改革プロジェクトを成功させるためのオーナーとの関係構築法


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改革プロジェクトが成功するのはオーナーがいる時(だけ)

トップの肝いりで華々しく打ち上げられた改革プロジェクトが、総論賛成・各論反対の中で尻すぼみになっていくことがよくありますよね?

途中までは至極うまくいっていたプロジェクトが、なぜか途中からうまくいかなくなったということも経験していませんか?

どう考えても正当な方法で議論を進めているのに、なぜか相手が首を振るということもよくあります。

こういう問題に共通する重要な要因でコンサルタント初心者が気づいていないのは、クライアント側のプロジェクト・オーナーシップが確立しておらず、その結果オーナーとの関係構築ができていない、ということです。

ここで、オーナーシップとは、人事労務用語辞典によれば、次のことを指すとされています。

「個人と組織、個人と仕事との関係を示す概念で、担当する仕事を“自分自身の課題”と主体的に捉え、強い情熱と責任感を持って取り組む姿勢のこと。与えられた職務やミッションに対する自発性、経営に対する当事者意識、参画意識などがオーナーシップを形成する要素です。」

これから派生して、プロジェクト・オーナーシップとは、誰かがプロジェクトの責任者として主体的に活動していることを指すものと理解されています。

たとえば、問題はなぜ解けないままで残っているか で述べた部品メーカーの全社構造改革プロジェクトの例では、社長の号令のもと、人望高く実力のある副社長のもとで活発な議論が行われていました。

ところが、ある時親会社の意向で、副社長が問題を抱えているグループ会社の社長に転じました。副社長は定年間際だったのを本社の社長が実力を認めての栄転だったのですが、残されたプロジェクト・メンバーには動揺が走りました。

ちょうど具体的な改革計画を立てる時期でした。各部門の各論反対が頭を持ち上げる頃だったのですが、誰もそれを制する人がいなくなり、プロジェクトは尻すぼみとなりました。

プロジェクト・オーナーシップが存在するか否かで、状況は大きく変化するのです。

オーナーは個人、集団には責任は取れない

では、逆にプロジェクト・オーナーシップが確立しているが故にプロジェクトうまくいくのは、どういうケースでしょうか?

それは、クライアントの他責思考を自責に転換させるために心得るべきことでも紹介した計画を立てたら必ずやる」、協議1000回、現場が奮起 に書かれているケースです。そこでは、プロジェクト・オーナーの専務が。改革に積極的でなかったライン責任者に直接改革会議への参加を命じるなどのことがなされ、3年がかりでサプライチェーン・マネジメントの改革を成功させています。

では、なぜ改革プロジェクトの成功に、オーナーシップが確立していることが必要なのでしょうか?

それは、集団には責任が取れないからです。集団無責任という言葉があるように、集団に責任を負わせると、当初の目的を達成したかどうかの判定などがうやむやになりがちだからです。

観念的な論争を招くのは本記事の目的ではありませんので、この議論に深入りすることは止めます。ただ、コンサルタントとしては、自分で責任を引き受けるオーナーの存在下でないと改革プロジェクトのリスクが高まる、ということを承知しておく必要があります。

 プロジェクト・オーナーとの関係構築手順

プロジェクトの成功にオーナーシップの確立が必要なことを理解したとして、コンサルタントはその確立のために何をする必要があるでしょうか?

オーナーの当事者意識と権限を見極める

最初にすべき重要なことは、オーナーが誰かを見極めることです。オーナーが確認できず中間に立つ人の指示で動くと、間違ったコンサルティングをする危険性があるからです。

このことを、もう少し詳しく考えてみましょう。

まず、プロジェクト・オーナーとは誰なのでしょうか?それを理解する助けとなる話を紹介します。

2000年頃の話です。ある製造業が中国にあるセンター機能を設置しようとしていました。しかし中国での業務プロセスをどう設計してよいかわからなかったその企業は、外部コンサルタントに提案を求めました。

コンサルタントが提案を終えると、プロジェクト担当の部長と上司の常務がボソボソと話を始めたそうです。そして、「あと少しだけ金額をまけてください」と言ったそうです。

交渉された金額そのものは少額だったので、その場で折り合いがつきましたが、面白いのは後日談です。

数日後のプロジェクト・キックオフのあとの飲み会で、コンサルタントと隣席の常務の会話が、以下のように進みました。

コンサルタント:「今回のような、お客様が私どもの提案をその場で承認されたケースは、私にとって初めての経験です。」

常務: (笑いながら)「私も初めてですよ!それだけ困っているのですから、よろしくお願いしますね。」

コンサルタント:「でも、なぜほんの少し値切られたのですか?」

常務:  「それはね、その金額なら私の決済範囲内だからですよ。それを超えると、役員会の承認を取り付けなければならず、プロジェクトの開始がそれだけ遅れます。そんなに待っていられないのですよ!」

