情報管理体系を整備すればブランド・イメージも向上する


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梱包事故の取り扱いレベルにも情報管理の巧拙が関係

皆さんが何万円もするパソコンのようなデジタル精密機器を買われたとします。宅配便で送られてきた時に、梱包材が凹んでいたとしたら、どのような気持ちになりますか?

「中身は大丈夫だろうか?それにしても、こんな貧弱な梱包で送ってくるメーカーってなんだろう?」と思いますよね?メーカーのブランド・イメージに関わる大きな問題となりかねません。

心配になったあなたが、コールセンターに電話したところ、担当者から次のように応対されたら、安心するのではないでしょうか?

「まことに申し訳ありません。ただ、梱包材の目的は落下などがあっても中身を損傷させないことで、凹みそのものは輸送中の事故から中身を守るために意図的に発生するように作ってあります。ですから、中身についてはご安心ください。そうは言ってもご迷惑をおかけしましたので、ご要望があれば箱ごと取り替えさせていただきます。」

実際には、このような梱包事故はまず起こりません。どのメーカーも、自社のブランド管理はきちんと行っています。

しかし、情報共有がきちんとできているかどうかで、コールセンターでこのような応対ができるかどうかが変わります。さらにメーカー内部で、製品設計情報と梱包材設計情報がきちんと対応づけられて管理されていることを保証できなければ、コールセンターの対応の正しさを保証できません。

このように、製品の情報管理がきちんとできているかどうかは企業のブランド・イメージにかかわる問題なのです。経営が、この種の情報管理に注意を払う必要があることは明らかですよね?

今週は、先週の「情報共有化プロジェクトで見過ごされるトップダウンでのデータの関係付け」の視点を拡大し、情報管理に関する経営的視点の重要性についてお話しします。

情報管理の仕組みとはどのようなものか:部品表の例

情報管理の一般論では問題の本質を理解することが難しいので、以下では製品・サービスの例を取り上げて議論することにします。具体的には、製造業の製品管理を取り扱いますが、その議論は流通業、サービス業にも当てはまることに注意しておきます。

企業がその運営を円滑に行うためには、顧客、製品、調達先、社員、などの情報をきちんと管理していくことが欠かせません。例えば、顧客情報の管理に間違いがあれば、注文をきちんと届けられないなどのことが起こり、自社の信頼性を損ねます。

その管理情報の中でも、製造業にとって一番複雑なのが製品に関する情報です。

製品情報を管理するベースとしては、部品表(英語のBill of Materialsを略してBOMと呼ばれる)と呼ばれるものが使用されます。ここで、部品表とは、通常製品とそれを構成する部品の関連情報を、その構造に沿って階層的に関係付けたものです。

まず、設計が図①のような製品構成を作ります。そして、生産技術がそれをもとに工程を設計します。さらに、調達がそれに見積情報などを付け加えながら、調達先の決定を行い、量産時の部品手配を行います。

情報管理とは、この部品表のような情報共有のための基本的な仕組みを用意し、その運用方法を定めて協働作業を可能にすることを言います。

部品表

情報管理の不備で起こるブランド管理上の問題

このような部品表の利用は、どこの製造業でも行われており、その観点から部品表は歴史的に設計、生産、調達の協働作業を促進するツールと見なされてきています。

ところが、部品表に関わる情報を必要とする部門は、実は全社・社外にまたがっており、多くの製造業で以下に示すような情報共有上の問題が頻発しています。

  1. 保守では、個々の部品ではなく、それらを組み合わせたモジュール単位での取り換えの方が作業効率が良いことがあるが、そのモジュールの生産がうまく手配されておらず、顧客の手元にある商品の保守作業が滞る。その理由は、保守部品用の部品表の管理がおろそかになっているからである
  2. 海外の量販店用に販社が独自に作成するキット品(他社製品を付属品として組み合わせた商品)の品質情報が把握できず、品質保証部門が環境規制を満たしているかどうかなどが判定できない。その理由は、キット品は自社が管理すべき商品として認識されていないからである
  3. 梱包材が製品の一部として認識されておらず、部品表に組み込まれていない。そのため、梱包材の強度が製品の要求とマッチしておらず、梱包事故が起こる(冒頭の例がうまくいかないケース)
  4. 設計変更時の伝達の仕組みが繁雑で、伝達ミスによりサプライヤーが旧バージョンの仕様に基づいて部品の試作をしてしまう
  5. 過去の製品に使用されている部品の量産時購買価格が取得できず、調達部門での原価企画の精度があげられない(学習効果が上がらない)

