中小企業が効果的な売上向上策を見つけるために必要なパラダイム変換


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独立コンサルタントのための新ブログ・テーマ: クライアントの売上向上をどう支援するか

周りの独立コンサルタントを見ていると、工場やオフィスの「生産性向上・コスト削減」を得意にしている人が多く、次に営業などの「手法伝達」を専門にしている人が多いようです。企業経営の中の特定領域を対象とした問題解決方法論を武器にして活動している人たちです。

そういう人たちが中小企業経営者と相対した時に返答に困るのが、「売り上げを伸ばすためにどうすれば良い?」という、経営者から見ればごく自然な質問のようです。経営全般を問われても、それに対応する素養を身につけていないからです。

ということで、今回からしばらく「コンサルタントが売上向上策を検討するにあたって、何をどう考えれば良いか」について論じていくことにします。

売上向上策の何が難しいのか?

売上を向上させるためには、何から考えれば良いでしょうか?最初に考えるべきは、売上の定義でしょう。

売上は、下記の式で得られます。

売上 = 客数 × 客単価 × 購買頻度

この式を見ると、それぞれの要素(客数、客単価、購入頻度)を上げていけば良いので、それほど難しそうには思えませんよね?でも、そう考えるのは単純すぎるようです。

というのは、これらの要素は「結果」を表現しているだけだからです。

たとえば、「客数」が上がれば「売上」が上がることはわかります。しかし、どうすれば「客数」を上げられるかについては、何も教えてくれません。

では、「客数」を増やすにはどうすれば良いでしょうか?

すぐに思いつくのは「チラシをまく」などの方法です。しかし、この方法は、すぐに分かるように、コンサルティングのような商売には不向きです。

つまり、客数を増やすには思いつきの手法を試すのでは不十分で、クライアントがどのようなビジネスをしていくつもりかまで遡って考えることが必要なのです。すなわち、マーケティングのそもそも論から考えるべきだということになります。

でも、マーケティングといえばテレビや新聞・雑誌の広告が思い浮かび、何か大ごとのような感じがします。独立コンサルタントが相手にする中小企業向とは思えませんね。その理由は何でしょうか?

テレビや新聞・雑誌の広告には次の特徴があります。

  1. 比較的大きなサイズの顧客層(マス)を対象としている
  2. そのマスに響くように商品・サービスそのものの価値を訴求している(マスを対象としていることの帰結として、商品・サービスの最終的な使用方法は顧客に任されている)

これを見れば、資源に限りのある中小企業が客数増を考える場合は、真逆のことを考えるべきだと分かります。

1.については、たとえばランチェスター戦略の有名な本小さな会社の儲けのルールでは、弱者の戦略として、商品を絞る、顧客を絞る、エリアを絞る、などについて具体的な方法とその効果が解説されています。

この点に関しては、マーケティングの常道である顧客のセグメンテーションとターゲティングを、中小企業らしく、よりきめ細かく行うことが重要です。

 サービス中心(サービス・ドミナント・ロジック)とは

2.については、一般に中小企業の方が大企業より顧客に密着しているので、その強みを生かすことを考えるべきです。この時に必要なのが、サービス・ドミナント・ロジックへのパラダイム変換です。

マーケティングの大家セオドア・レヴィットが50年以上前にマーケティング近視眼で述べたように、鉄道会社が衰退したのは旅客と貨物輸送の需要が減ったからではありません。当時、それらの需要は依然として増え続けていました。

鉄道が危機に見舞われたのは、鉄道以外(自動車、航空機など)にその需要を奪われたからではなく、鉄道会社が自らを輸送会社ではなく鉄道会社として捉え、顧客をほかへ追いやってしまったからなのです。

事業の定義を誤った原因は、輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたからです。つまり、顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのです。

この教訓が示しているのは、顧客が求めているのは「移動」というソリューションや経験であって、「座席」などの製品そのものを求めているわけではないということです。

鉄道会社の轍を踏まないためには、グッズ(製品、無形商品である通常のサービスも含む)中心のグッズ・ドミナント・ロジックから、サービス(顧客が求める価値を共創する行為・プロセス)中心のサービス・ドミナント・ロジックへの転換が必要なのです。(図①参照)

サービス・ドミナント・ロジックとは

この転換は、顧客に密着している中小企業に有利に働きます。顧客の数が少なくその人たちの顔が見えるので、顧客が求めているソリューション・体験を理解することが容易だからです。

たとえば、後日詳述する予定の成城石井は、高級住宅街成城に居住する海外経験豊富な高額所得者のニーズに応え続けることでユニークな食品スーパーマーケットの業態を確立することができました。最初から大きなチェーンストアを目指していたなら、とてもこのようなビジネス形態はとれなかったでしょう。

サービス中心の顧客価値定義

中小企業がサービス中心の視点にたつことの重要性と利点が分かったとして、それを売上向上策に連動させるためには、何を考えるべきでしょうか?

