コンサルティングで「構想策定」が重要な理由を、山登りのアナロジーでクライアントに説明する


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コンサルティングの初めで問題の定義を疎かにすると、何が起こるか?

コンサルタントはクライアントの問題を解決する商売です。そのコンサルタントに向かって、「問題とは何を指すのですか?」と聞くと、「何を今更そんなわかりきったことを聞くのか?」とうるさそうに無視されるのが落ちですよね?

でも、多くのコンサルタントが本当に「問題とは何か?」を理解して行動しているかどうかは、別の話です。

たとえば、次の例をみてみましょう。これは「動かないコンピュータ」とコンサルタントの関係というタイトルで20年近く前の ITPro に載っていて、当時有名になった記事からとったものです。(年月が流れていますが、いまだに同類のことが頻発しているので、重要な事例です。)

“グローバルに事業を展開しているある製造業は,経営トップの号令により、サプライチェーン・マネジメント(SCM)のプロジェクトを開始した。SCMのノウハウがないと考えたその製造業はコンサルタントを使うことにした。コンサルティングの結果,あるSCMソフトをグローバルで導入すべし、という方針が出た。そこでその製造業は、グロー バルに展開する前提で、ソフトの導入契約を結んだ。ところが、実際にプロジェクトを進めてみると、工場や物流体制の見直しが相当にやっかいであり、国内の一事業部門がそのソフトを入れただけにとどまっている。グローバルどころか、国内における展開のメドすら立っていない。“

この例では、明らかに経営トップが望んだ問題の解決は行われていません。しかも、解決策は「あるSCMソフトの導入」と明快です。

となると、その解決策は経営トップが望んだのと別の問題を解いたことになります。すなわち、問題の定義の段階ですでに間違っていたのです。

この種の「役に立たないコンサルタント」の例は、数多く耳にしますよね?すべてのコンサルタントが「問題とは何か」を正しく把握しているとは言えなさそうです。

さて、あなたは、この問題定義がなぜ間違っていたかを説明できるでしょうか?もしできなければ、上のコンサルタントと同じ間違いをする可能性が大です。

説明ができないとすると、その原因は「問題の定義」を把握できていないことにあると考えられます。定義がわからないので、それに照らしてどこがどう間違っているかを指摘できないのです。

これが「問題の定義とは?」とうるさく問う理由です。

初期段階での大きな食い違いをなくすための「構想策定」(粗々の問題解決)の重要性

(以下の説明は、「構想策定」という文脈に沿って行いますが、内容は問題解決一般に当てはまることですので、そのつもりでお読みください。)

原点に戻って考えてみましょう。

このブログでも何度も述べていますが、「問題とはありたい姿と現状のギャップのこと」です。ありたい姿と現状が一致していれば満足していて問題は存在しないはずだからです。

この定義に従って考えると、「工場や物流体制の見直しが相当にやっかいであり」と書かれている部分が引っかかります。明らかに現状分析が不十分で「見直し」に関わる現状分析が存在しません、その結果、その部分に対応する解決策が存在しません。

「あるべき姿」と「現状」との「ギャップ」を明確にすることを徹底せず、不十分なギャップ記述から解決策を導き出しているのです。人間は「手段から」入り、問題解決の手順を踏むことを怠る傾向が強いのです。(詳しくは、前々回のブログ記事「手段から入るな!」という教訓を生かすにはを参照ください。)

この失敗を避けるためには、新しいコンサルティング・プロジェクトの最初では、このプロジェクトで取り扱うべき問題は何か、その問題を解決するために何をしていくべきか(解決策は何か)を検討する必要があります。「構想策定」というフェーズを設け、次の問題解決の手順を愚直に踏んだ「粗々の」問題解決をすることが重要なのです。

  1. あるべき姿の設定
  2. 現状分析
  3. あるべき姿と現場のギャップの原因の解明と解決策の導出

もちろん、この最初の段階で導出した解決策は粗々のものでさらなる詳細化が必要です。しかし、最初の段階で、大きな方向性は間違っていないことを、クライアントと確認しておかないと、上記のような失敗が起こることになります。

クライアントからお金をもらっているプロとしては、クライアントに無駄なお金を使わせたくはありません。ですから、構想策定で問題解決の方向性が間違っていないことを確認することは重要です。

しかし、それだけでは物事は片付きません。クライアントの多くは、構想策定に時間をかけることに賛成しません。この方向性の確認は、わかり切ったことへの二重投資のように見えるからです。

ですから、コンサルタントは、粗々の「問題の解決の道筋」をきちんと把握することで、上述のような大きな失敗を避けられるという投資対効果を、自分自身がきちんと理解できている必要があります。その上で、その効果をクライアントにうまく説明する方法を身につける必要があります。

以下では、その投資対効果をコンサルティングの時間経過を追いながら説明していきます。さらに、その投資対効果の説明を納得しやすくするためには、山登りの例えが有効であることも解説します。

ここで、問題解決と山登りは次のように対応します。頂上が「あるべき姿」で、麓のどこかの今いる場所が「現状」と考えればよいのです。

なぜ、わざわざあるべき姿の設定が必要か?

