売上でも利益でもなく、付加価値(スループット)向上をするように経営者をガイドする法


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顧客が買うかどうか決めるもとは付加価値

世の中には「売上高利益率」しか考えていない経営者が多いですが、本来の経営者は次の2つに注力すべきです。

今日は、このうちの付加価値の創出方法について詳しく見ていくことにします。

付加価値とは、以下の式で定義される企業が生み出した価値のことです。

付加価値 = 売上高 — 外部購入費(材料費、外部加工費、等)

その辺の小川の水を原価10円で仕入れて瓶詰めして売価100円で売ろうとしても、それだけでは顧客は買ってくれません。その小川の水質が良く昔から都の人たちが争って求めていた等のストーリーがあり、それにふさわしいパッケージングがされて初めて、顧客はお金を払ってくれます。そのお金が、企業の存続・成長のもとになるのです。

ただし、顧客が評価するのは売価と瓶代などを含む原価の差を正当化する水質とストーリーだけです。それが付加価値の源です。

そこには、水質検査、ストーリー作りやパッケージ・デザインの費用は含まれません。それらの費用は売価の正当化のために企業が自分の都合で費やしたものであり、顧客の関知するところではないからです。

企業が存続するためには、顧客が商品・サービスを買ってくれなければなりません。そして、顧客が買うかどうかの判断をするのは付加価値を通してなのです。

ですから、経営者が最初にすべきことは、売上や利益の向上ではなく付加価値創出法の設計なのです。

 付加価値の創出のために経営者がやるべき2つのこと

この付加価値を高めるためにやるべきことは、2つあります。

一つ目は、当然ですが、商品・サービス開発とマーケティングです。顧客の満たされていないニーズを汲み取り、それを適正な売価と原価で満たす方法を考案し、その価値を顧客に認識してもらうのです。

さらに、付加価値を継続的に実現するための業務プロセスを構築します。

二つ目は、そのように顧客に認識してもらった価値の対価として獲得するキャッシュの最大化です。そして、こちらが今日の本題です。

キャッシュの最大化のためには、売上につながる活動のスピード化が必要です。企業に材料をインプットとして投入した場合に、売上というアウトプットがどれくらいのスピードで出てくるかが問われるのです。

インプットからアウトプットを生成する単位時間(例えば年間)当たり処理能力のことをスループットと呼びます、スループットが高いほど、費やした費用の回収、投資家や従業員への配分、そして企業の成長のための再投資に使う原資をより多く稼げるのです。

スループット向上のためには、営業や生産などのオペレーション(業務プロセス)の効率が問われます。需要があるのに供給が伴わないなどの問題をどうやって解決するかが課題となるのです。

需要があるのに供給が伴わないのは何らかのオペレーション上のボトルネック(制約)があるからで、そのボトルネックを解消する方法を考えるのです。

(そして、これこそがTOC(制約理論)の中心テーマですが、ここではTOCの議論には立ち入りません。)

ボトルネックを解消しスループットを向上させる方法

ここからは話を具体的にするために、簡単な例を用いて議論しましょう。サプライヤーから部品を購入して消費者製品を作り、それを流通経由で消費者に販売している製造業を想定します。

自社のボトルネック解消策

この会社がスループットを向上させるためにすべきことは、「ひたすら”売れるもの”を作る」です。

売れるもの作っても届けるのが遅ければ、その分スループットは下がります。また、売れないものに製造資源を振り向ければ、その分売れるものへの対応が遅くなります。さらに、売れるものを作っても、その品質が悪ければ、需要を満たすことができずスループットは上がりません。

ですから、スループット向上のためにこの会社が最初にすべきことは、次の3つです。

  • まず。製造の品質を向上させる
  • さらに、需要に合うものだけを作るようにする
  • そのためには、自社の都合で生産計画を立てる方式(Push)ではなく、顧客の注文に基づいて生産する方式(Pull)に転換する

さらに、生産スピードそのものを上げる必要があります。これはスループットを上げるためにも大事ですが、それ以上に顧客満足度向上のためにも重要です。顧客もスループット向上を目的に動いているわけですから、対応が遅いサプライヤーには注文を出さなくなるからです。

生産スピード向上のために取るべき対策としては、たとえば以下のようなものが考えられます。

  • 段取り替え時間短縮: 同一機械で異なる品種のものを生産するとき、それぞれの品種に合わせた取り付け器具などを装着する必要があり、これを段取り替えという。段取り替えにかかる時間は何物をも生産しないので、この時間短縮がスループット向上に効く
  • ムダ取り: 同じように、ものの移動時間や作業者の動きの無駄、仕掛かり在庫として寝ている時間などは付加価値生産には何も貢献しないので、このようなムダを削減する(業務改革を成功させるために必要な2つの着眼点オフィスの改革の本質は情報のムダとり
  • BTO(Build To Order): たとえば顧客が注文してから納品までの時間(納入リードタイムと呼ぶ)を3週間と指定したとする。このとき、部品を注文してから生産を完了するまでの時間(生産リードタイムと呼ぶ)が5週間だったとしよう。これでは顧客の注文にはとても間に合わないので、どこかで見込み生産をする必要があるが、これは最終的に注文に繋がらないものを生産してスループットを下げるリスクをはらむ。このリスクを低減する方法として、生産工程を2週間と3週間に2分して、上工程の2週間で部品モジュールのみ見込みで作っておき、下流の3週間は注文が来てから残りを組み立てるなどの工夫をする。そうすれば、仮に見込みが外れても在庫として残るものが最終製品よりは原価の安いモジュール分のみとなり、スループットへの被害を小さくすることができる。このような生産方式を、顧客の注文(Order)に応じて生産(Build)するという意味で、Build To Orderと呼ぶ

