リーダーが知っておくべき影響力のマネジメント(脳科学的にトランプを真似る)


Last Updated on 2021年2月23日 by 時代遅れコンサルタント

理詰めでは動かない人を動かすのも経営

経営者が率先行動して会社を導いていけるのは、(数字には色々意見があるでしょうが)せいぜい年間売上2億円くらいまでで、それ以上の規模の会社にしようとするならば、人を動かして仕事をするやり方を覚えることが必須となります。

このやり方については、既にリーダーシップの項で述べましたが、リーダーシップを発揮するための基礎となる影響力というにものにも注意しておく必要があります。

なぜなら、「人は事実では動かない」からです。経営者は、部下に事実を示して理詰めで指示をしても、必ずしも思うような結果が得られないことがあることを認識しておく必要があるのです。

人間には「事実」を情報として伝えても、自分の考えにあったものだけを聞いていてそれ以外は無視する(頭を素通りする)という確証バイアスが根強い傾向があります。

トランプがかなりの数の事実ではないことを主張したのに大統領に当選したのが、その証拠です。現場に不満を持ちそれを変えたいという考えに凝り固まった人たちには、「トランプが言っていることは正しくない。なぜなら、事実はこうだから」と言っても、通じないのです。

このことが意味するのは、経営者として人を動かそうとするなら、場合によっては「事実以外」のことを使う必要もあるということです。そして、幸い最近の脳科学の進歩により、人に影響を与えるときに人間の脳の共通性を使えば、「事実以外」の手段で人を動かせるということが分かってきています。

その「事実以外」とは、感情、インセンティブ、主体性、好奇心、心の状態、他人の目(「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」)の6つです。トランプは、意識しているかどうかは別にして、これらの使い方の天才だったのです。

以下、経営上でのこれらの利用方法を、相手の自発性の弱いところから段階的に詳しくみていきましょう。

乗り気でない人を動かす(チェンジマネジメント)

成功した企業でも、そのうちに成長期に出来上がった色々な仕組みが環境との不適合を起こし、業績低下に悩むようになることが多いものです。そのようなときに、構造改革プロジェクトが提起され、将来を嘱望された人たちがその推進を任されます。ところが、笛ふけども踊らず、周りがついて来ない、などのことがよく起こります。

90年代の初めに、リエンジニアリング革命が提唱され構造改革が数多く実施されたときに、このような失敗が多発しました。会社の現状を丁寧に説明して、脱却策がこれしかないと伝えても、人々は気乗りしません。現状のままでいたい人には、会社が困窮しているとは信じられないのです。

その反省から、人々を改革に駆り立てるにはそれなりの方法が必要だということが認識され、チェンジ・マネジメントという研究分野が確立されました。そこで開発されたノウハウが、最近の脳科学の知見と対応しているのです

コッター(企業変革ノート)によれば、チェンジ・マネジメントは次の8段階を踏んで行われるべきとされています。

  1. 危機意識を高める
  2. 変革推進チームを作る
  3. 適切なビジョンを作る
  4. 変革のビジョンを周知徹底する
  5. 従業員の自発的行動を促す
  6. 短期的成果を生む
  7. さらに変革を進める
  8. 変革を根付かせる

このうちの、2, 3, 4, 5, 7, 8 は、人の前向きな能動的行動を、きっかけを作ってさらに促進するためのリーダーシップやチーミングに関わるもので、次節以降で触れますがどちらかというと常識的なものです。これらの状態では、理屈が割に通ります。

しかし、1と 6 は、人が乗り気にならない、あるいは思うように成果が出ず気持ちが中だるみあるいは後ろ向きになることに備えるもので、ちょっと特殊で理詰めではない工夫が必要です。

感情で人の心に火をつける

まず1の「危機意識を高める」についてですが、脳科学が教えるところによれば、元々はその気でない他の人に自分の思いを共有してもらうには、「感情の伝染を使う」ということをすれば良いようです。有名な例が、ケネディ大統領が1962年にライス大学のフットボール競技場で行った「60年代終わりまでに人類を月に到達させる」という演説です。

