アドバイスができず困ったら、「問題」ではなく「クライアント」を診る


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アドバイスできないのは経験不足だから?

コンサルティングをしていてクライアントへの問題解決上のアドバイスを何も思いつけない、という経験はありませんか?こんな辛いことはありませんよね?

こういう時に真っ先に思い浮かぶのは、自分が経験不足だということです。

でも、何の経験が不足しているのでしょうか?

思いつくのは、対象となるクライアントのビジネスそのものの知識不足、問題解決方法の適用経験不足、などでしょうか?

では、これらの不足を補えばすべてのケースで的確なアドバイスができるようになるのでしょうか?

実は、もっと基本的なところで、コンサルティングについての考え方を変更した方が有効なことが多いのです。

この説明をするために、問題解決で行き詰まった時に最初に問うべきは“プロセス質問”で引用した会話の再掲から始めましょう。

「問題」を診る若手コンサルタントと「クライアント」を診る先輩の差

ある人(Aさん)が、コンサルタントたちに自分が勤めている会社の経営上の案件の相談を持ちかけてきました。

その会社は装置メーカーで、産業用市場を消費者用市場の2つがあり、産業用市場の急激な需要減に直面していました。

この困難な局面を克服するために、消費者市場用の流通網の再編で利益を確保することを考えました。商社を中抜きして消費者接点の装置設置業者との直取引を進めていましたが、商社の抵抗などもあり、なかなかうまく進みません。

そこで、何か良い案はないかというのが相談でした。

その場にいた若手コンサルタントが対応することになり、いくつかの質問をしましたが、それ以上は進まず何のアドバイスもできませんでした。

彼がした質問は、次のようのものです。

  • 若手: 「貴社の業界シェアはどれくらいですか?トップ企業の市場支配力はどんな感じですか?」
  • Aさん: 「シェアは5%くらいで、業界4位です。4位までで業界全体の70%を占めています。トップ企業のシェアは30%位で、商社とがっちり握っていて、設置業者とも強力なコネを持っています。中抜きをしようとすると、商社から大手へ鞍替えすると脅されています。」
  • 若手: 「各社の商品競争力にはどんな違いがありますか?」
  • Aさん: 「成熟市場になってきたので、品質にはほとんど差はありません。当社は外資系なのでこれまで価格的に優位だったのですが、最近の円安でその差はなくなりました。したがって、商品の差はほとんどありません。」

これらの質問は、業界に不慣れな人が議論に参加しようとする場合には必ず知りたくなることばかりで、それらをすること自体には何の問題もありません。

問題は、質問がそこで終わってしまい、先に進めなくなってしまったことです。

アドバイスどころではありません。それは、なぜでしょうか?

行き詰まってしまったので、先輩コンサルタントが対応することになりました。

先輩の質問とそれに対する企業担当者の回答は次のようなものでした。

  • 先輩: 「産業市場での落ち込みをカバーするのに必要な消費者市場での売り上げはどれくらいですか?また装置は1台あたりいくらですか?」
  • Aさん:「必要なのは10億円です。価格は1台あたり100万円です。」
  • 先輩: 「とすると年に1000件売れれば良いわけですね。下位のシェア30%はどんな会社がどんなやり方で売っているのでしょうか?それらの会社は、競争力がないので、地域ごとの違いなどの顧客のニーズをうまく組み上げてそれにマッチした売り方をしているはずですよね。しかも売り上げ規模は小さいので、大手にとって魅力のない規模の市場を見つけているはずです。大手との競合に晒される商社経由の流通はいままでどおりにしておいて、下位のやり方に目を向ければ1000件くらい取れるのではないですか?」
  • Aさん:「なるほど、そのように考えたことはありませんでした。ありがとうございます、早速検討してみます!」

短時間での会話だったので、先輩のアドバイスが正しいかどうかはわかりません。ただ、Aさんの当面の行き詰まりを解決するアドバイスをしたことは確かです。

先輩と若手の差はどこにあるのでしょうか?

ここまでが記事の再掲です。

前の記事では、この後次のようなことを述べました。

「その答は、彼らが(頭の中で)した質問のタイプにあります。若手は問題に関する質問(コンテンツ質問)をしたのに対し、先輩はクライアントの問題の解き方に対する質問(プロセス質問)をしたのが差だったのです。」

そして、この後プロセス質問とは何か、それができるようになるにはどうすれば良いかについての解説をしました。

今日は、もう一歩手前について考えてみましょう。

 根本にあるのは「クライアントの問題を解決する商売」の解釈の差

若手と先輩の差がプロセス質問ができるかどうかにあることは分かったとしましょう。でも、その差はどこから生じたのでしょうか?

先輩は、なぜプロセス質問が重要だということに気づけたのでしょうか?

その理由は、若手が見ていずに先輩が見ていたものにありますが、それは何でしょうか?

実は、問題解決に必要な視座の転換とその訓練法でも触れたように、Aさんは、自社と商社の関係を示すバリューチェーンの図を書きながら説明を始めていました。

若手は、その図を理解するための背景情報を集ようと質問をしていたのです。でも、それ以上先には進めませんでした。

これに対し、先輩はいきなり消費者市場で獲得すべき売り上げ増から質問しています。Aさんが自分の問題の説明に使った図には見向きもしていません。

先輩は、「市場シェアが低い下位メーカーの商社の中抜き」という案そのものが筋が悪いと感じ、Aさんなぜそのような案を考えているのかという方に注意を向けていました。Aさんが書いている図(問題とされているもの)ではなく「Aさん」(問題を抱えている人)を見ていたのです。

なぜ、このようなアプローチの差が出るのでしょうか?

