緊迫した会話を和らげる経営のプロの対話術:語られなかったことを表に出す技法


Last Updated on 2021年4月29日 by 時代遅れコンサルタント

ビジネスで会話が緊迫する時の傾向と対策

コンサルタントや経営者にとって「緊迫した会話」とはどのようなものでしょうか?彼らは、なぜそれをうまくやる必要があるのでしょうか?

たとえば、コンサルタントが初めてのクライアントの職場に入って現状分析をしようとする時は、現場の人からは自分たちの粗探しにきたのではないかと疑念の目を向けられるのが普通です。とくに職場の業績が思わしくなければ、かなりの確率でそうなります。現状分析を進めても、隠し事が多く正確なことをなかなか教えてもらえません。

あるいは、経営者が優秀だが癖のある従業員に緊急かつ重要な仕事を頼んだのだが、その人にかなりの負担をかけてしまい揉めてしまった時なども、話をどう進めればうまく収まるのか、頭が痛くなるものです。

これらの会話を注意して見ると、そこには次のような特徴があること分かります。

  • 意見が対立している
  • 大きな利害が関係している
  • 感情が昂っている

どうでしょうか?この種の会話には誰しも心当たりがあり、できれば避けたいと思った経験がありますよね?

緊迫する原因は語られていないことの中にある

では、なぜこのように緊迫してしまうのでしょうか?その原因を理解してもう少しうまく会話を進められれば、話を緊迫させずに済み助かります。

この点に関し、実は難しい会話には構造がある、共通した原因がある、ことが知られています。その構造とは、以下のようなものです。

  • 何があったかだけを議論する、その結果、誰が正しいか論争してしまったり、相手の意図を決めつけたり、責めを負わせたりする
  • 感情を表に出すことを避けていて、最後に暴発する、あるいは集中できない、関係を損ねる
  • 自己イメージが脅かされる、自分のアイデンティティが揺らぐ、思い切って言い出せないなどで不安に駆られる

緊迫した会話が大体この3種類に帰着することを知れば、緊迫の原因は実は語られていないこと(心の中のストーリー、感情、自信の揺らぎ、など)の中にあることがわかります。ですから、解決の第一歩はそれらを表に出すことです。

すなわち、事実を問うだけでなく相手の心の中にあるもの(ストーリー)を理解し共有する、自分の感情を見極めてそれをコントロールできる方法を知る、不安を取り除く方法を知る(自分にとって何が重要を知る、矛盾を受け入れる)などのことで、緊迫した会話に対処することができるようになります。

以下では、具体的にどうそれらの解決策を身につけて実行すれば良いのかを見ていくことにします。

自分から隠していることを表に出す(新しいストーリーを創る)

最初に考えるべきことは、この種の会話が始まってしまったら、その雰囲気をどうすれば和らげられるのかということでしょう。

その時には、会話は始まってしまっており、同じやり方のまま進めても状態は良くなりません。それが意味することは、既に話されたことの中には会話を和らげる手がかりはないと言うことです。そうではなく、話されなかったことこそが問題でそれらを表に出さない限り、この会話が良い方向で進展することはないと考えるべきなのです。

それがわかったら、次にすべきことは話し合うか、やめるかを決めることです。もし話し合いを続けるのなら、上述のように話し合われなかったことの確認から始めるべきです。

すなわち、相手が話さなかったこと(相手のストーリー)を学び、あなたの見方と感情を伝え、その上で協力して問題を解決するのです。とはいえ、これができなかったが故に会話がこじれたのですから、それなりの準備がないとうまくいきません。

準備の最初にすべきことは、この会話の目的を決めることです。自分はこの会話からどのような結果が欲しいのかをはっきりさせ、それに集中することです。(クライアントの現場担当者が実情を話してくれるようにする、そのためには彼らの上司から庇うこともいとわない。従業員に気持ちよく仕事をしてもらう、そのためには多少の交換条件も飲む。などなど)

このように目的をはっきりさせ、目的実現の障害を取り除くことを決意することが大切なのです。目的がはっきりしていれば、会話を緊迫させてしまった次のような目的の実現に無益な自分側の障害を取り除く心の準備ができます。