この会話を聞けば、常務が本気でこのプロジェクトを進めようとしていることが分かりますよね?プロジェクトのオーナーとは、このようにプロジェクトの成否に自分の進退を賭け予算を承認した人を指すのです。

オーナーの必要性を反対側から裏付けるものとして、以下のような事例があります。

  • ある派遣事業中心の中堅IT企業の例
    • ソリューション事業の開発プロジェクトを立ち上げようと、ある部長が社長の承認を取り付けて、外部コンサルタントを雇った。さらに、部下の課長をプロジェクト・リーダーに任命した
    • コンサルタントと課長および課員の検討がなかなか進まない中、社長が苛立ってプロジェクトを突然中止させた
    • 本当のプロジェクト・オーナーは部長ではなく社長だったのに、コンサルタントと社長との間で実質的な会話がなされなかったからである
  • 経営が傾いていて銀行管理会社になっているチェーンストアの例
    • 外部コンサルタントが招かれ、新しい経営方法を提案した
    • しかし、社長は「よいものを作れば売れる。売り上げが落ちたのは事故で工場の生産能力が落ちたせいで、それが回復すれば売り上げは戻る」と言って、コンサルタントの提案には乗り気でない。ただ、社長は主体的ではなく、皆が新しい経営方法を試したいなら、やってみるのは止めないと言っている
    • 実は、工場の事故以前から売り上げは落ちている
    • 新しい経営方法に賛成している銀行から派遣された役員は、事業には素人なので、コンサルタントとしては社長の見識に敬意を払わないわけに行かない。それゆえ、何度も社長の意見を引き出そうとするが、特段のアイデアは出てこない
    • 銀行から派遣された役員と飲んでいると、社長は無能だが長い付き合いの仕入れルートを握っているので解任できないと言う
    • 社長と役員の意見が一致して本気に改革にあたる体制が取れなかったので、結局このプロジェクトは頓挫した
    • 後日談だが、コンサルタントが友人にこの話をすると、「ああ、あの会社ね」という返事が返ってきた。実は、数年前に友人がこの会社のコンサルティングに関与し、同様の経験をしたというのである

これらの話が意味することは、プロジェクト・オーナーは改革に対する当事者意識とプロジェクトの遂行権限の双方を兼ね備えた人でなければならないということです。

この条件を満たさない人をプロジェクト・オーナーだと勘違いしてコンサルティングを進めると、思わぬ落とし穴にはまるので要注意です。

オーナーと直接会話する仕組みを作る

「計画を立てたら必ずやる」、協議1000回、現場が奮起 の専務のようなオーナーの存在が見極められた場合に、次にやるべきことは、そのオーナーと会話する体制の構築です。

いかに優れたオーナーが存在したとしても、そのオーナーの意図を理解できなければ、良いコンサルティングはできません。

しかし、少し大きめの企業になると、クライアントの改革プロジェクトの体制も階層化されます。一番上にプロジェクト・オーナーがいて、その下に実行責任者のプロジェクト・リーダーがいる。実行部隊はさらにいくつかのグループに分かれグループ・リーダーあるいは担当者がいる、という具合です。

大きなプロジェクトが階層化されること自体は自然なことですが、コンサルタントがその体制のどの部分と会話ができるかは、大きな課題となります。

プロジェクト・リーダーが部長クラスだと、コンサルタント・チームのリーダーも気後れして、それより上の役員(オーナー)には会えなくなるということが良く起こります。そうなると、全てを部長経由で相談することになってしまいます。

しかし、この状態をそのままにしてはいけません、部長が門番になってしまい、役員の真意が掴めなくなるからです。蛮勇を奮ってオーナーと会う工夫をしなければなりません。

この門番問題を事前に回避する工夫の一つがステアリング・コミッティー(以下ステコミと略します)の設置です。(図参照)

ステコミは日本語では運営委員会と訳され、大きなプロジェクトで多部門の利害調整を行うために設置されるのがもともとの目的ですが、それに加えてプロジェクト・オーナーとのズレをなくすためにも使えます。

プロジェクト・キックオフや定期的な報告会をステコミに対し行うこととし、コンサルタント側の責任者をステコミ・メンバーの一人としておけば、プロジェクト・オーナーと会話する場が自然に構築できます。

プロジェクト提案書にステコミの設置を入れておき、それが認められなければプロジェクトを引き受けない、などの交渉をすれば良いのです。

ステアリング・コミッティー

オーナーシップが発揮できるプロジェクト設定をする

さて、上記のような理想的なオーナーとプロジェクト体制が見当たらなかったら、どうすれば良いでしょうか?

