意思決定で間違った情報収集を避けるコツ:人間の願望的思考を理解し対処する


情報は歪曲される

意思決定は創出した選択肢を評価し、その中から最善と思われるものを選択することにより実行されます。

この時にキーとなるのが、選択肢の評価に用いる情報の質です。選択肢の評価のために集めた情報の質が、意思決定の質を左右するのです。

ところが、どうも人間はこの情報収集が得意でないようです。「自分はなんでも知っている」と思い込む傾向が強く、情報収集のプロセスや集めた情報の質そのものに十分な注意を払わないのです。

そのため歪曲された情報で意思決定している例に、枚挙に暇がありません。その最大の例が誤審でしょう。

1984年にDNAの塩基配列の一部に、ちょうど指紋のように人によって異なる配列があることが発見されました。いわゆるDNA指紋で、これまでの血液鑑定とは段違いに精度の高い鑑定が可能となりました。

この結果判明したのが、数々の冤罪です。捜査のプロであるはずの警察、検察、裁判所が、間違った情報収集結果のもとに無実の人を刑務所に送り込んでいたことが白日のもとに曝け出されました。

捜査担当者が最初に犯人ではないかと推測した人間に不利な情報だけを集め、他の情報(被疑者に有利な情報や他の犯人候補者の情報)を集めることを怠った結果が、これらの悲劇を生んだのです。(失敗の科学

さらに、現象を説明する仮説が複数存在し得るのに、一部の仮説の検証情報の収集を行わずに意思決定を行い失敗した例もあります。その中で一番影響が大きい失敗として知られているのが、「エニグマ」の例です。

エニグマは、第二次大戦中にドイツ軍が使用した有名な暗号機械の名称です。この暗号を、イギリスの有名な数学者アラン・チューリングが見事に解読し、戦況がイギリスに有利に展開するようになりました。

ところが、ドイツ軍は自分たちの暗号は解読不可能なものだと考えていました。そのため、イギリス軍の成功は優れたスパイ網による諜報活動の結果だと捉えました。

そこで、全てのエネルギーをスパイの捜索に費やし、驚くほど多数のスパイの逮捕に成功しました。しかし、戦況は変化しませんでした。

自分たちの暗号が見破られているかもしれないという可能性について、簡単な実験を試みることすらしなかったからです。偽のメッセージを流し、イギリス海軍の反応を観察するだけでよかったはずだったのに、です。(勝てる意思決定の技術

意思決定に必要な情報収集を全く行わなかった例すらあります。ヒューレット・パッカード(HP)の構造改革を率いたカーリー・フィオリーナがコンパックの買収を決断したときのことです。

HPの内部情報によると、買収の発表があって随分経ってから、HPはコンパックが消費者にどう見られているかのリサーチを全くしていないことが分かり、社内に驚愕が走ったというのです。しかし、このことが分かったのは、すでに取締役会が買収を決め、フィオリーナが経営陣にこれ以降買収案への反対意見は許さないと通告した後だったそうです。(事実に基づいた経営

最後に、その道のプロでさえ意思決定のための情報収集を怠るという例を挙げておきましょう。

イギリスの哲学者カール・ポパーが、有名な心理学者のアルフレッド・アドラーに会い、アドラー理論では説明がつかない子どもの患者の事例について話したときのことです。このときのアドラーの反応に驚いたポパーは、こう書き記しているそうです

“アドラーはその患者を見たこともないのに、持論によってなんなく分析した。いくぶんショックを受けた私は、どうしてそれほど確信を持って説明できるのかと尋ねた。すると彼は、「こういう事例はもう1000回も経験しているからね」と答えた。私は、こう言わずにはいられなかった。「ではこの事例で、あなたの経験は1001回になったわけですね」”(失敗の科学

間違った情報収集をする原因:過信とバイアス

このような信じられない情報収集上の失敗が起こるのは、なぜなのでしょうか?どうしたら、そのような失敗をせずにすむのでしょうか?

