意思決定がプロセスに従って実行されるべき理由


意思決定とは何か?なぜ難しいのか?

経営には意思決定がつきものですよね?でも、改めて「意思決定とは何か?」と聞かれたら、即答できるでしょうか?

この言葉の意味はあまりにも当たり前すぎると捉えられているのか、意思決定理論の本を読んでも、すぐには定義が見つかりません。そこでしつこく調べてみると、次のような説明が見つかりました。

“意思決定論とは字の通り、「物事を決める」、言い換えれば「物事を選ぶ」ことを扱う領域である”(心理学が描くリスクの世界 行動意思決定入門第3版

この本のように明確には書いてありませんが、意思決定理論入門でも、何が「より良い選択」であるかを論じることを目的とすると述べられています。

つまり、意思決定とは、

  • 何か達成したい目的があり
  • その目的の達成方法が自明でなく、候補が複数あるときに
  • 決定者にとってより良いと考えられる方法を選択する

ことを指す、と解釈すれば良いようです。

ここで、「最善」の選択ではなく「より良い」選択とあるのは、決定に際し意思決定者が持つ知識・情報などが完全ではなく、決定に利用できる時間も限られている、という事情を前提としているからです。

この意思決定に関し、そのやり方を論じた意思決定論の本が多数あります。その背景には、意思決定が簡単ではなく、やり方を間違えると悲劇的な結果を生むことが多々あることがあります。

たとえば、意思決定の失敗として取り上げられる有名な事例に、次のようなものがあります。(決断の本質

  • 亡命キューバ人のビッグス湾侵攻:成功確率が極めて低いという情報があったにも関わらず、ケネディ大統領は侵攻を支援するという決断をした。その結果、侵攻部隊のほとんど全員が、フィデル・カストロの軍隊により殺害されるか、捕虜になった
  • スペース・シャトル・コロンビア号::打ち上げの際に断熱材が機体に当たるという事件が起きて危険が予想されたにもかかわらず、NASAは何も是正措置を取らなかったため、大気圏に突入する際に空中分解した

いずれも危険な兆候があるのにそれを無視して、自分の都合の良い解釈に基づいて意思決定した例で、これほど目立たなくても類似の失敗例は枚挙に暇ありません。

このような意思決定上の失敗例を見てみると、誤りが起こる原因は次の2つにあることがわかります。

  1. ビジネスがどんどん複雑化し、意思決定そのものが難しくなっている
  2. 人間はそもそも間違いを犯しやすい心理的傾向があるにもかかわらず、そのようなことに注意を払わず(自分の能力を過信して)意思決定を行う

この2つについて、もう少し詳しく検討してみましょう。(後のブログ記事では心理的傾向の方をより詳しく論じますので、ここでは複雑性の方にページを割きます。)

意思決定対象の複雑性の取り扱い方

皆さんもご承知のように、ビジネスの世界はどんどん複雑化しています。その結意思決定が難しくなっていることも、直感的に理解できるでしょう。

たとえば、次のような具合です。(「勝てる意思決定の技術」)

  • 情報が多すぎる:手元に情報は山のようにあるが、それらの多くは相反するものであり、信頼性も不確かである
  • 目が回るほど変化が速い:刻々変化する目標に対して、理にかなった意思決定を行わなければならない。今日の正解は、明日には当てはまらなくなっているかもしれない
  • 不確実性が増している:予測→立案→実行の時代は終わった。不連続性こそが基準なのである
  • 相反する目標:短期の結果を出さなければならない一方で長期の結果を出すための「実験」や「学習」も怠るわけにはいかない。だが、もちろん長期とは短期の積み重ねである
  • などなど。。。

でも、具体的にどのように複雑になっているのでしょうか?それを踏まえて、意思決定のやり方をどう変えれば、より質の高い意思決定ができるのでしょうか?

この質問に答えるには、何がどう複雑になっているかを具体的に理解する必要があります。

対象の複雑性が理解できずに意思決定に失敗した例として、ピープル・エクスプレス・エアラインの破綻を取り上げて見ましょう。(「最強組織の法則」、この本の改訂版の「学習する組織」ではこの事例の説明が短くなっているので、ここでは旧版を用います。)

ピープル・エキスプレスは、1980年に設立された格安航空会社です。社員を尊重する理念を掲げ、1982年にはニューヨークの空港からの離陸数では最大の会社となるほど急成長し多くの賞賛を集めまましたが、1986年に大幅赤字を出してテキサス・エアに買収されました。

