時間という経営資源を生かして資本回転率を高める方法


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急速に成長する企業の秘訣は何か?

世の中には、同業他社と比べて圧倒的に急速に成長する企業があります。

コンサルタントなら、その急速な成長を支える原則を心得ておくべきですよね?ということで、今日はその成長を支える方法の話です。

急速な成長の代表例がウォルマートです。

ウォルマートは、創業者サム・ウォルトンが、1962年7月2日に最初のウォルマート・ディスカウント・シティーを、アーカンソー州ロジャーズに開いたものです。当初は、アーカンソー州付近の人口1万人以下の小さな町に出店する目立たない存在でしたが、その後下図に示すような急激な成長をしています。

出典:http://www.garbagenews.net/archives/710120.html

驚くような成長の例は、ウォルマートのような大企業に限りません。

筆者がかつて足繁く通っていた六本木の飲み屋があります。ビルの地下にあるので地代は安いですが、瀬里奈の脇の道をずっと入って行ったところなので、それでも一等地です。

食材が素晴らしく非常に繁盛していたのですが、その理由は店主が笑顔でぼやきながら言っていた「ウチは原価率が50%超えているんだよ、それでやって行くのは大変なんだよ」ということにありました。

さらに驚いたことに、そのお店は店主のお母さんが屋台を引いて作ったというのです。

どうして屋台から六本木に店を出せるようになるのでしょうか?さらに、原価率50%強でやっていけるのでしょうか?

ウォルマートの急速な成長とこの店の六本木への出店に共通するのは、スピードの速さです。

ラム・チャランが書いた  ビジネスの極意は、インドの露天商に学べ という本に書かれているように、資本回転率が高いのです。(この本の41ページに書かれているニカラグアの露天市場の女性商人の話は参考になるので、時間があれば是非読んでください。)

そして資本回転率が高い理由は、時間の使い方が上手いからなのです。その時間の使い方について見ていくことにしましょう。

時間という経営資源の重要性

企業の経営に時間の使い方が重要であることを早い時期に明確に述べたのは、ヘンリー・フォードです。タイムベース競争戦略 (この本は、アップルのCEOティム・クックが同僚や新入社員に読めと配っていることで有名です)には、フォードの著書 Today and Tomorrow に書かれた次のような彼の言が引用されています。

(フォードの言い回しが難しく、そのせいで翻訳がわかりにくい(実はかなりの誤訳の)部分があるので、一部原書 Competing Against Time から直接訳しました。)

  • もともと原料や完成品の在庫に投じた資金は生きたカネだと考えられている。確かに、それらは事業に必要な資金である。しかし原料や完成品の在庫を必要以上に抱えることは浪費だ。そしてこの浪費は、その他の浪費と同様に、高価格と低賃金として跳ね返ってくる
  • 生産に関わる時間は、原料が採掘された時から完成品が最終消費者の手に届く時までに渡る。「時間」は全ての形態の輸送を含み、全国のサービスの仕組みに渡って考慮しなければならない。時間は、動力の応用や分業と同じく、節約や価値提供を実現する方法である
  • 時間の浪費は回収することができないという点で、原材料の浪費とは異なる。浪費するのが最も容易で、それを是正するのが最も困難なのが時間だ。なぜなら浪費された時間は、原材料とは違って床に散らかっていたりしないからだ。我々の業界では時間を人間のエネルギーと考えている。生産に必要な量よりも多くの原材料を購入すれば、人間のエネルギーは使われずにため込まれてしまい、たいていは価値が下がる
  • 必要量の2倍の原材料を持つことは、一人の人間で済むはずの仕事をやるために二人の人間を雇うのと全く同じだ。一人の仕事のために二人を雇うのは、社会に対する犯罪だ
  • 我々の生産サイクルは、採掘から完成品の在庫までほぼ80時間である。つまり、かつて記録破りだと考えていた14日間が、3日と9時間になったということだ

20世紀の初めにすでにこのような卓見に到達していたフォードは凄いですね。我々コンサルタントが参考にすべきところ大です。

さらにこの話には、続きがあります。大野耐一氏が Today and Tomorrowを熟読し、トヨタ生産方式の発想の糧としたというのです。それを裏付けるように、この本の新装版(ペーパーバック)の裏表紙には、大野さんの推薦の言葉が記されています。

