在庫削減の戦略的重要性:競争優位性を高め資本効率を向上させる


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コンサルタントが知っておくべき在庫管理の経営的意味

「売上高利益率」しか考えていない経営者に正しい経営視点を持つように迫るための知識で、経営の要点は次の2つであると書きました。

  • 顧客視点からの付加価値の創出
  • 投資家視点からのストックの効率的利用

さらに、先週、付加価値創出法について解説しました。

ということで今日は、ストックの効率的利用について見ていくことにします。

経営者は、外部から借り入れた資本と自己資本をストックに投資し、そのストックを利用してスループットを生成します。そして、スループットからその生成にかかった経費を差し引いた上で、残りを税金、投資家に配分し、さらに残りを成長のための再投資に向けます。

資金を貸してくれた投資家に報いるためには、使った資本に対するこの投資家と再投資への配分部分の割合を大きくすることが求められます。すなわち、ストックの効率的活用を求められるのです。

さて、資本の行き先であるストックとは何でしょうか?貸借対照表を見てみると、それは運転資金と固定資産であることがわかります。

ここで運転資金は、次の式で定義されます。

運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 — 買入債務

このうち、普通の業務改革コンサルタントが関係するのは棚卸資産、すなわち在庫です。つまり、在庫と固定資産の有効活用が、業務改革コンサルタントの課題範囲となります。

固定資産の活用法はビジネスのタイプで大きく異なるため、コンサルタントが一般常識として心得ておくべきストック活用法は、比較的共通性の高い在庫に関するものとなるのです。

以下で述べるように、在庫削減は使用資本の減少とスループット向上を同時に実現させるので、経営上非常に重要な施策となります。コンサルタントは、このことをよく理解しておくべきなので、以下に詳しく説明します。

在庫戦略はコストだけではなくスループットに影響する

在庫の管理となると、すぐにABC管理やカンバンなどの具体的な手法の戦術的議論になりがちです。しかし、投資家を満足させるための資本効率から考えると、もっと戦略的な視点が必要です。

では、企業戦略と在庫との関係とは何でしょうか?そう問われると、はたと考え込んでしまうのではないでしょうか?

この時によくあげられる論点が、在庫のコストに関する視点です。例えば、「在庫は悪」なのか?在庫の基本を知る:CIOへのステップアップ財務・戦略講座(2)に述べられているような視点です。

在庫はお金が形を変えたものなので、その維持には金利が発生します。だから、なるべく在庫を少なくすべきだ、というのです。その観点から、在庫削減の方法を論じ始めます。

しかし、この見方は本末転倒です。資本を在庫に投じたのは、より多くのお金を生むためです。それをせずに、ただお金を返せというのでは、経営を放棄しているようなものです。

このようなコスト視点の見方をまとめると、図②-Aのようになります。在庫が増えると、様々な要因を通して業務費用が増えます。だから、業務費用を下げるためには、在庫を減らすべきだという議論です。

ここで「売上高利益率」しか考えていない経営者に正しい経営視点を持つように迫るための知識の議論を思い出していただきたいのですが、資本を投入してストックを準備・活用する目的は、スループットを効果的かつ効率的に上げお金を稼ぐことです。ですから、在庫管理の目的は、スループットの向上であるはずです。決して、単なる経費削減ではあってはならないのです。

実は、在庫削減にはもっと積極的な目的があり得るのです。

それは、スループット当たりの使用在庫を少なくすることにより、競争優位性を向上させるというものです。そして、その結果スループットの総量も増加するのです。

このことは直感的にわかりにくいので、簡単な例を使って考えてみましょう。例としては、流通業より在庫管理が複雑な製造業を取り上げます。

ロットサイズを小さくすると在庫が減り製造リードタイムが短くなる

まず、図①の上部に示すような3つの工程からなる簡単な製造ラインを考えてみましょう。工程A、B、Cの生産能力は、日に10個だとします。

一般に製造ラインでは、同一の製品を幾つかにまとめて生産します。段取り替えや運搬の手間を削減するためです。そして、このまとまりのことをロットと呼びます。

さて、図①の最上段のようにロットのサイズが300だとしたら、何が起こるでしょうか?

