中小企業マーケティング:大手企業が参入しにくい市場と競争優位製品を見つける


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マーケティングの教科書を読んでもピンとこないのは?

中小のB2B企業の業務改革のコンサルティングをしていて、ついつい遠ざけがちになる領域がマーケティングですよね?マーケティングの教科書に書かれている内容に、なかなか共感できないからです。

でも、そもそもマーケティングって何でしょうか?それに対し、どこで違和感を抱き、遠ざかるのでしょうか?

従来は右肩上がりの世界でモノを出せば売れる世界だったのですが、昨今はモノ余りの世界になり、そう簡単にモノが売れなくなってきました。そこで、発想を業界(生産)発想から生活者発想へ転換するためにマーケティングが必要になったということのようです。(石井淳蔵「マーケティングを学ぶ」

その点は、一生活者としてよく理解できます。

しかし、その後いきなり、「生活者に向き合うために、市場を細分化し、ターゲットを定め、ポジションを獲得する」というSTPの話になるところで、脱落してしまいます。(注: SはSegmentation(市場細分化)、TはTargeting、Pはポジショニングの略のこと)

その理由は、次の2つにあると思われます。(図①参照)

  • マーケティングの教科書の内容の大半が消費者を対象としたものであり、B2B企業向きになっていない
  • STPの話はあるが、競合戦略の話が出てこない。したがって、良い市場を見つけても大手が進出すればひとたまりもない中小の関心事への答えがない

一方、中小企業の戦略に関しては、ランチェスター戦略に代表されるような本(竹田他、「小さな会社 儲けのルール」など)がいくつか見られます。しかし、内容そのものは面白いでものの、経験則の羅列という感じで、理論性に乏しく応用が難しいという問題があります。

それらの本で語られている儲けるための原則は、次のようなことです。これらのこと自体には間違いはありませんが、その対象を選ぶために何をどのように考えればよいかのヒントが得られないのです。

  • 市場規模が大きい、これから伸びる商品には手を出さない
  • 強い競争相手が少ないエリアを選ぶ
  • 営業エリアを狭い範囲に絞る
  • 大手が本気にしない客層に絞る

実務家のコンサルタントとしては、このギャップを埋める理論ないしフレームワークのようなものが欲しくなるところです。

顧客の経済性まで踏み込み高付加価値提供をしている成功事例

上記の原則が述べているのは、大手が進出する可能性のある市場は避けるということです。そのために、商品、エリア、客層といった視点でのセグメンテーションが必要だと言っているのです。

この具体的方法を探るために、事例を検討してみましょう。

2016 年 5 月 25 日に、中小企業庁より「はばたく中小企業・小規模事業者 300 社」に選定された、しのはらプレスサービスの事例です。

この会社は、社名が示すようにプレス機器の点検・修理を行う製造・サービス企業です。対象のプレス機器のメーカーは問いません。

まず、プレス機がどのようなものであるかを説明するために、Wikipediaの記述を引用しておきます。

「金属などの被加工材を金型の間に挟みこみ、強い力を伴った上下動により被加工材を金型表面に押し付けて、金型と同じ形状を作りだす。用いられる金型によって、被加工材を曲げたり、せん断(切断)、絞り、つぶすなどの加工をすることが可能である。いずれの加工にせよ、加工時に発生する力を機械の系の中で支えるのがプレス機械の特徴である(対して、加工時に発生する力を機械の系の外へ放出するものは「ハンマー」とよばれる)。

プレス機械は、一般にボルスタと呼ばれる面に下金型がセットされ、スライドと呼ばれる上下動を行う部分に上金型がセットされる。スライドの上下動により、上下の金型が離れているときは被加工材をセットでき、咬みあうことで曲げ・抜きや成形が行われる。

プレス機械は、金型を利用したその生産性の高さと相まって、主に鉄に代表される厚さの薄い金属加工で多く用いられる。自動車産業では欠かせない板金機械の一つであり、自動車会社や部品メーカーには、加圧能力が数万kN(キロ・ニュートン)の大型機械が多数設置されている。」

