プロジェクト・オーナーの力量を見極め、その目線に合わせて信頼関係を構築する


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最終報告間際になって「違う」と言われるのは?

コンサルタントがプロジェクト担当者と喧々諤々の議論を交わし、ようやく解決策の案をまとめかけた時に、上層部から「なんか違うんだよなぁ」と言われて焦ったことはありませんか?

すでにかなりの工数を費やしており、もう一度やり直すとしたらプロジェクトは大赤字です。頭が真っ白になりますよね?

自分にこのようなことが起こっていなくても、世間ではよくあることは知っているでしょう。たとえば、ERPシステムのカスタマイズ構築で現場の要件を取り入れていったら開発工数が膨大になってしまい、会社の金庫番が怒り出したなどがその例です。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

自分の会社の中で上司にこう言われたら、原因はコミュニケーション不足で、上司の意図をきちんと確認していなかったことですよね?

コンサルティング・プロジェクトでも同じことが起こります。プロジェクト・チームとプロジェクト・オーナーのコミュニケーション不足が原因です。

ただ、問題を複雑にしているのは、プロジェクト・チームはクライアント企業のメンバーとコンサルタントから構成されているということです。その誰が原因かが、複雑になるのです。

クライアントの他責思考を自責に転換させるために心得るべきこと でも述べたように、問題解決の基本は自責にすることです。コンサルタントは、この問題を自責として捉える必要があるのです。

では、自責だとして何をどうすればよかったのでしょうか?

最初に、プロジェクト・オーナーと直接話せる関係を構築する

最初に行うべきことは、改革プロジェクトを成功させるためのオーナーとの関係構築法 で述べたように、プロジェクト・オーナーが誰かを確認し、その人と直接会話できる関係を構築することです。

この関係構築がないと、オーナーの意見を直接聞くことができません。間に入っている人の解釈の入った言葉しか聞けないのでは、コミュニケーション不足のリスクは解消できないので、要注意です

さらに、コンサルタントは、この関係構築はプロジェクト開始後には難しいことを知っておく必要があります。

プロジェクト・オーナーと会話する仕組みがないままプロジェクトを始めてしまうと、いつも会話しているプロジェクト・メンバーが関所となり、その人の承認なしにオーナーに会いに行くことができなくなるからです。

前の記事でも述べたように、プロジェクト提案時に、ステアリング・コミッティーの設置などを要求していくことが極めて重要なのです。

コンサルタントとして常にオーナー視点に立つ(目線を下げない)

さて、プロジェクト・オーナーとの関係を構築したとして、それだけでは行き違いが解消する保証はありません。今度は、プロジェクト・メンバーの意識向上を図る必要があります。

その理由は、プロジェクトが目指すことと日々の現場に求められていることにズレがあるからです。

たとえば、現場のプロジェクト・メンバーと現状分析をしていると「XXの承認手続きが煩雑で時間がかかる」などの問題指摘が出ます。

これが、単なる日々の作業上の不満なのかプロジェクト目的の実現を妨げるものかを見極め、後者に該当する場合に限り問題として取り上げる必要があります。

しかし、この見極めはそれほど容易な作業ではありません。

これには、2つの原因があります。

一つは、コンサルタントの思考パターンによるものです。コンサルタントの中には、現状を改善していけば問題が改善するという考えの人がいます。そのタイプのコンサルタントは、問題を指摘されると、とにかくその解決策を考えようとしがちです。

二つ目は、長い間議論しているとコンサルタントがプロジェクト・メンバーと同化しがちだということです。プロジェクト・メンバーと仲良くなってしまい、彼らの不満に反論することが難しくなるのです。

