正しい現状把握のために、プロジェクト・メンバーの本音を引き出す法


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プロジェクト・メンバーが打ち解けないのは、職場に対人リスクが存在するから

問題とは、クライアントのあるべき姿と現状の間に存在するギャップのことを指します。なぜなら、両者にギャップが存在しなければクライアントは満足しており、コンサルタントに支援を依頼して来ないはずだからです。

コンサルタントが携わる改革プロジェクトでは、あるべき姿はプロジェクト・オーナーが示します。しかし、通常オーナーは多忙で現状分析に立ち入ることはありません。現状のオペレーションそのものの詳細を承知していることも稀です。

ですから、現状分析は改革プロジェクトのために召集されたメンバーとコンサルタントの間で行われる事になります。

ところが、コンサルタントが改革プロジェクトの支援でクライアントの現場に入ると、プロジェクト・メンバーの態度が固くなかなか本音を言わない、という現象に出会います。得体のしれない人間に警戒するのは、人間として自然なことだからです。

時間が経つにつれて態度がほぐれてくるのが普通ですが、それでも肝心なことの情報開示をためらう、等のことが起こります。

それは何故でしょうか?その状況から脱却するために、コンサルタントは何をすべきでしょうか?

たとえば、現状分析に否定形を使うと問題解決に行き詰まるで述べた、加工部品の購買チームの例を思い出してみましょう。

加工部品は樹脂成形部品と板金部品の組み合わせでできています。

今までどちらかの技術だけが得意で他方の技術を外注しているサプライヤーに部品を発注していました。それを両方の技術を内製でこなせるサプライヤーを探し出し、そこに発注したところ、大幅なコストダウンが実現できました。

それを見ていてコンサルタントは大いに喜んだのですが、メンバーの反応は意外なものでした。「これでは、今まで仕事をしていなかったように見えてしまう。どうトップに報告したら良いのだろう」と言ったのです。

この発言の背後には、真実をそのまま伝えることで不利益を被る可能性があることに対する不安が潜んでいます。

組織が効果的に学習できるようになるための条件を述べた チームが機能するとはどういうことか という本に、職場では対人関係に不安があるために率直な意見交換ができなくなっていると書かれています。

そこで述べられている対人リスクは、次の4つです。

  1. 質問したり情報を求めると無知だと思われる不安
  2. 間違いを認めたり支援を求めると無能だと思われる不安
  3. 現在や過去の活動・仕事を批判的な目で評価するとネガティブな(一緒に仕事がしづらい)人だと思われる不安
  4. 意見や情報や支援を求めると邪魔をする(他人の時間を奪う)人だと思われる不安

コンサルタントは、プロジェクト・メンバーがこのような不安を抱えるのは自然なことだということを理解し、その不安を解消するような工夫をする必要があるのです。

では、どうすれば良いでしょうか?

外部の特権を生かして対人リスクを取り除く4つの方法

それには、コンサルタントが外部の人間であることの特権を活かせば良いのです。

外部の人間が社内の人間と違う価値観でものを言っても、それほど波風は立ちません。さらに、コンサルタントは一応敬意を払ってもらえますから、理があれば発言を無視せずに聞いてもらえます。

そのことを利用して、上司や同僚が普段やってくれず職場環境に欠けていることを補えば良いのです。

そして、経験上少なくとも次の4つのことがコンサルタントにできる有効かつ必要であることが知られています。

  • かばう
  • 先回りして問題解決の糸口を示す
  • 介入して問題を大きくする
  • 人と仕組みを切り離させる

以下、それぞれについて見ていくことにしましょう。

かばう

「かばう」と、無能だと思われる不安から解放することができる場合があります。

冒頭の購買チームの例は、ビジネスとしては成功事例です。それでも、成功を褒められるのではなく過去の不作為を咎められるのではないかという不安があったのです。

これからすると、失敗や隠し事が明らかになる事態を避けようとする根強い動機があることがわかるでしょう。

一方、コンサルタントは、現状調査で不具合を検出できなければ、現状をよりよくして「あるべき姿」に近づけることができせん。このままでは利害対立が避けられません。

ここで、コンサルタントと現場の関係を、潜在的な利害対立関係から協働関係に変える工夫が必要となる訳です。

現場の不安の最大原因は、上司の評価への恐れです。ですから、この問題を解決する唯一の方法は、現場が責められないように「かばう」ことです。

ただし、ここで「かばう」方法をよく考えなければなりません。

単に、コンサルタントが上司の叱責の矢面に立つのでは、コンサルタントと上司が緊張関係になるだけで、それでは問題は解決しません。

ここで為すべきことは、上司への働きかけです。

最初に、先週の記事で書いたステコミの設置などの工夫を通して、プロジェクト・オーナー等上層部と率直な会話ができる関係を構築する必要があります。その上で、現状の不具合が明らかになった時に、トップが次のような対応ができるように直言すべきです。