これらの問題は、次に示すように企業の根幹に関わり経営者の注意が必要な問題です。その見逃しが起こっているために発生するのです。

  1. 保守作業は顧客価値の提供に関わる問題である
  2. 同じく環境規制の遵守は、顧客価値提供に関わる問題である
  3. 同じく、梱包材の強度は顧客価値提供に関わる問題である
  4. 設計変更の管理は、設計品質・効率にかかわる問題である
  5. 過去の製品情報の共有は、顧客価値提供に関する企業の学習能力に関わる問題である

これらを改革するために、多くの企業で部品表改革プロジェクトが実施されてきています。しかし、それらの多くは設計・生産部門主導で行われており、企業全体のブランド管理をするものとはみなされていません。その結果、3に関する部門内の業務を改善するだけのものとなっていて、他の問題に手がつけられないという課題があります。

この課題を克服して、経営全体の問題としてみるためには、今までと違った視点の導入が必要です。その一つの視点として、ここではバランスト・スコアカードを考えてみましょう。

経営視点で問題を見るための道具:バランスト・スコアカード

バランスト・スコアカードは、会計学者のカプランとノートンにより考案された戦略的な業績管理の仕組みです。

従来の業績管理は、主として財務的指標により行われてきましたが、財務的指標は結果指標です。そのため、この方法ではどうしても短期的視点に陥りがちで、企業の長期的投資を犠牲にしがちだという欠点がありました。

その問題を解決するために、カプランとノートンは、財務的結果の先行指標となる視点を含めた、次の4つの視点での戦略設定を行い、これらの因果関係を踏まえた業績評価をすることを考えました。

  1. 財務的視点
  2. 顧客視点
  3. 企業の内部プロセス
  4. 学習と成長

この仕組みを使えば、例えば次のような戦略の展開と業績評価ができます。(図①参照)

今、ある企業での財務的な目標が使用資本利益率の向上だったとしましょう。

このためには、既存顧客からのリピート購入を拡大することが必要になることが分かったとします。だとすると、そのためには顧客ロイヤリティの向上が必要です。そのためには、顧客は約束された時刻での配達を重視するとします。

その正確な時刻での配達のためには、業務プロセスのサイクル・タイムを短くし、同時にその品質を高めることが必要となるでしょう。

さらに、そのためには、従業員のスキルを高める必要がある、という具合です。

このような因果関係を明確にして従業員と共有しておけば、企業全体で最終目標の使用資本利益率向上に向けた協働作業が可能になるというわけです。(この因果関係図を戦略マップと呼びます。)

バランスト・スコアカードにこれ以上深入りすることは避けますが。この財務、顧客、企業内部プロセス、学習及び成長という4つの視点で経営を眺めるという考え方は非常に有効ですので、部品表の問題もこの見方で考えてみましょう。

バランスト・スコアカード

部品表に関する戦略マップ

このような経営視点で見ると、部品表に関して図③に示す以下のような問題が解決される必要があることがわかります。

顧客視点:ライフサイクルで一貫して顧客価値を提供する

  • 顧客満足度を上げ売上高を上げるためには、顧客から見た商品ライフサイクル全体で一貫した価値が提供できる必要がある。
  • すなわち、設計変更や量産立ち上げなどの製品を市場に出すまでのイベントだけでなく、顧客が商品を購入した後の保守や、生産・保守終了までのイベントが管理できる必要がある
  • 社内的な製品情報の管理だけでなく、顧客が買う商品全体の管理ができる必要がある。従って、製品と梱包とを一体化した商品(量販店と共同で企画するキット品を含む)及び保守部品の管理ができる必要がある