大野さんは、フォードから得た着想を顧客の需要に基づいたプル生産により時間を節約したトヨタ生産方式として実現ました。(これについては、顧客満足度とキャッシュフローを同時に向上させるための能率的な生産とは を参照ください。)

このように、時間は企業の生産性を左右する重要な経営資源です。

でも、時間が生産性を左右するのは、どのような状況においてでしょうか?そして、どのように時間を活用すれば良いのでしょうか?

時間が生産性を左右するビジネス環境と、そこでの時間の使い方

それを理解するためには、次に述べる企業の生産性向上の歴史を理解する必要があります。(製造業の例で書いてありますが、その本質は全ての業界に当てはまることです。)

  1. 低賃金

新興国がグローバル市場に乗り出す時の生産性の鍵は低賃金である。たとえば、第二次世界大戦に敗れた日本は、労働者の生産性が高く円がドルに比べて98,8%も切り下げられたので、欧米に対し並外れた競争力を持つことになった。外貨が欲しかった日本は、繊維、造船、鉄鋼という労働集約的な産業に的を絞って、欧米の競争相手からシェアを奪った

  1. 専門化よる規模の経済

しかし、すぐに賃金が高騰するのでこの優位性は長続きせず、繊維産業など工程が単純な業界は衰退する。それを解決する次の手は、専門化してノウハウを蓄積し、その上で規模の経済を活用することである。たとえば、日本企業は自動車用ベアリングなどの需要量の多いセグメントに生産品目を絞り、工程を単純化し加工技術を大量生産に向くように改めコスト削減を図った

  1. 多様な製品・サービスのフレキシブルな提供

生産品目を絞る戦略は、その市場の狭さゆえにいずれ成長力が鈍るという課題を抱えている。一方、生産品目を広げると様々な管理コストが指数的に増大し、利益率が低下するという問題が生じる。これを解決する方法は、フレキシブルな生産への移行である。工場を製品別に編成し、工程単位で分散的な生産管理を行なうことにより、多様な製品を短い時間で生産することを可能とするのである

この3番目の段階において、時間の使い方が生産性を大きく左右します。(1や2の段階にある企業は、時間の使い方ではなくコスト競争力に着目すべきです。)

3番目の段階では、規模の経済が働かなくなり、その逆に多様性を管理するためのコストが指数的に増大します。つまり、製品・サービスを提供するための直接コストよりも、その背後の間接コストが増大するのです。

規模の経済を追求する段階までの企業の組織は、官僚的な職能別組織となっているのが普通です。そこでは、多額の資本投資を行って直接労働を削減することが主眼となっています。

そのため、専門家中心の業務編成を行っており、プロセス能力やチームワーク・スキルの養成よりは製品開発にはるかに多くの労力を費やしています。

このような企業では、大規模な需要に効果的に対応するために、製造、技術、購買、営業などを中央集権化して「間接費を薄める」ようにしています。その結果、変化する環境へ対応するための意思決定が、官僚的な多段階を登り、職能間で調整するために、簡単な内容でも非常に遅くなります。

この問題を解決するためには、次のいずれかの時間凝縮型事業運営への転換を図る必要があります。

  • 生産などの解決すべき問題ごとに、クローズドループの小グループを編成する。ここで、クローズドループの小グループとは、それ自体で完結した自主的に計画・行動する組織で、明確に示された目標を達成するのに必要な活動を実施する権限が与えられている
  • 同様の問題を解決する業務プロセスを組織横断で設計し、そのプロセスに携わる役割・権限を明確にし、担当者を決める。また、プロセス内を流れる案件ごとのオーナーを決め責任を明確にすることにより、上位者の関与なく意思決定できるようにする

このような体制変更のもとでの具体的な時間短縮方法の例としては、(トヨタ生産方式に代表される)顧客需要に応じたプル生産があります。(その詳細は、顧客満足度とキャッシュフローを同時に向上させるための能率的な生産とは を参照ください。)

