「新業務プロセス」の設計法:ドラッカーの目的指向原則に学ぶ


Last Updated on 2020年12月15日 by 時代遅れコンサルタント

 全く新しい業務プロセスの「設計」には、業務フロー分析は使えない

業務改革に携わるコンサルタントが使用する基本的な道具に、業務フロー分析というのがありますよね?SEが上流のコンサルタントに転身したいと思った時に、真っ先に身につけるように勧められるのも業務フロー分析です。

この業務フロー分析の手順とされているものは、たとえば上流モデリングによる業務改善手法入門には次のように書かれています。それを見る限りでは、それほど難しくなさそうです。

  1. 目的・ゴールの共有と設定
  2. 業務の棚卸の実行
  3. 業務プロセスの抽出
  4. 業務フローの記述

実際、すでに存在する業務の改善(転記などの重複作業やアウトプットに全く貢献していない作業の除去、長いループの短縮、等)は、この手順で現状業務フローを記述し、目的に沿って改善点を検出し、改善点を反映した新業務フローを記述すればわりと簡単に実施できます。

問題は、この手順に従って業務フロー分析をしているだけで、コンサルタントとして飯が食っていけるかということです。そして、その答えは残念ながらNOなのです。

その理由は、これだけでは付加価値が低いからです。教科書にも載っているような手法を適用しているだけでは、プロとして高い価値を認めてもらえません。

それでは困るので、より付加価値の高い業務改革を行おうとするとします。その時にまず考えるべきことは、単なる改善ではなく、対象業務プロセスそのものが生産しようとしている付加価値まで踏み込んで考えることです。この点については、業務改革を成功させるために必要な2つの着眼点 で検討しましたので、そちらを参照ください。

ここまでは、通常の業務改革の範囲内なので、本を読めばある程度勉強できます。

しかし、さらに踏み込んで今までのやり方と全く異なった価値を提供する業務プロセスを設計しようとすると、困ったことに上記の手順は破綻してしまいます。

業務フロー分析をする対象がなくなり、今まで簡単に見えたことができなくなるからです。ここで、身動きが取れなくなるコンサルタントが多数出現します。

その理由を、先週のブランド店の接客はソリューション営業の例で考えてみましょう。

図①のモノ売りの接客プロセスから脱却し、顧客に納得してもらうストーリーを売る接客プロセスを設計しようといた場合、図を見れば分かるように現状のプロセスからはあるべき姿のヒントは全く得られないからです。現状を分析してその改善を図るのではなく、全く別の観点から「どうあるべきか」の検討をしなければならないのです。

業務プロセス設計

 まず、業務プロセスの流れを目的(最終成果)から逆算して設計する

では、どうすれば良いのでしょうか?

この場合に参考になる考え方を、ドラッカーがマネジメント 務め、責任、実践 IIで次のように書いています。

“仕事の分析は作業の特定から出発するわけではない。まずは、求められる成果が何かを見きわめなくてはいけないのだ。”

上記の手順の「業務の棚卸」から始めようとしてはいけないと言っているのです。そうではなく、最終成果物を見極め、それを生成するために必要な中間成果物を逆算して仕事の流れを作る、という手順をとるべきなのです。

ここで先に進む前に、用語の定義をきちんとしておきましょう。ドラッカーは、「仕事」と「労働」を別のものとして区別すべきだと説いています。仕事はなされるべき事柄であり、その仕事が労働により実行され成果が得られるというのです。つまり、WhatとHowの区別です。(この区別には後で戻ってきます。)

さて、最終成果から逆算して仕事を分析する(プロセスを設計する)方法を、例を用いて検討してみましょう。ブランド店の接客はソリューション営業で紹介した流通コンサルタントのAさんとの共同作業の時に起こったことを解説します。

上述の接客プロセスは少し複雑なので、議論が簡単な「売り場設計プロセス」で考えてみましょう。

ドラッカーの原則に従えば、このプロセスの最終成果は「経営者の意図」を反映した「売り場のレイアウト図」です。ということは「経営者の意図」がインプットで、アウトプットが「レイアウト図」です。

経営者の意図では漠然としすぎているので、インプットはその企業のブランド・コンセプトとしましょう。そうすると、図②-Aのようなプロセスの仕様が決まり、その詳細設計をすることになります。

ここで問題が起こりました。Aさんが、ここから一歩も進めなくなってしまったのです。次の節で詳しく解説しますが、Aさんはレイアウト設計が自分の得意領域でなかったため、それをどうすれば実行できるか分からず困ってしまったのです。

後で説明しますが、仕事の分析で考えるべきことは、できるかどうか(How)ではなく、何をすべきか(What)に集中することなのに、AさんはHowを考えてしまったのです。

ということで、Whatに集中して話を進めましょう。

レイアウト図の目的は、お客様にブランド・イメージを感じ取ってもらうような売り場の環境(床形状、質感のある壁材や柔らかな照明など)を用意し、その中で買い上げに至る顧客動線(手間のかかる高級品であればいかに座ってもらうかなど)を作り上げることです。そして、そのために備品(什器、試着室、ソファなど)を配置することです。(それぞれの設計ステップが実行できるかどうかのHowは、後で考えます。)

このように目的を明確にすれば、図②-Bのようにプロセスが展開できます。レイアウト図を作るためにはそのための仕様が必要なのは論理的に明らかだからです。

しかし、このままではブランド・コンセプトとレイアウト仕様のギャップが大きすぎます。一般に仕様を決めるのはなんらかの設計作業であり、設計作業のインプットは設計が満たすべき要件です。このように考えれば、図②- Cが導かれます。

