失敗を前提とした意思決定法:フレームを変える+備える+学ぶ


なぜ同じような失敗が繰り返されるのか?

私たちの身の回りでは、同じような意思決定上の失敗が繰り返されます。新聞を賑わす医療事故がその典型的な例です。最近では、耐震設備や自動車の品質検査の不正などが目につきます。

別のところで不正が摘発されているにも関わらず、全く同じ構図の不正が起こっています。他所の事例を見ているにも関わらず、自分の意思決定を修正できないのです。

これらの事例を他山の石として自分の意思決定精度を向上させるためには、失敗の原因を個人の資質に帰するのではなく、そこには何か構造上の理由があるのではないかと考える目つきが必要です。

たとえば、現在進行中のオリンピックの建設工事にも見られる通り、建設プロジェクトの費用が当初過小に見積もられるということが繰り返されています。そしてこの原因が、当事者が自分の失敗を認めないことにあることが知られているのです。

ランド研究所が発表したエネルギー・プラントの新規建設コストの過小評価についての報告書によれば、10件のプロジェクトの平均のコスト超過率は153%だったそうです。そして、各プロジェクトの責任者は、その責任を天候不良から労働者のストライキ、建設仕様の変更にいたるまで、すべてを自分のコントロール外の要因に負わせていました。

しかし、ランド研究所が分析したところ、これらの過小コストの74%は、予想できたり、避けられたりする要因によるものだったということです。実際に責任者のコントロール外の要因が絡んでいたのは、たったの26%に過ぎなかったのです。(勝てる意思決定の技術

このように、人間は失敗の原因を他責にし、自己正当化する傾向が非常に強いのです。これでは失敗から学べず、同じ誤りを繰り返すことは避けられません。

失敗を繰り返すもう一つの要因は、組織文化に関わるものです。

冒頭で述べたように、同じような医療事故が繰り返されています。一方、航空機による事故は、これだけ多数の航空機が毎日飛んでいることを考えれば、極めて小さな数字にとどまっています。

この差は、両者の組織文化の違いによるところが大きいのです。

航空機事故が起こると、ボイスレコーダーの分析などを含めた徹底的な調査が行われます。そして、合理的な再発防止策が取られます。

一方、医療事故はしばしば隠蔽され、内部告発などで初めて明るみに出たりします。奥歯に挟まったような謝罪会見が行われても、その後の改善は明らかでないことも多いようです。

違いは、失敗の扱いにあります。航空機事故では事故原因はシステムにあるとし、その究明が最優先事項とされます。事故を起こした個人はしばしばシステムの犠牲者と見なされ、その場合の責任追及は避けられます。

医療の世界では外科医は最高権力者で、誤りを犯すはずのない存在だと暗黙のうちに想定されています。このような世界では、医療事故は外科医の評価に関わるものとなり、そこに隠蔽の動機が生まれます。

素直に自らの誤りを認めにくく、周囲も過ちを明らかにすることを避ける世界では、失敗から学ぶことは難しいです。その結果、同じような過ちが繰り返されることとなるのです。

意思決定の質を向上させようとするなら、失敗を率直に明らかにし、そこから学ぶ工夫が必要です。すなわち、失敗の存在を前提とした意思決定の仕組みの構築が必要なのです。

では、そのために何が必要なのでしょうか?必要なのは、次の3つです。

  • 自分を学習者としてリフレーミングする
  • 失敗に備える術を身につける
  • 失敗から学ぶ文化とプロセスを確立する

以下、それぞれについて検討していきましょう。

実行者フレームから学習者フレームへ

フレーム設定:正しい意思決定をするために最初に気をつけるべきことでも述べたように、人間は特定のフレームのもとで意思決定をしたり行動したりしています。ここでフレームとは、意思決定や行動の前提として当然であるとされているものの見方・考え方(思い込みや信念)のことです。

同じ失敗を繰り返すことに関して気づくべきは、私たちは職場では無意識に「実行者」というフレームに従って行動しているということです。

多くの職場では、従業員を上司から命じられた仕事を効率的かつ効果的に実行し成果をもたらす「実行者」と位置付けています。このような役割のもとでは、従業員は「結果」で評価されます。