そのためには、これらの失敗は意思決定に携わった個々の人間の瑕疵ではなく、人間の一般的な心理傾向によるものであることを理解する必要があります。私たちも同様の失敗をする可能性が十分にあるということ、をです。

その傾向とは、人間は願望に基づいて行動するということです。すなわち、過信とバイアスをそのままにして決定するのです。(勝てる意思決定の技術

意思決定における過信の影響

まず過信ですが、人間は「自分は必要なことはなんでも知っている」と思い込む傾向が強いのです。その結果、次のような楽観的な発言の例が多数見られます。

  • 「空気より重いマシンが空を飛ぶなど不可能だ」(イギリスの数学者兼物理学者で、英国王立協会の会長を務めたケビン卿が、1895年に行った言葉)
  • 「おそらく、世界にはコンピュータ5台分のマーケットがあるだろう」(IBMの会長トーマス・J・ワトソンが、1943年に言った言葉)

同様に、仕事上の過信の例が多々見られます。その有名な例が、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者(意思決定についての専門家でもある)ダニエル・カーネマン自身の次の体験です。(ファースト&スロー

カーネマンが、まだイスラエルに住んでいた頃、高校生向けの「判断と意思決定」のカリキュラムと教科書を書くプロジェクトを立ち上げました。メンバー達が教科書を書き上げるのに必要な期間を予測したところ、最短で1年半、最長で2年半でした。

この時にカーネマンは思いつきで、メンバーの中のカリキュラム作成の専門家であるセイモア・フォックスに、「私たちと似たような状況の他のチームが、教科書の完成までに何年かかったか?」と聞いてみました。チームのメンバーとしてではなく、外部の専門家としての意見を求めたのです。

セイモアはしばらく考えた後、自分自身の楽観的な回答に当惑しながら、「このことに気づいていなかったが、我々のようなチームの全部がプロジェクトを完成したわけではない。それどころか、かなりのチームが完成に至らなかった。完成したチームがかかった時間は7年以上で、10年以上かかったチームも多かった」と答えました。

この返答はチームを当惑はさせたものの、プロジェクトが順調であるというチームの直感に反したので、プロジェクトは継続すると決定されました。そして、最終的には8年後に完成したのです。

カーネマンはこのプロジェクトは中止すべきであったと考えています。そして、チーム・メンバーだけの内部情報に基づいた意思決定は楽観的すぎる傾向があり、専門家などの外部情報に基づいた意思決定に劣ると結論づけています。

意思決定の専門家ですら、自分が知っている内部情報だけで判断してしまったのです。人間が「自分は何でも知っている」と過信する傾向はは、これほど強いものなのです。

様々な認知バイアス

カーネマンを含む行動心理学者たちの研究の結果、人間は情報を手に入れてもそれをもとに合理的な判断をすることは少ない、ということもわかってきています。自分が持つ事前の思い込みによって情報を歪曲する傾向が強いからです。この歪曲に至る思い込みのことを、認知バイアスと呼びます。

以下、意思決定における認知バイアスとその影響の事例を、いくつか挙げておきます。

確証バイアス(信じるものの裏付けとなるものだけを見てしまう)

仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。上述の冤罪がこの例に当たる

利用可能性バイアス(見たものだけを信じる)

物事の意思決定を下す際に、頭に浮かんできやすい事柄を優先して判断する傾向のこと。「歯科医院、コンビニ、美容院、のなかで日本全国で一番多いのはどれか?」という質問調査をしたら、「一番多いのがコンビニで、一番少ないのが美容院」という答えが多かった。理由は、人々がいつも利用していてすぐに思いつくのがコンビニだから。しかし実際に多いのは、美容院、歯科医、コンビニの順。

経験豊かなエンジニアに機器の考えられる事故原因の一覧表を配り、どの原因の確率が高いかを聞いたところ、エンジニアたちが最近経験した事故の確率を他の原因より15%から50%高く評価する傾向が見られた。これも利用可能性バイアスの例である。

コンサルタントが新しいプロジェクトで、クライアントに何が問題かを聞く時は、このバイアスの影響に注意してクライアントのいうことを鵜呑みにせず事実を確かめる必要がある

係留バイアス(アンカリング)

先行する何らかの数値(アンカー)によって後の数値の判断が歪められ、判断された数値がアンカーに近づく傾向のこと。クライアント・ミーティングで何かの数値の予測をするとき、声の大きいメンバーが発言してしまうと、それに引きずられるので要注意

根本的な帰属の誤り

人が何かの不具合を起こした時、その不具合を起こさせた状況の影響を過小評価し、その人の個人特性にばかり注目して原因を説明する傾向。コンサルティング・プロジェクトで問題の分析をしている時、背後に大きなプロセス上・組織的な原因があっても、クライアントがその存在を無視して個人の問題として片付けることがあるので、これまた要注意

認知バイアスの落とし穴を避ける方法:逆を考える

意思決定における正しい情報収集プロセスとは、次の3つのステップを踏むものです。

  1. 最も適切な質問をする
  2. その回答を適切にする
  3. いつ情報の収集を終えるかを決める

認知バイアスの問題は、充分に時間をかけることなく「思い込み」をしてしまい、そのレンズからのみ物事を眺めることにあります。思い込みをした後は、偏った質問や回答ばかりするのです。