その時は、状況を「変える」工夫をするのです。

冒頭の部品メーカーの例では、副社長の転出後、新たなプロジェクト・オーナーが任命されました。しかし、もはや総論賛成・各論反対の流れは止められませんでした。

通常なら、プロジェクトは消滅する運命でしたが、このケースは特殊でした。

このプロジェクトは部品メーカーの親会社の社長がコンサルティング会社の社長に直々に頼み込んで実現したものでした。それゆえ、新たなプロジェクト・オーナーも担当コンサルタントも、成果を出さずに終わることが許されない状況だったのです。

新オーナーもコンサルタントも進退に行き詰まっており、逆説的ですが当事者意識は高かったのです。

そこで、コンサルタントが提案したのは、「現場に行く」ということでした。

このプロジェクトは全社構造改革がテーマだったので、各部門を代表する本社スタッフが検討を重ねてきました。そのスタッフが部門の利益代表になってしまったため、先に進めなくなったのが問題でした。

そうであれば、利害調整が簡単な一事業部の問題を解決し、その成果を全社に波及させれば良いという考え方です。

新プロジェクト・オーナーもこれに賛成し、潰れかけていた小さな事業部を対象にすることを逆提案しました。潰れかけているので、仮に失敗しても失うものは少ないし、事業部メンバーは必死なので当事者意識は高いはずだ、というのが提案理由でした。

その後の展開は、問題はなぜ解けないままで残っているか? で紹介した通りで、プロジェクトは成功裏に終わりました。

リスクは高かったものの新たな状況を提案することで、困っていた新オーナーも息を吹き返し、結果的に理想的なプロジェクト体制が構築できたのです。

与えられたプロジェクトの状況に一喜一憂するのではなく、クライアントのために何が貢献できるかを集中して考えれば、このように道が開けることもあるのです。

すなわち、プロジェクト・オーナーのリーダーシップに限りがあっても、その力量に合わせて状況設定をすれば、意味のある成果を上げることができるのです。

プロジェクト・オーナーの力量に合わせる

プロのコンサルタントなら、力量に限りがあるオーナーへの対処法も心得ておく必要があるでしょう。

改革プロジェクトの失敗の芽を事前に摘むにはで述べた、ある製造業のIT本部の部長がコールセンターを利用したCRM(Customers Relationship Management)の新システムの構想作成の支援を依頼してきた話です。

担当したコンサルタントが方法論に則りどのようなコールセンターにしたいのかと「あるべき姿」を聞いても、はかばかしい答えが帰ってきません。逆に、あなたはどう考えるのかと聞き返される始末で、膠着状態に陥りました。

困ったコンサルタントが友人のセールス・センター(高額で複雑な製品をコールセンター経由で売る組織)の運営責任者に自分の経験を説明してもらいました。すると、部長は根掘り葉掘り質問を連発して、それらに対する回答に大満足したことでプロジェクトは成功裏に終わりました。

新しいコールセンター構想の立案というのは、実は口実でした。その部長は、将来予想される事業部門からの要請に備えて、セールス・センターの勉強をしておきたかっただけだったのです。

それでも、この場合部長は予算の執行権限は持っていたので、プロジェクトのオーナーではあったのです。

プロジェクト・オーナーの権限と問題解決力量、その人が求めているもの、をバランス良く見極め、何を解決策として提供するかを考える視点が求められるのです。

最後ですが、以上のようなプロジェクト・オーナーシップ確保の工夫ができない場合は、どうすれば良いのでしょうか?その時は、プロジェクトを受けないという決断をすれば良いのです。

まとめ

  • コンサルティングは、プロジェクトの責任者(プロジェクト・オーナー)の問題を解決するためにある。決して、名前のない集団の問題を解決するのではない。その理由は、集団は責任を取れないからである
  • コンサルタントの最初の仕事は、プロジェクト・オーナーを見極めることである。ここでオーナーとは、問題を当事者として責任をもって解決する意欲があり、かつそれに必要な予算を執行する権限を持つ人のことである
  • オーナーを見極められたら、その次にオーナーと直接会話できる体制(ステコミなど)を構築すべきである。プロジェクト・リーダーなどを経由して間接的に会話することを繰り返していると、その中間者が門番となり、オーナーの真意の把握がむずかしくなるリスクが生じる
  • 全ての条件を満たす理想的なオーナーは存在しない。プロのコンサルタントとして、当事者意識と権限のあるオーナーに対しては、大義に背かない限り、その力量に合わせて妥協した解決策の検討を努力をすべきである
  • 以上の条件が満たされない時は、プロジェクト支援を辞退する覚悟も必要とされる