そのヒントは、コンサルタントという商売をどう理解するかにあります。

このブログで何度も述べているように「コンサルタントとはクライアントの問題を解決する商売」です。この定義には異論がないですよね?

でも、若手と先輩の間には、次に示すように定義の解釈に微妙な差があるのです。

  • 若手:コンサルタントはクライアントの問題を解決する商売
  • 先輩:コンサルタントはクライアントの問題を解決する商売

次の図に示すように、若手は問題に着目しており、先輩はクライアントに着目しているのです。

若手は、クライアントが一旦問題を提示したら、ひたすらその問題の解決に取り掛かります。

それに対し、先輩は、クライアントがなぜその問題を抱えているのか、ひょっとしたら別の問題を解決した方がクライアントのためになるのではないかという風に、クライアントをどう助けるかを考え続けているのです。

コンサルタントという商売の見方

与えられた問題を解決することが目的となっている若手には、その問題の良し悪しを議論するという発想はありません。それに対し、クライアントを助けることが目的の先輩は、クライアントの利益にならないと思えば、平気で問題を変えるようにアドバイスするのです。

 コンサルタントという商売の見方を変えて得られる3つのメリット

さて、このように商売の見方を変えると、本当にアドバイスできる範囲が広がるのでしょうか?そのメリットは何なのでしょうか?

新しい見方では、クライアントはコンサルタントの指導を受ける従属者ではなく、自分で問題解決をする主体者です。(そうは言いながら、実際はコンサルタントが手取り足取り教えることの方が多いかもしれませんが(笑)、それはそれで構いません。)

ただし、当然のことですがクライアントがこの見方を受け入れることが前提です。そして、ある程度の能力と自負があるクライアントは、比較的簡単に承知してくれます。

逆に、この見方受け入れてくれないおんぶに抱っこのクライアントに出会った場合は、長期的な関係を築くのは避けた方が良いでしょう。

この関係構築の第1のメリットは、コンサルタントがごく自然にクライアントの視点で考えるようになることです。

コンサルタントは、クライアントが提示した問題そのものだけを診るのではなく、その背後にあるクライアントの悩みを診るようになります。つまり、与えられた問題の解決者ではなく、クライアントの相談相手を意識して行動するようになるのです。

その結果、クライアントが持ちかけた問題の筋が悪ければ、当然その見直しを進言します。そして、結果的に解ける問題の範囲が広がる等で、より良いアドバイスできる確率が高まるのです。この意識の変化がもたらす第2のメリットが、先輩コンサルタントのアドバイスを可能にしていたのです。

さらに、図を見ればわかるように、クライアントとコンサルタントとは、問題を介さずに直接関係しています。すなわち、問題がなくなっても関係が続くのです。クライアントと長期的な関係が構築できること、これが意識の変換の第3のメリットです。

アドバイスの範囲を広げる前に考慮しておくべきこと

一方、このようなコンサルタントに求められるものは、問題解決の能力を示すことだけではなく、クライアントの事業の変革に付き合うことをコミットし安心させることも含めた幅広いものとなります。そして、これは決して簡単なことではありません。

このことについては後日もっと詳しく説明しますが、簡単に注意点をあげておきます。

この立場でクライアントに自分を選ばせて、不得意な問題の相談をもちかけられると大変なことになります。たとえ苦手な問題でも最後まで付き合ってくれると、クライアントが期待するからです。

最初は、アドバイスできる範囲を明確にしておき、それを自分から積極的に発信しておくことが必要です。そして、その発信内容を承知しているクライアントとだけ付き合うという方向転換が必要です。

その上で、付き合ったクライアントに成果をもたらし信頼を獲得することを最優先します。信頼を得たのちに徐々にアドバイス範囲を広げていく、というのが理想です。

信頼されていれば、知らないことは知らないと言えます。また、クライアントの思考パターンに慣れてきますから、クライアントがどこで躓いているかを理解でき、問題解決のアプローチを変えさせるアドバイスはできます。そうやって、問題そのものは不得意分野であっても、クライアントに貢献することが可能となるはずです。

このようにして、クライアントにとってなくてはならない存在になっていくことが、コンサルタントのキャリア形成の一つの理想形です。

まとめ

  • 経験の少ないコンサルタントが、クライアントにアドバイスできずに進退に窮することが多々ある
  • その原因は、問題分野の知識不足、問題解決方法の未熟さ、などによることも多いが、もう一つ大きな原因として挙げられるのがコンサルタントという商売の理解の仕方である
  • 「コンサルタントはクライアントが提示した問題を解決する商売である」という見方から「コンサルタントはクライアントが問題解決をするのを支援する商売である」という見方に転換すると、アドバイスできる範囲が自然に広がり、クライアントからの信頼度が増す
  • その理由は、クライアントが提示した問題そのものの妥当性や解決策実行の段階におけるクライアントの心配事の解消にまで目を向けることにある。見る範囲が広がれば、より良い解決策が見つかる確率が高まるのは理の当然である
  • 反面、そのやり方は大きな期待を背負いこむことになり、リスクも高まる。対策として、当初は自分の得意分野を明確にし、その範囲内でのクライアントの支援に絞るべきである。その支援に成功しクライアントの信頼を獲得した後で、徐々に広範囲のアドバイスを行えるようになっていく、というのがコンサルタントのキャリア形成の一つの理想形である