意思決定の精度を上げる選択の技術:優先順位と対立の管理


選択の難しさにもいろいろある

精度の高い意思決定をするためには、まず何よりも質の高い選択肢を創出する必要があります。しかし、それだけでは十分ではありません。

創出された選択肢の中から、最も効果の高い(と思われる)選択肢を選ぶという作業が残っているからです。この選択が容易であれば、そもそも意思決定の技法を学ぶ必要はありません。

では、なぜ選択が難しいのでしょうか?どのような選択上の問題が起こっているのでしょうか?

数多くの選択肢から目的に合うものを選ぶ際には、色々な方法が取られます。

たとえば、あらかじめ判定ルールを決めておいて、その条件を満たすものだけを選ぶという方法があります。ところが、そのルールが思わぬ影響を及ぼすこともあります。

ある米国の食品会社は、全ての製品カテゴリーで徐々にシェアを落としていました。

同社は、次の2つの条件を満たしたときに現行製品をコストの安いものに切り替えるという、意思決定ルールを採用していました。

  1. 消費者の満足度を落とさないこと
  2. 新たな製品配合の販売単価あたりのコストが安いこと

各選択肢(コスト低減提案)が持つ要素のうち、消費者の満足度と販売単価あたりコストという2つの要素が特に重要であると重みづけし、それを現行製品と比較することにしたのです。

同社は消費者試験を行い、味・食感・外観などを中心に慎重な比較を行い、統計試験も併用して、それに合格したときにのみコストの安い製品への切り替えを行ってきました。

しかし、シェア低下の原因は、このルールそのものにあったのです。消費者は一度の切り替えによる品質の低下には気づきませんでしたが、何度も切り替えている間に、その差が消費者に見えるものとなったからです。(勝てる意思決定の技術

自分が使用している意思決定ルールの特徴を知らず、そこに隠されているバイアスに気づかなければ、いずれそのつけを払わされることになるのです。

この例は選択肢の選択方法についての欠陥を示すものとなっていますが、選択の目的そのものが複数あり、その優先順位がつけられないというケースもあります。また、評価する要素そのものが事前には判明していないということもあります。

たとえば、あなたが大会社の管理職として安定的な生活を送っていたとしましょう。給料は良いし、家庭生活との両立もできているが、仕事にはちょっと飽きてきているという、よくある状態です。

その時に、新興企業から破格の条件で重役のポジションのオファーを受けたとしましょう。長期的なキャリアアップには、またとない機会です。ただし、長時間のハードワークや単身赴任を覚悟しなければなりません。

このような急なオファーの場合には、自分自身の優先順位を把握することは困難です。それでも短時間で意思決定を迫られます。

決定後に別の選択肢に未練を感じるようでは、幸せな職業生活は望めません。意思決定過程の中で、優先順位を意識化する方法が求められます。

もっと複雑なのが、集団意思決定です。心の中の優先順位や選択肢が異なる人々が、場合によっては組織の優先順位も明確でない中で、意思決定をしなければなりません。さまざまな集団力学も働きます。

たとえば、船の世界では「衝突進路外衝突」と呼ばれる奇妙な航海上の現象が多数知られています。そのまま進めば危険のない船の針路を船長がわざわざ変更したあげく、他の船と衝突してしまうケースです。

原因は、アルコールがらみでも過労のせいでもなく、船長は、ただ自分の船と他の船の相対的な動きを見誤ったのです。

その時甲板にいた他の乗組員たちは、状況を正しく把握していました。しかし、彼らは、船長は全てがわかっていると思い込むか、船長に逆らうのを恐れたために口を出さず、手遅れになってしまったのです。(7つの危険な兆候 企業はこうして壊れていく

このように選択の難しさにも、複雑な条件の中での合理的な選択、直感のバイアスを避けながらの選択、集団の力学を考慮しながらの選択など、いろいろなレベルがあります。その難しさのレベルを理解し、適切な選択技術を身につけることが、意思決定の精度を高くするために不可欠なのです。

以下、それぞれのレベルでの選択技術を見ていきましょう。

複雑性の中の合理的な選択:予測実行結果を比較しながら選択肢の優先順位を見出す

意思決定の目的は、決定した選択肢の実行結果が他の選択肢の実行結果より望ましいものを選ぶことです。ですから、意思決定のためには本来は次の作業が必要です。

  • 各選択肢によってもたらされる結果が、意思決定の目的にどれくらい合致しているかを予測する(予測実行結果)
  • 予測実行結果の優先順位をつけ、優先順位の一番高いものを選ぶ