このような転換により時間を短縮すると、時間にうるさい顧客(優良顧客)の支持を得て利益を向上させることができます。具体的には、次のような見返りが得られます。

  • 顧客はいつでもニーズに応えてくれる業者には不義理はしない
  • 顧客は、要求に応える業者には、通常の価格にプレミアムを乗せて払ってくれる
  • 顧客は、要求に応えてくれる業者からは、商品やサービスの購入を増やす
  • 口うるさい顧客を獲得すれば、業者は戦略的に優位に立つ

社内が迅速に動き生産性が向上し、顧客の支持が得られて売り上げが向上するので、資本効率が非常に高くなります。その結果、急速な成長が可能となるのです。このことを事例で確かめてみましょう。

時間短縮型企業の成功事例: ZARA

ZARAは、いわゆるファスト・ファッションの企業の一つですが、同業のH&Mとの業績格差をどんどん広げています。その理由は、H&Mが原価を下げるために大量生産して在庫を積み上げているのに対して、ZARAは顧客が必要とするものだけを迅速に生産することに徹しているからです。

ZARAは、表に示すようにトレンドファッションを百貨店のほぼ半額で提供しています。さらに、この価値を非常に高速に提供することに注力しています。

具体的には、各シーズンの商品を世界中の店舗に少量並べ、その上で売れ行きの良いものだけを迅速に補充していきます。この意思決定や行動をスピード化するために、次のような工夫をしています。

  • 商品企画や補充の意思決定は、サブブランドごとの独立したチームに任せ迅速化する
  • 商品は売れ残りを避け必要最小限しか作らず、新商品をどんどん出す。そのためて店舗には常にトレンドの先を行く商品が並ぶ。それが顧客の来店頻度を高め、同時に品切れを恐れる顧客は商品を見たらすぐに買うようになる
  • 売れ行きの良いものを必要な量だけを迅速に生産するために、生産拠点は途上国ではなくスペイン本社の側に配置しないせいかする。さらに糸やボタンなど小額なものは、生産工場にあらかじめ装備しておく。また、物流もスピードを重視し、航空機などを大胆に使用する。このための一気通貫の(職能別ではない)サプライチェーン・プロセスを確立している

このように多品種少量の流通機能の整備することにより、店舗にいつもトレンドの先を行く商品をリーズナブルな価格で並ベルことができます。そして、それが顧客のロイヤリティを向上させるという好循環が生まれているのです。

その好循環の源はスピードにあり、結果として世界最大のアパレル・メーカーとなっているのです。

企業間連携における時間短縮

時間の短縮は、企業間連携でも大きな成果を上げることを可能にします。これを実現するには、サプライチェーンの間で交換する受注、新製品などの情報の精度を高める、お互いを支援して仕事のサイクルを短縮させる、各段階の間でリードタイムと生産能力を調和させるなどの方法があります。以下、これらについて見ていくことにしましょう。

たとえば、次の図のようなサプライチェーンを考えて見ましょう。図の4段階の各企業は、市場の需要、自社の在庫水準、生産ロットの大きさなどを考えながら、注文・出荷を行なっています。