構想策定の最初のステップは、あるべき姿の設定と合意です。

このステップでよくある議論が、「問題は明白なのに、なぜあるべき姿の議論に無駄な時間を費やすのか?」というものです。とくに、この反論は自分たちの問題を抱えている現場の担当者から出がちです。

この人たちの発想は、目の前にある困りごとを解決すればそれで良い、それを続けていけば会社はよくなる、という「現場改善」です。

確かに現場改善で会社は良くなるでしょう。しかし、このやり方では最終的にどこに行き着くかはわかりません。八王子にいて、目の前の障害を取り除きながら一歩一歩進んでいったら、いつの間にか高尾山の頂上にいた、というようなことが起こります。

このようなやり方での解決策を上層部のプロジェクト・スポンサーに報告すると、「そんなことは頼んでいない!」と一喝されるという憂き目に会います。

一般に、外部のコンサルタントを雇う費用をかけたプロジェクトが実施されるのは、通常の改善活動では解決できないような大きな問題が生じたときです。どこまで大きな問題を扱うのか、そして何を達成しようかを合意する必要があります。そのために、あるべき姿を設定するのです。

もし、あるべき姿が「富士山の頂上」であったなら、先ほどの高尾山へのルートを進む愚は避けなければなりません。また、仮にあるべき姿がエベレストの頂上であったなら、ルートが変わることに加えて、装備や体制も変えなければなりません。

コンサルタントがまずやるべきことは、どこまで登るのか、そこまで登ることに費用や手間をかける大義はあるのかをスポンサーと確認することです。その上で、積極的には富士山やエベレストにまでは登りたくない現場に、大義に照らしてそこまで登る必要があることを納得させ、コミットさせるのです。

そのための儀式として、「構想策定」が必要なのです。

その「構想策定」を実施する前提として、コンサルタント自身が、問題解決にあたってはあるべき姿次第でとるべき解決策(進むべき道や装備)が変わること、そのためにあるべき姿の設定と合意を最初にする必要があるということ、をしっかりと認識しておくことが不可欠です。

現状分析はなぜ、そしてどこまで行うべきか

構想策定フェーズの次のステップは、これまた「粗々」の現状分析を行い、あるべき姿とのギャップを確定することです。

これがなぜ必要か、そしてどの程度深くやる必要があるかを説明できるでしょうか?

よく、「コンサルタントが分厚い報告書を書いて去って行ったが、その報告書は何の役にも立たない」という声を聞きます。文句が出る原因は、最初の例に示されるような現状分析の不足です。

これを、富士山に登る計画を立てている例で考えてみましょう。装備や体力訓練に問題がないとすれば、ここでの解決策は登山ルートです。

この登山ルートは、頂上付近ではだいたい似てきますが、麓では大きく違います。静岡県側にいるか山梨県側にいるかで変わってきます。つまり、解決策は現状が何であるかで変わってくるのです。

さらに、コンサルティングを頼むクライアントは、麓の一合目にいます。もし、五合目まで登れているのなら、少し違う問題の頼み方をするでしょう。このことに気付けるかどうかが、ベテランのコンサルタントと初心者の分かれ目です。

クライアントが困っているのは、麓にいる自分の目の前に大きな岩が転がっており、頂上へのルートが塞がれていて「一歩も」動けないからです。そして、どんな岩が邪魔をしているかは、クライアントがどこにいるか(クライアントの現状)で大きく変わります。

「コンサルタントの役に立たない報告書」は、現状分析をやらなくてもわかる頂上付近のルートだけが書いてあります。そのため、登り始めには使えず、結局登山そのものを断念せざるを得なくなります。だから「役に立たない」のです。

さらに、クライアントの現場での現状認識が一致していることは稀です。各自が自分の職責上の都合からどの岩を取り除くべきかを言い争っているのが通常です。

この問題を解決するためにも、現状の全体図を描いて、自分たちが一体麓のどこにいるのか、どのルートを登るべきなのかの合意形成が必要なのです。

構想策定フェーズでの現状分析は、頂上に向かってどのルートを登るべきなのかを全員が正しく認識できるところまで行う必要があるのです。

解決策の導出で注意すべきことは

最後は、解決策の導出です。これを何のためにどこまでやるかは、登る人(解決策を実行する人)の身になって考えれば見当がつきます。

麓ではまだまだ元気で鼻歌交じりで歩いていますが、頂上付近では喘ぎながら登りますよね。それと同じように、企業変革の解決策も麓ではちょっとしたエラーを取り除く程度のものが多く、頂上付近では高度で難しいものになる傾向があります。

