消費者向け製品メーカーのSCM課題の解決ステップ:販売と生産の対立(悪魔のループ)


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消費者向け製品メーカーの悩み:不確定な需要

前々回、サプラーチェーン全体での機会損失と不良在庫の削減の必要性を論じ、その対策としてサプライ・チェーン参画企業の俊敏さ(計画サイクルの短縮と小ロット同期生産の実現)が必要であることを述べました。さらに、前回部品メーカーに必要な俊敏さについて、詳細に解説しました。

では、消費者向けの製品メーカーにとって必要なSCMの要件とは何でしょうか?

機会損失と不良在庫を防止するために顧客の要求に俊敏に対応しなければなりません。その点では、製品メーカーと部品メーカーには何も差はありません。したがって、製品メーカーにも「部品メーカーのSCM」で述べた施策は必要です。

しかし、その先に大きな差があります。少数の企業を相手にすれば良い部品メーカーとは異なり、製品メーカーは膨大な数の多様で変化の激しい消費者の需要に相対しなければならないからです。

とくに消費者の嗜好は移ろいやすく、それが最近のデジタル家電に見られるような商品ライフの短縮化につながっています。グローバル化の進展に伴い、先進国と新興国のニーズの差にも配慮する必要もあります。

多様で不確定な需要をどう管理するかが、製品メーカーのSCMの最重要課題なのです。

 在庫が必要以上に膨らむ原因:不信感のループ

この需要の不確定さが、販売計画の精度に影響を与え、それが機会損失と不良在庫につながります。

その最大の原因が、製品メーカーと消費者の間をつなぐ重要プレイヤーである量販店の行動です。

量販店は自分自身の機会損失を極端に嫌います。したがって、自社のバイイング・パワーにものを言わせて、製品メーカーの販売担当者に欠品防止のプレッシャーをかけます。メーカーの販売担当者は、欠品防止用の安全在庫確保のために販売計画を多目に積まざるを得なくなるのです。

生産もこのことは承知しているので、ある程度間引いて生産しますが、そこまで大胆には削減できないので、どうしても多目の生産となります。

さらに、生産で事故が起こり納期が遅れると、量販店から欠品のクレームがきます。そうなると、販売は生産が納期を守らないから顧客を怒らせるのが問題だと生産を非難して、ますます安全を見て多目の販売予定を立てます。

それに対して、在庫責任を持つ生産は「そのような上積みが手配に時間のかかるキーパーツなどの在庫を膨らませるので経営が苦しくなる」と非難を返す、という悪循環になる訳です。(図①参照)

悪魔のループ

業界関係者は、この対立構造を悪魔のループと呼んでいます。

これでは機会損失を防止するとともに不良在庫も防止するという目的の達成どころではありません。サプライ・チェーン改革にあたっては、まずこのお互いの不信感の除去から始める必要があるのです。

(このような対立が生じ、それがなかなか解消できない原因は、対立の構成員のお互いの行動が相手に影響を与え(フィードバックがあり)、その影響が作用するのに時間遅れがあるからです。このことを理解するには、システム思考を勉強されることをお勧めします。)

まずは在庫の事態把握(流動曲線を使って)

このようにお互いが不信感を持って言い合いをしているという構図は、どこにでもよく見られる話です。したがって、サプライ・チェーン改革に携わるコンサルタントは、あらかじめこのことを承知して対策を講じておく必要があります。

ここで、そのやり方を考えてみましょう。

まず最初にすべきことは、在庫の実態の把握です。これは、図②のようなものを描くことで把握できます。

この図は、製造業では流動曲線として知られているものです。製品の生産台数や販売台数などの時間ごとの累積を表示したものです。

図の線は、左から順に、キーパーツ受け入れ数、生産台数、販社倉庫入庫台数、販売台数となっており、時間が進むにつれてその順に部品が使われて製品が生産され、さらに製品が販売される過程を表しています。

ですから、左右隣同士の線の差を水平方向に右方向に辿ると、例えば1000個目に納入されたキーパーツが使われて1000個目の製品の生産が行われるまでの時間がわかります。つまり、その線は1000個目のキーパーツが仕掛かり在庫であった時間を表しているのです。

つまり、これらの水平線を縦方向に足しあわせた図の水色の部分は、この製品の生産開始から現在までに、キーパーツがどれだけの数、どれだけの時間仕掛かり在庫として滞在していたかの総量を表しているのです。そして、肌色の部分が製品在庫の総量です。

理想的なサプライ・チェーンでは、売れた分だけが補充生産されます。したがって、図の各線は平行になるはずです。しかし、実際は図のように膨れた形になります。

サプライ・チェーンでの問題は、この在庫が過剰に膨らんでいることです。膨らんでいれば、在庫費用がかさみますし、製品の数量時に不良在庫になるリスクが高くなるからです。

そして、こうなる原因が上述の悪魔のループだというわけです。でも、本当にそうでしょうか?

