消費者向け製品メーカーSCMでの販売計画精度向上


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「不確定な需要」の何が問題か?

ここ3回の記事で述べてきたように、サプライチェーン改革の目的は、サプライチェーン全体の機会損失と不良在庫の防止です。そのためには、サプラーチェーンへの参画企業である製品メーカーと部品メーカーが協働して俊敏に行動することが必要であることを説明してきました。(サプライチェーン改革の目標部品メーカーのSCM消費者向け製品メーカーのSCMの課題

しかし、それだけでは不十分です。

サプライチェーン改革が必要となる根本原因は、最終市場の需要の不確かさにあります。それが証拠に、日本の高度成長時のような安定的な市場では、このような改革は不要でした。作った製品は、いつかは(それも比較的早期に)必ず売れるので、メーカーは作ることに専念してればよかったからです。

ですから、サプライチェーン改革では、最終消費者市場の需要をどう読むかという問題を避けて通ることはできません。

前回、消費者向け製品メーカーのSCM課題は、移りゆく消費者の不確定な需要を読むことの難しさだと述べました。そして、その解決策を阻むのが、欠品を嫌う量販店の圧力に起因する販売と生産の対立にあることを示しました。

そこで提案したように、生産側が販売の要求通りに届けることを通して対立を解決したとしましょう。そのあとに残る課題が販売計画の精度向上で、そこで最終需要の読みが課題となるのです。 

でも、ちょっと考えてみましょう。問題の設定は正しいでしょうか?本当に最終需要は読めるのでしょうか?

通常「不確か」という言葉を用いる時に問題としているのは、正確な値が計測できないということです。しかし、サプラーチェーン改革で問題となるのは、需要が「事後」にしか分からないということです。

サプライチェーン改革を成功させるためには、最終需要を読む「先行指標」が必要なのです。

現在の販売計画の立て方とその課題

ここで問題の立て方の原則論に戻って考えてみましょう。

「最終需要を読む」というのは理想論です。これをあるべき姿と捉えてしまうと、問題の解決が極端に難しくなります。

そうではなく、適切なレベルのあるべき姿を設定することにより、現状よりかなり良くなればそれで良いという考え方もあります。今回は、この考え方の方が妥当そうです。現状の販売改革の問題点を把握し、その是正策を考える、という作業をすべきなのです。

量販店に対する販売計画は、週次で立てます。消費者相手の流通業は、消費者の行動に合わせて週単位で物事を考えるからです。

メーカーの販売担当は、量販店への販売台数を週単位に向う何週間かにわたって予測します。

このうち直近の数週間(4週間とか6週間とか、量販店との契約で決まる)は、量販店からもらった確定オーダーの数字を入れます。それを超える先の週の分については、販売担当者の予測値を入れます。販売担当者は、量販店や市中の情報を収集し、それに自分のプロモーション計画の数字を上積みして、この数字を作ります。

しかし、この予測値の精度は高くはありません。確定オーダーをもらう時になって、この予測値と結構異なる数値をもらうことがしばしばです。

しかし、この予測値をリードタイムが長い部品の手配に使用するので、この精度が悪いと部品在庫の過剰や欠品を引き起こし、機会損失や不良在庫につながります。 なんとか、この精度を上げる方法を見つける必要があるのです。

販売計画の精度向上

販売計画の精度を上げる最初のステップは、何とかして最終消費者に売れている実売数をつかむことです。このデータは、量販店ではPOSデータで記録されています。

そして、幸いなことに量販店がこのデータを公開し始めています。個別メーカーには提供していなくても、POSデータを集めて分析するGkfなどの業者に提供しています。量販店全体がデータを提供すれば、市場の動向を読むことができ、それが個別の量販店の経営向上のためになるからです。

このデータが入手出来れば、市中在庫が把握できます。メーカーから量販店への販売台数(セルインと呼ぶ)から量販店の実売数(セルスルーを呼ぶ)を差し引けば、その時点での量販店の在庫が計算できるからです。(図①-A参照)

