改革における抵抗勢力への対処法:組織営業化への属人営業の抵抗の例


Last Updated on 2021年3月3日 by 時代遅れコンサルタント

改革で組織化が必要な理由を、組織論の基本に戻って説明する

ビジネス環境の変化に伴い、色々な業務プロセスの変革が必要になることがあります。多くの場合、新しい業務プロセスを設計し現場に導入することが必要となりますが、その時に細心の注意を払わなければならないのは、新しい環境に反発する抵抗勢力の取り扱いです。

例えば営業では、案件の複雑化に伴い1対1の営業から多対多の営業への改革が必要となります。その流れの中では具体的には、次のようなことが必要になってきます。

  1. 顧客が購入したい内容が単なる商品・サービスから問題解決支援に変わってきている
    • これを支えるためのソリューション営業プロセスが必要となる
  2. 問題が複雑化するにつれ、顧客側の発注に関わる関係者が複数化している
    • このための顧客関係マネジメントが必要になる
  3. 同様に、問題が複雑化するにつれ、営業以外の専門家も加わった組織的な解決体制が必要となっている
    • このために属人営業から組織営業への変革が必要になる
  4.  組織的な営業を効率的に支えるための業務の標準化や仕組み化が必要となっている
    • このための案件管理や様々なプロセス化が必要となる

この中でこれまでのやり方で成功していた人たちから一番抵抗を受けるのが、3の組織化です。

営業で組織化が必要になる理由は、3に文字で書いてあるとおりで、第三者的にはこの内容には特に問題は感じられません。

しかし、これまで属人的な営業で比較的「自由に」振る舞うことが許されてきた人たちにとっては、「組織営業」という言葉は特段のメリットもないのに自分たちを縛るをものと受け取られ、「組織化」という言葉にアレルギーを示して抵抗することが頻発します。

この抵抗を納得へと切り替えるためには、組織化とは人を縛るものなどではなく、むしろ人々が効率的に働くためには必要不可欠なものであることを、原点に戻って説明できる必要があります。

コンサルタントがその説明ができるためには、組織論の基本に帰って次のような理解しておく必要があります。そのことを、以下解説していきます。

  • 皆が納得できる組織化の条件とは
  • 円滑で効率が上がるコミュニケーションが成立するために必要なことは何か

組織化とは何か、なぜそれが必要か?

組織の定義、必要性を説いた経営学の原典としてあげられるのは、バーナードの「経営者の役割」です。そこで、バーナードの組織の定義に遡った説明を考えてみましょう。(ここでの目的は基本に戻って説明する方法を考えることで、バーナードの定義は例として用いるだけです。したがって、それ以外の組織の定義を用いても構いません。)

バーナードによれば、組織が必要とされるのは個人の能力を超えた目標を実現する必要がある時であり、組織は以下の条件が満たされる時に成立するとされています。

  1. 相互に意思を伝達できる人々がいる
  2. それらの人々は行為を貢献しようとする意欲を持っている
  3. 共通の目的の達成を目指す

したがって組織の要素は次の三つです。

  1. 伝達(コミュニケーション)
  2. 貢献意欲
  3. 共通目的

この定義に沿って、抵抗勢力への説明方法を順に考えてみましょう。

まず、最初にすべきことは、この定義に賛成してもらうことです。

この定義はごく当たり前のことを述べているだけなので、それに賛成しないとすれば、企業に勤める人として問題があると言えるでしょう。その場合は、人事に相談することになるでしょう。

ということで、通常はこのレベルでの反対には遭遇しません。それでも、ここで賛成を得ておくことは、議論の揺り戻しを避けるためには非常に重要なのです。

次は、今問題になっているケースで組織化が必要なことの確認です。

ソリューション営業では、担当営業一人では提案ができない状況を想定しています。これに反対するとすれば、高付加価値のソリューション提案をするという企業の戦略に賛成していないことになります。その場合は、企業戦略に戻って議論をするべきでしょう。

戦略に合意していて、かつバーナードの定義を受け入れれば、組織が必要なことは明らかなはずです。それでも抵抗を示す営業には、「組織」という言葉で想定しているのは「一人でできないことを解決すること」だけであると説明して、納得をしてもらうのです。

