クライアントに複数視点の必要性を理解させる方法:「顧客の都合と自社の都合の両立」の表現のためのベン図の利用


Last Updated on 2020年6月17日 by 時代遅れコンサルタント

一つの視点では問題が解けないことを理解させるには?

コンサルタントがクライアントに問題解決を依頼されるのは、その解決が一筋縄ではいかないからです。この時、コンサルタントがクライアントと同じ視点で問題を眺めたのでは、問題を解決できません。

クライアントが自分で問題を解決できないのは、問題解決能力が不足しているからではなく、問題のとらえ方が間違っていることが多いのです。コンサルタントはクライアントの問題のとらえ方の欠陥を理解し、それとは違う物の見方を取らなければなりません。

ベテランのコンサルタントは、多かれ少なかれクライアントの問題把握法の欠陥を指摘する方法をパターン化して持っています。それらの方法が当てはまると瞬時に問題を解決でき、尊敬を勝ちとることができるのです。

そのパターンの一つに、「クライアントが一つの視点でしか物事を見ていない」というのがあります。きょうは、その中のさらに一つのサブパターンについてお話しします。

顧客の都合と自社の都合の双方を見ないため効果的な合意ができない

この見出しを見て、「なんだ、当たり前じゃないか。馬鹿馬鹿しい!」と思われる方が多いかもしれません。でも、これができなくて問題解決ができないことは、非常に多いのです。

たとえば、ITシステムの開発でエンド・ユーザの要望を集めたのは良いが、それをすべて受け入れようとして非常に使いにくいシステムができた、あるいは開発工数が膨大になり、スケジュール遅延の挙句開発を断念せざるを得なくなった、という例は数多く見られます。顧客都合優先の失敗です。

逆に、最近増えている大手企業をやめたシニアがコンサルタントとして独立しようとして失敗する理由の多くが自社都合優先です。大手企業で培った専門技能を生かそうとするのですが、独立した時の相手は中小企業がほとんどです。大手とは組織運営の方法が異なるのでそこまで高度な技能は必要ない、あるいは役には立っても中小には費用が高すぎる、などのことが起こります。

このどちらのケースも、顧客の都合と自社の都合という本来考慮に入れるべき二つの視点を両立させて考えることに失敗しているのです。では、何故両立させられないのでしょうか?

偏った見方を避けるのに必要なのは適切な問題表現法:ベン図

コンサルティングに入る前に、一般的な人間関係で人の物の見方にコメントすることを考えてみましょう。

目の前に上記のような二つの視点を両立させられない友人がいたとしたら、どうしまうか?その人のものの見方が偏っていることを理解させるには、二つのことが必要です。

一つ目は、問題を中立的に表現して、誰もがその内容に同意できるようにすることです。二つ目は、ものの見方が偏っている場合、それをひと目でわかるようにすることです。

顧客都合と自社都合の両立のケースでは、この目的のために一番簡単な表現法は集合論で使われるベン図を利用することです。

次の図の上部に示されるように、ベン図を用いれば相手都合と自己都合を中立的に表現でき、さらに両者の合意を得られるのがどういうことかが客観的に表現できます。その結果、友人の問題のとらえ方がどのようにバイアスしているかを示すことができ、友人に気づきを与えるのが容易になります。

上に述べたIT開発の例では、左側の相手(顧客)都合の円内のことだけを考えて、それを自分が実現できるか(右側の自分都合の円内に入るか)どうかを考えていないことを示せば、友人の見方がバランスしていないことを指摘できます。

シニアの起業の例では、IT開発とは左右が逆になっていて右側だけを見ていることを示せば良いのです。

スライド1

営業における偏った見方の指摘例

さて、実際のコンサルティングの場面でクライアントが複数視点でものごとを見られないと、どうなるでしょうか?