選択肢の実行結果を予測する

実行結果の予測の最初のステップは、目的に照らした評価項目を選ぶことです。

たとえば、ある自営のコンサルタントが自宅が手狭になったのでオフィスを選択するケースを考えてみましょう。この場合の評価項目としては、通勤時間が短いこと、顧客へのアクセスが便利なこと、オフィス・サービスが整っていること、十分なスペースがあること、賃貸料が安いこと、などが考えられます。

評価項目が得られたら、次はその評価項目ごとに選択肢を比較できる尺度を導入します。この尺度は、本人が比較できる限りで独自の主観的なものであって構いません。

たとえば、次のような具合です。

  • 通勤時間:ラッシュアワー時の通勤時間
  • 顧客へのアクセス:昼間にオフィスから1時間以内で行くことのできる顧客の割合
  • オフィス・サービス:コピー・ファックス・電話応対・秘書の無料サービスなどが提供されるフルサービスを「A」、ファックスと電話応対のみを「B」、サービスなしを「C」とする
  • オフィス・サイズ: 面積
  • 経費:月々の賃貸料

このような評価基準を決めると、図Aのような結果表が得られます。

予測実行結果の優先順位をつける

次のステップは、選択肢の優先順位を決めることです。これには、評価項目間の相対的な重要度が決められる場合と決められない場合の、2通りのケースが存在します。

評価項目間の相対的重要度が決められる場合

この場合は、加重判断モデルを利用して選択します。各評価項目を100点満点で採点し、それに項目の重み(重要度)をかけて合計した点数で最大となる選択肢を選ぶのです。教科書にもよく現れる方法なので、これ以上詳細の説明はないでしょう。

多くの場合で、この方法の方が人間の主観的な判断よりも精度が高いことが判明しています。この方法の問題は、それにも関わらずほとんどの人がその有効性を信じようとしないことなのです。

数十年前に銀行の融資判断を支援するコンピュータ・モデルを導入した時、それが融資担当者の経験に裏打ちされたものであったにも関わらず、多くの人はその有効性を信じようとしませんでした。しかし、現在はクレジット・カード会社の多くがフェア・アイザック社の与信モデルを導入しています。

加重判断モデルの導入が可能な場合は、積極的に導入すべきだということを心得ておいた方が良いでしょう。

冒頭で述べたルールによる選択は、この加重判断モデルの特殊形とみなすことができます。特定のいくつかの評価項目の値で選択をする経験則を述べたものがルールです。ただし、経験則なのでその有効性の検証を別途行っておく必要があります。

評価項目の相対的重要度が自明でない場合

評価項目の優先順位は、繰り返しの多い意思決定などには決めやすいですが、初めての意思決定でしかも急な場合などには、そう簡単に決められません。このような場合でも意思決定は必要なので、その対応方法の確立が必要です。

このような場合は、評価項目を見るのではなく、選択肢ごとの直接比較が必要です。

そこで最初に考えるべきは、明らかに劣る選択肢の排除です。そのための方法が、「結果表を結果順位表に書き換える」です。

結果表は、結果の比較を容易にするものであり、優位性のある選択肢を明らかにするのに大いに役立ちます。しかし、多くの選択肢と多くの評価項目が存在する場合、表の中に情報がありすぎ、優位性を見つけるのが難しくなります。

これを解決するために、評価項目ごとに目的を一番満たしている選択肢を1位、次に良い選択肢を2位、という風に順位をつけていきます。このようにすれば、図Aに対する結果順位表(図B)が得られます。

結果順位表を見ると、選択肢2が選択肢5より優れていることがわかります。オフィス面積で同順位である以外は、他の全ての評価項目で順位が上だからです。ということで、選択肢5は検討から外すことができます。

さらに選択肢4は、4つの評価項目で選択肢1より優位性が認められ、下回っているのは経費だけです。そこで結果表に戻ってみると、選択肢4は1と比べて経費では5千円だけ高いものの、面積では13㎡上回り、通勤時間も短く顧客へのアクセスにも便利です。ということで、このコンサルタントは選択肢1も排除することにしました。

