コンサルタントとして独立するなら社員意識から抜け出す


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ブログを再開しました。独立してビジネス・コンサルタント業を始めた人たちに、私が自分の経験や仲間のコンサルタントとの会話の中から、これからの職業人生で役に立ちそうなことをお話ししていくつもりでいます。

ここで、ビジネス・コンサルタントとは、個人ではなく企業相手に「組織の問題を解析し、パフォーマンスを向上させる方法をアドバイスする」人を指すものとします。

英語では、この種のコンサルタントをManagement Consultantと呼ぶようですが、日本語に訳すと「経営コンサルタント」と偉そうな呼称になるので、この呼び方をさせていただきます。

中小企業診断士として活躍する人は、当然この範疇に入りますが、会計士も単に財務諸表を作るだけでなく、売上債権の回収方法までアドバイスして資金効率を高めるところまで面倒を見るのであれば、対象に入ることになります。

以下、コンサルタントと言った時には、このビジネス・コンサルタントを指すものとしてお読みください。

今日の本題

コンサルタントとして独立する人は、どのようにして自分の専門分野を確立するのでしょうか?普通は、過去の職業経験を生かそうと考えますよね?理由は簡単です。経験がない分野のアドバイスをしても、クライアントが受け付けないからです。その分野での専門知識・技能をクライアントより高いレベルに引き上げてアドバイスしようとするわけです。

Aさんもそうでした。知名度の高い流通企業で売り子やバイヤーをやった経験を生かして、マーケティング・コンサルタントとして独立しました。しばらくは下請けをやっていたのですが、マーケティング・リサーチやブランド・コンセプト立案などの経験を積んで、最近自前の案件が取れるようになってきています。

そのAさんが、業績がジリ貧の企業の支援をすることになりました。

業績が低下しているため、この会社は銀行の支援を受けています。社長と銀行から派遣された役員2名と一緒に、対策を検討しました。検討の結果、消費者の嗜好の変化のため昔からの商品の人気が落ちており、会社のブランド・コンセプトを改めた上で商品を作り直すべきだとして、Aさんが得意なブランド・コンセプトの策定をしました。そこまでは、Aさんの面目躍如です。

ところが、その先がなかなかうまく進まず、先輩のBさんに相談を持ちかけました。

以下が、Bさんから聞いたその時の会話の流れです。

Aさん:  「クライアントの新しいブランド・コンセプトを作ったのですが、社長が乗り気になってくれません。役員は同意してくれています。でも、社長は、今まで通り良いものを作り続けていけば良いという考えから抜け切れないようです。こういう場合は、どうしたら良いでしょうか?」

Bさん:  「ブランド・コンセプトは何の為に作ったの?」

Aさん:  「クライアント企業が何屋であるかをお客様に伝えるためです。」

Bさん:  「何の為に何屋であるかを伝えなければならないの?」

Aさん:  「競争に勝つためです。以前は商品力が強かったのですが、最近は、競合会社からの同等の商品が増えてきたのです。」

Bさん:  「競争に勝つのは何の為?」

Aさん:  「顧客数を増やすためです。」

Bさん:  「何の為に顧客数を増やすの?」

Aさん:  「売上を増やすためです。」

この会話の流れから、何が読み取れるでしょうか?実は、コンサルタントの世界では、この種の先輩と後輩との会話が何度も繰り返されています。Bさんは「何の為?」という質問を繰り返していますが、その背後にはある仮説があります。それは、この会話の続きを見ればわかります。

Bさん:  「どこまで売上を増やすのか、社長と合意しているの?合意していれば、今まで通りのやり方でその売上が達成できかそうか、ブランド・コンセプトの変更が目標売上の達成に必要かどうか、の議論に社長も乗らざるを得ないよね?」

Aさん:  「うーーん。そこを合意していませんでした。そこからやり直します。」

Aさんは真面目な人なので、早速行動しました。調べてみるとクライアント企業には売上回復目標は既に存在していて、それをもとに議論することで、より大きな検討事項である事業ドメインの確認に進んで行ったそうです。

ブランド・コンセプトの策定経過に付いてきたはずの社長が、最後になって承知しないのは、なぜでしょうか?実際のコンサルティング現場では、このようなことがよく起こります。

コンサルティングに不慣れな社長は、それらしい方法論を示されると、何か良いものが出てくると期待します。そして、各ステップが論理的だと、わからないながら付いてきます。しかし、最終結果が得られると、原点の自分なりの経営視点に戻って良し悪しを判断します。したがって、原点で変革の必要性を納得していない場合は、必ずこの揺り戻しが起こるのです。

さて、このやり取りの問題は、2つあります。

他責はやめる

まず一つ目は、「社長が乗り気でない」という受け止め方です。ここには、社長の出来が悪いというAさんの個人的価値判断が入っています。この種の判断で「相手が悪い」と裁いてしまうと、問題は解決できなくなってしまいます。相手が悪いのなら、相手に変わってもらうしかなくなります。しかし、人が変わるかどうかは本人が考えることであって、他人にはコントロールできないからです。

