業務改革を成功させるために必要な2つの着眼点:ムダの除去、費用対効果の向上


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実は、業務改革とは何をすることなのかが、わかっていない人が多い

業務改革とは、企業の生産性の向上、あるいは環境変化への対応のために業務のやり方を大幅に見直すことだ、と理解されています。その見直しに外部のコンサルタントが雇われることも多いので、コンサルタントは業務改革というのはどういうものか知っておいた方がよいでしょう。

ところが、この業務改革というものの正体が、よく分からないのです。

たとえば、「業務改革とは」というキーワードでWebを検索してみると、そもそも業務改革とは何を指しているのか — 業務改革リーダーの心得という記事の中に、以下のように書かれています。

「さて、かほどに使い古された「業務改革」という言葉だが、その使われ方は千差万別、十人十色といってよい。ざっとウェブで記事を拾ってみるだけで、実に様々な使われ方をしていることが分かる。

  • たとえば、システム導入に伴う業務の刷新のことをいう場合
  • 全社的な業務の見直し運動のことをいう場合
  • ビジネスモデルの変革のことをいう場合
  • 業務改善を意気込みを込めて総称する場合・・・

といった具合である。決まった定義があるわけではないので、どれが正解ということもない。また、「業務改善」や「BPR」といった類縁の言葉との境界も明確ではない。場合によっては、同一執筆者の同一著述の中で混用されていることさえある。」

このような状況なので、「業務改革」に関しては、色々と笑えぬ失敗が起こっています。

よくある業務改革の失敗

付加価値を理解しないままのコスト削減

たとえば、企業の経営危機に際しトップの号令のもと全社的なコスト削減が実行されたが、その後が良くない、という話をよく聞きますよね。

ある工作機械メーカーで、リーマンショック時に大幅なリストラを行った後、景気回復時に新規雇用をしても、それに見合った生産能力の拡大が実現できない、ということがありました。

複雑な工作機械の組み立てに当たっては、部品手配のタイミングが重要ですが、そのノウハウを持ったベテラン社員がいなくなっていたのです。部品手配が遅れるため、機械の組み立てができず、あちこちで増員した組立工が待ち状態になっていたのです。

生産量の低下に伴って工員の数を減らすことは止むを得ないかもしれませんが、「部品手配」という一見地味な作業が企業の付加価値生産に重要な働きをしていることを見逃したために、このような失敗をしたのです。

企業の目的である付加価値生産という視点から業務を定義しておくことを忘れ、コスト削減という手段だけに注目したために起こった失敗です。

ITという手段を入れたが、効果が上がらない

それとは別の方向の話もあります。業務改革のためにITを入れたのだが全く成果が上がらない、というタイプです。

これに対し、情報システムを活用した業務改革を成功させるためのポイントには、次のように書かれています。

「業務改革を進めてはみたものの、うまくいかない事例も多く見受けられます。その失敗事例の半数以上が、システム開発以前の上流工程に起因していると言われています。主な現象として、「課題や解決策が見出せない」「メンバーの間で意見が一致しない」「まとめた案が関係者にオーソライズされない」などが挙げられ、プロジェクトの中止、長期化、仕切り直しを余儀なくされてしまいます。失敗する主な原因としては、キーマン不在での検討してしまうこと、システムに依存し過ぎた改革案になること、業務改革の目的や範囲が不明確なまま進めてしまうことなどが挙げられます。」

これだけでは失敗する理由(の一部)はわかっても、どうすれば成功するかのヒントは得られません。しかし、「上流」という言葉で、そもそもの業務改革の目的の設定になんらかの問題があることだけは示唆しているようです。

どちらのケースも、業務改革の目的をはっきりさせずにコスト削減やIT導入という手段の実現だけにフォーカスしたために失敗したのです。

「業務改革は何のためにやるのか?」という「そもそもの目的論」に戻って検討する必要がありそうです。

業務改革の目的は付加価値生産性の向上

「業務」とは何でしょうか?ネットを見ると「繰り返し行われる作業」という定義が一般的だと書いてあります。

作業が繰り返し行われるのは、それが企業の目的達成に有効だからです。そして企業の目的は「儲けること」で、そのために「付加価値を生産」しているのです。

すなわち、「業務」とは付加価値の生産に貢献するために定常的に行われていること、ということになります。

とはいえ、それぞれの業務は単独では意味を持ちません。複数の業務が組み合わされた一連の流れの中で付加価値が生産されていくのです。この一連の付加価値生産の流れを業務プロセスと呼びます。