いずれの場合も、指摘された問題がプロジェクト目的に照らして解決するに値するかを検討する視点が欠けていて、担当者レベルに「目線が下がっている」のです。

コンサルタントは、このような目線が下がる事態を避け、常にプロジェクト・オーナーのレベルの視点で、解決すべき問題を判断すべきなのです。

ただ、これも「言うは易し、行うは難し」で、経験を積んだコンサルタントでないと臨機応変にはできません。何か役に立つ方法が欲しいところです。

ベテランコンサルタントの行動を参考にして、その方法がどのようなものかを考えてみましょう。

常にプロジェクトの目的に沿った議論をリードする方法

最初にすべきことは、コンサルタント、プロジェクト・オーナーとプロジェクト・メンバーの三者間でプロジェクトの目的の合意をとることです。

すべての参画者に目的に沿った議論をしているかどうかを、確認できるようにするのです。そうしておいて、目線が下がった時にそれを指摘できるようにするのです。

このために、以下の作業が有効です。

  • まず、プロジェクトの提案段階でプロジェクト・オーナーの目的を確認し、それをプロジェクト計画書に明記する
  • 次に、プロジェクト・メンバーを集めたキックオフ・ミーティングの段階で、計画書を見せ目的の合意をとる。プロジェクト・メンバーを目的実現にコミットした状態でプロジェクトに参加させる
  • ただし、必ずしもこれらの手続きを文書化して行う必要はない。後でもめた時に「あそこで合意したはずですよね。異論があるのなら、そこまで戻って議論し直ししましょう」と言えるようにしておきさえすればよい

次にすべき、プロジェクト・メンバーの目線を下げないための工夫です。

この時に理解すべきことは、プロジェクト・メンバーが目の前の仕事の不満を口にするのはごく自然なことだということです。それがきっかけで本質的な問題が浮かび上がることも多いので、問題だと感じることを自由に述べられる場を作るべきなのです。

そうなると、多くの不平不満の中から本質的な問題をいかに抽出するかが課題となります。

この抽出方法には2通りの方法が考えられます。

  1. コンサルタントがメンバーが語った事象から問題を抽出する
  2. メンバー自身が問題を抽出するものとし、コンサルタントはその支援をする

通常のコンサルティングのパラダイムでは、1が取るべき方法だと考えられるでしょう。コンサルタントは問題解決のプロであり、それで対価をもらっているはずだからです。

しかし、実際は1は適切な方法ではありません。その理由は、メンバーが受け身となるからです。

受け身の状態だと、抽出された問題を我がものとして捉えなくなるリスクが生じます。そうなると、解決策の実行が難しいとすぐに諦める可能性が高くなります。

解決策の実行中に何か問題が起こると、「コンサルタントの先生の指示通りやっただけなので、自分に責任はない」などと言い出すことも起こります。

せっかく目的実現にコミットしていたはずの彼らの目線が下がってしまうのです。

したがって、取るべきは2の方法となります。

2の方法でメンバー自身が取り扱うべき問題を選定したのであれば、プロジェクト・オーナーへの説明責任が生じます。それ故、メンバーがプロジェクト目的から逸脱した議論を続けることを自然に防げます。

さらに、オーナーへの報告会でコンサルタントではなくプロジェクト・メンバーが報告するようにすれば、経営者目線での報告をせざるをえなくなり、常日頃から経営目線で物事を考えるようになります。

結果的にプロジェクトの質が向上し、メンバーも成長するので、オーナーにも喜ばれるのです。

改革成功の鍵はプロジェクト・オーナーシップの見極め

上述の議論は理想論で、現実にはそれほどうまくいかないと受け取られる方も多いでしょう。

実は、この方法が適用できるか否かの大半は、プロジェクト・オーナーにかかっているのです。すぐれたプロジェクト・オーナーがいれば、それなりのプロジェクト・メンバーは集められるからです。

逆に、そのようなオーナーが見つからない環境では、 改革プロジェクトを成功させるためのオーナーとの関係構築法 で述べた「プロジェクトを変える」や「プロジェクト・オーナーに合わせる」などの工夫をすべきです。

さて、すぐれたプロジェクト・オーナーの条件は、次の2つを満たすことです。

  1. 問題に関する当事者意識を持っていて、その問題を解決する権限も持っている
  2. 問題解決に必要な予算の執行権限を持っている

経験の浅いコンサルタントによくある勘違いが、当事者意識を持っている人をプロジェクト・オーナーと思い込むことです。

クライアント企業で将来を嘱望されている新進気鋭の部長を紹介されたとしましょう。会社の将来のあるべき姿と現在の問題を熱っぽく語った上で、その人から相談を持ちかけられたとしたら、素晴らしいクライアントに出会えたと思いますよね?