ですからバイアスを避けるコツは、「逆を考える」です。つまり、自分の考えとは反対の意見を求めることです。この必要性は歴史上よく認識されています。(決定力

その証拠として、ほとんどの法制度では、反対意見を述べ合うことがプロセスに組み込まれています。裁判官や陪審員は、2つの対極的な見方を検討しなければならないことになっています。

カトリック教会の聖人を指名する手続きでも、ある人を聖人に指名することにあえて反対する「悪魔の代弁者」という役割を設けていたほどです。そして、1983年にヨハネ・パウロ2世がこの制度を廃止すると、それ以降の指名プロセスは、以前にくらべて20倍ほど早くなってしまったということです。

しかし、個人の意思決定で反論してくれる人をあえて探した例は、非常に少ないでしょう。それどころか、反論は政治的対立を引き起こしかねないので、反論する人は嫌われる傾向にあります。

反論しやすい状況を作る

したがって、リーダーが反論の重要性を認識し、反論を作りやすい状況を作り出すことが必要です。(この点の解説については、このブログのリーダーシップの項を参照してください。)

反論の重要性を認識しているリーダーの模範例は、GMの黄金期を築いたアルフレッド・スローンです。スローンには次のような逸話が残っています。

“スローンは、ある委員会の会議中にこんな質問をして話を遮った。「それではこの決定に関しては、意見が完全に一致していると了解してよろしいか。」委員全員がうなずく。「それでは」とスローンは続けた。「この問題について異なる見解を引き出し、この決定がいかなる意味を持つかについてもっと理解する時間が必要と思われるので、さらに検討することを提案したい」”

反論をするうまい方法

実際に「逆を考え」反論をするためには、下手に対立を招かないようにするスキルも必要です。たとえば、どの選択肢を選ぶかについて意見が対立している時、あるいは不十分な検討のまま特定の選択肢が一方的に選ばれつつあると感じた時には、「この選択肢が正解であるためには、どのような条件が必要かを考えてみよう」と提案する工夫が有効です。

あなたが、ある考え方が問題に対するアプローチとして正しいかと問われて、YESかNOと答えたとしましょう。そうすると、どんな質問が来ても同じ考え方を貫き続けるでしょう。

しかし、「そのアプローチが有効であるための条件は?」と訊かれれば、思考の枠組みが変わります。自分の信念と距離をおき、情報を探し始めざるを得ないでしょう。このようにして、相手に不快感を与えずに反論できるのです。

核心を突く質問とオープンエンドな質問

反論以外にも、人の意見の「逆を考える」方法はあります。それは、状況により次のような的確な質問をすることです。

  • 核心を突く質問をする:相手が状況をぼかしているような場合は、具体的な情報を求める質問をする。たとえば、大手法律事務所に就職しようとしていてワーク・バランスについて知りたいのなら、「公私ともに生活は充実していますか?」と聞くのではなく、「先週は、家族とともに何回食事をしましたか?」と聞く、など
  • オープンエンドな質問をする:相手がこちらより弱い立場にあり率直に物を言えない場合は、相手が自由に回答できる漠然とした質問をして情報を集めることにより、確証バイアスを避ける。たとえば、医者が患者に質問するときは「ここが痛いですか」というYES/NO質問ではなく、「どんな痛みでしたか?」、「どんな気分でしたか?」といったオープンエンドの質問から始め、次にゆっくりと「鋭い痛みでしたか、それとも鈍い痛みでしたか?」のように徐々に具体的情報を求める質問に移っていく

意図的な失敗をする

逆を考えるためには「意図的な失敗」をするという方法も有効です。

人や組織には、物事を判断する前提となる考え方(メンタル・モデル)が存在します。この妥当性を疑い、わざとそれに反する行動を取ってみるのです。

経営コンサルティング会社「デシジョン・ストラテジーズ・インターナショナル」の創設者で 勝てる意思決定の技術 の著者でもあるポール・ショーメーカーは、会社の根底にある主な仮説をリストアップし、その中の次の仮説を疑うことにしました。

”提案依頼書(RFP: Request For Proposal) に回答する意味はない。RFPを利用するクライアントはたいてい、価格比べをしているか、決定事項を正当化するために比較検討をするフリをしているに過ぎない”

この仮説に逆らって、ある電力会社のRFPに応じてみたところ、それを機会にCEOとの会見の場が設置され、もともとのRFPの範囲をはるかに超える大きな案件が獲得できたのです。