しのはらプレスサービスのビジネスの特徴を、プレス機の安全機器「シャッターガード」の例で説明しましょう。

上記の説明で分かるように、プレス機では上下動に非常に大きな力をかけ、金属板を曲げ加工します。

そして、曲げ対象の金属を人手で出し入れします。このため、プレス工場は指を潰すなどの人的事故が多発する、危険と隣り合わせの作業場となっています。

この人的事故の解決策として、順に次のような対策が考えられてきています。

  1. 加工中のプレス機に手が触れないように、シャッターと呼ばれる防御壁を設ける。シャッターの開閉は、作業員がボタンを押すことにより実行される
  2. しかし、作業効率を求める作業員が被加工材をプレス機に置きながら同時にシャッターのボタンを押す片手押しが発生し、依然として事故が起こる
  3. その片手押しを防ぐために、シャッターで解決するのではなく、2つのボタンを両手で押さないとプレス機が動作しないようにする
  4. ボタンの両手押しは力がかかり作業員の負担となるので、センサーでボタンが反応するようにして、作業員の負担を減らす。このことにより作業員の動作スピードが向上し、生産効率が上がる(しのはらプレスサービスの独自商品BREAK-A-BEAM)
  5. 作業員がプレス機から離れると、センサーがそれを検知し自動的にシャッターが閉まるようにし、両手押しボタンを不要にする。これにより、プレス機の動作中に作業員は他のプレス機を作動させるなどの多能工化が図れる。また、ボタン廃止などで作業員がプレス機により近く立つことができ、材料の出し入れ時間を短縮できる(しのはらプレスサービスの独自商品シャッターガード)

同業他社は1、2、3までしか考えませんが、しのはらプレスサービスは安全の問題の解決策だけでなく工場の稼働率向上という価値まで提供することで、競争優位性を確保しています。

単なる安全策であれば、プレス機器に合わせたシャッターやボタンを提供すれば良いことになります。しかし、工場稼働率までを考えた場合は、機械の配置や動作スピード、それに伴う作業員の動線まで考えた、工場ごとのソリューションを提供できなければなりません。

その結果、大手が参入しにくい市場の構築に成功しているのです。

中小企業のマーケティング領域

大手企業の参入を防ぐ市場の見出し方

マーケティング論の先駆者であるセオドア・レビットは、製品を次のように分類しています。(T.レビット マーケティング論 第13章「マーケティングの成功条件は差別化にある」参照)

  1. 一般的な製品
          • 実体を持つが付加価値に乏しく、市場に参加するための前提条件となるもの。鉄鋼メーカーにとっての鉄鋼や、不動産会社の土地・建物、小売業者の店舗に並ぶ品々、などがこれに相当する
  1. 期待される製品
          • 顧客が最低期待するもの。正しい価格だけでなく正しく納入(いつ、どこへ、どれくらい)される、など
  1. 拡張的な製品
          • 顧客が自分のニーズと考え期待することに慣れた以上のものを提供することにより、製品を拡張し差別化するもの。鋼板では厚みを減らして軽量化する、メーカーが流通業者に在庫管理のアドバイスや従業員教育を提供する、など。今日、競争は主にこの拡張製品レベルで生じている(発展途上国ではおおむね期待製品レベルで競争が行われている)
  1. 潜在的な製品
          • 顧客をひきつけて維持するためにできそうなことすべてを「潜在的な商品」と呼ぶ。「拡張製品」は、顧客に対して現に提供されているすべてのことを意味するが、「潜在製品」は、それ以上に何ができるか、可能なものは何か、を問題にする。技術面での改善案(部品の設計を変えて軽量化する、強度や耐久性を高める、など)を示す、迅速・低コスト・簡便な組み立て方法を試した上で提案する、数部屋を占有できるスイート型ホテル、等

この分類から明らかになるのは、差別化をしようと1から4へ移行すればするほど、個々の顧客ニーズを深く知らなければならなくなることです。そして、それを進化させるほど市場規模は小さくなっていくということです。

このように考えれば、しのはらプレスサービスは潜在製品を提供しようとしていることがわかります。しかも、個々の工場の機械の配置ごとにそれを考えるので、個別の手間がかかり(市場規模が小さく)大手が参入しにくいのです。

ここから、大手の参入を防ぐためには、中小企業は図②の左上の三角形の領域に狙いを定めれば良いということが分かります。

潜在製品の見つけ方

このように、中小企業が大手の参入を防ぎつつ高付加価値を提供していくには、市場規模の小さいところで、なるべく潜在製品を開発していくことが求められます。

この潜在製品の見つけ方を検討してみましょう。

一般的な潜在性を考えるのでは範囲が広すぎるので、見方を絞る必要性があります。その一つの見方として、大手が提供する製品・サービスの周辺エリアに潜在する製品・サービスのを見出す可能性を考えてみましょう。

潜在製品は、顧客の側に立って考えない限り見つかりません。そもそも、顧客が何らかの製品・サービスを購入するのは問題を解決するためです。その問題を認識するところから始める必要があるのだというところに思い至らなければなりません。

顧客が既に大手が提供する製品・サービスの購入に興味を持っている場合は、その顧客は自分が片付けるべき用事をある程度理解しています。さらに、多くの場合大手が提供する製品・サービスが十分でないという問題を抱えています。

