タイプ別改革プロジェクト成功法:誰がなぜ始めたかを理解して失敗要因をつぶす


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プロジェクトの失敗(しりすぼみ、結果が思わしくない)は、ある程度予見できる

事業部トップの期待を受けて競合他社への優位性を確保するための構造改革プロジェクトが始まりました。若手のエース課長がプロジェクト・リーダーです。

各部門代表の見識者が喧々諤々の議論を交わし、立派な構想計画書が提出されます。でも、その次のフェーズの進行がパッとせず、いつの間にか当初の勢いは影を潜め、一人二人とプロジェクトから抜けていきます。

ベテランのコンサルタントなら、一度ならずこのような経験をしているはずです。

また、長い時間かけて仕組み(業務プロセス、制度、ITシステム)を構築したのに、当初期待した成果が一向に得られない、ということもよく起こります。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?

これらのプロジェクトには多大な人の工数と時間がかけられているのですから、事前にこのような失敗の可能性が予見でき、それを取り除く、あるいは最悪でもプロジェクトを中止するなどのことができれば、それに越したことはありません。

そして、それはある程度可能なのです。その方法を検討しましょう。

改革プロジェクトには、主管部門と開始動機で分けた4タイプがある

実は、改革プロジェクトが成功するか否かをある程度予見するには、そのプロジェクトがどの組織によって、そしてどういう動機で始められたかを理解すれば良いのです。

企業の組織にはラインとスタッフの2つのタイプがあります。

ラインは、自分の組織の業務上の問題があれば、それを直接解決することができます。これを「事業変革型」のプロジェクトと呼びましょう。

それに対し、スタッフはラインを支援することが目的で、直接業務上の問題を抱えてはいません。

スタッフ部門が自ら解決できるのは、ラインを支える仕組みの改革です。スタッフは、ラインがより良い仕事をするための準備をするのですから、これを「準備型」プロジェクトと呼びましょう。

次は、プロジェクトの開始動機です。

人間が変革を志す理由は二つしかない、と言われています。そのトピックに苦痛を感じているか、何か新しいこと、何か違ったこと、魅力的なことに心を捉えられた時のいずれかです。

プロジェクトを開始する動機には、危機解消型と理想追求型の2つがあるのです。

これらを掛け合わせると、プロジェクトには次の4つのタイプがあることになります。

  1. 危機解消型 – 事業変革型
  2. 危機解消型 – 準備型
  3. 理想追求型 − 事業変革型
  4. 理想追求型 – 準備型

これらの組み合わせに特有の失敗原因があり、それらはある程度予見することが可能なのです。

以下、その点を危機解消型、理想追求型という大きな軸を中心に見ていくことにします。

「危機解消型」成功の前提条件は、バーニング・プラットフォームの存在

危機解消型のプロジェクトの失敗原因の一番大きなものは、危機感の共有の失敗です。その理由は、人間は頭の中で危機を理解しても、その解消行動をとることをためらう傾向があるからです。

このことを、「変革の管理」そのものを研究するチェンジ・マネジメントの世界ではよく使われる、「バーニング・プラットフォーム」の例を用いて説明しましょう。

かれこれ25年ほど前に、筆者がシンガポールでチェンジ・マネジメントの研修を受けた時のことです。講師が、いきなり1枚の写真を見せて「これが何かがわかりますか?」と聞きました。

何かが燃えています。よく見ると、海上にある高い構造物のようです。さらによく見ると、油田のプラットフォームのようです。

Burning iranian platform

講師と研修生の会話が続きます。

講師: 「これは、過去にあった北海油田の火災です。(写真は実際のものとは異なります。)当時、このプラットフォーム上に200人いたのですが、何人助かったと思いますか?」

研修生:「20人」、「0人」、「12人」

講師: 「実は、4人です。では、この4人はどうして助かったのでしょうか?」

研修生:「海に飛び込んだ!」

講師: 「当然、そう思いますよね?でも、よく考えてください。ここは北海で、しかも冬です。飛び込んでも、すぐに凍死します。さらに、プラットフォームはビルの8階の高さです。その高さから飛び降りると、水はコンクリートと同じ硬さになります。まず助かりません。さて、4人はどうしたのでしょうか?」

研修生:「。。。。。。。。」

講師: 「やっぱり飛び込んだのです。」

と言って、講師は生存者へのインタビューの録音を聞かせます。

生存者が語っているのは、次のことです。

「海に飛び込んだら、99%死ぬと思った。でも、プラットフォームの上に残ったら100%死ぬ。だから、残りの1%に掛けた。」

以上の会話から、次の2つのレッスンが得られます。

  1. 人間は万やむを得ない時は、大きなリスクを背負って行動する(まず死ぬとわかっていても、海に飛び込む)
  2. そのような場合でも、リスクを取らない人が大勢いる(ほとんどの人間が、飛び込まずにプラットフォーム上で焼け死ぬ)

チェンジ・マネジメントでは、海に飛び込むような万やむを得ない理由がなければプロジェクトは起こせない、そしてプラットフォーム上で焼け死ぬような人たちに危機意識を持たせて巻き込まなければ、多勢に無勢で改革プロジェクトは失敗する、と教えているのです。