この種の仮説検証にはそこまで大きな費用はかかりませんし、仮説検証が失敗しても元の仮説が正しいことが確認できるので、「逆を考える」手段としてレパートリーに加えておくべきでしょう。

過信対策:外部の視点を取り入れるための問題発見法の援用

過度の楽観性、自信過剰からくる意思決定の失敗を避けるためには、外部の情報を取り入れることが必要です。そのためには、まず「自分はなんでも知っている」という思い込みから脱却し、虚心坦懐な目で周囲を見る必要があります。

この目的に援用できるのが、問題発見のスキルです。誰もが問題はないと思っている状況で、違う視点で問題を発見する態度の取り方が共通するからです。

問題発見のスキルの優れた解説書に、「なぜ危機に気づけなかったのか:組織を救うリーダーの問題発見力」(原題は ”Know What You Don’t Know”)という本があります。そこには、次の7つの問題発見スキルが説明されています。

  1. 情報のフィルターを避ける
  2. 人類学者のように観察する
  3. パターンを探し、見分ける
  4. バラバラの点を線でつなぐ
  5. 価値のある失敗を奨励する
  6. 話し方と聞き方を訓練する
  7. 行動を振り返り、反省のプロになる

これらの項目の多くは、意思決定に関わる本でも個別に議論されていることと共通しています。ここでは、そのうちの最初の2つについて論じておくことにします。

1. フィルターを避ける

意思決定のリーダーのまわりの部下たちは、情報にフィルターをかけることがあります。彼らはリーダーの貴重な時間を無駄にしたくないため、大抵は善意によってフィルターをかけます。時には悪いニュースをフィルターにかけ、撥ねつけてしまうこともあります。

問題を発見し正しい意思決定を行うには、こうしたフィルターを避けなければなりません。

フィルタリングが起こるのは、次のような理由からです。

  • 効率性に対する配慮:部下が効率性への配慮から、リーダーのために情報を要約したり整理したりする。その時に、判断基準のずれからリーダーにとって重要な情報が抜け落ちる
  • 大勢順応への圧力:トップマネジメントの意見が大体一致しているときは、部下はその見解に異議を唱えるような情報を議論の場に持ち込まない
  • 確証バイアス:部下自身の信念に反するような情報は無意識に避けられる
  • 提言:部下自身に主張がある場合は、その主張を裏付ける情報を優先して伝える

このようにして部下は意図せず、あるいは意図的にゲートキーパー(門番)となって、リーダーが必要とする情報を遮断することがあるのです。意志決定者はこのことを心得ていて、次のような対策をとる必要があります。

自分の耳で聴く

会社の経営状態が良くない場合などには、経営層は問題の真因を把握するために現場の生の声を聞く必要がある。2001年にゼロックスが大きなトラブルを抱えているときにCEOの座に就いたアン・マルケィヒーは、顧客上位500社のそれぞれをトップマネジメント・チームのメンバーに割り振り、顧客満足責任者として行動させた。このことにより、同社の経営上層部が顧客と直接会話することにより、同社の業績はその後の7年間でめざましく回復した。

様々な意見を探して歩く

会議などで同じ人が報告するのであれば、必然的に入ってくる情報の種類は限られる。これを避けるためには輪番制などの工夫をする。また、発表に使うスライドの枚数を制限し、報告ではなく議論に使う時間を増やす。定期的に顧客訪問をし、その時にエンジニアや工場の現場の従業員に会う機会を作る。

若い人とつながりを持つ

若い人は、早いうちから重要な社会の傾向を敏感に察知していることが多い。リーダーは、無理をしてでも自分の組織内の最も若く、そして最も頭のいい人とのつながりを継続的にもつべきである。経営学者のゲイリー・ハメルは、若い有能な従業員を集めて「影の内閣」を作ることを勧めているほどである、GEのウェルチは、経営層に通常とは逆方向の若いメンターを探し、インターネットのことを教えてもらうように指示した

周辺部にも足を延ばす

インテルの会長とCEOを務めたアンディ・グローブは、経営上層部が脅威と機会をその初期の段階で見つけようと思えば、組織の周辺部と接触しなければならないと説いている。ここで周辺部とは、地理的な遠隔地、新しいテクノロジーを研究している部署、あるいは本業ではないところで新規事業を立ち上げようとしている小さな部門などである

利害関係者でない人と話す

経営者の多くは、現在の顧客や社員、サプライヤとの対話で時間を費やす。しかし、経営学者のクレイトン・クリステンセンは、イノベーションの機会に気づくのは、現在の顧客とではなく、顧客でない人と話をしているとこであることが多い、と指摘している。現在のユーザーは本当に画期的な変化というよりは、むしろ漸進的な改善策に目を向けがちだからである