そのため、自分の取り組みが失敗すると失格者と見なされるという恐れが生じます。この結果、リスクを回避しがちになり、困難に立ち向かおうとはしなくなります。さらに、失敗しても自分の責任を認めず、他責にしがちにもなります。

やり方が確立したルーチン・ワークのような場合は、実行者フレームが比較的うまく機能します。しかし、事業環境が急速に変化し、顧客の要求が多様化・高度化していく現代では、意思決定での失敗は避けられません。失敗からうまく学ぶことそのものが競争優位性を左右します。

このような時に実行フレームの存在に気づかずにいると、保守的な行動を改めることができません。積極的に失敗しそこから学ぶためには、「実行者フレーム」を「学習者フレーム」に転換させる必要があるのです。(チームが機能するとはどういうことか

「学習者フレーム」は、リスクや不確実性が高いプロジェクトを管理することに有用です。ここで、プロジェクトとは特別に編成されたものを指す必要はなく、日常的な業務を指すのでも構いません。

不確実性を含むプロジェクトが最もうまくいくのは、メンバーが変化に抵抗感をもたず、最適なものを熱心に見つけようとし、他のメンバーが違う視点を持っているかもしれないことを認め合う場合です。

メンバーをこのように動機づけるためには、次のような手順で学習者フレームを構築することが必要です。

  • 登録:プロジェクトのために特別に選ばれていることをメンバーに伝え、困難な変化に立ち向かうことを動機づける
  • 準備:プロジェクトを成功させるために必要な新しい技法を学び、忌憚なく意見を言い合えるチーム作りをする
  • 試行:プロジェクトの実行は一連の実験からなると位置づけ、新しいやり方を少しずつ試行する
  • 省察:思考が終わる度に、観察結果をもとに改善できそうなところを探る

このような試行・省察のサイクルを繰り返すことで、学習を進めていくのです。

学習者フレームを確立するためには、リーダーの役割が重要です。詳しくは当ブログのリーダーシップの項を見ていただきたいですが、リーダーがメーバーを動機づけ、効果的なチーミンングを促進するスキルを身につける必要があります。

さらに、変化に携わっている人なら誰もが、個人レベルで学習フレームにリフレーミングできる必要があります。そうなって初めて、意思決定の失敗から学ぶことができるからです。

個人がリフレーミングするためには、次の4つの戦術が有効であることが知られています。(チームが機能するとはどういうことか

  • このプロジェクトはこれまでに関わったどんなプロジェクトとも違っていて、新たなアプローチを試し、そこから学習する胸の踊るような機会に満ちている、と自分に言い聞かせる
  • 自分は、プロジェクトの成功に不可欠だけれども、ほかのメンバーが意欲的に参加しなければ成功を収めることはできない、と考える
  • ほかのメンバーはプロジェクトの成功に欠かせない存在で、自分位は予想もつかない重要な知識を提供したり提案したりするかもしれない、と自分に言い聞かせる
  • 以上の3つの要素が本当だったら他人にどのように話すだろう、それと全く同じように、実際にほかの人に話す

こうしたリフレーミングのステップを意識的に練習すれば、見かけ以上に大きな効果を発揮します。こうしたステップを踏むことによって潜在する認知が変化し、望ましい行動を引き起こすのです。

不確実性に目を向け、失敗に備える

学習フレームを身につけたら、失敗を恐れず不確実なプロジェクトに果敢に取り組むようになります。しかし、それだけで成功を夢見るのは無謀というものです。あらかじめ、失敗に備えて手を打っておく知恵も必要です。

不確実性への対処のために、次の2つの段階を踏む必要があります。

  • 情報の不確実性を必要度に応じて減らす
  • 決定事項の実行中の不確実性を管理する

情報の不確実性を減らす

情報の不確実性を減らすには、必要度に応じて次の段階を踏んでいくのが良いでしょう。

  1. 未来を幅で考える

人間は、未来についてこうなるだろうという一点集中型の予測をしがちです。たとえば、会社の来年度の販売数量19万個などのように予測し、それを元にした意思決定をします。