ここで、市場の変化に応じてある段階から次の段階へ送る情報が変化すると何が起こるかを考えて見ましょう。よく起こるのは次のような事態です。

  • 前年を通じて小売の需要がずるずると減少していた。そこで、各段階ではサプライヤーへの注文を徐々に減らし、」そのサプライヤーは毎月の生産と出荷をだんだん減らしてきた。在庫も減らしてきた
  • そこへ、ファッションのサイクルが上昇に転じて、それに連れてジーンズの小売需要が予想外に上昇し始めた。小売店は、多すぎると考えていた在庫を売りさばきながら、この需要増を歓迎しながらも、ジーンズ・メーカーへの月次発注量は減少させたままにしている。その理由は、この増加は突発的・短期的なものかもしれないと考えているからである。そして2ヶ月間は在庫で賄っている
  • 増加が3ヶ月間続くと、小売店は需要が今後も強いと確信し、月次発注量を増大させる。小売店は、増大した販売を支えるために以前より高水準の在庫を必要とするだけでなく、2ヶ月の販売で減少した在庫も補充する必要があるので、ジーンズ・メーカーへの新規発注は、実際に続いてきた販売増よりも大きくなる
  • ジーンズ・メーカーは、実際には小売需要が増加していた2ヶ月間、小売からの注文が下向きだったので、在庫を取り崩すことで対応してきた。ところが突如大量注文を受けたが、今月は他のアパレルの注文をこなすので、注文増に対応できない。さらに、小売の注文が来月も高水準になるか確かめたいので、生産はしない
  • 翌月(4ヶ月目)も小売からの注文が高水準のままなので、ジーンズ・メーカーはデニム・メーカーに小売からの注文分を上回るデニム生地を発注する。在庫を補充して小売店からの注文を充足するとともに、在庫水準を以前よりも高めにして需要増大に対応する必要があると気付くからである
  • デニム・メーカーにも同じこと(需要増の見極めのための待ちと、注文をこなし在庫水準を高めるためにジーンズ・メーカーからの注文以上の原糸の発注)が起こる

これは、サプライチェーンではよく知られているブルウィップ(鞭打ち)効果です。(鞭を打つと手元の小さな変化が鞭の先では大きな動きになることを指して、こう呼びます。ブルウィップ効果をもっとよく理解するためには、学習する組織 に記載されているビール・ゲームの話を読むと良いでしょう。)

ここでの根本問題は、情報の適時性です。様子見のあげく増幅された注文がサプライチェーンを伝わるので、情報の質と鮮度が落ちていることが次第の問題なのです。

このようなことを避けるためには、サプライチェーン全体で協働して実際の最終需要の情報を共有し、各段階の緩衝在庫を削減したチェーン全体の時間短縮が必要です。そして、ウォルマートとプロクター・ギャンブルの提携に見られるように、先進的な企業間ではこのような協働が進んでいます。

サプライチェーン全体での情報共有による時間短縮は、直列に行なっている仕事の並列化によっても実現できます。部品メーカーが技術改良を行っている時、その情報を完成後ではなく改良中に伝えれば、完成品メーカーは並行して設計変更を行うことができ、市場に出す時間が短縮できます。

同様に、生産計画に関しても、短期生産計画でなく中長期の生産計画をサプライチェーン間で共有すれば、部品メーカー側がいち早く計画変更を行うことができ、生産の余裕が増大します。

また、製品が多様化した時の生産管理を混乱させる大きな原因の一つに、部品の不足があります。どれか一つの部品が不足するために、他の全てが揃っていても生産に取りかかれないという問題です。

この管理が複雑になる原因は、それぞれの部品が届く時期がバラバラなことにあります。ですから、部品メーカー間でリードタイムを揃え、部品が同時に届くようにすれば管理が単純になり、生産遅れが解消できるというメリットがあります。

このように企業間連携による時間短縮にはいろいろな方法があり、その工夫により他のサプライチェーンより時間を短縮して競争に勝つことができるのです。

まとめ

  • 世の中には、大はウォルマート、小は屋台から店舗への進出など、予想外の成長を遂げる企業がある。それらの企業に共通しているのが時間をうまく使っていることである
  • 時間という経営資源の重要性を最初に明言したのはヘンリー・フォードである。大野耐一氏はフォードの著作を熟読し、そこからトヨタ生産方式の着想を得ている
  • 時間の管理が重要になるのは、多様な商品・サービスをフレキシブルの提供する必要がある時である。多様な商品・サービスの提供に伴う間接費の増大を克服するために、クローズドループの小グループの編成、組織横断の業務プロセス設計などの工夫により時間短縮を図れば、大きな競争優位を確保できる
  • 時間を経営資源として戦略に活用して成功している企業の代表例がZARAである。コンサルタントはZARAを研究して、時間の利用方法を身につけるべきである
  • 時間短縮は企業連携でも有用な競争戦略となる。ブルウィップ効果を解消するためのサプライチェーン上での情報鮮度の向上、仕事の並列化、リードタイムの同期化、などいろいろな方法があるので、コンサルタントはこれらも勉強しておくべきである