問題が解けないままで残っている時は、前提となっている制約を外す


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総論賛成・各論反対の中で辿り着いた現場

ある部品メーカーの全社構造改革プロジェクトに途中から参加した時のことです。

最初の総論のうちは景気の良い議論が交わされていたのですが、議論が具体的になるにつれ、よくある各論反対が頭をもたげてきました。クライアントのプロジェクト・リーダーが栄転で異動したこともあって、プロジェクトはしりすぼみとなり、参加コンサルタントの数も減らされました。

なぜか残留コンサルティング。チームのリーダーとなってしまいました。そのまま活動を続けたのですが、一向にめぼしい成果が出る気配はなく、進退に窮しました。

このままでは埒があかないので、思い切って製造現場の問題を解かせて欲しいと申し出ました。それまでの議論相手が本社スタッフ中心で、当事者意識が薄いと感じられたからでした。

先方のプロジェクト・スポンサーも危機意識を持たれており、賛同していただきました。「潰れかけている小さな事業部があるけど、それでいいですか?相手も必死なので何か成果が出そうな気がするんですが」と提案をいただいたので、一も二もなく同意しました。

このような経緯で、私にとって初めての現場を変えるプロジェクトに遭遇したのです。

当事者は茫然自失状態

その事業部は、最大の顧客P社からの受注率が大幅減という問題に直面していました。

P社は部品カテゴリごとに専門の購買チームを編成していて、世界中の部品メーカをランク付けしています。そして新たな製品開発が始まると、その製品にあった仕様の部品が作れるかを、その時のランクの上位5社に同時に問い合わせ、仕様を満たす部品の開発スピードが早い上位2社に発注します。

この事業部は、ほとんどの製品開発で上位2社に入れず、受注が大幅減となったのです。このままでは、ランキング上位5社からも滑り落ちかねず、そうなったら引き合いそのものが来なくなってしまいます。

とうことで、問題は開発スピードの向上となりますが、その解決策が見つからず(クライアントの言葉で)茫然自失状態となっていました。

開発スピードをあげる手っ取り早い施策は、設計エンジニアの数を増やしたり実験装置を増強したりすることです。しかし、業績ジリ貧の事業部では新たな投資は認めらません。

もっと大上段に振りかぶって開発プロセスの改革に取り組もうとしても、それは全社的な問題となり、一事業部の手に余ります。打つ手が見つからず。万事休すで「茫然自失」と自嘲していたわけです。

問題解決の前提となってている制約を見ると 

クライアントが解けずにいる問題の解決に乗り出すのに必須のことがあります。それは、彼らの問題解決の思考パターンそのものの限界を理解することです。

人は問題解決をする時、解決策を(無意識に)ある制約のもとで探しています。問題が解決できないのなら、次にやることはその制約を緩める、あるいは壊すことです。

そういう目で現状分析をすると、次のようなことがわかってきました。

  • 設計エンジニアはすでに1日10時間以上設計作業をしている
  • 複数のプロジェクトを掛け持ちでこなしているので、1件あたりの経過時間は長くなる
  • 営業からプレッシャーがあるので、納期の迫っているものを優先して設計する。その結果売上の大きいものが遅れる
  • 余裕がないので、一つでもミスが起こると全てのプロジェクトがさらに遅れる
  • その結果、競合より開発時間が長くなり次々失注する

こうなると、遅れる原因を開発能力を超えたプロジェクトの詰め込みすぎに求めたほうが良さそうです。明らかに失注が予想されるプロジェクトを中止して、その工数を受注確率が高いプロジェクトに振り向けたほうが合理的だからです。

問題設定を「開発スピード向上」から「開発能力に合わせた受注プロジェクトの絞り込み」へと180度方向転換するのです。

設計側がこの問題の転換をできないのは、「プロジェクトの絞り込みはできない」という制約を課しているからです。ですから制約を緩められない原因を設計の外に求めて現状調査することになります。

設計の外の現状調査の結果、次のことがわかります。

  • 営業はP社の引合プロジェクトを個人の担当分野ごとに進捗管理している
  • 本来は引合審議という仕組みがあり、戦略的に重要(売上が大きい等)なものを優先して設計をすることを決めることになっているが、それを管理する引合システムに入力されているのは全体の10%である。(90%は引合審議を通さず、営業が設計担当者に可否を問い合わせ、その引合を受けるかどうかをP社に返答している。営業の方がシニアなので、設計担当者は断りきれず負荷が過大となる。)
  • 営業は進捗を直接設計に問い合わせている。(設計にプレッシャーをかけるので、設計作業は納期優先となる。)

この状況を図にまとめると、次のようになります。

設計への過大な負荷

こうなると、詰め込みすぎの原因は営業が自分の成績だけを追いかける個人プレーにあるということになりそうですが、そう伝えただけでは「そんな問題はない」と営業の反発を受けるだけです。営業の責任を問う見方は避けるべきです。

営業だって一生懸命真面目に仕事をしています。自分の成績を上げようとするのは、本来はそれが会社の業績にもつながるはずだからです。

もし営業が過度にプロジェクトを詰め込みすぎて、明らかに失注することが分かっているプロジェクトに設計のエネルギーを費やしていることを知れば、行動を改めざるを得ないでしょう。

とうことで、詰め込みすぎの原因は、誰もその実態とその不合理さをつかめていないことに求めるべきだとわかります。

ですから、この問題を解決するためには、プロジェクトを詰め込みすぎて失注するプロジェクトに設計能力を浪費している実態を事実で証明する必要があります。その上で、営業と設計の間で受ける引合の数を減らすべきことの合意形成することと、詰め込みすぎを避ける仕組み(引合に応じる商品の絞り込みと引合評価プロセス)を構築することとをすれば良いことになります。

実際に、実態を明らかにすると、営業出身のプロジェクト・リーダーが「えっ、俺たちこんな馬鹿なことをやっていたんですか!本当ですか?」と事業部長のところに飛んで行き、それで問題は解決しました。その結果、1年半後に受注率が飛躍的に向上したのです。 

数々の教訓

この問題には、いろいろな教訓が含まれています。それらをまとめると以下のようになります。

  • 問題をどう解くかではなく、なぜそれが解決されないままであるかを問うべきである。解決できない当事者の責任を追求すると、この問いができない
    • この問題は、私たちが構造改革プロジェクトに携わっているその横に、茫然自失状態で放置されていました。設計部門の人たちが怠惰であったわけではなく彼らの手に余っていただけのですが、解決できない設計部門を無能だと批判的に見ていて、誰も手を貸そうとしなかったのです。
  •  問題が解けないのなら、問題解決の前提となっている制約をどう外すかを考える
    • 設計者は「プロジェクトは断らない」という制約のもとで解決策を探していて、立ち往生していたのです。この制約を不合理だと見る外部の目がなければ、この問題は解けませんでした。
  • 問題の制約を外せないのは、それが当事者たちの職務範囲の隙間に落ちているからであることが多い。そのことが認識さえされれば、問題解決はむしろ簡単である。
    • 「プロジェクトは断らない」という制約を外すのは、営業の同意がないとできませんし、普通営業はこれに同意しません。
    • この同意を得るためには、「現行の枠組みの中でお互い一種懸命仕事をしている結果不合理なことが起きている」という全体図を、反論できない形で描く必要があります。そのためには、現状調査での事実の収集が不可欠です。
  • これらを踏まえたコンサルタントへの教訓を一言でまとめると、「問題を大きくしろ」となる。しがらみに縛られているクライアントにはこれが難しいので、これこそが外部コンサルタントの価値である。