フレーム設定:正しい意思決定をするために最初に気をつけるべきこと


意思決定の多くは最初の時点で間違えている

コンサルタントをしていると、「問題解決のためにITを入れたのだけれど、全く役に立たない」という話をよく聞きますよね?

「営業改革のためにセールス・フォースを入れたのだけれど、何も良くならない。それどころか、営業がシステムに全く入力しないので、営業会議用に別の資料を作っている。よくなるどころか、二重の手間が発生してコストが増えている」などの嘆きが聞こえてきます。

営業改革だけでなく、サプライチェーン改革などでも、全く同種の発言があります。

これらの問題の背景を聞いてみると、共通の問題が浮かび上がります。IT導入の目的が「現場の見える化」であることが多いのです。例えば、次のような具合です。

  • 属人営業で現場の動きを見る方法が日報以外にない。営業の毎日の活動や案件の進捗をシステムで一元管理して、上層部が状況を把握して意思決定に利用できるようにしたい
  • 販社の販売予測の精度が悪いので、無駄な在庫が増えている。販売計画の総量を把握して、実態とずれているときは販社にブレーキをかけ精度向上を促したい

この種の意思決定の背後にあるのは、「現行のやり方の管理体制を強化すれば、業績が上がる」というものです。でもこの考え方は本当に正しいのでしょうか?

確かに、管理強化が効果を上げることはあります。製造現場の5Sなどが、このケースに当たります。現場さえ見れば、何を改革すべきかが明白だからです。

しかし、営業改革などの場合は、部門間の関係にまで遡らなければ、問題が解決しないことが多いです。例えば、次のようなケースです。

  • 営業は、本来の仕事以外でも非常に忙しい。顧客の注文納期通りにモノが届かない場合には、その手配に駆けずりまわらなければならなない。顧客を訪問する時間がどんどん減り、売上目標を達成するのが困難になる
  • 顧客の要望が高度化していて、自分一人では対応できないことが多くなっている。技術部門に支援を求めても相手にされないことが多く、調整に多大な時間を取られる
  • これらの仕事を片付けた後、夜遅くに日報を書くのがやっとである。しかも日報に他部門との調整負荷の問題を書いても、何の支援も受けられない。このような状況でさらにシステム入力を求められても、自分にメリットがないし余裕もないので、入力する気にはなれない

このような状況で、「管理強化をすれば業績が上がる」という発想は正しいのでしょうか?この場合は、「部門間がうまく協力すれば業績が上がる」という発想で業務プロセスを改革し、その支援手段としてセールス・フォースを導入した方が、はるかに成功しそうですね?

このような「管理を強化すれば業績が上がる」などのような意思決定の前提になる発想のことを、意思決定理論の世界では認知科学の知見を借りて「フレーム」と呼びます。

フレームとは、ものの見方です。カメラのフレーミング(レンズの向け方)で世界の何を切り取るか(その外の何を見捨てるか)が決まることからきた言葉です。

意思決定に際して、どのような選択肢を考え出し、その中から何を選ぶかを考える以前に、問題にあったフレームを採用しているかを検討する必要があるのです。

間違ったフレーム設定から抜け出せずに失敗した意思決定事例

このように、意思決定にあたっては問題にあった正しいフレーム設定を行うことが極めて重要です。しかし、このフレーム設定そのものが非常に難しく、失敗事例が数多く見られます。

時代遅れのGMのフレーム

意思決定におけるフレーム設定の最大の失敗事例は、2009年のGMの破産でしょう。

環境保護問題の高まりを受け小型車が普及する中で、GMは時代の流れに逆行して、高い利益率のフルサイズSUVやピックアップトラックの生産・販売に集中し続けました。また短期的な利益が期待できる金融事業の拡大を続け、2000年には金融子会社であるGMACの格付けが親会社のGMを上回るようになっていました。

顧客ニーズに合った車の開発に背を向け続けた結果、終に2008年上期に、約77年間守り続けた販売台数世界一の座をトヨタに奪われました。

なぜこのように長期にわたって失敗の道に向かう意思決定を続けたかについて、多くの学者が分析しています。そして大筋の意見が、原因はGMという会社に根強く浸透していた物の考え方(フレーム)にあるとしています。

その考え方とは、学習する組織で指摘された次のようなものです。(この本では、それらをメンタル・モデルの例として紹介していますが、ここではその差については言及しません。)

  • GMのビジネスは金もうけであり、車ではない
  • 車は何よりもまず地位の象徴だ。したがって品質よりもスタイルの方が重要である
  • 米国の自動車市場は、世界のほかの市場から隔離されている
  • 労働者が生産性や品質に重要な影響を及ぼすことはない
  • システムの関係者一人ひとりに必要なのは、事業についての断片的な区分された理解だけである