危機解消型の改革プロジェクトを開始するにあたっては、バーニング・プラットフォームのような危機感を抱かせるものの存在を確認し、それをプロジェクト関係者に共有させる工夫が必要なのです。

「事業変革型」での危機感の共有に必要なのは、現状分析の徹底

あるグローバル市場向けデジタル家電を作っているA社のサプライチェーン・改革プロジェクトでの話です。

デジタル家電の主要販売ルートは、先進国ではどこでも家電量販店です。量販店は人気商品の売り逃しを嫌いますし、不人気商品の在庫を抱えることも好みません。

したがってメーカーに対しリードタイム(注文を受けてからお店に届ける前にかかる時間)の短縮を求めます。そうすれば、最新の鮮度の高い売れ行き情報をもとに注文でき、売れ行きが鈍った時は発注量を減らしてすぐに在庫を圧縮できるからです。

2000年代前半の家電量販店の雄は、アメリカのBest Buyでした。Best Buyの求める標準リードタイムは4週間で、最悪でも8週間以内に納めることを求めていました。そして、世界中の家電量販店がそれに倣い始めていました。

A社のリードタイムは8週間でした。Best Buyから”Worst Supplier”(最悪のサプライヤー)と呼ばれていたのです。

ところが、実はこの話は現場では知られていましたが、事業トップは本当にそこまで深刻な事態なのか、単なる口頭で文句を言われただけなのかどうか、に確信が持てずにいました。

それが事実であることが明らかになったのは、外部から参加したコンサルタントが、他社で同様のサプライチェーン改革をやったことがあったからです。そのコンサルタントは、Best Buyがそれぞれのサプライヤーの評価表を当該のサプライヤー自身に渡していることを知っていたのです。

この知識をもとに社内を調べてみると、確かに評価表がアメリカの販社に保管されていました。現場はただの通知表と解釈しそのままにしておいたのですが、それを見たトップが危機感を抱きました。

その危機感のもとに、工場から出荷された後の海外の量販店への物流リードタイムが徹底的に調査されました。すると、航空便で運んでいるにも拘らず、通関や倉庫での積み替えなどの見えないところで大きな時間を取られていることが判明しました。

工場での生産リードタイムだけでなく物流リードタイムを含めた全社的な改革が必要なことがわかり、一挙に全員の緊張感が高まったのです。

その結果、2年半をかけてリードタイム短縮と販売予測制度向上の仕組みを作りあげ、顧客満足度を向上させるとともに、自社の在庫削減にも成功しました。

プロジェクトの成功のためには、関係者全員の危機感の共有が重要です。そして、共有のためには、全社で断片的に管理されている情報を統合し現状を正確に捉えることが必要なのです。(下図の①のケース)

全く同じことが、問題が解けないままで残っている時は、前提となっている制約を外す での営業と設計の合意形成の話にも当てはまりますので、そちらも参照ください。

「危機解消型 − 準備型」の成功条件は、事業部の巻き込み

このタイプに該当するのは、事業のインフラ(業務プロセス、制度、ITシステム)が古くなっていて、それが事業の運営を阻害するという危機が存在する場合です。

ここで問題となるのは、危機は「事業の阻害」にあり、それ自体はスタッフ部門の管轄外だということです。にもかかわらず、仕組みの不具合の問題だとして、改革をスタッフ部門に丸投げするケースが多々あります。

その結果、スタッフ部門だけで実現した解決策が実ビジネスに合っておらず、大きな工数をかけたのに期待した効果が出ないということが起こります。

したがって、このタイプのプロジェクトでは、ライン主導で実施するか、プロジェクトの成功基準の設定をライン参画のもとに精密に行う作業が必須となります。(下図の③のケース)

「理想追求型」プロジェクトでは、2つのタイプを見定める

数は少ないですが、コンサルタントが支援依頼を受ける改革プロジェクトには、危機感から発生したもの以外のものもあります。

本記事の冒頭で述べた、新しいこと、魅力的なことに心を捉えられて、「こうありたい」という目標を達成しようとする理想追求型です。

この種のプロジェクトには二つのタイプがあり、それぞれ注意すべき点が異なります。

その一つは、長期的な会社のビジョンを達成しようとする「理想追求型 − 事業変革型」です。

この場合、危機とは異なり「こうありたい」という目標は全員が合意できるほど明確なものではないことが多いです。壮大あるいは抽象的な目標は、それが達成されたことを誰かが判断する必要があります。

したがって、創業者や企業の中興の祖などの強力なリーダーシップが伴わないと、この種のプロジェクトは成功しません。そして、普通のコンサルタントがそのような機会に遭遇することは、残念ながらあまりありません。(下図の②のケース)

二つ目は、「当社はこうありたい。そのために、こういう業務プロセス、制度やITシステムを構築する」という「理想追求型 – 準備型」です。

このケースで注意すべきは、プロセス、制度、ITシステムなどのインフラを構築しただけでは「こうありたい」という目標は実現しないことです。それらの構築は目標を実現するための手段にすぎず、目標の実現のためには、さらにその先に実行すべきことが多々存在するのです。