当時宇宙開発競争でソ連に対し劣勢であったアメリカの立場を逆転するために、大統領が多大な予算を必要とし、なおかつ失敗に終わるかもしれないプロジェクトの重要性を訴えると、人々はそれを熱狂的な反応で迎えたのです。

当時は、大統領の演説のスキルの高さとみなされたこの現象ですが、今では科学的な説明が可能です。脳科学では、感情に訴えるようなことが起こると、扁桃体の働きが活発になることが分かっています。扁桃体は脳の他の部分に「警告シグナル」を送り、その時に行っていた活動をすぐさま変化させます。さらに、脳は感情を誘発する刺激に対して概ね同じような反応をするよう、前もってプログラムされている、ということも分かっています。

つまり、「感情で聞き手に火をつけると、話し手と聞き手の脳が同期する」のです。この現象は「脳のカップリング」と呼ばれ、プリンストン大学のMRIスキャナーを使った脳波の観測でも確認されています。

リーダーは、自分が何かしらの感情を抱きそれを伝えることで、人々の感情を変えると同時に自分に共感してもらえるということを知っておくべきなのです。

先程のチェンジ・マネジメントはこのことを心得ていて、研修の初めにバーニング・プラットフォームの写真を見せることが多いです。見せるのは、次の北海油田が燃え上がっている写真で、講師は次のように問いかけます。「このプラットフォーム上に、200人いました。でも助かったのは4人だけです。その人たちはどうしたのでしょう?」

私もこの研修を受けたので、すぐさま「飛び込んだのです!」と答えました。すると講師は、「ここは北海で、水温は凍る直前の4度です。飛び込んだらまず凍死します。それにプラットフォームはビル8階の高さです。そこから飛び降りれば、水はコンクリートと同じ硬さの働きをします。さて、どうしたのでしょう?」

私が答えをためらっていると、講師が「やはり飛び込んだのです」と言って生存者のインタビュー・テープを聞かせます。

生存者が語っていたのは、「飛び込めば99%死ぬと思いました。でもプラットフォーム上にいれば100%死にます。だから残りの1%に賭けたのです」ということでした。

講師が続いて説いたのは、「人間は切羽詰まって万止むを得ないと、このように普段不可能と思っていたことでもするのです。一方で、プラットフォーム上で死んだ残りの大多数の人のことも思い出してください。人間は、たとえ死にそうだと思っていても、このように変化を恐れる動物でもあるのです。」

どうでしょうか?私は、これ以来「人間は変化を嫌う動物だ。それゆえ、改革には万止むを得ない理由が必要だ」ということを深く胸に刻むようになりました。それは、生存者のテープの声を聞いて感情を揺さぶられたからであり、それが単なる講義では決して身につかなかった教訓となったのです。

講師は、私の感情にうまく火をつけて、自分の伝えたいことを吹き込んだのです。相手の感情に火をつけるのに非常に有効な方法の一つは、ストーリーを語ることですのでそれも参考にしてください。

その気にさせるのは早めの報奨

次に6の「短期的成果を生む」について考えてみましょう。

これに関する有名な例に、医療スタッフに手洗いさせる例があります。病院の手術室で患者の術後の感染症を避けるのに有効な手段は、医療スタッフが事前に消毒のための手洗いをすることであることはよく知られています

ところが、肝心の医師がこの手洗いを励行しません。いろいろなキャンペーンを実施しても効果なしです。

この問題にニューヨークの研究チームが取り組み、いろいろな試行錯誤の末に辿り着いた解決策が電光掲示板の設置でした。カメラを設置し、担当スタッフが手洗いを確認するとスイッチを押し数値が上がるようにしたのです。

すると不思議なことに遵守率がそれまでの3人に1人から一挙に90%に上がったのです。

しかし、脳科学者に言わせるとこれは不思議でもなんでもないのだそうです。つまり、人間が行動を起こすのは、アメかムチのいずれかがある時に限られ、しかもアメの方が遥かに効果が高いことがわかっています。この場合、それまでのキャンペーンが医師の義務感に訴えるムチであったのを、数字が上がるというアメに変えたから上手く行ったのです。