  • 勝とうとする
  • 報復しようとする
  • 面倒に巻き込まれるのを避ける

その次に必要な心構えは、二者択一しかないという考えを捨て去ることです。既に対立しているのですから、自分か相手の意見のどちらかを採用するという前提で会話を再開すれば、元の論争に戻るのは火を見るより明らかです。

そうではなく、両者が望むものを両立させる可能性のある選択肢がないかと探索する決心をするのです。そうすれば、まずお互いの考えを知り、かつそれぞれが譲り合えるものを知ることがスタート・ポイントとなることは明らかです。

そのことが腹に落ちて初めて、次の自分側の準備ができるのです。

  1. 自分のストーリーを創る(ありのままの自分を告げる準備をする)
  2. 自分の感情を見極める、変えられることを知る
  3. 自分自身を見つめる:不安を取り除く方法を知る(自分にとって何が重要を知る、矛盾を受け入れる)

このうち、2と3については多くの自己啓発本に書かれている事柄ですので、ここでは1について検討することにします。

ここで、ストーリーとは自分が見聞きしたことから作った自分の解釈です。それが元で感情を乱され、会話を緊迫させる行動に出てしまうのです。たとえば、次のような具合です。

  1. 見聞きしたこと:Aさんが、会議で私を差し置いて、重要なポイントを一人で説明してしまった。彼は上司と二人で会っている
  2. ストーリー:Aさんは私を評価していない。私を弱い人間だと思っているから、何か言えば感情的だと捉える
  3. 感情:傷つく、心が痛む
  4. 行動:会議の場で沈黙する、嫌味を言う

この過程を見てわかることは、会話をこじらせる原因はストーリーにあるということです。見たり聞いたりしたり事実は、そのままで変えようはありません。それを解釈した自分のストーリーがもとで感情が生まれ、その結果の行動が会話を難しくしているのです。

ですから、対立を解消するためには、自分のストーリーを変えるところから始めるしかありません。この時に注意すべきことは、人間はストーリーを瞬時に作り出し、その存在をあまり意識していないということです。

このストーリーを意識化するためには、行動から逆順に遡ることが有効です。自分がとった行動は否定しようがないからです。すなわち、以下の順で考えるのです。

  1. 自分の行動を自覚する:自分は今、何らかの沈黙や言葉の暴力(これらについては後述します)を使っていないだろうか?
  2. 自分の感情を見極める:この行動(沈黙や暴力)を始める引き金となった感情は何だろうか?
  3. ストーリーを分析する:この感情をもたらす引き金となったストーリーは何か?この感情は妥当だろうか?妥当でないとしたら、このストーリーは正しいのだろうか?
  4. 事実に立ち戻る:このストーリーを裏付ける事実は何か?自分が事実と呼んでいるものは、見たり聞いたりできるものか、もしくは実際の行動だったか?自分は、事実とストーリーを混同して、ストーリーを事実と思い込んでいないだろうか?

3.のストーリーの分析で気をつけるべきは、間違ったストーリーを正当化しないようにすることです。私たちが陥りがちな次のこじつけに注意する必要があります。

  • 犠牲者のストーリー:私は悪くない、善人すぎて相手の犠牲になった(自分の責任には目を背ける)
  • 悪党のストーリー:相手が悪辣なので問題が起こった(責任を相手に一方的に押し付ける)
  • 無力な人のストーリー:悲しい現状を変えられる選択肢は一切ない(現在の状況を自分が変えられないことを正当化する)

これらの正当化が正しい場合には、おそらく対立は発生しないでしょう。ですから、上述のステップで事実と感情を退避させてストーリーの正しさを疑う場合には、自分の責任を果たすところから始めるのが良いでしょう。すなわち、以下の見地から新しいストーリーを創れば良いのです。

  • 犠牲者(自分)を主体的な人に変える(目を背けている責任を引き受ける)
  • 悪党(相手)を常識的な人間に変える(分別のある常識的な人がこんなことをするのは何故かと問う)
  • 無力な人を有能な人に変える(最初の欲しいものに戻って、結果を得るために、今自分がすべきことは何だろうか、と問う)

以上の準備ができたら、次にすることは自分から始めることです。相手はこの会話を続けたいと思っていないかもしれません。憤慨したままで会話を建設的にしようと意図していないかもしれず、そのままにしておくと自分が欲しいものが得られなくなるかもしれません。