そして、この要件定義が実行可能であれば、プロセス設計は完成です。(もし実行が難しければ、このステップをさらに分解することになりますが、ここではこれ以上の立ち入りは避けることにします。)

最終成果物からのプロセス設計

ここまでの作業は、インプトとアウトプットをつなぐ作業を、最終成果であるアウトプットを生成するためには「何をすべきか」から逆向きに辿って行ったものです。

このようにしてできたプロセスを見れば、インプットからアウトプットを生成するために、何をどの順ですれば良いかが誰にでもわかります。それが、プロセス設計なのです。

そして、この過程に、「どうすればできるか」を介在させるべきではない(WhatとHowを混在させると複雑になり本質が見えなくなる)、というのがドラッカーの教えなのです。

次に流れの各ステップ(各業務)の生産性向上を考える

プロセスが得られたとして、次に考えるべきことは、そのプロセスを(流れの順に各ステップを)生産性高く実行できるか(How)ということです。

先に述べたように、ドラッカーは仕事と労働を峻別すべきだと言っています。プロセスの各段階の仕事を実行するのは人間の労働です。仕事の分析が終わった後で、各仕事に関する労働が効率よく行えるかを検討すべきなのです。

さらに、仕事の生産性を上げるには、それぞれの仕事に適した道具(ツール)を選ばなければならないと言っています。

図②-Cで言えば、例えば「売り場要件定義」を効率よく実行するためには、なんらかのノウハウが必要そうです。それ(ツール)が見つかれば、このプロセスが生産性高く実行できる可能性が高まります。

そして、その道のプロのAさんに聞いてみると、実際に以下のような売り場要件抽出ノウハウが存在するのです。

  • 商品の特性によって対面で販売するか側面で販売するかを決める
  • レイアウトは接客(をしている店員の姿)を見せるかディスプレイを見せるかで変える
  • 顧客のマインドシェアをとる(全てを自社製品でカバーしてもらう)のであれば、視認性の高い売り場にする
  • 高級紳士服の場合は、照明を工夫した裾合わせ台に乗ってもらう
  • など

このようなノウハウを「売り場要件抽出チェックリスト」というツールにまとめておけば、売り場要件定義の仕事の生産性が向上することは明らかです。

仕事(What)と労働(How)を混同すると先に進めない

さて、先に述べたAさんが立ち止まってしまった件に戻りましょう。

実は、しばらく考えた後、Aさんは図③-Aのようなプロセス展開をしました。Aさんの頭の中は、「レイアウト図を描くのは高度な仕事なので、基本的なレイアウト・パターンが必要だ。当然、それはインプットだ」となっていたのです。

そして、基本レイアウト・パターンを作るプロセスを思いつけず、先に進めなくなったのです。しかし、実際は図③-Bに示すように、基本レイアウト・パターンはレイアウト作成のツールであり、生産性向上の条件さえ満たせばなんでも良かったのです。

仕事と労働の混同

これが、ドラッカーの指摘する仕事(What)と労働(How)の混同の例です。

仕事の流れの分析に無関係な要素を取り込む間違いはよく起こります。特によく起こるのは、業務の中身までをプロセス設計で決めてしまうという間違いです。

この区別ができない人が「科学的管理法」を作ったフレデリック・テイラーを批判しているのです。テイラーは仕事の分析をしたのであって、その仕事のツールである組み立てラインを発明したわけではありません。

しかし、その区別がつかない人が世の中の大半を占め、チャップリンの映画「モダンタイムズ」の元凶がテイラーだと言っているのです。私たちも、その誤解の理由に学び、仕事と労働を混同しないように自戒すべきでしょう。

テイラーに関する誤解については、テイラーの「科学的管理法」の「哲学」は今でも通用する を参照ください。

 まとめ

  • 業務フロー分析は業務改革コンサルタントがまず身につけるべき技法ではあるが、それを使いこなすためには、業務改革という言葉で意味されるものには2通りあることを知っておく必要がある。
  • ひとつは、業務改善への適用法である。このケースでは、現場の業務フローを記述し、その局所的改善点を反映した新業務フローを描けば良い。この場合は、現状の作業の洗い出しからスタートすれば良く、使い方は簡単である。ただし、これだけでは付加価値が低く、この習得だけでコンサルタントが食べていくのは難しい。
  • もうひとつは業務改革で、現状のプロセスとは全く異なったプロセスを新規に設計する場合である。この時、業務改善に慣れたコンサルタントは、「まず業務フロー分析をする」というえ方を捨てられず戸惑うことが多い。
  • 業務改革は、作業の特定からではなく、求められる最終成果が何かを見極めることから始める。そして、最終成果物を作るステップを逆順に辿るという目的指向のアプローチを取るべきである。改善型のコンサルタントは、この考え方になじめず落ちこぼれる危険性がある
  • また、業務プロセスの設計では仕事と労働を峻別して考えるべきである。ゴール指向で最終成果物から逆順に考える時は、仕事として何をすべきか(What)だけに集中し、その流れを設計すべきである。その後で労働の側面に移り、各仕事の生産性をどのように高めるか(How)を検討し、生産性向上に有益なツールの考案をするのである
  • テイラーの「科学的管理法」に対する批判に見られるように、私たちは仕事(What)と労働(How)の区別をきちんとしない間違いを犯しがちであるの。プロのコンサルタントとしては、この点を自戒すべきである。