  • 現状の不具合が見つかったら、現場の不出来を責めるのではなく、自社がさらによくなるチャンスを得たと喜ぶ
  • 現状の不具合を他責にせず自責にする。すなわち、その不具合を解決する仕事を誰かに与えていなかったのは自分の責任だとし、新たに解決できる体制を構築する

たとえば、製造業ではアジアの各国に工場を作っていて、同じような製品を作っているケースがあります。このような場合によく見られるのが、各地の工場の能力格差です。

同じ部品の購入価格でも、A国の工場の方がB国の工場より高いなどのことが起こり、その場合、経営者はA国の担当者を責めがちです。

このようなケースで、コンサルタントはどう対処すべきでしょうか?

決して経営者の叱責を許してはなりません。その理由は、以下の通りです。

  • 現地の担当者は資源不足の中で目一杯活動しているのが常である。購入価格の差は担当者の怠慢によるのではなく、単にそのことに気付く余裕がなかったからであることが多い
  • さらに、工場間の差を把握することは、そもそも現地工場の責任になっていない。
  • 一旦工場間の差がわかれば、工場の成績を上げたい現地の担当者は、改善の方法を自ら考えるはずである。本社は工場間の差をフィードバックし、差の解消を求めるだけで良い。
  • すなわち、問題の発生原因は、差の解消を求めるという仕事を本社に作っていなかった経営者にあり、自責であると理解させるべきである
  • 工場の実態は現地担当者が正直に申告しなければ決して把握できないが、担当者を叱責すると保身に走り、正確な実態報告は期待できなくなる。結果として、格差是正による業績改善の芽を摘むことになる

このような視点で、現地担当者を「かばえ」ば、担当者に信頼され正確に実態を把握できるようになります。

「かばう」ことを徹底すると、徐々に自分の失敗や不作為については「自白」するようになります。「かばってくれる安全な場」があることが確認できれば、そこで自白してしまった方が、自分の職場がよくなり、自分にとっても得だからです。

経営者の叱責を防ぎ担当者を「かばう」ことが、コンサルタント自身のためにもなるのです。

先回りして問題解決の糸口を示す

無知だと思われる不安があると、人は助けを求めなくなり、助けがあれば解決できた問題が存続することになります。

このケースでは、担当者が困っていることを陽に口に出さないので、コンサルタント側が先回りして問題を検知しなければなりません。その上で、問題解決に必要な知識・スキルを提供する事により、問題解決の糸口を示す必要があるのです。

これを例で説明しましょう。問題が「小さな問題の集合」である時は、80:20の法則を使うで説明した購買改革プロジェクトの例です。

購買担当者は、膨大な部品点数の購買金額の低減作業を前にして動けずにいました。ただそれだけで、助けも求めていませんでした。

それを察知したコンサルタントが、その購買担当者に、80:20の法則(問題解決に必要な知識)が有用なことを示し、実際に80:20の法則が成立している事を示す分析(問題解決に必要なスキル)を手伝いました。

その結果、購買担当者はごく一部の部品群やサプライヤーにコスト低減工数を割り当てることで、大きな成果をあげられることを理解し、改革に取り掛かたのです。

このケースで、プロジェクト・メンバーからの潜在的相談を検知して先回りするのはどうすれば良いでしょうか?それは、メンバーの言葉遣いに注意すれば良いのです。

「作業が膨大で手が回らない」という発言があったら80:20の法則の適用を、「あの部門となかなか合意できない」という発言があったら、現状の全体図を書くことを考えれば良いのです。

平素からこのような引き出しを増やすことを心がけておきましょう。

介入して問題を大きくする

邪魔だと思われる不安から助けを求められていないケースでよくあるのは、自部門の権限だけでは問題解決できないにも拘らず、社内的地位が低くそれを言い出せない場合です。

たとえば、現地工場の購買担当者がサプライヤーに部品価格の低減を求めても、購入量の少なさを理由に断られる場合が、これに該当します。この部品を他の工場でも買っているとしたら、本社購買がその総量を集計しサプライヤーと交渉すれば、価格低減を引き出すことが可能となります。

しかし、発言力の弱い現地工場担当者はこのような要請をすることを躊躇うので、結果的に大きな機会損失を招いている、などのことがよく起こります。

この問題を解決できるのは、本社購買と現地購買の双方を統括する上位者です。その上位者に、購買総量を集計してサプライヤーと交渉する仕事を作り出し、その仕事を本社購買に割り当てさせるべきです。しかし、上位者にその問題が見えていないのです。

このような場合には、社内の力関係に無縁な外部コンサルタントが積極的に介入すべきです。問題が解けないままで残っている時は、前提となっている制約を外すで述べたように、問題を大きくして上位者に見えるようにすべきなのです。