クライアントにソリューション営業のコンサルティングをしている場合を想定して、詳しく見てみましょう。

このブログでもしばしば述べているように、ソリューション営業とは、顧客の悩みごとを自社の強みを生かして解決できることを示す行為です。

したがって、ここでは「顧客の都合」は「顧客が解決したい悩み」となり、「自社(クライアント)の都合」は「自社の強み」となります。両者がマッチして合意できる部分が「ソリューション」となるわけです。これを示したのが、図の下段中央部です。

このケースで顧客都合優先が図の①の矢印で示した思考です。顧客から自分のやって欲しいこと(解決して欲しい悩み)を告げられた時、それが自社の強みの範囲内にあれば引き受けます。範囲外なら「できません」と答えます。いわゆる「御用聞き営業」です。

顧客の言い方が悪ければ、自社の強みの範囲内であっても認識できないで断ってしまうリスクがあります。また、自社の強み外の要求を強み内と聞き違え、できもしないことを引き受けて苦労する可能性もあります。

②の矢印は、その逆の自社都合優先です。自社の強みの範囲内に顧客の都合が入っていると解釈する、いわゆる「プロダクトアウト」です。

機能がわかりやすい商品(モノ売り)の場合は、顧客自身がその商品で自分の悩みを解決できるかどうかを判断します。スーパーの棚から商品を手にとってカゴに入れるのが、それに該当します。

しかし、複雑な商品の場合は、売り手が顧客の悩みを解決できると主張しても正しいかどうかはっきりしないことがあります。顧客が商品を買った後で、悩みが解決できずに揉めることがあり得ます。

売上を上げようと業者に勧められてホームページを作ったけれど、コンテンツが貧弱で効果が上がらない、等のことが起こります。

クライアントの議論のタイプが①、②のどちらか(どちらの円の中で考えているか)、そして議論の対象がベン図のどこに位置しているか(交叉部かその外か)を指し示せば、クライアントに自分の思考の偏りを意識化させることができます。

合意機会の拡大への問題表現の利用法

ここまで、問題表現を工夫すれば二つの視点を自然に両立させられることを説明しましたが、ベン図にはさらにその特性を利用した利用方法があります。それは面積の拡大・縮小に関わるものです。

面積の拡大の利用方法が、図の下部左側です。これを具体的な例で説明しましょう。

部品製造業A社はある市場Pでのトップメーカーです。顧客はA社の製品をよく知っており、新しい設計のたびに「この仕様のものをくれ、仕様のここを少しだけ変えてくれ」と要求を伝えます。御用聞き営業で事足りていました。

しかし、P市場の規模が伸びないのでA社は同じ部品が使える新市場Qへの進出を考えました。

Q市場の顧客はA社の製品を知らないので、御用聞き営業では務まりません。A社の強みで解決できるQ市場の顧客の悩みを見つけ出すいわゆるソリューション営業の体制構築が必要ですが、社員にそのようなスキルは望めないと社長が悩んでいました。

それに対しA社のコンサルタントが次のようにアドバイスしました。

  • P市場だって最初は新規市場だったし、P市場のニーズも時代とともに変化しているのに対応できている。だから、A社に全くソリューション営業のスキルがないと考えるのは間違い。さらに、同じ製品を使ってもらうのだから、それが解決する「顧客の悩み」はQ市場でも共通しているはずで、P市場での経験を生かせる。
  • やり方がちょっとまずいのでせっかくのソリューション営業の機会を意識化できず逃しているだけ、と考えるべき。
  • たとえば、顧客が新しいソリューションを求めてきたときに、営業ができないと断ったが、後から技術に確認したら実は実現可能だったというケースがあるはずだ。そのような失敗を防げば、自社の強みが拡大する。(図の点線の「自社が訴求できていない強み」部分。)
  • さらに、顧客が要求した新しいソリューションをうまく実現したケースで、実は顧客のその種の悩みには気づいていて、本当は自社の方から先行して提案できていたケースがあるはずだ。他社にそのような悩みがないかを聞きに行けば、自社が解決できる顧客の悩みが拡大するはずだ。(図の点線の「顧客が気づいていない悩み」の部分。)
  • これらの作業により、「顧客の悩み」と「自社の強み」の2つの円の面積が拡大し、その結果それらの交叉部分であるソリューション機会が大きくなり、売上が向上するはずだ。

