込みに時間がかかりそうな大きな手荷物を持ち込んだ乗客に対しては直ちに預けさせ、荷物積み込み要員と連携する
  • 乗り込みに時間がかかりそうな乗客を誘導し、場合によっては搭乗を拒否する

このような意思決定を迅速に行うためには、組織内で意思決定モデルが共有され、そのモデルをもとに経験値が蓄積されていくことが重要なのです。

さらに、意思決定の高速化のためには、プロセスの担当者たちがいちいち上司に相談するのではなく、自ら意思決定を行えるようになっている必要もあります。すなわち、必要な能力が揃っており意思決定権限が与えられたクローズドループ・チームになっている必要があるのです。

このようなモデルの共有と権限移譲を含めた組織変更があって初めて、顧客への価値提供の高速化が実現できるのです。

評価のための成果測定を変える

改革され組織がその目的に合って本当に機能するためには、成果を測定する基準の改革も必要です。従来と評価基準が変わらないのであれば、その仕事に従事する人は自分の行動を変える必要を感じないからです。

従来の階層型機能別組織の成果は、売り上げ、利益、コストなど主として財務的な指標で測られることが普通でした。しかし、これらは結果指標です。

スピードを上げ回転率を向上させれば、結果的にはこれらの指標は良くなりますが、価格政策などのその他の要因も影響します。結果指標だけではそれを上げる方法までは指示しないので、全従業員の行動のベクトル合わせには不向きです。

タイムベース企業では、意識統一を図るため時間的要素を重視した成果測定をしています。たとえば、次のような具合です。

  • 新製品開発: アイデアから市場に出るまでの時間、新規製品売り上げ比率、市場に一番乗りした製品の比率
  • 顧客サービス: 応答時間、リードタイム、納期遵守率
  • 生産: 総生産時間に占める付加価値時間比率、在庫回転率、サイクルタイム

このような成果測定を実施して初めて、全従業員にスピードを上げて行動することの重要性が共有され、意思統一が図れるのです。

タイムベース競争のための組織文化の確立

以上のような仕組みを工夫しても、最終的に組織を動かすのは人です。したがって、現場が成果をあげる組織になるためには、人が共通の考え方に則って(同じ行動規範で)動く必要があります。

特に今までよりはるかに高速に動こうとすると、それに見合った行動規範の共有、すなわち組織文化の確立が必要となります。

OODA ループ では、高速化のために必要な組織文化の確立には、次の4つの要素の成立が必要であるとしています。

  1. 相互信頼を醸成している

相互信頼は、チームメンバー間で文書化する必要性のない暗黙のコミュニケーションを可能にし、スピード化に貢献する。信頼関係のもと、共通する体験を十分に共有していれば、かすかな表情の変化でも読み取り行動を起こすことなどが可能になる。また、人は相互信頼のある環境では自発的に行動する。相互信頼を生み出すためには、裏表のない行動をし、人をコントロールしようとしない、特定の人に特権を与えない、などの配慮が必要である

  1. 直感的能力を活用している

消防士のように、不確実で急激に変化する状況の中で素早く行動しなければならない職業では、直感的に判断し即座に行動した場合に最高のパフォーマンスを示せることが明らかになっている。これを「認知主導型意思決定」と呼ぶ。トヨタの工場のラインが非常に高速に動いているのも、従業員が直感的能力を身につけているからであり、タイムベース企業は職務を通じて直感的能力を磨くということに注力すべきである。監督者が現場作業の経験がない、現場の教育に投資しない、などのことが起こる企業ではこの能力は養われない

  1. リーダーシップ契約を実行している

互いに合意が得られた理解すなわち一種の契約(ミッションが指示される)のもとに、裁量を与え過剰管理を排除するのは、社員の責任感を高めスピードを上げるのに素晴らしい手法となる。信頼があり責任を任せられた環境では、進行状況がフィードバックされ、上司は全体の状況を容易に把握でき、必要な場合は適切なアドバイスができる。

  1. 焦点と方向性を与えている

具体的な目標というよりは、重視すべき考え方、進むべき方向を示す。そうでないと、目標達成することにだけ集中し、大局的な方向に反する行動を取る危険がある

以上から分かるように、指揮命令系統を重視した階層型機能別組織とは真逆の組織文化の確立が求められているのです。

まとめ

  • ウォルマートの急成長に見られるように、「時間」という経営資源の巧拙が競争優位性を左右するタイムベース競争の時代が始まっている
  • タイムベース競争で成功するためには、それまでの企業組織設計で重要視していた経営資源の根本から見直す必要がある。すなわち、分業による生産性を確保するための機能別組織、スケールメリットを確保するための階層的組織などの「内向き」の発想から、顧客視点の「外向き」の組織設計に転換し、業務の構成方法、情報の創造と共有方法、成果の測定方法を変革すべきである
  • 業務の構成については、顧客への価値提供の貢献する基幹業務を抜き出し、その流れを短縮化すべきである。それ以外の業務は流れの外側に追い出し、基幹業務の流れと並列に実行すべきである
  • 情報の創出と共有については、従来のPDCAと異なり、意思決定のもととなる情報が頻繁に変更されるという事態を想定すべきである。そのような事態に対応するためには、戦闘機の常勝パイロットの行動から抽出されたOODAループを参考にすると良い
  • 成果の測定については、従来型の結果指標を用いた評価から脱却する必要がある。成果を出すもとになる手前の「行動」にかかる時間を測定し、それを評価に用いることにより、スピーディな行動の重要性についての意思統一を図るべきである
  • どのような企業でも、その運営をする根本は人である。タイムベース企業では、その構成員が自律的に思い切って行動できるような組織文化を確立する必要がある。その組織文化の構成要素として着目しておくべきことには、相互信頼の醸成、直感的能力の養成と活用、ミッション型指示による権限と責任の移譲、細かな目標ではなく大きな方向性の提示、などがある
  • これらはいずれも、従来の指揮命令系統を重視した階層型機能別組織とは真逆の組織を求めているので、その確立には腰を据えてかかる必要がある