内部プロセス視点:設計のQCDを上げ顧客価値提供レベルを上げる

顧客への商品価値の提供を一貫してかつ遅滞なく実行し、同時に販管費を下げる必要がある

  • そのためには、以下の点を考慮して、製品開発を円滑に行う必要がある
  • 設計作業の大半は、部品の設計及びその変更である。後続の生産や調達も、仕事の大半は部品単位である。にもかかわらず、旧来の製品開発中心の考え方にとらわれていると、両者の情報伝達は部品表単位(製品単位)で行われる。そのため、変更が起こると、部品情報を新たな製品バージョンとして組み立て伝達し、伝達先ではそれを部品単位に再度分解するという無駄が生じることになる。
  • このことから、情報の伝達単位は「設計変更」単位とした方が良いことがわかる。設計変更が生じた際に、その情報を設計変更に含まれる部品の担当部門に送ることにすべきである
  • このようにすれば、管理単位が部品表全体から設計変更と細くなり、作業の無駄が減る。さらに、設計変更は製品から独立となるので、そのノウハウは製品開発プロジェクトを超えて再利用できるようになる)

学習と成長し点:過去の経験を蓄積し学習する

  • 設計・生産技術・調達さ部品単位で仕事をすることを考慮し、過去の製品設計で学んだ経験(品質事故、調達価格など)を部品単位で検索して新製品開発に生かせるようにする必要がある

部品表の戦略マップ

経営視点から部品表に求められる情報管理要件

そして、これらを実現するためには、以下のような情報管理の仕組みができている必要があることになります。ただし、内容は専門的になるので、概念的にわかりやすい部分のみ説明します。(図③右側部分参照)

  • 商品、製品、保守用部品など、顧客視点で識別できるものを決定し、これらを同格に扱う。さらに、その内容を構成部品の階層構造で定義する(図④参照、なお図の点線は、同一部品であることを示す)
  • 部品は、独立の管理単位とし、以下のことを可能とする(図⑤参照)
    • 複数の製品の階層構造に組み込まれることを可能とする
    • 親部品と子部品の階層構造を可能とする
    • 各部品情報には、属性情報(名称、部品の諸元など)と設計情報(図面)を格納できるものとする
    • 部品単位での検索を可能とするため、商品、製品、保守部品も部品と同形式で管理する(親部品が存在しない特殊な部品として扱う)
    • 同じ部品に何度も設計変更(EC)が施されるので、部品の下に設計変更情報をつけ、その下に関連情報を吊り下げる(ECと配布先の詳細については、下記参照)
    • (部品の価格などの情報格納方法については、複雑になるのでここでは省略する)
  • 設計変更(EC: Engineering Changeと呼ぶ)を独立の管理単位とし、以下のことを可能とする(図⑥参照)
    • 同一の設計変更に含まれる製品、部品を紐付け、一括管理できるようにする(図⑥は、設計変更EC0029で、製品Xに新たな部品C2を付け加え、部品C1を設計変更したことを表している)
    • 設計変更の伝達先は部品ごとに決まっているので、該当部品の配布先を用いて伝達する。設計変更の登録ごとにこの仕組みを用いた連絡を行えば、伝達ミスはなくなる
  • 部品の分類体系を表現し、類似部品の検索を可能とし学習効果を高める(図⑦参照)

商品、製品、部品情報の管理方法

ECと部品分類体系

 何を学んだか?

  • 企業がブランド・イメージを維持し顧客価値を効果的に提供し続けるためには、顧客、製品、調達先、社員などの戦略的な情報の管理を経営レベルできちんと行うことが重要である
  • しかし、これらの情報の管理が部門レベルの仕事として捉えられ、種々の経営的問題を引き起こしている
  • この問題を解決するためには、情報管理を経営的視点で眺めるためのフレームワークが必要であり、バランスと・スコアカードはその助けとなる
  • フレームワークを利用して、製品情報の管理要件を経営的視点で見ると、以下のようなものがあることがわかる
    • 商品のライフサイクル一貫サービス
    • 設計品質。効率の向上
    • 設計経験の蓄積、再利用
  • これらの要件は、以下の情報管理方法で実現できる
    • 商品、製品、保守部品の同格管理
    • 部品中心の管理
    • ECの導入
    • 部品分類体系の導入
  • 経営に影響を与える情報管理要件は、部門レベルの改革では見過ごされがちななので、コンサルタントは経営者にこれらのことを気づかせる方法を心得ておくべきである