しかし、そのような単純な予測をもとにした決定は多くのリスクを伴います。リスクの程度によっては、それを減らすために幅を持った予測を使うことも必要となります。

「販売量は80%の確信度で18万個から20万個の間におさまる」などのようにするのです。こうすれば、より確度の高い投資が可能になります。

  1. 上限と下限を個別に考える

ただ、この幅を持った予測にも正確性の問題があります。その精度が問題になる時は、次の手段として範囲の上限と下限を別々に予測するという手があります。

こうすると精度が上がることが、心理学的に明らかになっているのです。そのそれぞれに、自分の持っている知識を総動員して真剣に考えるようになるからです。

  1. 肯否の論証

未来に起こることの予測精度を上げるためには、その事柄が起こるとしたら何故か、その理由を挙げることも有効です。そして、次に反対に起こらない理由を列挙するのです。

このように肯定と否定のバランスのとれた論証を試みることにより、視野が広がります。自分が見逃していたものに嫌でも気付かざるを得なくなり、予測の精度が上がる、すなわち不確実性が減っていくのです。

  1. 先見的後知恵

さらに予測の精度を上げる方法として、先見的後知恵(未来の一点から過去を振り返る)という方法も有効です。

「未来のAという時点でBという出来事が起こるとしたら、その確率はいくらか?その出来事が起こる理由を書き出してほしい」と聞くよりも、「Aという時点でBが起こった。その理由を一つ残らず書き出してほしい」と言う方が、問われた相手は出来事が起こる理由をたくさん書き出すことができる、ということがわかっています。

未来から振り返ることにより、予測精度を上げることができるのです。

  1. 事前検死

この方法は、先見的後知恵をさらに進めたもので、心理学者のゲーリー・コーエンにより考案されたものです。これから始めるプロジェクトが将来死んだ(失敗した)と仮定し、その死因を追求するのです。そのようにして得られて死因を潰すことにより、プロジェクトの成功確率を高めるのです。この方法の有効性は、ノーベル経済学賞を受賞した行動心理学者のダニエル・カーネマンに強く支持されています。

決定事項の実行中の不確実性を管理する

このように情報の不確実性を減らして意思決定しても、完璧というわけにはいきません。完全な情報の元での意思決定が可能であれば、そもそも意思決定理論の必要はありません。

したがって、意思決定結果の実行中でも不確実性の管理が必要です。

その場合に有効な方法の一つが「小分け」です。プロジェクトに関わる意思決定を全て最初の段階に行うのではなく、何段階かに分け不確実性を減らしながら意思決定していくというものです。

プロジェクトの開始時には不確実性が大きいので、掛け金を少し積んで調査をする。その結果不確実性が少し下がったら、その次はもう少し掛け金を大きくし、より大胆な作業をするということを繰り返します。その逆に、成功しそうもないことがわかったら、その場で実行をやめるのです。

掛け金を最初に全部積むよりは、このような掛け金を少しずつ積むやり方の方が費用対効果が高いことが、リアルオプションの理論で証明されています。この方法は、ステージゲート法という名前で知られていて、先進的な製造業の製品開発ではこの方法がとられています。

不確実性が高い時はプロジェクトを「小分け」にするという知恵が、非常に有効なのです。

失敗から学ぶ文化とプロセスを確立する

個人がいかに失敗から学ぶ習慣をつけても、その人たちが所属する組織が自動的に失敗から学ぶようにはなりません。組織の学習には別に考慮すべき要素があるのです。

組織には文化があり、それにしたがった集団力学が働くからです。それが、組織の学習を妨げるのです。

その最大の問題が、失敗を責めることです。

人間には、基本的帰属錯誤という心理傾向があります。これは、他人の性格や能力の影響を過大評価し、環境や状況の影響を過小評価する傾向を指します。

クリティカルシンキング入門編では、このことに1章を割いて論じているほど重要な事項です。本によっては根本的帰属錯誤という言葉を使っているものもあります。)

人間は、何か失敗が起こった時、その原因が環境や状況によるものであったとしても、その失敗を引き起こした個人の責任とする傾向が強いのです。その結果、正しい意思決定行動が阻害されます。