これらの見方は、一見非常に馬鹿げたもののように思えます。しかしちょっと分析すれば、GMが成長を遂げた1930-1940年代のマーケットや労働者の教育水準に関する常識からすれば、至極当然のものであることが分かります。

GMはあまりにも大成功したために、その当時の常識から抜け出せなくなったのです。時代遅れのフレームのもとで意思決定を続けたために失敗したのです。

この例は、他者からは馬鹿げたように見えるフレームでも、一旦はまると、そこから抜け出すことが非常に難しいことを示しています。

根強い外科医業界のフレーム

一方で、もっと地味ですが業界に深く染み込んでいて、数々の失敗事例を生み出しているフレームもあります。

失敗の科学という本の書き出しは、ある医療事故の描写から始まっています。37歳の専業主婦のエイレン・ブロミリーが、副鼻腔炎の簡単な手術を受け、手術開始後30分には昏睡状態に陥り、その後帰らぬ人となったのです。家族には「麻酔の段階で問題が起こったが、避けようがありませんでした」と告げられました。

夫のマーティン・ブロミリーが何年もかけて追求した結果判明したのは、次のようなことでした。

  • 午前8時35分:麻酔科医が患者の手の甲の静脈に麻酔薬を投入するための管を挿入。
  • 麻酔薬の作用は強力なので、単に眠らせるだけではなく、患者の生体機能の多くを麻痺させる。そのため、呼吸の補助のための喉頭マスクが必要となるが、エイレンの場合、顎の筋肉が硬直していてマスクが入らなかった。これは麻酔中によく見られる現象なので、麻酔薬を追加投入し顎の筋肉を緩めた上で、より小さな細部のマスクを2種類試したが、やはり入らなかった
  • 8時37分:エイレンはチアノーゼ現象(皮膚や粘膜が青紫色になる現象)を引き起こし始め、血中酸素飽和濃度は75%まで下がった(通常は90%を切った段階で「著しく低い」とみなされる)
  • 8時39分:麻酔医師は、鼻と口を覆う酸素マスクの使用を試みるが、それでも肺に空気が入っていかない
  • 8時41分:麻酔医師は気管挿管に切り替え得ることに決めた。ところが、喉頭鏡のライトを照らしても気管が目視できず、何度やっても気管チューブが入らない。(患者によっては、軟口蓋などによって気管の入り口が隠れてしまうことがある)
  • 8時43分:エイレンの血中酸素飽和濃度は脳に深刻なダメージを起こすレベルまで落ち、心拍数も心臓に酸素が欠乏するレベルまで落ちた。救援のために隣の手術室から別の麻酔科医が駆けつけ、耳鼻咽頭科の外科医も加わった。看護師3人も待機している。まだ取り返しのつかない事態ではなかったが、ミスの余地はない状況である
  • この時点で局面を乗り切る手段が一つだけあった。リスクを伴うため通常は最後の手段として取られる気管切開である
  • 8時47分:次の行動を的確に先読みした看護師が気管切開キットを取りに飛び出し、3人の医師に「気管切開キットの準備ができました」と伝えた
  • しかし、医師たちは一瞬振り返っただけで、気管切開キットには何の反応も示さず、引き続き口からチューブを通す作業に没頭している
  • 看護師は絶句した。経験のある医師たちが気管切開という選択肢を考慮していないはずはないのに、なぜか?もう一度声をかけるべきだろうか?でも、そのせいで先生たちの集中力を削いで自体を悪化させては。それに先生たちは、経験の少ない自分には思いもよらない理由があって、気管切開を選択肢から除外しているのかもしれない

事態を理解していただくために少し長く説明しましたが、以上が「避けようがありませんでした」という説明の背後で動いていた状況です。

問題は、医療事故を分析した資料の至る所でこのような経過が示されているということです。事故に共通する原因が、外科医より地位の低い看護師や麻酔助手などが真の問題や解決策に気づいていたにも関わらず、それを医師に進言できなかったということなのです。