工程Aの前にある製品300個分の材料や部品の在庫は、一まとまりとして工程Aで処理されます。すなわち、300個全部の処理が終わった時点で工程Bに移されます。工程Aでのロットの処理時間はちょうど1ヶ月です。(簡単のために1ヶ月は30日であるとします。)

工程Bでも300個が一まとまりとして処理され、それらの処理が全て終わってから工程Cに移されます。

各工程の処理スピードは同じですから、工程Aに1ヶ月あたり製品300個分の材料を投入し続ける限り、各工程の前中後には図に示すように製品300個分の仕掛り在庫が存在することになります。(厳密に言うと、工程処理済み分がX個、処理中がY個、処理前が300-X-Y個で、合計300個)

ですから、仕掛り在庫の総計は900個となります。

そして、工程Aに材料。部品が投入されてから300個全ての製品が完成するまでの時間(製造リードタイム)は、3ヶ月です。

ここで、ロット・サイズを300ではなく30に変えてみましょう。上と同じ計算をすれば、仕掛り在庫の総計は90個、製造リードタイムは9日となります。

つまり、ロット・サイズを小さくすれば在庫が削減され、製造リードタイムも短くなります。

製造リードタイムが短くなれば、以下に述べるように顧客満足の基本条件であるQCD が向上し、その結果競争優位性が向上するのです。そして、最終的にスループットが向上します。(図②-B参照)

すなわち、資本効率を高めるためには、ロット・サイズを小さくして在庫を削減する生産方式を実現する、という企業戦略を取るべきなのです。

在庫と時間

競争優位性(QCD)向上のための在庫削減

上でロットサイズを小さくして在庫削減すると顧客満足条件のQCDが向上しスループットが向上すると述べましたが、そのロジックをもう少し詳しく調べてみましょう。

在庫が減ると品質(Q)が向上する

一般消費者や流通業の人の眼には触れないことなのですが、製造業の内部では、量産時にも品質事故がけっこう起こっています。この品質事故が出荷時の検査で発見されたとしたら、何が起こるでしょうか?

上述のロット・サイズが大きいケースでは、この事故は最悪のケースで3ヶ月前に起こっている可能性があります。そして、それだけ前に起こっている事故の原因の究明は、製造リードタイムが9日の場合に比べてはるかに難しくなります。

さらに、発見が遅れると、品質不良の品物が流れることにより他の工程に悪影響を及ぼし、新たな品質問題を引き起こす可能性も高まります。

つまり、在庫が多く製造リードタイムが長いと、品質低下のリスクが高くなるのです。

すなわち、品質良く生産するためには、在庫レベルを下げた方が良いのです。その方が、最終的に消費者に渡る製品の品質も良くなり、競争力が高まるのです。

また、発見されるまでの間の品質不良の仕掛かり在庫も大きくなります。これらの品質不良の仕掛かり品は廃棄することになります。その意味でも、ロット・サイズが小さく仕掛かり在庫が少ない生産方法の方が、スループットが高くなります。

別の話として、品質や機能を向上させた新製品への切り替えについて考えてみましょう。

この時に問題になるのは、流通在庫の処分です。流通に旧製品の在庫が存在するままで新製品を出すと、売れなくなる旧製品のたたき売りが起こり、メーカーはその損の補償を求められるからです。

したがって、流通在庫が大量にあると、それが捌けるまで新製品の切り替えを待たざるをえなくなります。

この時にも、全体の在庫レベルが低く小刻みに出荷しているメーカーの方が、流通在庫が少なく、素早く新製品への切り替えを完了できます。在庫レベルが高く旧製品で勝負する時間を長くせざるをえない競合メーカーに対して優位に立つことができるのです。

在庫が減るとコスト(C)が下がる

次に製造にかかるコストに対する在庫の影響について考えてみましょう。

製造ラインが設計通り動いている場合は、単位あたりの製造コストは在庫の大小には影響されません。しかし、世の中予定通りには動かないのが常です。

予定通りにいかない例としては、顧客からの急な注文に対応することや遅れを締め切り前に取り戻すことなどが挙げられます。

例えば、製造リードタイム3ヶ月の企業に顧客から2ヶ月以内での納入を要求する注文が入ったとしましょう。現在の仕掛かり在庫が全て他の注文に引き当て済みの時は、最初から生産を開始して通常3ヶ月かかる生産を2ヶ月で仕上げる必要があります。

この状況を打開する手段は残業ですが、それには追加の残業代がかかります。一方で、リードタイム9日の企業では、何の問題もなく通常の受注として処理できます。

ここで製造コストの差が出るのです。

また、工場ではいろいろ不測の事態が起き、計画が遅れがちとなります。しかし、締め切り時には計画は達成されなければなりません。そうでないと、企業業績が悪化するからです。