ですから、まず会話を切り出し、自分のストーリーを告げ、相手から聞き、 お互いのストーリーを共有するのです。この時に大事なのは、第三者の視点で話を始めることです。

自分の視点で話し始めると、どうしても元の会話にあった誰が正しいのかの論争が入り込んでしまいます。そうではなく、元の論争の調停者がいたとしたらどう言うかの視点で話すべきなのです。

たとえば、自動車の交通事故の調停者なら、当事者の意見はさておいて、何があったかの確認から始めるでしょう。そのように起こったことの確認から始めて、それについて自分がどう思ったか、考えたかのストーリーを(相手を非難することなく)淡々と語るのです。そして、同じように相手がどのように考えたのかを問うわけです。

安心させて相手のストーリーを聞く

自分から始めるだけで会話がうまく修復されれば、それに越したことはありませんが、相手がなかなか修復作業に乗ってこないことも多々あります。相手があなたの新しいやり方に不安を感じていれば、戦ってきたり逃げたりするでしょう。

逃げる方向に走る(沈黙する)傾向は、次の3つの段階で現れます。

  • 仮面を被る:本音を言わないか一部しか言わない。嫌味を言う。オブラードに包んだ言い方をする
  • 回避する:その話題を完全に避ける。話はするが、核心の話題に触れようとしない
  • 撤退する:会話に参加しない。会話を止めたり、部屋から立ち去ったりする

戦ってくる(言葉の暴力を振う)場合は、次のような現れ方をします。

  • コントロールする:自分のやり方を強要する。自分の意見を押し付けたり、会話の主導権を握ろうとしたりする
  • レッテルを貼る:人のアイデアにレッテルを貼り、型通りの人と言うイメージを与えたり、考えや行動がワンパターンだと強調する
  • 攻撃する:論争に勝つのみではく、一歩進んで相手を苦しめようとする。方法としては、相手を見縊ることから脅迫することまで含まれる

会話がこのような方向に進み始めたら理解すべきことは、それは双方の安心が揺らいでいるといことです。自分の安心の揺らぎに気付くのは非常に難しいですが、ここではそのためにはストレス・テストをして自分のスタイルに気づいておくべきことお伝えしておくだけにします。

ここでの本題は、相手の安心の揺らぎをどう解消するかです。ここで最初にすべきは、いったん会話の本題から外れてリラックスさせることです。その上で本題に戻るのです。

本題に戻るにしても、同じやり方を続けていたのでは相手は安心しません。戻る前に安心のどの部分が揺らいでいるのかを見極めて対応する必要があります。

ここで、安心が揺らぐ理由は、大きく分けて2つあります。

一つは会話の目的が共有されていないので、お互いの言い分が食い違うことです。この時は、そもそものお互いの会話の目的が何かまで遡って、そこに共通の要素があるかどうかを確認する必要があります。人は、手段と目的を混同したり無意識に隠したりしがちなので、「何のために〇〇をするの?」というような目的に遡る質問を辛抱強く繰り返すなどのことが求められます。

もう一つは相互の尊敬が足らないことです。共通の目的がないのなら、対話を続けること自体に意味がありません。それと同様に、相互の敬意がないのなら、対話そのものを継続することができません。敬意がないところでは、相手は自分の尊厳を守るための自己防衛に走ってしまいます。

お互いの全人格に敬意を払おうとすると、それは難しいことになりますが、自分も含めてどんな人にも弱みがあるものだと思えば、とっつきにくい人にも、親近感を持ったり共感できるようになるものです。あえて、お互いの共通部分に目を向けて、相手の立場に立って感情移入をするように努めれば良いのです。

対話を冷静化させるのに必要なプロセス化スキル

しかし「淡々と」と言っても、あなたと同様に憤慨している相手にはそうは映らず、相変わらず強引に自己主張をしていると受け止められるかもしれません。その強引さを和らげるためには、その目的に合ったプロセスを用い、相手に自分が意識的にそのプロセスを用いていること自体を伝えることも必要です。

ビジネスで、かつコンサルタントや経営者と話し合う場であれば、本来は冷静かつ客観的な議論をすべきだと言う最低限の合意は取れているはずですから、どう話し合うかと言うことそのものも話し合えるようにするのです。自分も相手も冷静になれる、メタな視点を持ち込むのです。