この失敗に対しては、次のように相反する原因説明が行われてきています。

  • 高邁な理想や民主的な職場は利潤追求とは相容れない。「ビジネスはビジネス」だ
  • 経営陣が戦略的指導力を継続的に発揮できなかったことが破綻の原因である、とくに、1985年にデンバーを本拠地とする価値観や事業戦略の異なるフロンティア・エアラインを買収したことは重大な戦略的失敗である
  • 低価格エアラインの対抗策として、1984年にアメリカン航空が座席予約管理システム「セイバー」を導入し、限られた座席を大幅値下げ価格で提供できるようにしたため、競争激化したことが破綻の原因である
  • など

このように原因究明が難解で意見が分かれるのは、航空会社の経営が次のような複雑なパラメータを扱うものであるためです。

  • 航空機:台数、積載力、航路、競合他社の航路と定期便数、一機あたりのサービス時間、燃費
  • 財務変数:収益、利益、航行経費、サービス運営経費、人件費、等
  • 人的資源:サービス職員、乗務員、整備員、雇用、訓練、勤労意欲、等
  • 方針の影響力:「航空機購入、人材雇用、価格設定、マーケティング支出、サービス範囲」などに関する経営陣の決定内容
  • 競争要因:市場規模、市場セグメント、評判、サービスの質、運賃、等
  • などなど

このような重要要因を羅列すると、経営の細部のおびただしい複雑さが浮かび上がってきます。これらの要因が相互に動態的に影響し合うため、さらに複雑さが増します。こういった細部の「木々」の中で道に迷い「森」を見失うことがいかに簡単に起こり得るかが、理解できるでしょう。

このような事態を避け効果的な意思決定ができるようになるためには、「森」をみる技法の習得が必要です。経営の成否に働く様々な力と、その背後の構造を特定する必要があります。この目的のためのツールとして有効なのが「学習する組織」や「人はなぜ失敗するのか」で説明されている「システム思考」です。

システム的に見ると、実はピープル・エキスプレスには次のようなことが起こっていました。

  1. 大幅な割引運賃と親切で無駄のないサービスで、多くの新規顧客を引きつけた
  2. 評判と低価格がもたらした需要は、82年中頃までには同社のサービス提供能力を上回り始めた
  3. 需要に対応するため、同社は航空機と従業員を増強した。ただし、従業員の補充と教育は遅れがちであった
  4. 従業員持株制度などで豊かになった従業員は、過剰労働ではあったが83年ごろまでは売上も利益も伸びた
  5. 84年には売上は伸びたが、利益はそれに比例する伸びは示さなかった。一方、顧客はサービス上の問題に不満を示すようになってきていた。チケット発行や予約は遅れを増し、フライトのキャンセルやオーバーブッキングが増えた。客室乗務員も以前ほど親切でも有能でもなくなった
  6. 84年から85年にかけて少しずつ顧客が離れ、価格に敏感な顧客だけが残るようになった。社員の勤労意欲とサービスはますます低下し、ついには、残る顧客も他の航空会社を利用するようになった

これを図示すると図のようになり、これを見るとピープル・エキスプレスの破綻原因がよくわかります。

すなわち、ピープル・エキスプレスは好調な業績を背景に航空機と人員の増強を行いましたが、サービス人員の能力向上には時間遅れがあることを十分に認識できていなかったのです。さらに、サービスの質の低下が会社の評判を損なうところにも時間遅れがあり、サービス能力不足が深刻な事態を招くことをいち早く認識できなかったのです。

この構造を認識できていれば、ピープル・エキスプレスは急激な拡大に伴う罠を避けることができたはずです。

料金をもう少し高くしておけば、顧客の増大ペースも遅くなり、利益も確保できます。その利益をサービス能力拡大に積極的に投資することで、競合より低価格でサービスの良い航空会社をゆっくりと成長させられたはずなのです。(競合各社が価格を下げてきたときにのみ、価格を下げて対抗すればよかったのです。)

