問題は「ひとつだけである」という思い込みを廃して、80:20の法則を賢く使うコツ


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80:20の法則が一笑に付されることが多いのは?

ある新興会社で、それまで上り調子だった売り上げに陰りが見えてきました。それに、営業経費はかさむ一方です。

そこで、営業の若手エースのAさんが、営業利益率の向上プロジェクトのリーダーにアサインされました。

ところが、Aさんには解決策の見当が全くつきませんでした。売り上げを上げようにも市場は伸びていませんでしたし、営業経費にも目につく無駄は見当たらなかったからです

当惑しているAさんに、コンサルタントをしている友人が「80:20の法則を使ってみたら?」とアドバイスをしてくれました。

80:20の法則というのは、投入と産出の関係には常に偏りがあるとするものです。たとえば、売り上げや利益(産出)の80%が20%の営業工数(投入)によって達成されている、などの偏りがあるというものです。

しかし、Aさんの会社の営業はたった10人で売り上げを伸ばしてきた精鋭ぞろいで、そのような偏りはありませんでした。当然、Aさんは外部の人間の戯言と聞き流しました。友人も、営業が精鋭ぞろいなら法則は当てはまらないかもしれないと、引き下がりました。

ところが、その後一ヶ月経っても一向に解決の手がかりが掴めません。困り果てたAさんが友人にもう一度アドバイスを求め、80:20法則を適用してみました。

そこで分かったことは、20%の顧客への営業(投入)が80%の利益(産出)に貢献しているという非常に偏った分布があるということでした。このことがわかれば、解決の方向が見えてきます。利益に貢献している顧客の特性を見極め、その特性を持つ顧客への営業活動を強化すれば良いのです。

このような話をよく聞きますよね?

でも、なぜAさんは最初80:20の法則のことを聞いた時に、その本質を理解しようとしなかったのでしょうか?また、友人は法則がどういう場合に有効かについての的確な説明ができなかったのでしょうか?

その説明ができていれば、Aさんは一ヶ月を棒に振らなくて済んだはずです。

「大きなひとつの問題」と「小さな問題の集合体」を区別しないことが引き起こす課題

80:20の法則そのものは比較的よく知られています。しかし、実はコンサルティングの現場での適用例は数少ないのです。

なぜ、そうなるのでしょうか?

Aさんの例に見られるように、クライアントが法則を信用しない、あるいは価値を認めないからです。

その理由は、我々が与えられる問題は多くの場合「ひとつの大きな問題」だからです。次に示すように、「小さな問題の集合体」を取り扱う機会が少なく、それに対し効果を発揮する80:20の法則の取り扱いに不慣れだからです。

  1. 通常、企業や組織全体の改革を行うときは、業績向上を阻む「一つの」大きな問題に対する「一つの」大きな解決策を導いてそれを実現していく、ということが想定される。(企業や組織全体の業務プロセスの改革に取り組む、等)すなわち、問題自体が数多くの小さな問題の集合体であるとは想定されない。ビジネス上の効率を求める外部のコンサルタントも、この傾向を助長する
  2. 大きな問題が解決されると、後の業績向上は担当者の責任とされ、改革プロジェクトは終了となることが多い
  3. 大きな問題と解決策の対を片付け尽くした後で、あるいはそのような対が最初から存在しない場合に、初めて小さな問題の「集合」に取り組むことが必要となる。通常、これらの小さな問題の解決は担当者レベルの仕事とみなされる
  4. しかし、担当者レベルでは集合全体には責任がないので、全体を見渡す動機がない。したがって、個別撃破を試みるが、これは全体から見ると非常に効率が悪い。仮に全体を見渡す責任者がいたとしても、不慣れなため投入と産出の関係の分布が偏っていることを信じず、80:20法則適用の忠告を無視する
  5. 全体を見渡して偏りに気づいたとしても、偏った分布が問題解決の手がかりを与えていることが理解できない

偏った投入産出分布の存在を無視させるパラダイムからの脱却法

コンサルタントが大きな仕組みの改革をするだけでなく、実際の業績向上まで「本気で」付き合おうとするなら、上記の3、4の扱いは避けて通れません。したがって、その扱い方に慣れておく必要があります。

そのためには、クライアントが「偏った投入産出分布の存在と、それが意味すること」を理解できない理由を把握しておく必要があります。

まず、偏った分布が存在するにもかかわらずクライアントがそれを信じないのは、「努力(投入)すればそれなりの報い(産出)があるはずだ」という信仰(パラダイム)があるからです。すなわち、同じ量の投入に対して産出が極端に異なることを信じられないのです。

Aさんの例で言えば、図の①のように投入量(営業量)と産出量(売上・利益)には正の相関があると思うのが普通です。

これに対し、顧客ごとの利益に関しては、図の②のような投入量(営業量)と産出量(顧客ごとの利益)に負の相関があったのです。これは直感に反するので、にわかには信じられないのは理解できることです。

しかし、①のような関係が成立するとすれば、それは図の下部 ⑴ に示すような一つの投入産出関係のもとでのはずです。

上記 3.の小さな問題の集合体を扱っている場合には、図の下部 ⑵ に示すように複数の投入産出関係が存在するのであり、その中には効率のよいものも悪いものもあるはずです。