このような悲劇が繰り返される真因は、「リーダーはなんでも心得ている」という意思決定フレームにあります。このフレームのために、下位の者は強く進言できません。

また、医師はこのフレームに沿って長年完璧であろうと務め、職業的訓練を重ねてきました。その結果、施術の瞬間そして事後にも、自分の誤りを認めることができないのです。

このフレームは、医療の世界で根強く蔓延しています。それが医療事故が減少しない最大の原因となっていることも、識者にはよく知られています。

これと対照的なのが、航空機業界です。事故の当事者を責めずに真因を追求し、業界の安全性向上を目指す、という考え方が徹底されています。

医療業界もこの慣行に学ぼうとして「事実に基づいた医療」が提唱されています。しかし、なかなか浸透しないのが実情です。

この「リーダーはなんでも心得ている」というフレームは、医療業界に限られたことではありません。企業のトップに異を唱えられないという現象は、多くの企業で見られることなので、ビジネスの世界でもなんらかの対策が必要なことはお分かりでしょう。

過度の戦略重視

フレーム設定の失敗例としては、次のようなものもあります。(戦略と実行

  • シリコン・バレーの名門企業ヒューレット・パッカード(HP)は、1990年代後半にはプリンタ事業だけで何とか利益を上げている状態に陥っていた。そこに、999年にルーセント・テクノロジーをインターメットの波に乗せたことで評価されたカーリー・フィオリーナが外部からCEOとして招聘さた
  • 彼女は、多様な製品を持つHPが顧客に一元的なサービスを提供できるようにするという戦略を実現するため大胆な組織改革を行った。さらに競争が激しくなるPC・サーバー部門のコスト競争力を強化するために、創業者一族の激しい反対を押し切りコンパックの買収を行った。これらの戦略はウォール・ストリートから非常に評価されたにも関わらず成果を生むことができず、2005年にフィオリーナは解任された
  • 後任となったのがNCRから転身してきた「愚直な営業マン」のマーク・ハードで、彼は営業組織の簡素化、地道なコスト削減といった策で、業績立て直しに成功した

これは、「戦略こそが企業の最も重要な成功要因である」というフレーム設定で、戦略策定に熱中し、その戦略を実行する組織能力の確認を怠った例です。

なぜ自分のフレームを認識する必要があるか、どうしたら認識できるか?

ここまで、間違ったフレームによる意思決定の失敗例を見てきました。そこから分かることは、フレームというものが多種多様だということです。思わぬものがフレームとして機能していて、我々の思考に大きな影響を与えているのです。

ということで、どうしたら自分のフレームに気づけるかが、意思決定の最初の問題となるのです。

フレームは、複雑で混沌とした世界の中で、人間の思考を注目すべきことに導き、無用な物事に惑わされない働きをします。しかし、その同じ作用が間違った判断に導くこともあります。

フレームに内在する危険性には、次のようなものがあります。

  1. フレームによって見るものにフィルターがかかる: フレームによって、どの情報に注意を払うかが決まり、どの情報が覆い隠されるかが決まる
  1. フレーム自体の認識が困難である: 一歩下がらなければ窓があることにさえ気づかないように、自分が特定の視点から世界を見ていることに気づくには、自分のフレームから「一歩下がって」見る必要がある
  1. フレームは一見完全であるかのように見える: フレームは世界を単純化するので、フレームと現実との間には食い違いが生じる。しかし、人間の心はその食い違いを埋めて解釈する傾向があり、何かが欠けているということに気づかないことが多い
  1. フレームは排他的である: 人間は通常一度に一つのフレームからしか物事を見ない
  1. フレームは「しつこい」ものであり、変えるのは容易ではない: 一旦一つのフレームから物事を眺めだすと、意識的に努力しない限り、そのフレームを変えることは難しい。フレームに感情的な愛着を持つこともあり、その場合はフレームを変えることが恐ろしくなる

フレームにはこのような作用があるため、間違った意思決定をしないためには自分のフレームを認識することが重要となります。ところが、2にも示したようにその認識が難しいのです。

この問題を解決するためには、自分のフレームを認識するための方法を確立しておく必要があります。これについて、勝てる意思決定の技術では、次のようなテクニックを使うと良いと説いています。

  • フレーム検査を行う
    • フレーム全体を理解するのは難しいので、その構成要素をみる。たとえば、自分が属する環境や仕事の仕方などについて、自分がどんなイメージを抱いているか(何を重視しているかなど)や、その境界について考える。次に、フレームの背景、つまり、自分がこの問題についてこのように見るのはなぜかを考える
  • 自分のフレームを他者のそれと比べる
  • 新しく台頭するフレームを学ぶ