電光掲示板の数値のような非常に簡単な仕掛けでも、それが「即時」の「肯定的なフィードバック」の時は、これほどの効果を生むのです。

人間は、太古の昔の経験から否定的な刺激(ムチ)には、時には「死んだふり」が有効なことを本能的に知っています。ですから、恐怖を与えると、(バーニング・プラットーフォーム上で死んだ人たちのように)麻痺して動かないという逆効果になることもあります。ですから、ことを起こすには肯定的な刺激の方が効果的なのです。

同時に、人間は「未来はあてにならない」ということも経験上心得ています。ですから、肯定的なフィードバックは早い方が良いのです。

リーダーは、人間のこのような性質を知っていて、改革を企てる時は、それがうまくいっていることを早め早めに知らせる必要があります。そうすれば、当初は気乗りのしなかった人たちも、次第についてくるようになるのです。

それが、チェンジマネジメントで「短期的成果を生む」ことが重要だと示されている所以なのです。

前向きについてこさせる(リーダーシップ)

権限を与えて自発性を喚起する

改革に乗り気でない人がやる気を見せ始めたら次にすべきことは、改革の目標に向かって伸び伸びと自発的に行動させることです。ここで脳科学と関連するのがリーダーシップ論です。

人を動かすために重要なこととして脳科学が教えるのが。コントロール感を持たせることです。飛行機恐怖症など、人間が恐怖感に襲われて行動できなくなる原因は、コントロールの喪失にあることが知られています。環境をコントロールする自由を与えることだけで、かなりのストレスが克服され満足感が高まるのです。

改革にあたって重要なのは、いかに人に権限移譲し5番目の主体的行動を促すかということです。方向を逸脱した行動が心配なら、境界線を明確にしその中での主体的選択を許せば良いのです。

ハーバード・ビジネス・スクールのノートンの一連の研究が示す「イケア効果」が述べるように、自分が刈った芝生は青い(自分が作ったものには、他人が作った全く同じものよりも価値を感じる)のです。

ブランチャードの「リーダーシップ論」に権限移譲が鍵と書いてあるのも、このことを意味しています。同様にクーゼスの「リーダーシップ・チャレンジ」にも、力を与える(意思決定の裁量を与える、自信と能力を育てる)ことが重要であると書かれています。

このようにリーダーシップ論でリーダーが身につけるべき秘訣とされているものと脳科学が教えるコントロール感の重要性が対応しているのです。

情報提供で満足度を高める

同様に、前向きな行動を起こさせるためには、適切な(相手が本当に知りたがっている)情報を与えることも重要です。

適切でない情報を提供しても効果がない例が、飛行機の離陸前の機内安全ビデオです。もしかしたら自分の命を救ってくれるかもしれない重要な情報なのに、誰も注意を払っていません。

それとは逆に、人間には妊娠をしたときに子供の性別を早く知りたいなどのように知識のギャップを埋めたいという欲望があります。そのギャップを埋める情報がないと不安になるのです。

このとき注意すべきことは、本来情報はそれを得た後何かをするための判断材料だということです。例えば、喉が乾いているときに水のありかの情報を得て、水を飲んだときに求めていた快楽が得られます。このとき、脳の中ではドーパミンニューロンが発火してドーパミンが放出されます。これが人間が快楽を感じる源なのです。

ところが、近年の研究結果で、情報を得たその瞬間にもドーパミンニューロンが発火することがわかってきました。ニューロンは、水だけではなく事前の知識にも興奮するのです。まさに、情報はそれだけで気持ちがいいのです。

さらに、これ以上は脳科学的には詳しく説明しませんが、人間は悪い情報よりも良い情報を知りたがるという傾向があることも判明しています。

以上のことから言えるのは、リーダーは前向きな情報を積極的に提供していくべきだということです。そのことで、メンバーの満足感や信頼感が高まっていくのです。これが、リーダーシップ論で共通のビジョンを呼び起こすことが重要だ(クーゼスなど)と繰り返し述べられていることの脳科学的根拠です。(リーダーシップにおけるビジョンの重要性そのものについては、ビジョン経営を参照してください。)