流動曲線

対立の原因の自責化

図②を詳しく見ると、このメーカーに関して、いくつかおかしなことがあります。それは、次の3点です。

  • 販売予測台数と実際の販売台数との乖離がどんどん大きくなる。販売側が販売計画を多めに積む理由が欠品防止であれば、販売計画台数は実際の販売台数に安全分を足しただけで良いはずである。両者は平行であれば良いはずなので、この乖離の増大は合理的には説明できない
  • 販社倉庫入庫台数は、常に販売計画台数を上回っている。つまり、生産側の理由で欠品は起っていないので、販売側の不信感には根拠がない。(欠品が起こるのは、個別販社への物流の問題である)
  • キーパーツ受け入れ台数は、販売計画台数を大きく上回っている。すなわち売れる台数とは異なった情報をもとに発注している。販売側の上積みで仕掛在庫がかさむという生産側の主張には根拠がない

この事実からすると、お互いを非難する前に自らの行いを改めた方が、欠品を起こすことなく在庫を圧縮できそうです。

このような事実を認識すれば、販売側も生産側も相手の悪口を言い合っているだけでは、機会損失と不良在庫の防止は達成できないことに気づきます。この事実認識をして初めて冷静な議論が開始できるのです。

ですから、コンサルタントは、このような組織間の対立に直面した時には、まず実態の確認から始めるべきなのです。

(上述のおかしな出来事は、それぞれの企業に特有なものなので、どの企業でも図②のようになるとは限りません。しかし、大なり小なりこのようなことが起こっているのが普通なので、コンサルタントにはそれを見逃さない目つきが求められます。)

解決策の第一ステップ = 不安の除去

実態把握ができたとして、これらの問題を解決していくにはどういう手順を考えれば良いでしょうか?

サプライ・チェーン改革の最終的な解決策は、販売側が精度の高い販売計画を立て、生産側がそれを素早くかつ正確に実行することです。そうすれば、機会損失と不良在庫を共に最小化することができるからです。

しかし、いきなり販売側に販売計画の精度向上を要請しても、受け入れられるとは思えません。生産への不信感が消えないままで販売計画の精度を上げれば、販売側が欠品による顧客からの取引停止リスクを一方的に背負うことになるからです。それに、そもそも精度が上げられるくらいなら、とっくにそうしているでしょう。

これに対し、生産側のリスクは社内的なものです。当面不良在庫増大のリスクに目をつぶって販売の要求に応え、不信感を取り除いた上で残る問題に当たることは可能です。

ということで、最初のステップは、販売の計画通りに製品を届けることです。

販売の計画通りに届けた上で次のステップに進む

販社の計画通りに届け欠品を防止するためにやるべきことは、前回の部品メーカーのSCMの納期確約と納期遵守と同じ次の事柄です。

  • 計画サイクルの短縮(月次→週次など)
  • 調達・生産・物流リードタイム短縮
  • 日時の計画の整合性確保

これらの施策を実現すれば、販売計画さえ正しければ欠品(機会損失)は避けられることになるので、次の不良在庫防止のステップに進むことができるのです。

この先のステップは、販売計画の精度向上、全体的な在庫の管理などになり、そのためには自社の外にある市中在庫を推定するなどの作業が必要になりますが、それらについては消費者向け製品メーカーSCMでの販売計画精度向上で説明することにします。

何を学んだか?

  • 消費者用製品メーカーにとってのサプライ・チェーン改革での最大の課題は、消費者の需要が不確定で読めないことである
  • この結果、以下のような悪魔のループが発生する
    • 量販店は、機会損失を避けるために、メーカーの販売担当者に欠品防止の圧力をかける。その結果、販売担当者は販売計画を多目に積む
    • 在庫責任のある生産側は、販売側の計画の上積みを非難し、その適正化を図る。このことと、生産時のエラーが時として納期の不遵守を引き起こす。
    • その結果顧客の叱責を受けた販売がさらに計画の積み増しをおこなうという悪循環になる
    • これを放置すると、機会損失と不良在庫防止の根幹である販売計画の精度向上がいつまでたっても実現しない 
  • 悪魔のループを断ち切るためには、まず在庫のマクロ的な実態を把握すべきである。このための有力な手段は流動曲線を描くことである。流動曲線を分析すれば、在庫が膨らむのは相手側だけでなく自分たちにも原因があることが理解でき、冷静な議論が始められる
  • その上で、ループを断ち切るための最初の作業箇所に合意するべきである。その場所は、通常不確かな需要の直接の影響を受けない生産側にある。すなわち、営業の要求通りに製品を届けることから始めるべきであり、そのための施策は部品メーカーと同じことをすれば良い。
  • 営業の計画通りに製品が届き、営業が落ち着いたところで、販売計画の精度向上などの次のステップ進むべきである(この内容については、消費者向け製品メーカーSCMでの販売計画精度向上参照)