その人の助けになるプロジェクト起案書をせっせと作りました。その結果どうなるでしょうか?

現実はかなりの確率で、時期尚早などの理由で上層部に却下され梨の礫となるのです。そうなってわかる事は、その部長には問題解決権限も予算執行権限もなかったということです。

その部長には、社内プロジェクトの立ち上げと外部にお金の出るプロジェクトの立ち上げとの、予算執行上のハードルの差が見えていなかったのです。(図の①)

この部長と対極の位置にいたのが、改革プロジェクトを成功させるためのオーナーとの関係構築法 で述べた中国にセンター機能を作るプロジェクトの常務のケースです。

常務には、当事者意識も問題解決権限もありました。さらに、プロジェクトが自分の予算執行権限内に収まるようにコンサルタントに値引きの要請をして、プロジェクト開始の迅速化を図ることまでしたのです。(図の④)

注意を要するのが図の②のケースです。このケースでは、次の2通りの事が起こり得るのです。

  • コントロールが難しいケース: プロジェクト・オーナーと思っていた人の背後に予算執行権限を持った上司が存在するが、その人が表には出てこないケース。プロジェクトの成果がその上司の満足を得られない場合に、コンサルタントがそれを察知する手段がなく、突如プロジェクトの中止に追い込まれたりする(全社情報システム改革などでよくあるケース)
  • うまくいくケース: プロジェクト・オーナーが予算執行権限者の信頼を得ていて全権委任されている場合(問題はなぜ解けないままで残っているか? で述べた、本社での議論が行き詰まり、潰れかけた事業部の再生にプロジェクト内容を変更したケース。本社の予算であったにもかかわらず、研究センター長であったオーナーの変更案が支持された。後日談だが、そのセンター長は数年後に社長になっている)

もう一つ、非常に稀なケースとして、予算権限を持っている本社部門が現場の改革に介入するケースが存在します。

一例として、15年ほど前に大学冬の時代を予測した地方の私立大学の事務部門が大学改革のプロジェクトを立ち上げたことがあります。

通常は、事務部門は教員より地位が低いのですが、その大学は事務と教員が共同で設立したという特異な歴史があったため、事務の発言権が強かったのです。

教員有志の協力を得て、大学事務の効率化による学生満足度向上、教員による学生カウンセリングの充実、などの改革案が策定されましたが、教員自治の壁は厚く、実現には至りませんでした。(図の③)

このように、目線の高いプロジェクト議論をするためには、④の理想的なプロジェクト・オーナーか②で予算執行権限者の全幅の信頼を得たオーナーの存在が不可欠なのです。コンサルタントには、その条件を満たしたオーナーシップの存在を早めに見極めることが求められまます。

プロジェクト・オーナーと権限

 まとめ

  • プロジェクトの終了間際になって、プロジェクト・オーナーから成果に対する違和感を示されることがある。その原因は、プロジェクト・チームとオーナーとのコミュニケーション不足であるが、コンサルタントはそれを自責として捉えるべきである。
  • コミュニケーション不足を解決するために、コンサルタントはオーナーと直接会話できる仕組み(ステコミなど)を構築する必要がある。この仕組みはプロジェクト開始前に構築すべきである。プロジェクト開始後に構築しようとしても、プロジェクトで日常的に会話する相手が関所となり邪魔をされるからである
  • それと並行して、コンサルタント自身及びプロジェクト・メンバーがプロジェクトの目的を意識して(目線を上げて)会話できるように工夫すべきである。
  • メンバーの意識向上には、プロジェクト目的を明確にした上で参加メンバーを募ること、現場の問題からの取組課題の抽出をメンバー主導で行わせること、オーナーへの報告をメンバー主体で行わせること、などの工夫が必要である
  • これらの工夫を有効に機能させられるかどうかは、最終的にはオーナーシップの資質にかかっている。オーナーが当事者意識と問題解決権限を持ち、さらに予算執行権限を持っているか否かに注意すべきである。もしこららの条件が揃わない場合には、適切な妥協をしたプロジェクト設定にするか、そもそもプロジェクトの引き受けを辞退するか、どちらかをすべきである