この市中在庫を分析していれば、いろいろなことが分かります。

例えば、ある量販店では、在庫がその時の売上の4週分以上あれば、売れ行きが悪く在庫がだぶついていると見なし全く発注をしないのに、4週を切ると売れ行き好調と見なし突如大幅に発注してくる、などのことが分かるのです。

また、市中在庫がメーカーの販売担当者の予想よりもだぶついていれば、担当者は何らかのテコ入れの必要性を認識できます。量販店の売り場責任者とプロモーション計画を共同立案するなどの対策が取れるのです。

このような情報を販売計画に反映すれば、販売計画の精度を向上させることが可能となるのです。 

機会損失の防止

一方、市中在庫を見て販売計画の精度を上げるだけでは対処できない問題もあります。入学・入社、母の日、クリスマスなどの季節イベントに集中して起こる消費増への対応です。

これらの消費の増加はかなり急激に起こります。ですから、販売計画が上積みされても、その場の生産量増大ではとても対応しきれません。(もしその場で対応しようとするのなら、平素からかなりの余剰生産力を持っている必要があり、それでは企業の投資効率を下げることになります。)

したがって、例えばクリスマス商戦に対しては、秋口の初めから徐々に生産を増やし在庫を積み上げておくなどの対策を取る必要が出るのです。その積み上げた在庫を、特定の目的のために意図的に積み増したという意味で、戦略在庫を呼ぶことにしましょう。

ここで問題は、戦略在庫の量をどれくらいにするかということです。またしても、その予測の精度が課題となるのです!

しかし、ここでも幸いなことに、(筆者の知見は家電業界に限っての話ですが)この精度を上げるために使えるデータがあるのです。それは、先ほどのGkfなどの実売データを月別に集計したものです。

これを加工して年間売り上げを100とした月別比を求めてグラフ表示をすれば、図①-Bに示すように各年がだいたい同じ傾向を示すことが経験上分かっているのです。

常識的にわかるように、人間の消費行動には年間のリズムがあります。これに従えば、各年の最初の数ヶ月の売り上げがわかれば、最大の売り上げがあるクリスマス商戦の傾向が読めることを示しているのです。

この情報をもとに、クリスマス商戦に向けてどれくらい増産をするかも決めていけば、それほど大外れすることはなく直近の調整で大体対応できることになります。

ただし、この増産は通常の週次のプロセスでは対応できません。それとは別の月次のプロセスを作り、そこで対応する必要があります。サプライチェーン改革では、週次のオペレーションと月次の戦略プロセスの双方の確立が必要なのです。

製品実需の把握

不良在庫の防止

ここまで、市中在庫情報を使って販売計画精度を上げ、さらに戦略在庫を用意して消費拡大期の機会損失を防止する方法について解説してきました。

そのベースになるのは、販売計画を是として粛々として生産するという考え方です。

しかし、販売計画の精度が100%になるということは到底望めません。また、販売は立場上どうしても強気で臨まなければならないので、需要後退期の対応はどうしても遅れがちです。

リーマンショックのような危機に対するためにも、会社としてのブレーキを踏む仕組みの用意が必要です。

上述のように量販店から4週先の確定オーダーをもらうとすれば、今週から4週先までの計画分は量販店に引き取ってもらえるので、自社の過剰在庫とはなりません。しかし、景気悪化でそれらの市中在庫が捌けなければ、以降の販売計画の下方修正のもととなるのは言うまでもありません。

さらに、販社には量販店以外の小さな小売店や、それらを束ねる卸売業などの需要が読みにくい顧客もあります。

したがって、実際の販売量が販売計画と異なるという事態に備えておく必要があるのです。

その時に考慮すべきことは、「生産は急には止まれない」ということです。ですから、次のことが必要になります。

  • 需要拡大期に備え、前出しの生産で余裕を見込んだ在庫を積んでおく、
  • 需要減少期に事態を早めに検出し、徐々にブレーキをかける

要するに各週の販売予測に対して正確に製品を届けることに注力するのではなく、販売トレンドに対応することに方針を変えるのです。

例えば、図②のように4週のリードタイムで届けているときは、現在がN週であるとすれば、N週からN+3週までの計画は既に完了していてFixされています。(そうでなければ、量販店に4週のリードタイムで要求された量を届けることをコミットできず、相手にされません。)