選択肢の直接比較での優位性が見つからなくなったら、次は選択肢ではなく評価項目を除去して、表を簡単化します。

この方法は「等価交換」と呼ばれます。ほとんど差のない評価項目を取り除き、その差を他の評価項目の値の調整で埋め合わせするというものです。(意思決定アプローチ

図Aをみると、残った3つの選択肢2、3、4の間での通勤時間の差はほとんどありません。そこで、選択肢3の通勤時間を他と同じ25分とします。

その不利になった分を、他の評価項目で埋め合わせします。ここでは、通勤時間5分は顧客アクセス8%分に相当するとして、選択肢3の顧客アクセスを70%から78%に調整します。そうすると、通勤時間は考慮しなくてすみ結果表が図C右側のように簡単化されます。

残った選択肢を比較しても決定的な優位性は見つからないので、さらに等価交換を進めます。ここでは、オフィス・サービスBを標準とし、CからBへ引き上げると28,000円かかり、AからBに引き下げると11,000円下がるものとしました。

その等価交換の結果得られるのが、図Dの左側です。これを見ると、選択肢3は2より劣るので排除できることになります。この先さらに、オフィス面積22㎡と賃料18,000円の等価交換を行うと、図D右側のように選択肢4が一番優先度が高いことがわかります。

十分な情報が得られているときは、それがいかに複雑であっても、このような合理的な選択をする方法が知られているのです。

直感的な選択:決断の前に距離を置く

私たちの意思決定の多くは、上記の合理的な選択をするための情報が得られないか情報を得る時間がない中で、為されています。結婚を申し込むか否かなど、人生の岐路での二者択一の決断の多くがこれに当たります。

選択肢の中身まで分け入って、どのような構成要素があり、選択の結果それぞれの要素ごとにどのような結果がもたらされるか、などと分析的に考えることに限界がある場合も多いのです。このような場合には、直感的な方法しか採用できるものはありません。

ただし、このようなケースでは、後で後悔することがないようにする工夫が必要です。このためには、「決断の前に距離を置く」方法が有効です。(決定力

人間は、厳しい葛藤に直面すると、簡単に大局観を見失ってしまいます。状況の細かな点ばかりに気を取られ、延々と悩み、毎日のように心変わりし続けることも多いです。

このような状況での決断の最大の敵は、一時的な感情でしょう。怒り、情熱、不安、欲望などに任せて決断し後で後悔した覚えは、誰にでもあるはずです。

しかし、一時的な感情はすぐに薄れます。「重要な決断をするときは、一晩寝て考えろ」と言われるのは、そのためです。

アメリカの自動車のセールスマンは、押しが強く、顧客に考える暇を与えずに売り込むことで有名です。追い込まれた決断を避けるためには、事前に十分に下調べをした上で購買の基準を決め、電話で条件に合った車の有無を確かめるなどのことで、距離を置くことができます。

もう少しシステマチックな方法としては、たとえば「10-10-10フレームワーク」と呼ばれるような方法があります。

このフレームワークでは、意思決定を3つの時間枠で考えます。「その決断について、今から10分後にどう考えるだろう?10ヶ月後は?10年後は?」と考えて、決断に後悔しないのであれば、それを採用すべきだというのです。

時間枠を変えた想定をすることで、距離を置くことを可能にするのです。

同じように、傍観者の視点から状況を見つめることで、距離を置くことができます。

インテルのアンディ・グローブが「パラノイアだけが生き残る 時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのか」で、主力製品であるメモリーから撤退しマイクロプロセッサーに注力することを決めた時の葛藤を語っています。グローブは、その葛藤を「もし我々が追い出され、取締役会が新しいCEOを任命したとしたら、その男はどんな決断をするだろう?」と会長のゴードンに問いかけることで、葛藤から抜け出したのです。

決断から距離を置くためには、ここでも認知バイアスの悪影響があることに気がついておく必要もあります。例えば、次のようなことです。

  • 単純接触効果:私たちは馴染みのあるものの方を無意識に好む傾向があるので、その影響を客観視する必要がある。単純接触効果は、一時的な感情のより繊細な形であり、恐怖、欲望、恥ずかしさといった感情ほど鮮明ではないが、私たちの判断を引っ張ることには変わりがない
  • 損失回避バイアス:私たちは獲得の喜びより損失の痛みの方を大きく感じる。高価なエレクトロニクス製品を買った場合に、法外に高い保証を付けるなどがこの例なので、このバイアスを意識した決定を心がける必要がある

以上のような決断から距離を置くテクニクを身につけたとしても、冷静になった上でどういう選択をすべきか、という問題が残ります。後悔しない選択の基準が必要なのです。

そのためには、揺るがない優先事項を決めておく必要があります。意思決定が難しい原因の多くが複数の優先事項の対立であることが多いからです。

たとえば、ハンバーガー・チェーンのレジ係でも、日常的に優先事項の対立に直面しています。顧客がハンバーガーを落としてしまった時に、無料で取り替えてあげるべきか?(顧客の満足とオーナーの利益のどちらが大事か?)ということです。