ここでの問題は、この種のプロジェクトを遂行しても、それだけで成功したかどうかを判定することが難しいことです。

理想追求から始まった準備型プロジェクトについて、もう少し考えてみましょう。

「理想追求型 − 準備型」プロジェクトでは、「自己都合」に注意する

このタイプのプロジェクトに対しコンサルタントが心得ておくべきことは、プロジェクトの提案者は最終成果を出すことまでコミットしていないということです。最終成果を出すのは「他の誰か」の責任になっています。

最終責任を取らず、その手前で設定された“こうありたい“という目標は、本質的に提案者の自己都合のものになるはずです。

ここで、自己都合とは、「自分にできる」、「自分が役立っていることを証明できる」ことだけをやれば充分とする態度のことを指します。

IT部門などのスタッフ部門は、事業部門の仕事を支援するのが任務です。したがって、彼らには事業部門の役に立っていることを証明したいという強い動機があります。そのため、準備型のプロジェクトを提案することがよくあります。

自己都合は誰でも考えることなので、それ自体に問題はありませんが、コンサルタントはその内容を理解して二つのことに備えておく必要があります。

一つは、準備型プロジェクトが達成すべき効果の合意です。

たとえば、「手段から入るな!」という教訓を生かすためにで説明した部品表構築プロジェクトの例では、IT部門が「自分にできること」をもとに算定した効果が十分でないとして、事業部トップから二度差し戻されています。

しかし、仮にこのプロジェクトがトップのGOサインを得ていたとすれば、システム構築後に十分な投資対効果が得られないと、大きな問題になっていたことでしょう。そして実際にそのような例は枚挙にいとまがないのです。

準備型プロジェクトの達成成果については、事前に注意深く合意形成しておく必要があります

二つ目は、クライアントが何をどこまで「準備」するつもりかの確認が必要だということです。

準備のレベルを読み誤った例を、お話ししましょう。

ある企業のIT本部が、コンサルタントにコールセンターをうまく活用した新しいCRM(Customer Relationship Management、顧客関係マネジメント)の仕組みを作りたいと、相談を持ちかけました。

プロジェクトを引き受けたコンサルタントは、通常のやり方で、何のためにそのプロジェクトを手がけるのか、何が問題かを問いかけました。ところが、「顧客のニーズが掴めない」、「営業を効率化したい」などのごく一般的な返事しか返ってきません。

実は、そのコンサルタントは組織の事情でピンチヒッターとして事に当たったので、CRMについてはあまり詳しくなく、方法論で解決できずに困り果ててしまいました。クライアントからも、「自分たちで解決できないから頼んだのに、何の価値も提供してくれない」と不満を告げられる始末でした。

進退に窮したコンサルタントは、友人に助けを求めました。

その友人は、コールセンター経由で高額で複雑な製品を売る「セールス・センター」の運営責任者でした。彼の経験が、クライアントの漠然としたリクエストにある、「コールセンター」、「営業の効率化」という2つのキーワードに関連していそうだったからです。

友人がクライアントとの会話を取り仕切るようになると、クライアントの態度が一変しました。そして、プロジェクトは成功裏に終了しました。

でも、友人はコンサルティングの専門家ではありません。彼がやったことは、自分が関わったセールス・センターの仕組みとそれが必要とされる背景の説明だけだったのです。

このことからわかることは、実はクライアントは実際のCRM上の問題を解決する気は無かったということです。彼らは、事業部門がセールス・センターの仕組みを必要とした時の「準備」のために、勉強をしておきたかっただけなのです。

この本音を理解せずに、仕組みを構築するものと捉えてしまったために、コンサルタントは二進も三進も行かなくなってしまったのです。

自己都合の準備型プロジェクトに対しては、提案者の本音を理解し、それに対し何が貢献できるかの見極めが重要です。(下図の④のケース)

スライド1

 まとめ

  • 期待を背負って始められた改革プロジェクトがいつの間にか頓挫する、あるいは大きな工数をかけて構築したインフラが期待した効果を生み出さない、などのことがよく起こる。これらの原因は、プロジェクトのタイプを理解すれば、ある程度予見できる
  • 失敗を予見するためには、プロジェクト・タイプを、危機解消型か理想追求型か、および事業変革型か準備型かの2軸で整理すれば良い
  • 危機解消型の失敗原因は危機感の共有の失敗である。事業変革型で危機感を共有するためには、現状分析の徹底が重要である。企業内に分散された情報を統合し、本当に改革に迫られていることを関係者に納得させる必要がある。準備型では、影響を受ける事業部門の主導的参画が必須である。
  • 事業変革型で理想追求型のプロジェクトを真の意味で成功させるには、強力なリーダーシップが必要である。それがないプロジェクトにコンサルタントは参画すべきでない。
  • 理想追求型で準備型のプロジェクトには、スタッフ部門の存在価値を証明したいという動機に基づくものが多い。それらの動機をきちんと把握し、事前に十分な効果算定と合意をする、あるいは勉強型に止める、などの対策が必要である。