その不十分さは、ビジネスモデルのグランドデザインによれば、次の3つだと指摘されています。

  1. 購入や使用に伴う不便さ(Interface)
    • 製品・サービスに支払われる総額に加えて、利用・保管・処分するためのコスト、購買取引や利用に消費される時間などの顧客のトータル・コストがかかりすぎるという不便さ
  2. 使用上の不必要さ(Overshooting)
    • 行き過ぎた差別化による過剰品質。顧客は「必要にして十分」を求めている(高齢者向け携帯電話に見られる機能絞り込み、などで解決する)
  3. 購入を躊躇させる性能の不確実性(Uncertainty)
    • 当該商品が思ったような機能を果たさないかもしれないという恐れ、など(例えば、返品保証などで解決する)

これらのうち、不必要さや不確実性は、製品・サービスを出している大手自身も解決しようとする問題なので、中小企業の参入の余地は少なくなります。そこで、不便さについてさらに検討してみることにします。

不便さを解決するには、顧客の製品・サービスの消費ライフサイクル全体に注目する必要があります。このための道具として使えるのが図③の消費チェーン分析です。(アントレプレナーの戦略思考技術参照)

消費チェーン分析

この図を眺めると、消費チェーンの前半部分は自社製品が売れるかどうかにかかわるので、大手が積極的に対処しようとする分野であることが分かります。

それに対し、後半部分の不便さは顧客それぞれの環境で異なる部分が多く、大手にとっては採算の取れない小さなマーケットになる可能性が高くなってきます。ですから、中小企業は、この後半部での顧客の潜在需要を発掘して、ニッチマーケット化する工夫をすべきなのです。

実際、しのはらプレスサービスは図③の使用、保守・点検、修理・取替えに集中して、工場の稼働率向上までに拡大した不便さの発見に努め、潜在製品を開発しているのです。

潜在製品見つけ方応用事例

このような目つきを持てば、似たような事例を発見でき、コンサルタントとしての引き出しを増やすことができます。

たとえば、次のような例があります

  • 都機工(産業機械の専門商社):機械の据え付け時に工場を止める時間を短くしている。「一刻も早く操業を正常に戻したい」という顧客の要望に応えるために、工場内の機械のレイアウト設計も引き受け、また据え付けにあたる社員には5Sの教育を施し、据え付け作業後に施設の位置をすべて元に戻し、ゴミを一切残さないなどの対応をしている
  • エアコン丸洗い(業務用エアコンの洗浄サービス):エアコンの保守にあたりホコリを一切出さない洗浄方法、毒性のない洗浄液を用いるなどで、工場の停止時間を最小にする(場合によっては、高所のエアコンをビニール袋で覆い工場を止めずに洗浄する)サービスを提供している
  • ロブストス(農機具カスタアイズ):近所の農家の農機具のカスタマイズを行い生産性を向上させている。たとえば、プーリーの直径を変更することにより、生産したい野菜に最適な作業速度で農機具を移動させている(鍬で土起こしをするときにそれぞれの野菜に最適な深さがあるが、農機具が早すぎると、その土地の土の硬さに合わず浅く掘れてしまうなどの問題が生じる)

これらの事例は、いずれも単に製品・サービスの機能(機械据付、洗浄、土の掘り起こし)を提供するだけでなく、顧客のビジネスの経済性(工場の稼働時間、作物の生育性)までを考えた潜在製品を提供しています。

そして、この価値提供のためには顧客に対する深い知識(工場内の機械レイアウト、エアコン配置位置と周辺機器との関係、作物とその土地の土壌の関係)が必要なので、大手や競合他社の参入が難しい潜在製品となっているのです。

何を学んだか

  • 業務改革コンサルタントがマーケティグの教科書を読んでも、中小B2B企業に応用できる理論がすぐには見つからないという違和感がある
  • 一方、中小企業向けの儲け戦略の本を読んでも、ごく一般的な原理と個別の成功事例の紹介に終わっており、応用に移せる知見が少ないという問題がある
  • 中小向けの本の原則が示していることは、大企業が参入しにくい市場を選べということに尽きている。
  • 以上が意味することは、大企業の参入が難しい市場の選択を助ける方法が求められているということである
  • 大手の参入が難しいのは市場規模が小さいところ、かつ個別の顧客のニーズを深く知る必要のあるところ、すなわちレビットの分類によれば潜在製品である
  • 大手が製品・サービスを提供している周辺での潜在製品を考えるには、消費チェーン上での不便さに着目すれば良い。特に、大手にとって手間がかかる消費チェーン後半部に注目すると良い。実際、この不便さに着目して業績を上げている中小企業が数多く存在する
  • コンサルタントは、このようなフレームワーク(潜在製品、消費チェーンと不便さの分析)を知っておき、そのフレームワーク上で事例を収集しておけば、クライアント案件への応用力を高めることができる