この時に使えるスキルが、ダイアローグスマートに載っている、STATE:(Share, Tell, Ask, Talk, Encourage)というものです。最初の3つは何をするかについての合意を促すもので、最後の2つはどうするかについての合意を促すものです。

ここで、Shareとは事実を共有することを指します。レポートの組み立て方という本にも書いてあるように、事実と意見を区別するのです。「そもそも異文化のクライアントを頷かせるレポート・ライティングの基本:意見と論証の違いを心得る」にも書きましたが、意見と違って事実には、次のような特徴があり、論争を冷静にする効力があります。

  • 事実は口論になりにくい
  • 事実は最も説得力がある
  • 事実はあまり侮辱的にならない(渋々認めざるを得ない)

事実を共有したら、次にTellで自分のストーリーを話します。共有された事実から、自分が物事をどのように受け取ったか、そのように感じたかを告げるのです。事実と区別することにより、相手の反発を和らげるのです。分けた上で自分が感じたことを自信を持って全て話すべきですが、これ幸いとぶちまけるようなことは慎み、バランス感覚を持って行うべきです。

次のスキルはAskです。同様に相手のストーリーを聞くのです。ただし、この時には相手の気持ちに寄り添い安心させる心遣いが必要です。たとえば、沈黙、攻撃などは相手の不安の現れなので、コーチングの本などに書いてあるように、誠実に接し、好奇心を持つことによって安心させながら、相手の言い分を聞くことが重要です。

具体的なリスニングスキルとしては、質問、ミラリング、言い換え、などがあるので、これらについてもコーチングの本を読んでの勉強が役に立ちます。

Talkは、仮説として話すことを指します。「〇〇だ」という代わりに「私の考えでは、〇〇ですが」という風に話すことを合意するのです。このように仮説としてソフトに表現されると、相手も仮説自体を議論の対象として受け入れてくれる確率が高まります。見解が異なる意見を一方的に排除するのではなく、その仮説を受けいれる余地があるかどうかを検討する機会が与えられます。

最後のスキルはEncourageで、チャレンジ、すなわち相手に意見をいうことを奨めることです。自分の意見を強く主張としようとするのなら、相手に対しても熱心に意見を求めるのでなければなりません。相手が躊躇っていることに気づいたら、どんな意見でも聞きたいと伝えるのです。

お互いが、このようなスタイルで会話をすることに慣れてくれば、そもそもの行き違いは半ば片付いたような状態になっていると考えられます。さらに、特に緊迫した会話ではなくても、コンサルタントには情報をひきだすスキルとして必須なものばかりであることが分かります。

以上をまとめると、対話の技術とは図に示すように

  1. 自らの行動、感情、ストーリー、事実を振り返り、その、感情やストーリーがなぜ会話を難しくさせたかを分析する
  2. 感情をコントロールし、自らのアイデンティティを再確認して不安を取り除いた上で、新しいストーリーを構築する
  3. 新しいストーリーを率直に告げ、相手の沈黙や暴力を突破して、共通の思いの確率への行動を始める
  4. 相手を安心させ、相手に同様の行為をさせるように持っていく
  5. 共通の思いをもとに、意思決定を行う

対話の結果を意思決定と行動につなげ結果を出す

ここまでが、対話(ダイアローグ)で行うべきことです。対話が実行できたら、それをもとに意思決定を行い、それを行動と結果に結びつけなければなりません。意思決定の一般論については、意思決定の項を参照ください。また、相手と協働でお互いにメリットのある成果を導く方法については、原則立脚型交渉のところで解説します。

まとめ

  • コンサルタントや経営者は、クライアントに本音を語らせる、問題児の処遇を誤らないなどのために、ビジネス上での緊迫した会話の対処方法を身につけておく必要がある
  • 緊迫した会話には共通した構造があり、その原因を理解すれば解決が可能であることが多い
  • 実は緊迫した会話の原因は、当事者が心の中に持つストーリーの食い違い、秘められた感情の爆発、自信の揺らぎなど、語られていなかったことの中にあることが多いので、それを表に出して共有することが解決の第一歩である
  • ストーリーなどを共有するためには、自分から話す、相手を安心させるなどの工夫が必要であり、それを実行するための技法STATE (Share, Tell, Ask, Talek, Encourage)が存在するので、それを身につけておくと良い
  • STATEは、緊迫した会話意外にも有用な方法なので、コンサルタントの常識とすべきである