続いて、組織の三要素を具体化して、これが必要なことを順に納得してもらいます。

今の文脈では、共通目的は「企業として高付加価値を生むこと、より具体的には顧客にソリューション提案を受け入れてもらうこと」です。戦略に合意していればこの目的は受け入れられるはずです。

また、貢献意欲に合意しない人は企業の構成員としては問題がありますので、そのようなメンバーの扱いは人事との相談事項になります。したがって、ここも普通はパスできるでしょう。

このようにして詰将棋をしていけば、残る問題は伝達(コミュニケーション)だけになるはずです。

円滑なコミュニケーションの成立条件は何か?

ソリューション営業では、その案件に詳しい専門家が参画することが求められます。したがって、参画するメンバー(専門家)が案件ごとに入れ替わっても「相互に意思を伝達できる」コミュニケーションの仕掛けが必要です。それは何でしょうか?

その手がかりを得るためには、コミュニケーションの成立条件を理解しておく必要があります。

そのために必要な知識は、図に示す記号論で用いられるコミュニケーション・モデルです。(池上嘉彦、「記号論への招待」参照)

このモデルは、受信者が発信者の伝達内容を理解するためにはお互いが共通のコードを理解している必要があることを示しています。ここで、コードとはあるシステムあるいは集団に属する成員が従うべき規約のようなものと考えておけば良いでしょう。

コードの例としては、交通法規、ドレスコードのようなものがあります。交通法規を知らずに車を運転すれば交通事故が多発します。また、お葬式に派手な服装をしていけば、参列者が想定している厳かな雰囲気がぶち壊しになります。

事前にコードが共有されていれば、以心伝心の相手でなくても、共通目的に合った行動を調整することができる(コミュニケーションができる)という訳です。多くの人が交流する社会は、このような多様な規約をベースにして成り立っているのです。

スライド1

以上の内容を理解すれば、バーナードの定義に合意していれば、コードの必要性にも合意してもらえるでしょう。

ソリューション営業で必要な規約(コード)

そうなると、最後に残る問題はソリューション営業でのコミュニケーションの円滑化にどのようなコードが必要かということになります。

ソリューション営業のような協働作業を円滑に進めるためには、次のようなことが必要になると考えられます。

  • 参加者がいつ協働作業を始めれば良いか、何を成果物として達成すれば作業が終わるかがわかる
  • 参加者は自分がどういう役割を果たすべきか、協働するために他のどういう役割の人をどういう理由で頼りにできるかがわかる
  • 自分の役割を果たすために、どういう業務を遂行すべきかがわかり、他の役割担当者から依頼された作業を実行できる

つまり、コードとして以下のものが共有されている必要があることがわかります。

  • 協働作業の開始条件と成果物
  • 参加者の役割分担
  • 各役割が遂行すべき業務内容

ここでよく考えてみると、コードに含まれている内容はビジネス・プロセスの定義そのものです。すなわち、ソリューション営業のような協働作業を円滑に進めるには、ビジネス・プロセスを定義し、それを共有することが必要だということです。

以上で、ソリューション営業には組織化が必要なこと、メンバーの円滑なコミュニケーションのためにはビジネス・プロセスが定義されている必要があること、が説明できました。

この結論は当たり前のことですが、抵抗勢力には、このように順を踏んだ説明をし納得を得ることが必要なのです。決して一足飛びの結論を押し付けてはならないのです。

(ソリューション営業プロセスの内容については、次回検討することにします。)

まとめ

  • 組織化のような抵抗勢力の存在が予想される改革テーマでは、自明と思われる結論でも、順を踏んで合意形成を図る必要がある
  • 合意形成を図るためには、誰もが納得できる前提から議論を始めるべきである(例:バーナードの組織の定義のような「緩い」定義)
  • 合意形成の議論を進めるためには、複雑な概念を簡潔に理解させることも必要になるので、時には理論の援用も必要である。このためには、先達の経験例に学ぶんでおくことも必要である(例:コミュニケーション・モデルの「コード」)