変革点⑤ 市場価値: スキル → ポジション、信頼


Last Updated on 2021年8月21日 by 時代遅れコンサルタント

前回までで、市場で仕事を求めるためには、安心社会から信頼社会への乗り換えの決心をしておく必要があることを述べました。

この決心ができて市場で新たな仕事に就く機会を求めようとするなら、まず市場が何を求めているかを理解することから始めるべきですよね?でも、またしても多くの人がこの簡単な原則を守れず躓きます。マーケットを見ずに、自分が得意なことを売ろうとするプロダクトアウトをやるのです。長年コンサルタント向けのゼミで教えていますが、この発想を転換するのはすごく難しい、というのが実感です。

市場が何を求めているかについて、個人的な意見を言っても信用されにくいので、ここでも本の引用をします。引用するのは、学者ではなく一般人の言葉でわかり易く書かれているという点で、またもや、ちきりんの「マーケット感覚を身につけよう」です。この本から目についたところを抜き出すと、以下のようになります。

まず、市場を理解するためには、市場は次の7つの要素から構成されていることを理解する必要があると説いています。

市場の構造を理解するための要素

  • 取引される価値
  • 買い手=需要者(価値を入手する人)
  • 売り手=供給者(価値を提供する人)
  • 取引条件(価格など)

市場の動きを理解し、予測。利用するための要素

  • 買い手と売り手が取引する動機
  • それぞれの要素に起こり得る今後の変化
  • 市場の中で選ばれる方法

 

①〜④の言葉の意味は大体理解できると思いますので、詳細な説明は省きます。とは言っても、①の価値の意味は誤解されがちなので、本の中で説明していることを少しだけ付け加えます。

まず価値とは何かについてですが、最初の手がかりを与えるのは、経済学の初歩で学ぶ需要供給曲線でしょう。需要が多く供給の少ないモノについては価格が上がり逆の時は下がる、というものです。例えば、お米が不作になって供給が減っても、人々は一定量のお米を消費するので、価格が上がります。ここまでは大学を出た人なら、大抵知っていますよね?

しかし、この理論が使えるのはここまでです。たとえば、スイカはどうでしょう?スイカが不作であまりに価格が高くなると、人々は食べるのをやめてしまうので、価格はそこまで高くなりません。スイカの価格の決まり方は、需要と供給のバランスだけでは、説明できないのです。ここに、市場で取引される価値とは本質的に何かを理解する必要があるのです。

お米とスイカの価格の決まり方の違いを説明できて初めて市場価値を理解できていることになるのですが。お米やスイカと言うモノのレベルではこの差は説明できません。お米は「食卓に不可欠な主食」だから、価格が上がっても無理をしてでも買うのです。これがお米の持つ「価値」なのです。スイカが持っている「価値」は「おやつとして楽しめる嗜好品」なので、あまり高い値段はつけられないのです。

同じことが自動車にも当てはまります。軽自動車を買う人と高級車を買う人では、求めている価値が全く異なります。前者は「歩くには遠すぎる距離を楽に移動できる」価値を求めているのに対し、後者は「自分が金持ちに見える」価値を買っているわけです。

市場で仕事をする機会を求めようとするならば、このような提供されるモノそのものと、それを買う人が認める価値を区別できる必要があります。背後の価値に敏感にならなければ、市場で成功はできないのです。

市場には、このような価値の見極めという本質的な難しさに加えて、近年あらゆるものが市場化してきているという複雑さの問題もあります。

その昔は、指定校制度などで、学校の先生の紹介で就職していたのが、マッチングアプリで就職先を探すようになったのがその例ですし、婚活なども市場化されてきています。あらゆるものが市場化され、さらにネットかで膨大な情報が行き交っている中では、滅多なことでは顧客の目に止まりません。

その市場の中で仕事を探すには、⑤,⑥、⑦に関する市場の基本原則を理解しておくことが、ますます重要になってきています。その中でシニアが肝に銘じておくべき原則を、2つ紹介しておきましょう。

一つ目は、なんと言っても市場では価格は需給で決まるが、その需給バランスは社会変化を反映して変わる、ということです

最近、キャビアやトリュフの価格が高騰しています。キャビアはお米のように生きていくのに不可欠な価値を持っているわけではありません。今日給料がその高騰を説明できるほど増えているわけでもありません。それなのに価格が高騰するのは、「高級グルメ市場」がグローバルに統合された結果、それを欲しがる人が増えたからです。日本人も、フランスの高級食材をよく知るようになり食べたがる人が増えていますし、経済発展著しい新興国の金持ちも買い手として続々と登場してきているからです。

一方で、それと逆の現象も発生しています。博士号取得者や弁護士の就職難です。需要量には変化がない(博士の場合は少子高齢化で大学での需要が減っている)のに対し、大学院学生の定員増や試験制度変更で供給量が増えたからです。(コロナ騒ぎで問題ですが、その反対に医者は医師会が反対して供給を絞っているので、高給を維持しています。)

このことから学ぶべきことは、ある程度の収入のある仕事を探そうと思ったら、自分自身の価値が「希少」であるべきだということです。さらに、希少性は時間変化するので、最初の就職の時に身につけたスキルをいくら伸ばしても、それが現在でも市場で求められているかは別物だと気づいておくべきなのです。昔の花形でいくら腕に自信があっても、原子力技術者では現在就職口を見つけるのは大変だということです。

もう一つ考えるべきことは、どんどん新しい価値が生まれ市場化され、世の中がさらに複雑になっているということです。

新しい価値の代表選手はジャパネットたかたでしょう。ジャパネットは、シニアにそれぞれの商品カテゴリごとに少数選んだ商品を、使い方やそのメリットを丁寧に説明して売っています。顧客は、自分の商品選択力に自信がないので、ジャパネットの目利き力を「信頼」して購買の意思決定を任せているのです。顧客にとってのジャパネットの価値は目利き力への「信頼」なのです。

昔の市場でも信頼は重要でした。信頼は、多数のプレイヤーの中から誰と取引をするかを決める手間を削減してくれるからです。そのために企業は商品や自社のブランド・イメージを高めるために、多大な投資をしてきました。しかし現在は、その信頼の対象が商品というモノからモノを目利きする「人や組織」に変わってきているのです。そもそも大きなブランド投資などできない個人が市場で仕事を確保しようとすると、市場での「信頼」確保をどうするかは大きな問題となるのです。

市場化が進むということは、便利になると同時に競合相手も増えるということです。その時に顧客から選ばれるためには、希少であると同時に顧客から、スキルを売る以前に自分自身が「信頼」されないといけないのです。

以上の議論からの結論は、これからシニアが市場で仕事を探そうとするのなら、自分が培ってきたスキルを商品として売る以前に、売り物が希少であること(市場でどういうポジションをとるか)と売り物を説明する自分自身が信頼されこと、の2つを考えておくことが必須だと認識する必要があるのです。

次回からは、これらの希少性と信頼をどう構築していくか、その方法について検討していくことにします。