さらに、本当に相手が悪いのかどうかも考え直す必要があります。

スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」に、ニューヨークの地下鉄で子供達が物を投げたりして大騒ぎをしているのに、目を閉じたまま放任している父親の話が出てきます。それに苛立ったコヴィー氏が注意しようとしてわかったのは、その家族は子供達の母親を亡くした直後で、父親は呆然としており、子供達は動揺を抑えかねていたということでした。

このように、一方の側から見て不合理な行動でも、反対側から見れば極めて当然だというケースは、数多くあります。

コンサルタントとしてのAさんは、問題解決の支援を引き受けたのですから、社長が乗り気でない背後の理由を理解して、それを手がかりにお互いが合意できる解決策を探す必要があったのです。

昔、「ベンチがアホやから野球でけへん」と言って退団したプロ野球選手がいましたが、コンサルタントはこれを他山の石とすべきです。

コンサルタントは問題があるからこそ呼ばれます。問題の中にはすぐに解決できそうなものも多いので、経験の少ないコンサルタントはついついお客様をバカにしがちです。

しかし、考えてもみてください。お客様の担当者だって社内でそれなりの評価を得たいはずですから、簡単な問題であれば自分で解決しようとするはずです。

したがって、一見解決が簡単に見える問題が残っている場合には、その解決策を実行できないなんらかの理由があると見るのが妥当なのです。決してお客様をバカにしてはいけません。クライアントがバカに見えた時は、自分が何かを見落としているのです。

「クライアントは常に正しい」のです。

 

二つ目の問題です。

目線を上げる

Aさんは人格者ですから、先輩がこのような説明をすれば、すぐにその内容を理解したでしょう。でも、そうだとしても、すぐに上記のような会話の流れを自問自答して作り出せたかどうかは疑問です。その証拠に、売上増の話題に至るまでのやりとりが結構長くなっています。

なぜ、こうなるのでしょうか?

その原因は、最初にあげたビジネス・コンサルタントの定義の解釈にあります。定義にあるように、ビジネス・コンサルタントは対象となる組織のパフォーマンスを向上するために雇われるのですが、コンサルタントが必ずしもそのことを理解していないことに原因があるのです。

前にも述べたように、この種の会話はAさんに限らず非常に多く見受けられるのです。私がコンサルティング・ファームにいた時の若手との会話でも出てきましたし、お客様のプロジェクト・メンバーとの会話にもよくありました。

この人たちに共通しているのは、社員として「お仕事をする」という意識です。すなわち、組織の中で役割分担が決まっていて、与えられた役割をこなせば自分の責任が果たせる、というマインドセットの持ち主なのです。

Aさんもある流通業の企業で蓄積した経験をもとにマーケティング・コンサルタントとして独立したのですが、基本的には当時の社員としての「私の仕事はこの範囲」という意識から抜け出せていなかったのです。

通常業務をこなす社員としてならこのような考え方でなんの問題もありません。役割ごとに何をどうすれば良いかが定められているからです。役割を果たすとどのパフォーマンスが向上するかは、役割を設計した人が考えるべきことだからです。

しかし、コンサルタントや業務改革プロジェクトのメンバーになった場合は、そうはいきません。通常業務をこなすだけでは組織のパフォーマンスが上がらないという問題を扱うからです。その場合は、どういうパフォーマンスを向上させることが求められているかを確認するところから始めなければなりません。

Aさんの場合は、策定したブランド・コンセプトは、あくまでもパフォーマンス向上のための手段です。それが対象とするパフォーマンスを確認していなかったため、Aさんと社長は同じ船に乗っておらず、議論がかみ合わなかったのです。

Bさんはこのことを見抜いていて、Aさんの目線を上げるために「何の為に?」という質問を繰り返したのです。

独立のビジネス・コンサルタントとして生計を立てていくためには、お客様から認められる専門性が必要です。その専門領域を自分が過去に担当した業務をベースに確立しようとするのは、ごく自然な流れです。

ただし、社員の眼で専門性を磨くだけでは不充分です。経営者の眼から見てその仕事がどういう位置付けにあるのか、企業全体の業績向上にどのように貢献するものなのかを理解し、その目線で経営者と議論できるようになる必要があります。

「お仕事をする」のではなく、「お仕事を設計する」ようにならなければなりません。 

まとめ

  • 組織から離れコンサルタントとして独立する際には、それまでの自分の「社員意識」を客観視して、そこから次の2つの視点で脱却することが必要となる。
  • 自分の過去の社員経験から判断して合理的な提案をクライアントが受け入れなかった時、それを「他責」にはしない。当時の社員の役割意識を超えて、相手の立場でなぜそれができないかを自分の問題として捉える。
  • コンサルタントである自分に仕事をくれるクライアントは、経営者である。したがって社員レベルで優秀な仕事をするのではなく、「経営者の目線」で物事を考える。

社長が動いてくれない