2. 人類学者のように観察する

情報収集において非常に重要なことがあります。それは、人が口で言っていることと、することは同じとは限らないということです。そのため、正確な情報を収集しようとする時は、人類学者のように、ありのままの環境で人がどのように振舞っているかを直接観察することも重要です。

人の発言と行動が一致しないのは、次のような理由によります。

  • 誘導尋問:人は仲間や顧客と会話する時、聞きたいことを引き出そうとして質問することがある。その答えは、回答者が実際に考えていることや、組織の中で実際に起こっていることを反映していないことがあり得る
  • 集団力学:集団の中で大きな声の人がいれば、率直な意見交換が押さえつけられる。また、人前で自分のニーズや希望を明らかにすることを嫌がる人もいる。さらに、人は自分が他人の目にどう映っているかを気にして、意見を曲げて伝えることもある
  • 無意識:従業員やサプライやなどに今後の方針に関する新しいアイデアを提案すると、理論上の概念に過ぎないものであっても何らかの意見を聞かせてくれる。しかし、提案した方針に沿った活動を実地に体験してみると、往往にして考え方が変わる。人は頭の中に、自分がこう振舞うべきという信奉理論と実際の行動を支配する実践理論の2つを持っており、これらを無意識に使い分けるからである

以上のことから、従業員を集めて集会を数回開いただけでは組織の問題が発見できないことは理解できるでしょう。それゆえ、優れた意思決定リーダーは、現場で顧客や競争相手の動きを観察するスキルを磨くべきなのです。

たとえば、品質ランキングで高得点を得ている航空会社ジェット・ブルーの創設者デビッド・ニールマンは、飛行機に搭乗しているときは、いつも機内放送で自己紹介し客室乗務員と一緒に飲み物とスナックを配るなどの方法で、顧客と密接に接触しています。

優れたリーダーは、このような接触機会を増やすと同時に、人類学者が「参加観察者」として使用するのと同様の、次のような観察テクニックを磨く必要があります。

先入観を捨てて観察する

あらかじめ何を学ぼうとするかの目的を捨てることにより、自分に何がわからないのかが見えてくる

三角測量をする

いくつかの地点からの複数の観察結果を集める。工場の掲示板に貼られたビラ、競合会社のパンフレット、店舗の新規顧客歓迎のための看板など、何でもデジカメで写真をとるなど

情報提供者を探し出す

組織の中に必ずいる真っ正直で率直に話してくれる人を探し出し、その人に合った言葉で話しかける

答えやすい質問の仕方をする

誘導尋問にならないように、積極的に聴く。メモを取るときは、相手の語った言葉そのままを判断を交えず事実として書き取る。また、自分の理解に間違いがないかを相手に確認する。自分がしゃべるよりも聞く時間の方を長く取る

観察したことの追跡を続け体系化する

自分の想定と違うため驚いたり戸惑ったりしたことを整理して、体系的に追跡する。観察が一段落したら、学んだことを時間をかけて整理し、発見した問題点と改善のための機会を具体的に表にまとめる

まとめ

  • 意思決定の質は、選択肢を評価するために収集した情報の質に大きく左右される。しかし、人間は情報収集プロセスや集めた情報の質に十分な注意を払わない傾向が強い
  • 情報収集の質が落ちるのには、2つの原因がある。一つは、人間は「自分はなんでも知っている」と過信する傾向があることである。もう一つは、人間は事前の思い込みから情報を歪曲する傾向が強いからである。この歪曲に至る思い込みのことを認知バイアスと呼ぶ
  • 認知バイアスを避けるための有力手段は、自分の考えの「逆を考える」ことである。このためには、次のような手段が有効である
    • リーダーが反論しやすい状況を作る
    • 反発を招かないうまい方法で反論する(「この選択肢が正解であるためには、どのような条件が必要かを考えてみよう」)
    • 核心を突く質問、オープンエンドな質問をする
    • 意図的な失敗をする
  • 過信を避けるためには、外部の視点を取り入れることが重要である。そのためには虚心坦懐な目で周囲を見る必要がある。このための方法として、たとえば次のような問題発見のスキルが援用できる
    • フィルターを避ける
    • 人類学者のように観察する
  • 意思決定のために質を高い情報を収集することは、コンサルタントの最重要責務の一つである。したがって、コンサルタントは人間の願望的思考が意味すること(過信と認知バイアスを捨ておく)をよく心得ておく必要がある