中世の魔女狩りなど、不当とも思えるほどの犯人探しをして個人へ責任を転嫁する事例が、この傾向の証拠です。そして、魔女狩りの傾向は、組織の至る所で見られます。

役所では、若くて意欲的だった職員が関係したやむを得ない事故が、本人の責任として住民の追及を受け、その結果事なかれ主義が蔓延します。医療現場では、部門間の連携不足が原因で生じた投薬ミスを、叱責を恐れた看護師が隠蔽し根本的な改善が放置されます。

問題が単純なら、非難や叱責にも効果があるかもしれません。注意を怠ったために起こるミスなら、罰則を強化すればミスを減らすことができるでしょう。

しかし、今日のビジネスの世界では、ミスは複雑な原因から起こることが多いのです。その場合、罰則を強化しただけではミスは減りません。ミスの報告が減るだけです。

不当に非難すればするほど、ミスは深く埋もれていきます。すると失敗から学ぶ機会がなくなって、同じミスが繰り返し起こります。その結果、さらに非難が強まり、隠蔽体質が強化されます。

このような事態を避けるためには、冒頭に示した航空機業界の事故原因究明の仕組みに学ぶべきです。失敗が生じたときは、その原因を個人ではなくまずはシステムの欠陥に求めるという態度の確立が求められるのです。(失敗の科学

この時に重要なのが、リーダーの態度です。リーダーが懲罰文化に染まっているようでは、失敗から学ぶ文化の養成は望めません。リーダーは基本的帰属錯誤が意味することを深く学び、自分の行動方針を改めておく必要があるのです。

失敗から学ぶ文化の養成のためには、まず行動を変えるという方法も効果的です。この見地から参考になるのが、米国陸軍のアフター・アクション・レビュー(AAR:After Action Review)です。(アクション・ラーニング

軍では、一人一人の失敗が部隊全体の命取りとなりかねません。AARは、それを解決する手段として、1970年代にナショナル・トレーニング・センターで、戦闘シミュレーションから教訓を得るために導入されましたが、その定着には長い時間がかかりました。

本格的に活用されるようになったのは湾岸戦争で、砂漠の真ん中のタコツボ壕や戦車の周囲に少人数の兵士が集まり、最新の任務を検証し、改善の可能性を確認するようになったのです。

AARのテクニックは簡単です。戦闘が終わったら、次の4つの質問を軸に議論を展開するのです。

  • 我々がやろうとしたのは何か
  • 実際には何が起きたか
  • なぜそうなったのか
  • 次回我々がやろうとするのは何か

これらの質問について、参加メンバーが非難を避け率直に意見を交わすことで、組織学習が進むのです。行動を変えれば、背後にある人間の認知の様式も変わるのです。

まとめ

  • 意思決定で同じような失敗が繰り返されるのは、個人レベルでは人間が自己正当化して失敗を認めない傾向が強い、組織レベルでは失敗が追求されるために隠蔽が起こる、などの理由による
  • これらの問題を解決するためには、人間は失敗するものであるという前提に立って、失敗に真正面から向き合う学習の仕組みの構築が必要である
  • 最初に行うべきことは、「実行者フレーム」から「学習者フレーム」への転換である。通常の職場では、上司の指示を効率よくする「実行者フレーム」が想定されている。このフレームのままでは、不確実性の高いことにチャレンジして失敗すると自己の不利益になるので、メンバーは保守的になる。このフレームを、チャレンジを奨励する「学習者フレーム」に転換しない限り、組織的に失敗から学ぶことは望めない
  • 次のステップは、意思決定における不確実性に対処する術を身につけることである。意思決定に用いる情報の不確実性を減らすための方法を学び、実行中の不確実性を管理する方法を学ぶ必要がある。前者には先験的後知恵を用いる方法や事前検死などの方法があり、後者にはステージゲート法などがある
  • 最後に、意思決定結果の失敗から学ぶために、失敗を責めない組織文化の確立をする必要がある。この確立のためには、まず行動を変えることが効果的である。成功例として米国陸軍のAARがあるので、それに学ぶべきである