このような時に顧客の満足の方を大事にするというように核となる優先事項を定めておけば、多くの意思決定で迷わなくて済むようになります。

集団の中での選択:適度な対立を管理

ここまで多数の選択肢の優先順位をつける方法について検討してきましたが、世の中には優先順位そのものの合意方法に注意を払うべき場合も存在します。それは、集団で意思決定をする場合です。

現代の組織では、チーム活動がますます多くなってきています。チームは、さまざまな意味で優れた意思決定者となり得るからです。人が集まることで、思考能力が高まり、視点が広がり、情報基盤も強固になるからです。

しかし、多くの知性が集まればそれだけで優れた意思決定が生まれることが保証されるほど、現実は甘くありません。集団においても、優れた意思決定結果を生むには優れたプロセスが必要ですが、そのプロセスは自然には生まれないからです。

集団が優れた意思決定結果を生むためには、適度な対立の存在が必要です。対立が少なく性急な意見の一致を見るようでは、集団の存在意義はありません。代表者が一人で意思決定するのと変わりがないからです。

逆に、対立がひどく延々と議論をし続けるようでは、チームの生産性が低下します。意思決定に与えられた時間内に何らかの合意に達しなければ、目的を達成することはできません。

適度な対立で創造性を促すためには、たとえば次のような管理上の工夫が必要となります。

  1. 健全な対立を促す文化を作る
    • リーダーが率先して対立を促す:「対立は悪、協調は善」といった間違った概念を払拭する
    • 生産的な対立と破壊的な対立を区別する:関係的な対立(スタイル、経歴、価値などが攻撃の対象となる個人的な対立)はチームの生産性を阻害するので、何としても避ける。一方、職務的対立(職務およびプロセスについいての意見の相違)は、意思決定の質を向上させる上で必要かつ貴重なものとして扱う
  2. アイデアの衝突を促す
    • 反対意見を歓迎する:リーダーが異なる意見を持つ人を「問題児」とみなせば、革新的な解決策は出てこない。逆に「アイデアの提案者」とみなせば、建設的な対立が促進される
    • 性急に自分の意見を表明しない:リーダーの意見が明らかになるとその意見に反対することは政治的に不利だと見なされ、他のアイデアの多くが表に出てこない
    • 順応への圧力を減らす:孤立する恐れが少なければ少ないほど忌憚のない意見が出てくる。あえて反論する役割を設けるなどをして、少数意見を持つ人の意見表明を容易にする
  3. 対立を建設的に解決する(決断の本質
    • 基本ルールを定める:議論が尽くされた時は(全員一致や決定内容に確実性がなくても)リーダーが責任を持って決める、などのルールを明確にしておく
    • 認知スタイルの違いを尊重させる:各メンバーが好む情報を整理するスタイルを理解しておく
    • 前提を再検討させる:合意が得られない場合、相違が発生している前提の違いに遡って、そこで再度議論させる

以上のように、意思決定での選択においては、複雑な条件のもとでの選択方法、直感的な選択での感情を抑える方法、集団を建設的な対立に導く方法、など様々なレベルに応じた選択技法を身につけておく必要があるのです。

まとめ

  • 意思決定の最終段階では、創出された選択肢の中から一番望ましい実行結果が得られそうなものを選択するが、この選択が難しい。選択肢や達成目的が複雑でその優先度を把握することが難しい、完全な情報が得られ得ず直感的な選択を迫られる中で一時的な感情に左右される、集団の対立の管理が難しい、などの問題がある
  • 情報が十分にある中で複雑さを管理し優先順位を適切に把握するためには、加重判断モデル、結果表や結果順位表、等価交換などの技法があるので、それらを心得ておくべきである
  • 直感的な選択を迫られる場合には、一時的な感情に左右されないように、「決断の前に距離を置く」ことが必要である。そのためには10-10-10フレームワークや「傍観者の立場に身を置く」などのテクニック、単純接触効果や損失回避などの認知バイアスを知っておくべきである。さらに、距離を置いた上で精度の高い選択をし続けるために核となる優先事項を定めておくことも重要である
  • 集団の中で適切な選択を行うためには、適度な対立を管理するために、次の3点に注意する必要がある
    • 健全な対立を促す文化を作る
    • アイデアの衝突を促す
    • 対立を建設的に解決する