社長がこのアドバイス通り過去の失敗事例を調べてみると、Q市場で十分にソリューソン営業をやっていける提案機会があることが確認できました。

これは顧客都合と自社都合を客観化し両者を対等に見ながら、双方で見逃しているものを探す(面積を拡大する)という視点を持ったことにより可能になった例です。

より効果的な合意(より強力な解決策)への問題表現の利用法

今度は図の下部右側の面積の縮小の例です。

流通コンサルタントのBさんは、マーケット・リサーチが得意技です。また百貨店の紳士服売り場や靴売り場の出身なので、専門店チェーンの売上拡大を自分の専門領域としてきました。

しかし、これだけの定義ではなかなか集客がうまくいきません。第三者的な中小企業相談センター経由の仕事が多く、それらは別のコンサルタントでもこなせるようなものがほとんどでした。

差別化に悩んだBさんは、先輩のCさんにアドバイスを求めました。

Cさんは、こう言いました。

「コンサルタントというのは、クライアントが感心して尊敬するようでなければ務まらない商売だ。感心させるためには、クライアントがそれまで常識だと思っていたことが間違いだとわからせ(顧客の潜在的悩みを顕在化させ)別の視点(それを解決する自分の強み)を提供する、つまり相手の価値観を壊すことが一番だ。君は、何を壊せるの?」

それを聞いたBさんは、自分のクライアントの行動と自分自身の売り子としての成功体験を比較して考えました。そして、日頃からクライアントに対し感じている違和感に思い至りました。

その違和感のもとは、自分の商品に自信を持っているクライアントは“買えばわかる”と信じていることにありました。

それに対するBさん自身の考えは、「そんなことでは買う人は増えない。“買う前にわかる”でなければ売上は上がらない」というものです。この考えのもとに「商品のウンチクを綴った説明書を作る」、「その道のオピニオンリーダーの支持を取り付ける」などの活動を行い、売り子として成功してきたのでした。

Bさんは、自分の考えが当てはまるのは嗜好性の強い高級品(高級靴など)を扱う専門店だと、自分の顧客範囲を狭め活動することにしました。それ以来、大幅に範囲を絞ったのにもかかわらず、集客ははるかに容易になったとのことです。

この例は、顧客の気づいていない悩み(“買えばわかる”という、間違った思い込み)を顕在化させ、それに合った自分の強みを再発見するという手順で得られました。

顧客の悩みと自分の強みを対比させながら、より自分の強みが発揮しやすいものに絞っていく(面積を小さくする)、という視点があって初めて可能となったことです。

まとめ

  • コンサルタントは、クライアントが自分で解けない問題の解決を支援する商売である。したがって、クライアントが問題を解けずにいる理由を理解して問題に当たる必要がある。
  • クライアントが問題を解けずにいる理由として挙げられる幾つかの共通パターンがある。その一つは「一つの視点でしか物事を見られない」というものである。そして、その解決策は当然複数(通常二つ)の視点で物事を見ることである。
  • このパターンのサブパターンに、「顧客の都合と自社の都合の双方を見ないため効果的な合意形成ができない」というのがある。その代表事例が「ソリューション営業がうまく行えない」である。
  • クライアントが複数の視点で物事を見られるようにするためには、適切な問題表記法を選ぶ必要がある。上記のサブパターンでは、それはベン図の利用である。
  • ベン図を用いると、クライアントの偏った見方が顧客都合優先か自社都合優先かを中立的に表現できるので、クライアントの理解を得られやすい。さらに、集合の面積の拡大や縮小でという手段を利用して、合意機会の拡大やより効果的な合意の形成への気づき(過去の失敗をうまく生かす、集中する、等)を与えることができる。
  • 以上のように、クライアントが問題を解決できないパターンとそれを解説する問題表記法を覚えておくと、クライアントからの尊敬を勝ち取ることが易しくなる。