以上をまとめると、製造業には図の上部のようなスループット向上策があることがわかります。

スループット向上策

顧客やサプライヤーのボトルネックまで視点を広げる

ところで、付加価値を向上させようと奮闘しているのは自社だけではありません。顧客やサプライヤーも同じように日夜努力をしているはずです。

したがって、経営者としては関係他社を含めた最終消費者に至るバリューチェーン全体での付加価値向上を検討し、そこから自社のチャンスを引き出す視点を持つことが必要です。

たとえば、上述の例では次のようなチャンスが見つけられます。(図の下部)

顧客(流通業)のボトルネック解消に貢献する法

流通業にとっての付加価値向上に関する最大の問題点は、品切れです。

せっかくお客様が買い物をしようとお店に足を運んでくれたのに、お目当ての商品が存在しないのでは、何のためにお店を構えていたのかわかりません。さらに、品切れが続けば、肝心のお客様に愛想を尽かされて来店客が減ってしまうという深刻な問題を引き起こしかねません。

しかし、この問題の解決はそれほど簡単ではありません。というのは、お店の面積が限られているからです。

お店に来るお客様は、たった一つの商品だけを目的として来店し続けることは稀です。そのお店のイメージに合ったある範囲の商品が置いてあることを想定して来店します。

ですから、限られた店舗スペースの中である程度の品揃えをしつつ、人気の商品の品切れを防ぐことが必要となります。

この二律背反に見える問題を解決する方法は、売れ筋商品を小刻みに発注することです。そうすれば、売れ筋商品が棚に占める面積を増やすことなく、品切れを防ぐことができるからです。

このような事情を理解していれば、この流通業に納品している製造業にとっては、生産計画サイクルの短縮が必須であることがわかります。

たとえば、この製造業が月次で計画サイクルを回していれば、顧客は一月分の必要量をまとめて注文せざるをえません。ところが、計画サイクルが週次であれば、1週間分の注文で済み、店舗スペースやバックヤードに置く在庫が少なくて済むからです。

上述のように売れ筋の品切れを避けたい流通業は、このような対応をする製造業を優先して取引するはずなのです。(サプライチェーン改革の目標:「私たちはお客様をお待たせしません」が意味すること

この事例は現在ではビジネス常識の範囲内ですが、自社の外に目を向けていない経営者は数多いです。そのような経営者に自社の顧客の付加価値向上ニーズに向けたアンテナを張らせることも、コンサルタントの役割なのです。

サプライヤーのボトルネック解消に貢献する法

経営者は、顧客とは違ってサプライヤーにはあまり関心を払わない傾向がありますが、サプライヤーの付加価値向上策に貢献すると見返りが得られることが結構あります。

たとえば、設計がサプライヤーの生産技術をよく知らずに、作りにくい部品を発注していることがよくあります。このような場合、サプライヤーの部品製造の歩留まりが悪く、品質が悪いままで出荷されたり(Q)、納品に時間がかかったり(D)、コスト高になったりして(C)、QCDのすべてが悪くなり発注側に跳ね返ってきます。

作りにくい部品仕様がサプライヤーのボトルネックを引き起こしているのです。

このような場合に、サプライヤーの事情を考慮して作りやすいように、機能を損ねることなく部品仕様を設計変更すれば、お互いの利益が大きくなります。

また、生産に関しては、発注者側の事情が分からないことがサプライヤー側のボトルネックを引き起こすことがあります。

新規に生産を開始した製品がどれくらい売れる見込みなのかが分からなければ、部品の製造ラインに思い切って投資することができず、売れ始めた時に生産能力不足を引き起こす可能性があります。

また、複数部品で生産ラインを共有している時は、部品の優先順位が分からなければ、発注側の意図からずれたスケジュ—リングで、納入遅延を引き起こす可能性もあります。

これらは、情報不足が引き起こしたボトルネックです。

このような場合に、サプライヤーに自社の生産計画情報を開示すれば、サプライヤーはそれに合わせてラインを準備をしたりスケジュールを調整したりできるので、納期順守率が向上し、コストも削減できたりします。

このようにサプライヤーの付加価値生産に貢献すれば、自社の付加価値も向上するのです。(業務改革のコツは問題の発生を抑える「先行対処」(調達改革の事例をもとに)

ボトルネック解消に必要なのは業界構造の知識

以上の議論は、かなり複雑なことを要求しているように思えますが、実は個別の企業の事情には立ち入っていないことに気づく必要があります。そこで述べたことは、それぞれの企業が属する業界の構造に依存する事柄なのです。

つまり、それぞれの業界では常識の範囲内なのです。ただ、その常識が実現できていない企業が数多く、そのような企業がコンサルタントに助けを求めてくるのです。

ですから、コンサルタントとして準備すべきことは、付加価値生産の意味の理解と、それぞれの業界のボトルネック構造に対する知識を深めることなのです。

何を学んだか?

  • 経営の根幹は、顧客に付加価値を認めてもらって、自社の商品・サービスにできるだけ多くのお金を払ってもらうことである
  • できるだけ多くのお金を払ってもらうためには、売れる商品・サービスの提供に自社資源を効率的に振り向ける必要があり、効率化を妨げるボトルネックを解消する必要がある
  • このボトルネッックは業界の構造に依存するところが大きい。したがって、業界知識を仕入れれば、クライアントにボトルネック検出のガイドができる
  • 経営者は自社に注力しすぎる傾向があるので、自社が属するバリューチェーン全体に視野を広げ、それら全体のボトルネックに注意を払うよう、クライアントをガイドすべきである