たとえば、製造業の部品購買プロセスは、部品をより安い価格で購入することを目的とします。その結果として製品の粗利を高くすることにより、付加価値生産に貢献しているわけです。

最近流行りのセールスフォースを利用した案件管理プロセスも、契約に持っていける案件が放置されているのを前に進めるよう促したり、獲得できる見込みのない案件を早く捨てさせたりして、投資した営業の工数あたりの付加価値(売り上げ)を向上させています。

業務改革は、この業務プロセスの付加価値生産性に問題が生じたときに実施されます。すなわち、その目的は付加価値生産性の向上です。

先に述べたリストラでは、この目的が徹底されていなかったので、付加価値生産に貢献しているベテラン社員が解雇されてしまったのです。

さて、付加価値生産性は産出された付加価値を投入された工数で割った割り算の形をしています。したがって、その向上には分子の増大と分母の低減の2通りの方法があることになります。

以下では、話を簡単にするために分母の低減についてだけお話しします。分子の付加価値の増大については、業務改革の要点:ドラッカーの原則に学ぶプロセス設計法を参照ください。

分母を低減して付加価値生産性を増大する方法には、次の2通りがあります。

  1. 各業務プロセスが生産すべき付加価値を明確にした上で、業務プロセス内で付加価値生産に貢献しない作業(ムダ)を取り除く
  2. 付加価値生産に貢献している作業の費用対効果を高める

業務改革とは

実は、ここまでわかれば、以下に述べるような経験則を利用してかなりの業務改革案を導くことができるようになるのです。以下、それぞれのケースについて検討します。

トヨタに学ぶ、付加価値生産に貢献しない業務のムダの除去

上記の1をよく見ると、それは本質的にはトヨタ生産方式におけるムダの除去に同じであることに気づきます。(よく、業務改善ではムリ、ムダを取り除き、業務改革ではもっと大きな変革を試みると説明されますが、それはそもそもの目的を考えず手段にのみ着目した偏った議論だと考えます。)

このことに気づけば、次のトヨタ生産方式のムダの定義にしたがって、以下に示すように業務改革の方法を色々と思いつくことができるのです。(ジェフリー・ライカー「ザ・トヨタウェイ(上)参照)

  1. つくり過ぎのムダ: 実際の需要以上に製品を作ることによって、過剰人員や過剰在庫による保管、移動のムダを生むこと
  2. 手持ち時間のムダ: 作業者が、自働化設備が動くのを監視しているとか、次の工程、工具、部品などを待つ、部品の欠品によりやる作業がない、ロットの作業完了待ち時間など、設備の故障や生産能力のボトルネック
  3. 搬送のムダ: 仕掛品を長距離運搬したり、非効率的な搬送方法を採用したり、工程間で部品や製品を倉庫に出し入れすること
  4. 加工のムダ: 部品加工の際に不用な作業を含めること、工具の状態が悪かったり、設計がまずかったりして加工が非効率になり、不用な動作や不良品を生み出すこと、また、必要以上に高品質の製品を作る際にもムダが生じる
  5. 在庫のムダ: 過剰な材料、仕掛かり、完成品在庫によりリードタイムの長期化、モノの陳腐化、劣化、保管や移動コスト停滞といったムダが発生する
  6. 動作のムダ: 部品を探す動作、取ろうと腕を伸ばす動作、部品や工具を積み上げる動作など、従業員の仕事中のあらゆる不用な動作、動き回ることもムダである
  7. 不良のムダ: 不良部品の製造や手直しのムダ、修理、手直し、廃棄、代替品の生産や検査は、ハンドリング、時間、作業のムダを発生させる