このようなビジネス・システムの複雑性に対処するために、「人はなぜ失敗するのか」では、意思決定は次のことを考慮して行うべきだと言っています。

  1. 複雑な問題を扱うためには、まず目標を定めるべきである、なぜなら、達成したいと思うことが常に明白だとは限らないからである。ピープル・エキスプレスの場合は、低価格と従業員満足度は目的に入っていたが、顧客満足度は必ずしも明確でなかったため失敗した
  2. 複雑な問題を解くために情報を集めなければならないのは当たり前のようだが、これは「言うは易し、行うは難し」である。設定した目的・目標の達成に役立つ情報を効果的に集める必要がある。ピープル・エキスプレスの場合では、図の構造を明らかにした上で、サービス能力とは何か、それが会社の評判にどう影響するか、その時間遅れはどれくらいか、などの情報を収集する必要があった
  3. 集めた情報とモデルをもとに、現状だけでなく今後どうなるかの予測を行う。その予測をもとに、目標を達成するための手段いついて考察し、計画を立て決定を下し、行動する。そして、行動の結果望んだことが本当に起きているか、行動のための前提は正しかったなどを判断し、もう一度計画を立て直すか、情報収集まで立ち戻るべきか、などの検討をする

つまり、対象の複雑性を取り扱うためには、意思決定は複雑性を考慮に入れたプロセスに従うべきだと説いているのです。

人間の心理的傾向への気づきの必要性

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンは、「脳の働きで驚くべき特徴の一つは、滅多にうろたえないことである」と語っています。つまり、人間は意思決定に当たって、いとも簡単に結論を導き出すと言っています。

私たちが早急に結論を出してしまうのは、目の前にある情報を重視しすぎ、視界の外にある情報を考慮しないからだそうです。彼はこの傾向を「見えるものが全て」と表現しています。

人間が意思決定の名人でないことは、次の例を見るとよくわかります。

  • 私たちがよく断念したり後悔したりするのが、職業の選択である。アメリカ法曹協会の調査に寄れば、弁護士の44%が、若者に法律家を目指すことを勧めていない。教師の半数以上は、4年以内に仕事をやめる。
  • 経営者が下す一番高リスクな判断の一つが企業のM&Aであるが、その83%は株主企業価値を全く生み出していない。2207人の経営者に社内の意思決定を評価してもらったところ、60%の経営者が不適切な意思決定は適切な意思決定と同じくらいあると答えた

決定力」という本では、このような問題が起こるのは意思決定には次のような4つの罠があるからであると言い、その罠を避ける意思決定プロセスを用いるべきであると説いています。

  • 視野の狭窄の罠
    • 私たちは、「ふたりの関係を良くする方法は?」と考える代わりに、「恋人と別れるべきか否か?」と考えてしまう。選択肢を狭めすぎ、意思決定を白か黒で見てしまう傾向がある
  • 確証バイアスの罠
    • スモーカーたちは「喫煙は肺がんを引き起こさない」という見出しの記事に注目することが多い。私たちは生活の中で、ある状況について直感的に信念を抱いたあと、その信念を裏付ける情報を探すという習慣がある
  • 一時的な感情で決断する罠
    • スプレッドシートで選択肢を整理し評点づけしても、なかなか決定できないことがよくある。難しい決断に直面すると感情が揺さぶられるからである。ここから抜け出すには、視点の切り替えが必要である
  • 自信過剰の罠
    • IBMの創始者J.ワトソン Sr.は「世界中にコンピューターが4台あれば十分だろう」と言った。私たちは自分が実際以上に未来予想に長けていると思っている

以上のような罠を避けるために、この本では次のようなプロセスに従って意思決定をすることを勧めています。

  1. 選択肢を広げる
    • 新しい選択肢を見つけ出すプロたちの習慣を調べ、それに学ぶ
  2. 仮説の現実性を確かめる
    • 頭を冷やして信頼できる方法を集めるためには、意地の悪い質問をする方法などを身につける
  3. 決断の前に距離を置く
    • 私たちは得よりも損失を嫌う傾向があること、単純な質問で苦渋の決断を楽にする方法などを身につける
  4. 誤りに備える,
    • 未来を幅で考える、アラームをセットする、などの方法を身につける

2つの問題を考慮して意思決定の質を高めるためのプロセス

このように、対象システムの複雑性、決定を急ぐ人間の心理の両面から、意思決定の質を向上させるプロセスの必要性が指摘されてきています。そこで、意思決定に使える実用的なプロセスを勉強しようと意思決定理論の本を読んでみると、問題に遭遇します。

これらの本のプロセスは、どれも複雑性と心理傾向双方の問題を認識し、それに対処する方法を示してはいます。しかし、その定義が微妙に違うのです。

さらに、それらの本はなぜその定義を採用すべきかの理由を述べていないので、どれを採用したら良いのか困ってしまうのです。

たとえば、代表的な本のプロセスは、次のようになっています。

  • 勝てる意思決定の技術
    1. フレーミング
    2. インテリジェンスの収集
    3. 結論の導出
    4. 経験からの学習
  • 意思決定アプローチ
    1. 何が「問題」なのか正しく把握する
    2. 「目的」を明らかにする
    3. 想像力豊かな「選択肢」を作る
    4. 予想される「結果」を見極める
    5. 「妥協点」を探り出す
  • 意思決定の理論と方法
    1. 的確な考え方のフレーム設定
    2. 創造的かつ実行可能な戦略代替案
    3. 有用かつ信頼性の高い情報
    4. 明確な価値判断基準
    5. 明快かつ正しいロジック
    6. 実行への関係者全体のコミット