このやり方の適用を、比較的高額の機器(コピー機など)を売っているB2B営業の例で考えて見ましょう。

フレーム認識が必要になるのは、ビジネスが順調でないかその兆候がみられる時です。その時にフレーム検査や他者との比較を使えば、次のようなことを明らかにできます。

  • 商品価値の訴求法:自分たちは、製品単体の機能の良さを売ってきたが、競合他社が追いついてきて価格勝負になってきていて、売上が減少している(顧客にとっての代替物入手可能性は高い、購買の重要性は低い、購買の複雑性も低い)
  • 顧客との交渉法:商談が起こるのは、顧客の機器買い替え時期か、自社の新製品が出た時くらいに限られる。商談相手も、主として購買部門で、エンドユーザーが出てくることはない(業務上の連携は限定的、情報交換の程度も低い)
  • 他者との比較: 競合の先進的な企業は、顧客担当営業をつけ、顧客の問題解決を手伝おうとしている

これからわかることは、典型的なモノ売りの構図です。他社が何らかの動きを示しているのに対し、この企業が現状に止まっているのは、顧客との関係が取引的交換で良いとしているからです。すなわち、「取引的交換」がフレームです。

もしこのままではジリ貧で何らかの営業強化が必要だとしたら、「取引的交換」のフレームを新たなフレームに転換する必要があります。次にその方法について考えてみましょう。

業績向上のためのフレームの転換

勝てる意思決定の技術では、「勝利を呼ぶフレームの構築」という章を設け、不適切なフレームから抜け出し、正しい意思決定に至る方法を述べています。その中で「取引型交換」から抜け出して新たなフレームを見つけ出すのに有効と思われる、次のテクニックについて、その利用方法を検討してみましょう。

  • 不適切なフレームを探し当てる
  • 仮定の質を評価する
  • 他の意見を求める
  • 競争相手や利害関係者の役割を演じる

「不適切なフレームを探し当てる」では、予想外の結果、矛盾などが起こった時、自分のフレームのどこかが間違っているのではないか、と検討します。

たとえば、そろそろ顧客の買い替え時期だと思って顧客にコンタクトしたところ、あちこちで既に商談が終わっているという事態が発生したとしましょう。これは明らかにフレームの不具合を示しています。

そこで、「仮定の質を評価する」を行います。この場合、「顧客は機器の寿命が尽きそうになると買い替えをする」という仮定が間違っていることになります。そして、間違いの原因は顧客企業の中での機器の状態だけを考えることにあると推測できます。

本来、顧客が機器を買うのは、その機器を使って何らかの問題を解決するためです。そのことから、「顧客が機器を買い換えるのは、問題解決に不具合が起こった時である」という想定に変えるべきであることがわかります。

競合企業は、単に機器を売っているのではなく、顧客がその機器を何の問題解決に使っているのかを把握しているのです。そして、問題解決上の不具合についてもアドバイスしているのでしょう。それ故、機器の寿命が来る前に商談に持ち込めるのです。

ここまで分かったとしても取るべき対策がわからなければ、専門家の意見を聞きます。実は、専門家の目から見れば、この企業と競合企業のフレームの差は、ほぼ自明です。

この企業は、商品の売り買いの時期だけに注目した「取引的交換」のフレームの中にいます。それに対し、競合企業は常時顧客の問題解決を助ける「協働的交換」というフレームで行動しているのです。(この2つの交換についての解説は、産業財マーケティング・マネジメントを参照してください。)

この差を理解し、顧客との関係を「取引」ではなく「協働」としてみるべきことを理解すれば、意思決定すべきことが明らかになります。顧客担当営業の設置やソリューション営業プロセスの構築などです。

以上のような手順を踏めば、不適切なフレームを認識しそこから抜け出すことが可能となります。見当違いの意思決定を避けるためには、フレーム設定の方法論を心得ておく必要があるのです。

まとめ

  • 意思決定における失敗例は数多くあるが、それらを分析してみると、選択肢の導出以前の最初の段階で躓いているケースがある。その原因は、無意識に偏った問題の捉え方(フレーム設定)をしていることにある
  • フレーム設定は、人間の思考を複雑な世界の中で注目すべきことに導き、無用な物事に惑わされないようにする働きがある。しかし、フレームの外にある重要な物事に注意を払えなくするという副作用もある。とくに、次のような点に注意を要する
    1. フレームによって見るものにフィルターがかかる
    2. フレーム自体の認識が困難である
    3. フレームは一見完全であるかのように見える
    4. フレームは排他的である
    5. フレームは「しつこい」ものであり、変えるのは容易でない
  • したがって意思決定にあたっては、自分のフレームがどのようなものであるかを意識化し、目の前の問題に対する適切性を検討するための方法論を心得ておく必要がある。たとえば、次のようなテクニックが知られているのでコンサルタントはそれを勉強しておくべきである
    • フレーム検査を行う
    • 自分のフレームを他者のそれと比べる
    • 仮定の質を評価する
    • 競争相手や利害関係者の役割を演じる
    • など