上記のムダの本質に着目すれば、以下のような業務改革案が作成できます。

  1. 試作作業を詰め込みすぎると、掛け持ち作業の結果の顧客納期に遅れ失注につながるムダが生じる。これを避けるための引き合い評価プロセスの導入(問題はなぜ解けないままで残っているかに実例を記述)、後続プロセスの変更によりもはや不用となった作業の削除、など
  2. TOC(制約理論)におけるボトルネック工程の強化を行う
  3. 営業が承認を受けるために社内に戻ってくるムダをなくす電子承認システムの導入と承認プロセスの改革
  4. 決済に必要な情報が付いていないエラー、あるいは過剰に詳しい情報の付加のムダを避けるための、決済条件の明確化と申請フォーマットの整備
  5. 情報システム部門がコンピュータ・システムの都合ではなく、利用部門のニーズを理解して、そのニーズに合った手軽に読みこなせる帳票だけを必要とされる時に送り届ける
  6. 提案書作成に必要な情報(顧客情報、過去の提案書、など)の整備と保管方法の確立(情報の5S)
  7. 案件管理プロセスの確立による受注確率の低い案件の早期切り捨て

このように、付加価値生産に貢献しない作業を取り除くという発想があれば、様々な業務改革のアイデアを思いつくことができるのです。

(トヨタのムダ取りを業務改革に適用する方法については、オフィスのムダ取りの本質は情報のムダ取りに詳細を記述。)

費用対効果向上の秘訣:バラバラのものをまとめる

費用対効果向上に関しては、以下の方策が有力であることが経験上知られています。

  1. 標準化: 各自がバラバラのやり方をしているもののやり方を揃える。揃える際に、うまいやり方をしている人や部門のノウハウを取り入れれば、それを学習することで組織全体のレベルの底上げになる。また、標準化すれば、足りない資源をどこに最適配分すればよいかの判断が容易になる。さらに、以下の一元管理や業務集約の基礎となる
  2. 一元管理: 各部門でバラバラに管理していたモノを一箇所でまとめて管理する。各部門でのモノの必要量は時々で異なるので、ものの共有により全体の必要量を削減できる。また、情報であれば他部門の情報も再利用できるなどのメリットがある
  3. 業務集約: 各部門でやっていた業務を一箇所に集約する。部門ごとに負担していた固定費を集約することで費用を低減できる。また、ノウハウを共有できるなどのメリットがある
  4. 専門化: 各部門で片手間にやっていた業務を集約して、それに対応する専門家チームを作ると、知識レベルが向上して生産性が上がる

これらの方策を知っていれば、例えば以下のような業務改革案を思いつくことが可能となります。

  1. 営業の提案プロセスを標準化して段階化し、どの段階でどのような資料を準備すればよいかが新人でも分かるようにする。また、後半の段階で必要な技術サポートの量を予測できるようにし、サポート量が不足するときには重要案件に優先的に配分するようにする。(これは、90年代前半のIBMのリエンジニアリングで実際に行われたことの一部になっている)
  2. 製品の試作に必要な工具を一元管理する
  3. 営業所の見積書作成などの営業サポート業務を一箇所に集約し、サービスレベルを下げずに、サポート人員数を減少させる
  4. それまで製品開発チームに所属していた購買担当者を集約して、部品カテゴリチームに再編成し、そのカテゴリに属するサプライヤーの動向を調査させる。その業界の専門家としての知識レベルが向上するので、より効果的な部品コストの低減が実現できる

 まとめ

  • 業務改革という言葉は、各人各様に使われていて、その定義が明確でないが故の失敗も数多い。これを避けるためには、業務改革が何のために行われるかの本質論にさかのぼって考え直すべきである
  • 業務改革の本来の目的は、企業の目的である付加価値生産に貢献することである。このことをしっかりと認識すれば、次のようにして効果的な改革案を導くことができる
  • 効果を上げる業務改革には大きく分けて2種類ある。業務プロセス中の付加価値生産に貢献しないムダを除去するものと、付加価値生産に貢献する作業の費用対効果を向上させるものの2つである
  • 業務プロセス中のムダの除去のためには、本質的にはトヨタ生産方式のムダの除去と同じことをやればよい。それに倣えば改革のアイデアを色々と思いつける
  • 作業の費用対効果向上については、標準化、一元化、業務集約、専門化が有力手段であることが経験上知られているので、それに倣えばよい