この種の問題も、「自分には権限がない」という類のメンバーの言葉遣いから検知できるので、先行対処は可能です。

このような先行対処を地道に繰り返していって初めて、プロジェクト・メンバーが心を開き、自分から困りごとを開示するようになるのです。

コンサルタントは、自分が受け身でいては決して本音の開示は望めないということを、肝に銘じるべきなのです。

人と仕組みを切り離させる

「人と仕組み切り離させる」のは、ネガティブだと思われる不安から解放するためです。

安全な場が与えられて自分の不作為については公表できるようになっても、それでも解決の手がかりが掴めないということがよくあります。プロジェクト・メンバーが他人や他部門に関する本音を言わないからです。

実際に不具合が起こっていることを知っていても、それを表に出すと誰かを批判することになるのではないかと恐れるのです。

たとえば、上述の例で本社の人間が工場間の部品購入価格格差を知っていても、それを公にするのはA国担当者を責めることになると危惧する可能性大です。

すでに安全な場が提供されていれば、A国の担当者が責められることはありません。それでも本社の人間がためらうのは、A国担当者を非難していると映ることを恐れるからです。

この問題を解決するためには、次の2つのことを行う必要があります。

  • 改革プロジェクトの目的を理解し共有する
  • 批判とは何であるかを共通理解する

まず、改革プロジェクトの目的ですが、それは企業が業績を継続的に向上させられるような施策を導き実現することです。この「継続的」という言葉が意味することには、業務を担当する人が変わっても、それによって著しく業績が変化しないということを含みます。

業務プロセスの生産性が低ければ、業務プロセスそのものの改善をまず検討します。そして、業務担当者のスキルに問題があれば、担当者の資質を問うのではなく、教育プログラムや採用プロセスを検討します。

担当者固有の問題を議論するのではなく、制度やプロセスなどの仕組みの改善を検討するのです。そうでなければ、継続的な向上が望めないからです。

次に、批判の意味を辞書で調べると、以下のように書かれています

  • 人や物事の誤った箇所や悪い部分を、根拠を示しながら論理的に指摘し、改善を求めること

改革プロジェクトの目的からすると、この「人」に関することを一切排除し、物事に相当する仕組みに関する議論だけをすべきだということが分かります。

コンサルタントは、プロジェクト・メンバーに対し、仕組みに関する問題のみを議論すべきこと、そこには個人的批判は入り込む余地はないこと、をきちんと教育する責任があるのです。

さらに、コンサルタントは、プロジェクト・メンバーが人と仕組みのどちらの議論をしているかを峻別できる必要があります。そして、人に関する批判が紛れ込んだ場合は、その批判の背景にある事実のみを明確にし、その事実をもとに現行の仕組みの良し悪しの議論へリードできる必要があるのです。

それを徹底すれば、メンバーも徐々に仕組み中心の議論に慣れ、人への批判を含まない発言方法があることを理解し、積極的に議論するようになるのです・

まとめ

  • 改革プロジェクトでは現状の正確な把握が不可欠であるがプロジェクト・メンバーが本音を言わず、この把握が困難になることがある
  • メンバーが本音を言わないのは、対人関係に不安があり、真実を語ることにより不利益を被る可能性があると恐れるからである
  • 対人リスクには次の4通りがあることが知られている
    • 無知だと思われる不安
    • 無能だと思われる不安
    • ネガティブな人だと思われる不安
    • 邪魔をする人だと思われる不安
  • コンサルタントは、これらの不安が自然な現象であることを理解し、次のようにして不安を除去し本音の発言を促進すべきである。そうすることにより問題解決作業が前に進む
    • 担当者をかばい、問題の原因がその人の無能にはないことを示す
    • 担当者の潜在的問題を先回りして検知し、その解決に必要な知識やスキルを提供する。これにより無知だと思われる不安なしに問題解決ができることを示し、担当者からの信頼を獲得する。そうすれば、無知だと思われる不安なしに積極的に相談するようになる
    • 担当者の手にあまる問題の存在を、その解決ができる上位者に気づかせる。このためにプロジェクト・オーナーとの関係を利用して問題を大きくする。これにより邪魔をするという不安から解放する
    • 人と仕組みを切り離して考えることを習慣づけ、人を批判せずに仕組みを批判できるようにさせる。このことによりネガティブな人だと思われる不安から解放する
  • 以上のことを繰り返して行って初めて、メンバーが本音を語る環境が構築できる。コンサルタントが受け身でいては、決して本音の開示は望めない
  • 最後に、前回の記事と合わせたプロジェクト関係者(コンサルタント、プロジェクト・オーナー、プロジェクト・メンバー)の三者関係で考慮すべきことをまとめると下図のようになる

プロジェクトの協調関係構築