そして、今週の計画対象はN+4週の販売計画となります。

この時に、トレンドを考慮して、N+4週だけでなく次のことまで考えるのです。

  1. N+4週からN+7週の販売トレンドを読み、それが少々上振れしても吸収できる在庫を積む。これを必要在庫と呼ぶことにする(たとえば、N+4週からN+7週までの販売量合計の半分の在庫を積む。こうすれば、ある程度の需要のブレ(短期的需要拡大や需要減少も含む)に対応できる)
  2. N-1週(先週)の実在庫を把握し、それとN-1週の必要在庫計画値の差を検出する。この差をすべての販社で合計した値が非常に大きくなっていれば、大きなトレンド変動が起こっているとして、戦略在庫の積み上げと同様の月次の戦略的調整プロセスで対応する。

「必要在庫の水準を見張る」仕組みを構築するのです。

必要在庫の管理

たとえば、前週までの計画値が図②の上段のようであったとしましょう。ずっと安定的に100個売れるという予測で、在庫はその2週分の200個をキープするとしています。

この週の計画作業は、N+4週の販売計画値、仕入れ、在庫を確定することです。

今、N+4週からN+7週までの販売予測が、図の中段に示すように120から180個まで右肩上がりに増えることが予測されていたとしましょう。(例示のために、かなり急激な販売増を想定しています。)

すると、必要在庫は安全を見てこれらの総計の半分の300個となります。そして、先週の計画在庫は200ですから、N+4週に120個販売した上で残りの在庫が300となる220個が仕入れの量となります。この仕入量が生産計画に渡されます。

このようにしておけば、販売予測増に余裕を持って前倒しで対応できることになり、N+6週やN+7週になり在庫が足らなくなってから慌てて対応するよりは、はるかに生産への負荷を分散することができます。(さらに、実際のケースではこのように急激な販売増にはならないので、生産への負荷はもっと低い値になります。)

次にすべきことは、図の下段に示されている作業です。

たとえば、図のようにN-4週からN-1週の販売が不調で、在庫が積み上がっていたとします。もし、このようなことが全世界で起こっていたとしたら、何かしらの変動が起きている可能性があるので、N週からN+3週までの安定的な販売計画も見直した上で、生産のブレーキを踏み在庫を調整する必要があります。

このような作業は、数字のオペレーションではできないので、戦略在庫を積み上げたのと同様の月次の戦略プロセスで取り扱うようにするのです。

以上のことは、「必要在庫」の水準を決めていて初めて可能となることです。不良在庫防止の対策を効果的に実施するためには、販売計画に連動してどれだけの在庫を持つべきかについての全社的な合意が不可欠なのです。

何を学んだか?

  • サプライチェーン改革の目的である機会損失と不良在庫を防止するためには、参画企業が俊敏であることが必要であるが、それだけでは十分ではない。消費者の最終需要の不確かさへの対応策があって初めて問題が解決する
  • 消費者需要の不確かさが引き起すサプライチェーン上の代表的問題は、平時の機会損失、季節イベント時の機会損失、需要トレンドの変化による不良在庫の発生である
  • 消費者需要の不確かさに対応し機会損失を減少させるためには、メーカーは自社と小売の間に溜まっている市中在庫の動きを把握する必要がある。この市中在庫は、セルインとセルスルーの差を取れば把握できる
  • また、クリスマス商戦などの季節イベントによる急激な需要増の備えるためには、消費者の年間行動サイクルのデータを活用し、戦略的に在庫を積み上げる方法をとるべきである。そうしないと、過剰な生産設備を持って対応することになり資本効率を損ねる
  • 不良在庫の防止で注意すべきことは、「生産は急には止まれない」ということである。これを意識して、需要変動に余裕を持って対応できる在庫(必要在庫)を用意し、それを調整するという発想に切り替える必要がある。
  • 需要逼迫時や減退時の増減産を遅滞なく行うためには、必要在庫の水準を全社的に合意しておくことが重要である