また職場の満足度を高めるために双方向コミュニケーションで信用を得ることが重要だと語られている(最高の職場)のも。同じことを語っているものです。

グループで能動的に行動する(チーミング、意思決定論)

リラックスさせてリスクを取らせる

次の段階は、前向きになったメンバーが集団で積極的に意思決定できるようにするチーミングの段階です。ここでは、リーダーにはメンバーの他人との関わり方を支援するスキルが必要となります。

脳科学の知見によると、人間は脅威にさらされるとストレスを感じ、緊急性のないことを考えるのはやめてしますそうです。大昔は、その脅威に対応することに集中するのが、生き延びるのに最善だったからです。

現代の世界にこれを翻訳すると、プレッシャーを与えると人間はストレスを感じ、その結果注意散漫になります。さらに実験によると、ストレスを受けている人は悲観的になり「悪い知らせ」に影響されやすくなるとのことです。

スポーツの試合でも、弱小チームは負けが混むとリスクを避け安全策を取るようになり、そのことでますます勝つ確率が低くなるそうです。このようになると、改革どころではありません。

つまり、改革を企てるときは、参加者をリラックスしてストレスのない状態に置いておかなければならないのです。このことを受けてか知らずにか、エイミー・エドモンソンは「チームが機能するとはどういうことか」の第4章で、「心理的に安全な場を作る」ことの重要性を説明しています。

また、パトリック・レンシオーニは「あなたのチームは機能していますか?」の中でチーム作りの第1段階でまずお互いの信頼関係づくりをすべきだと説いています。

正しい意思決定のために模倣行動を管理する

お互いにメンバーを心理でき心理的に安全な場が形成できたら、その次に考えるべきことは率直な意見交換をすることです。しかし、ここでも人間の脳はそれを簡単に実現させるようにはできておらず、それなりの工夫が必要となります。

ここで注意すべきことは、人間は本能的に他人の行動を模倣する動物だということです。この模倣行動により赤ちゃんが社会の規範を学び適合できるのが、社会的動物として人間が他の動物の上に君臨できる強みなのですが、同時にこれが集団意思決定上の問題も引き起こします。

多数決の意見の中にいつの間にか共通のバイアスが入り込んでいるなどのことがあるのです。一方で、映画「12人の怒れる男」のように、その逆にたった一人の意見が他の全ての意見をひっくり返すこともできるのです。

このことに対応して意思決論では、「企業が戦略ミスを犯す本当の理由、異論のないところに成果なし ― 7つの危険な兆候」で集団的バイアスを避ける方法を解説していますし、「勝てる意思決定の技術」では集団的バイアスの中でリードする方法を教えています。

このようにチェンジ・マネジメント、リーダーシップ、チーミング、意思決定の世界では、人間の心理を理解してうまく行動するための理論が色々と整備されてきていますが、それらはどちらかというと経験的な知見で、なぜそれが必要かについては正面から答えてくれないものが多いものです。しかし、実はそれらには脳科学的な根拠があることを理解しておけば、現場での応用を躊躇わなくなるので、そのことを覚えておくべきです。

まとめ

  • 人間には根強い確証バイアスというものがあり、あらかじめ抱いた意見を事実を示すだけで理性的に変えてくれることはあまり期待できない
  • これらのバイアスは、原初から組み込まれた脳の働きに依存するものなので、その対処方法を身につけるためには、脳の働きを研究した脳科学の知見に学ぶべきである
  • 脳科学の教えるところによれば、人を意見以外でリードする時に知るべきは、感情、インセンティブ、主体性、好奇心、心の状態(安全性)、他人の目の影響の6つである
  • 他人に影響力を与える方法として研究されてきたチェンジ・マネジメント、リーダーシップ論、チーミング手法、意思決定論、などで経験的に開発されてきた手法の多くは、これらの脳科学的知見に対応したものが多い
  • 脳科学を勉強してそれらの方法のWhyを理解すれば、方法の適用をより効果的に行い影響力を発揮することができる。通常のマネジメント手法はHowだけで、Whyを教えてくれないので、人を動かすことが商売のコンサルタント は、脳科学からWhyを学んでおくべきである