そして、「勝てる意思決定の技術」では選択肢の生成は「フレーミング」の中に潜り込んでいる、という具合です。

そこで、これらの内容を読み込み比較検討した結果、このブログの以降の記事では図の一番左側の列のプロセスを採用することにしました。

このプロセスの各ステップの概要を紹介すると、以下のようになります。

  1. 何が問題なのかを正しく把握し、目的を明らかにする
    • フレーミングする、すなわち問題をどの角度から見るのかを意識した上で決定する。たとえば、顧客とのやりとりを一時的な経済的取引として考えるのか、継続的関係を維持するためと考えるのかを決める。このことによって、どのような基準で選択肢の優劣を判断するかが決まる。また、沈みかかったタイタニック号の甲板の上で椅子をきちんと並べようとするなどの無益なことも避けられる
    • 目的を決める。目的とは自分たちが行きたい場所である。その場所が決まってこそ、そこに至る手段(選択肢)を考えることができる
  2. 創造的かつ実行可能な選択肢をつくる
    • たとえば、上述の例のようにティーンエージャーは「彼(彼女)を作って幸せになりたい」という目的を持っていても、付き合っている人に対し問題を感じると「別れるべきかどうか」という二者択一の問いを立て、「会話の仕方を変えてみよう」という選択肢は思いつかない傾向が強い。このような視野狭窄に陥らず、実り豊かな結果をもたらしそうな選択肢を考える手順を工夫する
  3. 有用かつ信頼性の高い情報を収集し、予想結果を見極める
    • 私たちは現状を正確に把握しようせず、上述のスモーカーのように自分たちが見たいものを見ようとする傾向がある。また、議論をしているとき、声の大きい人に引きずられる傾向がある。また上司の気に触る不都合な事実を報告しないことも多々ある。このような心理的弱点を認識し、意思決定を有効にする情報を収集する術を心得る必要がある
  4. 決定する(判断基準を明確にし、結論を導出し、行動計画を立てる)
    • 私たちは得られるものよりも損失を過大に評価する傾向があるので、現状維持に傾く。また、経営者が自分を偉く見せようと無理なM&Aに走るなどの非合理的な決定をすることが多いのも知っている。ここでも、人間の心理を理解した、合理的な意思決定方法の習得が求められる
  5. 学習する(フィードバックを入手し、行動の効果を評価し、必要なら決定を変更する)
    • 1〜4に示される問題を知れば、人間の意思決定には間違いが入り込む可能性が高いと想定しておくべきであるとわかる。それゆえ、間違った意思決定をした場合に、そのことを検出し、意思決定そのものの改善をする方法を用意しておくべきである

次回以降、このプロセスの各段階で何を注意すべきかについて、解説していくことにします。

まとめ

  • 意思決定とは、何か達成したい目的があり、その目的の達成方法が自明でないときに、より良い達成方法を選択することを指す
  • よく知られた失敗例が示すように、ビジネス上の意思決定は難しい。その理由は、対象となる問題が複雑なことと、人間が失敗を犯しやすい心理的傾向を持っていることにある。
  • ピープル・エキスプレスの事例が示すように、ビジネス上の意思決定では木を見て森を見ない類の失敗が多い。この失敗を避けるためには、目的を明らかにした上で対象システムの構造をしっかりと把握するといいう手順を踏むべきである
  • 同様に、私たちは深く考えずに決定をするという心理的傾向を持つ。これは日常生活を省エネで過ごすためには効率的であるが、影響が大きい意思決定をするには致命的な問題となる。これ避けるためには、選択肢を広く探す、自分に都合の悪い情報でも積極的に収集する、冷静に選択基準を見直す、自分自身の決定の誤りに備える、などのプロセスを踏む必要がある
  • これらの知見をまとめると、意思決定に際しては次のような手順を踏むべきであることが理解できる
    1. 問題を把握し目的を設定する
    2. 選択肢を広く生成する
    3. 偏りのない情報収集をする
    4. 基準を明らかにして決定する
    5. 失敗を前提として学習に備える