解決策のこのような性質を心得た上で、このフェーズでは解決策の導出と選択の2つを分けて考慮す流必要があります。

まず解決策の導出にあたっては、解決策の実行の難易度を議論から排除することが重要です。解決策を議論している時にその実行が難しいとして検討がストップしてしまうケースが多々あるからです。

これらのケースをよく調べてみると、難しい解決策の多くは頂上付近を登るためのものであることが多いことがわかります。だとすると、それ以外のものを片付けたら六合目から七合目あたりまでは登れることになります。別にそれ以上登れなかったとしても、麓にいる状態から比べて企業の状態はかなり良くなっているはずです。

頂上付近の解決策が実行できなくても構わないという立場に立てば、全体の議論をストップさせるのは非生産的です。でも、このことに気づかずプロジェクトが頓挫することが多いのです。なぜでしょうか?

それは、大企業の改革プロジェクトのメンバーは小中学校で優秀だった人が多いからです。この人たちは無意識に100点を取りにかかり、それができないと解決は難しいと言い始めるのです。

しかし、この人たちが気づくべきことがあります。それは自分たちの企業の業績は、自分たちの学校時代の成績とは違うということです。80点ではなく20-30点なのです。だから、ちょっと改革しただけでも業績はかなり良くなるのです。

こういうケースに対処するために、「100点を取ろうとするな」という格言を肝に命じておきましょう。

次に一つ考慮すべきは、解決策の選択です。問題解決に使える費用や労力には限りがあるので、投資対効果を考える必要があります。

つまり、大体の解決策を洗い出した時点で、自分たちの力量で目指す頂上に向けてどこまで登れるかを、現実的に評価する必要があります。全く登れそうもないなら、この時点で諦めたほうが賢明です。

ここでやるべきことは、洗い出された複数の解決策を効果の大小と実現容易性の大小の2軸で並べ優先順位をつけることです。そして、投資できるリソースの範囲内で、効果が大きく実現容易なものから順に選んで行きます。

選ばれた投資可能な優先度の高い解決策の集合でどの高さまで山を登れるかを評価し、その高さに満足であれば、それ以降のプロジェクトの実行を許可します。高さに不満であれば投資対効果が低いことになり、プロジェクトを断念すべきです。

プロジェクトを進行させる場合は、選ばれた解決策を実行する障害をどう取り除くかという問題設定に切り替えて、問題解決を進めていくことになる訳です。

以上に述べたように、クライアントの目には一見無駄に見える構想策定フェーズを踏む事により、かえってプロジェクトの投資対効果が向上するのです。このことを、コンサルタントは心得ておき、クライアントを適切にガイドすべきなのです。

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まとめ

  • 問題解決の失敗のかなりの部分が、対象ドメインの知識の不足ではなく、問題の定義そのものの失敗から起こっている。それ故「問題の定義とは?」とうるさく問い続けることが重要である
  • 問題の定義の失敗を避けるために、新しいコンサルティング・プロジェクトの最初では、このプロジェクトで取り扱うべき問題は何か、その問題を解決するために何をしていくべきか(解決策は何か)を検討する「構想策定」というフェーズを設け、「粗々の」問題解決をすることが重要である
  • しかし、構想策定はクライアントには二重投資と映り、その投資対効果が認識されにくい。これを解決するために、コンサルタントは山登りのアナロジーを用いた以下の投資対効果の説明法を心得ておくき、構想策定でかえって投資対効果が上がることを納得させられるよう準備しておくべきである
  • わざわざ「あるべき姿の設定」に時間をかけるのは、間違った問題を解き誤って無駄な解決策を採ることをという愚を避け、解決策にどれくらいの労力をかける覚悟があるのか(富士山に登るなら、高尾山に行く道は避ける。富士山とエベレストでは必要な装備が異なる、など)を合意するためである
  • 現状が異なれば、採るべき解決策も異なる。(麓のどこにいるかで富士山頂上への登り方は異なる。)現場の認識が一致し正しい解決策が選べるところまで、「現状分析」は徹底すべきである
  • 解決策の導出では、実現の難易度は議論の外に置く。(頂上付近の登り方が難しいからといって全ての解決策を諦める100点取り症候群に注意する)
  • 導出された解決策を効果および実現容易性で優先順位をつけ、投資できる範囲内の解決策の集合で満足できる効果(登れる山の高さ)を評価し、プロジェクトを進めるかどうかを決定する