業績悪化を避けるためには、期末に大量の生産をする必要がありますが、残業だけでは処理しきれないことがあります。機械の能力や在庫スペースが不足するからです。

この問題を解決するためには、予備の機械能力やスペースを確保しておく必要があり、そのための投資が必要となります。しかし、この時も容易に見て取れるように、小刻みな生産で必要な投資は軽微なものですみますが、在庫が多いと必要な予備能力も大きくなります。

ここでも、在庫レベルが低い方が必要投資は小さくなるのです。

在庫が減ると顧客応答性(D)が向上する

納期も顧客満足度を大きく左右する要素です。納期に関しては、納期順守率と納入リードタイムが重要な評価指標です。

在庫が減ると納期遵守率が向上する

納期順守率とは、顧客に約束した納入期日を守れた割合のことです。

この納期が順守できない最大の理由は、顧客が納期を変更したりサプライヤーが予定通り納品しないからです。

顧客はいつ大体これくらいの量が必要だという予測量(フォーキャストと呼びます)を事前に示した上で、最終的に確定した分を発注します。(これを確定オーダーと呼びます。)しかし、顧客にも自分の顧客がいるので、その必要量を読み違えて確定オーダーを変更せざるをえないことがあるのです。

とは言え、確定オーダーの方が直前にくるので、フォーキャストよりは精度が高い(最終的なずれが少ない)ものです。

このような状況で、製造リードタイムが3ヶ月の場合と9日の場合では、どちらの納期順守率が高くなるでしょうか?当然、9日の方が精度が高い情報をもとに生産を開始でき、納期順守率も高くなりますよね?

同様のことが、自社とサプライヤーの間でも起こります。自社がフォーキャストやオーダーを変更するので、サプライヤーが納期を守れなくなります。その結果部品不足となり、顧客への納期が順守ができなくなるのです。

この時も、在庫レベルが低水準で小刻みに発注している企業の方が、サプライヤーへのオーダー変更の量が小さくなります。その結果、サプライヤーの納期順守率が高くなり、自社の納期順守率に好影響を与えます。

いずれの場合も、在庫レベルの大小、製造リードタイムの長短が、納期順守率の高低を決めるのです。

在庫が減ると納入リードタイムが短くなる

納入リードタイムとは、顧客の注文を受けてから顧客に製品を届けるまでの時間を顧客に約束したものです。これが短いほど顧客は直近の情報に基づいて注文できます。その方が、顧客は自分のリスクを小さくできます。したがって、納入リードタイムが短いほど、サプライヤーとして顧客に選んでもらえる確率が高まるのです。

(より詳しくは、サプライチェーン改革の目標:「私たちはお客様をお待たせしません」が意味することで解説します。

この時、製造リードタイムが短いほど、自社のリスクを高めることなく納入リードタイムを短くできます。

製造リードタイム9日の企業が納入リードタイム1ヶ月を約束するのは何の苦もなくできます。ところが、製造リードタイム3ヶ月の企業にとっては、予備の在庫を大量に準備しなければ実現不可能となり、経営的にリスクが高くなります。

つまり、在庫レベルが低いほど、納期面で競争優位に立てるのです。

以上の議論をまとめると、図1の下部が得られ、それらの因果関係を示すと図2-Bのようになります。

在庫とコスト視点

在庫とスループット視点

 まとめ

  • 投資家視点でのストックの効率的活用に関しコンサルタントが知っておくべきことは、ビジネスのタイプによらず共通性の高い在庫の戦略的活用法である
  • 在庫の効率的活用を論じるとき、金利面などからのコスト視点で在庫削減を唱える傾向があるが、これはストックを使用してスループットを生むという本来の目的を忘れた本末転倒の議論である。そうではなく、在庫削減を通して競争優位性を高め、間接的にスループット向上を実現する方法を探るべきである
  • 在庫を削減すれば、品質向上や新製品切り替え時間の短縮を通して、製品優位性を高められる
  • 在庫を削減することにより、予想外の変動への対応策(短納期注文に対応するための残業費、計画遅れの期末処理のための予備の能力への投資など)の幅を抑えることができ、コスト競争力が増す
  • 在庫を削減しリードタイムを短くすれば、より直近の顧客オーダー情報に基づいて行動でき、納期順守率の向上や納期リードタイムの短縮により、顧客満足度を向上させられる
  • コンサルタントは、在庫削減のオペレーション上の効果(リードタイムの短縮など)と経営メリット(競争優位性の向上)を関係づけ、経営者の戦略立案に貢献する能力を養うべきである。それができないコンサルタントは、現場改善に甘んじるしかない

本日の議論の参考書

M. Goldratt & R. E. Fox, “The Race,” North River Press (1986)