投入量が大きいのに産出量が小さいということがあっても、何の不思議もありません。むしろ、そのようなアンバランスがあることの方が自然です。

そのアンバランスの結果、自分たちがエネルギーの無駄遣いをしていることに気付けば、そこに解決の糸口が見つかるのです。(エネルギーを無駄遣いしていなければ、理想状態にあり業績はこれ以上向上しないはずです。)

でも、そのことに気づくのが難しいのです。私たちには問題が与えられると、それほどまでに「問題は一つだけである」と思い込む傾向が強いのです。

以上をまとめると、次のような教訓が得られます、

  • 業績に問題があり、それが小さな問題の集合からなるときは、次の因果関係が成立する可能性が高いことを覚えておき、その成立を確かめるために80:20の法則の適用を試みるべきである。
    • (原因)管理対象の「どこかに」極端にアンバランスな投入・産出関係が存在する → (結果)「全体として」投資に見合う十分な投入産出比が得られていない
  • この因果関係を理解して、管理対象(製品、顧客、営業所、等)ごとに細分化して投入と産出の関係を見ていき、アンバランスを見つければ良い
  • そうすれば、図の⑵のようなことが判明し、すべての投入を投入産出効率の高いS1にまとめよう、あるいは、投入工数の配分は変えずにS2の投入産出比を高めよう、という解決策が思い浮かぶはずである

80:20の法則の意味

購買改革プロジェクトでの80:20法則の適用例

製造業の改革プロジェクトでは、設計品質・スピードの向上、サプライチェーンでのリードタイム短縮・在庫低減、部品購買コスト低減などの多くのテーマがあります。

これらの改革を実現して、クライアント企業のパフォーマンスを本当に向上させるようとすると、どこかで上記の3に遭遇します。

すなわち、個別の管理対象(製品、部品、営業所、顧客、など)ごとの改善策を実行する必要が出てくるのです。ところが、大きな企業の場合では管理対象の数が多く、改善の手間が膨大となるという悩みがあります。そのときに、80:20の法則が大きな助けとなるのです。

これを、事例で示しましょう。

部品購買額の削減プロジェクトのことを考えてみましょう。各サプライヤーと交渉して部品購入コストを下げていくのですが、部品とサプライヤーの数双方が多いので、大変な作業となるのが悩みです。

ここで、それまで存在しなかった部品カテゴリ毎のコスト削減責任者を任命してみましょう。(問題群全体を見る目を導入してみましょう。)

そうすると、その人は自分の責任範囲の現状を理解しようとするでしょう。手始めに自分の責任範囲の部品群のサプライヤーごとの購買額を把握しようとすると、ほとんどの場合下図のようになります。

部品購入における80:20の法則

これを見れば、部品コスト低減のためには、購買額上位の数社とだけ交渉すれば良い(サプライヤーとの交渉への投入工数を効率の良いところにまとめればよい)ことが一目瞭然です。

下位のサプライヤーと交渉しても得られる効果はごくわずかですので、交渉の手間が引き合いません。むしろ、他に問題がなければ、下位のサプライヤーとの取引を打ち切って、上位のサプライヤーへ取引を移した方が、手間の削減になります。

これが一目で理解できることが、80:20の法則の威力なのです。

(ここで、購買額が産出量に相当することはほぼ自明でしょう。横軸のサプライヤーの数と投入量との関係はそれほど自明ではありませんが、サプライヤーごとに一定の取引の手間がかかります。したがって、サプライヤーの数が増えれば増えるほど投入量が増えるので、累積曲線が投入産出関係を表していることは理解できるでしょう。)

実際には、縦軸には購買額ではなく、部品の実際の購買価格と理論価格(この価格で購入できるはずだと見積もった価格)との差に購入量をかけたものをプロットします。要するに、自分たちがどれだけ余計に払っているかを見積もり、その額が大きいサプライヤーと交渉するのです。

そうすれば投入量(自分たちが交渉に使った工数)とその工数が産出した量(余分あるいは過小に払った額)が正確に反映されることになるからです。(もちろん過小に払っているサプライヤーとは何の交渉もする必要はありません。)

 まとめ

  • 与えられた問題の解決の糸口が見つからず途方にくれることがあるが、時として、その原因が自分の思い込みのせいであることがある。
  • 思い込みの一つに、問題は「ひとつである」というものがある。実は問題自体が小さな問題の集合体であるときには、この思い込みは致命的な働きをする
  • 問題が小さな問題の集合体である場合、真正面から向き合うと解決の手間がバカにならないが、実は企業が直面する問題の多くには80:20の法則が成立していることが多い。このことを知っていると、効率の良い解決策が見つけられる
  • 80:20の法則とは、企業や組織の投入産出にはアンバランスがあり、たとえば産出の80%が投入の20%で実現されているという類の経験則のことである。
  • この法則が成立していることが確認できれば、投入産出比の高いところに資源を集中する、という解決策が得られる。もう一つの解決策は、投入産出比の低い部分を改善するというものであるが、こちらは通常あまり得策とはならない
  • コンサルタントは、クライアントに「問題は小さな問題の集合」である時の解決方法は「問題がひとつである」時とは異なること、「問題が複数ある時の投入算出関係は、それぞれで異なること」を理解させる必要があることを心得ておくべきである