売上が上がるのは、顧客に価値を提供できた時です。ですから、顧客価値をサービス中心で考えればよいはずです。この検討をするために、まず既存の(モノ中心の)顧客価値の確認から始めましょう。

ビジネス・モデルなどの検討に有用な顧客価値の定義には、ビジネス・モデルのグランドデザインに載っている図②上部の定義があります。

この定義が意味しているのは、次のことです。

  • 顧客が対象製品・サービスについて対価を払っても良いと感じるのは、顧客が感じたベネフィットが、その製品・サービスの使用、取引・購入に必要とされるコストを上回った時である
  • 顧客がその製品・サービスに価値を感じるのは、支払ったも良いと思った額が実際の価格より高い時である

この定義は見かけは当たり前のことを言っているだけのようですが、実施は非常に役にたち、筆者がビジネススクールで行なっている「ビジネス・モデルの構築」の講義でも、この定義をもとに様々な議論を展開しています。

サービス中心の顧客価値

ここでは、定義の有用性はさておき、定義自体の問題に言及しておく必要があります。それは、定義の一番左の列の文言です。

この定義での「顧客価値」のもととなっているのは、「顧客の知覚したベネフィット」、「使用に伴うコスト」、「取引、購入に伴うコスト」です。これらは、商品・サービスと対価が交換される時点を想定していて、商品・サービスが顧客の手に渡った以降のことは想定範囲外となっています。

すなわち、モノが交換された後、それがどのような活動に使われるかの使用価値には立ち入っていないのです。この定義のままでは、顧客との関係が密接で使用価値に関する知識も豊富な中小企業の優位性が生かせません。

優位性を生かすためには、顧客が製品・サービスをどのように使用するのか(どのような仕事を片付けるのか)、その過程でどのような不都合(不安、不便)が生じるのか、まで考える必要があります。

これらを考慮したのが、図②下部のサービス中心の顧客価値定義です。

成城石井は、この顧客価値の定義に沿って、次のような優位性をもとに売上を向上させているのです。

  • 富裕層が昔経験した欧風の食卓を作るという仕事を支援する
  • 欧風の食卓を再現することに伴う、食材の輸入などの不便を解決する
  • 自前の輸入商社を構築し、小ロットでもリーズナブルな価格で輸入食品を提供する

知識の蓄積のための同一フレームワークのもとでの議論

さて、ここまでで中小企業の優位性を生かした顧客密着の売上向上策を検討するためのフレームワーク(顧客価値の定義)ができました。

このフレームワークの存在価値は何でしょうか?それは、あちこちで工夫されてきている似たようなビジネス上の工夫を同一のものとして認識し知識化ことを可能にすることです。

たとえば、食品スーパーの世界の優れた事例としてヨークベニマルヤオコーが紹介されてきていますが、それらは週替わりでその地域に合った一週間の献立を提案するという同一の目的のもとに活動しています。

この目的を、ヨークベニマルではライフスタイル・アソートメント、ヤオコーでは食生活提案型モデルと呼んでいますが、それらが同一のものと認識した議論はされてきていません。

その理由は、各企業が提供する顧客価値に関して「片付けたい顧客の仕事」を比較するフレームワークがなかったからです。そのため、これらの事例がバラバラなままで、同一のものだという知識を獲得する機会が失われていたのです。

別の問題として、ビジネスの研究者が自分の成果を訴求することにばかり専心するために、却って知識の普及が妨げられているということがあります。

ユニークな顧客価値を提供しているQBハウスは、様々な本で紹介されていますが、それらの紹介視点が同一のものであることは認識されていません。

たとえば、なぜ、あの会社は儲かるのか ビジネスモデル編では、QBハウスは「マイナスの差別化」というビジネスモデル構築法の事例として、またビジネスモデルの教科書では「アンバンドリング」の事例として、それぞれ紹介されています。

ところが、これらの本はいずれも相手方の本で述べられていることには全く言及していません。相互比較がないままでは、「マイナスの差別化」と「アンバンドリング」は何ら関係のない別のものとして認識されます。

しかし、よく見ると、QBハウスの本質は、洗髪の除外などで顧客の片付ける仕事を狭くして一見顧客価値を下げているようにもかかわらず、散髪時間や待ち時間を下げる不便さを小さくすることで、トータルの支払い意欲を高めている事例だということがわかります。

つまり、次のような式を成立させているのです。

支払い意欲↑ = 片付ける仕事↓ ー 使用に伴う不便さ↓

このような視点があれば、「マイナスの差別化」と「アンバンドリング」は同一のビジネス上の工夫であることがわかり、より抽象度を高めて応用範囲の広い知識を獲得できることになるのです。

次回以降、このフレームワークを使って、様々な売上向上策を統一的に検討していくことにします。

まとめ

  • 独立コンサルタントの多くは、特定領域の問題解決方法に特化して活動しているために、経営者の基本的な質問(「売上を伸ばすためにどうすれば良い?」)への返答に苦慮する。これを解決するために、コンサルタントがクライアントの売上向上策を効果的に支援できるようにするための方法が求められている
  • 売上を向上させるためには、売上 = 客数 × 客単価 × 購買頻度 の式の各要素を上げれば良いとされているが、これらは結果指標なので、その手前の方策を考える必要がある。さらに、「客数を上げるためにはチラシを配る」というような短絡的な発想ではなく、クライアントがどのような顧客価値を提供しようとするのかというマーケティングの「そもそも論」から考える必要がある
  • 顧客により密着している中小企業の利点を生かすためには、製品・サービスを売って終わりというのではなく、顧客が製品・サービスを使って使用価値を実現するところまで協働するというサービス中心の発想に切り替えるべきである
  • サービス中心で顧客価値を定義すれば、「顧客の仕事を片付ける」、「仕事をする際の不安・不便さを解決する」という視点からの売上向上策を色々と見つけることが可能となる