経営改革を支援する羽目になったら、経営者に共通する思考の弱点に気付けば良い


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独立した業務改革コンサルタントの困りごと

コンサルタントとして独立した人の多くは、自分の過去の職歴で蓄積した業務経験をもとにクライアントを指導しようとしますよね。販売員、営業、エンジニア、生産技術者、などの経験を生かそうとするのです。

そのこと自体には、何の問題もありません。クライアントの方にも、自分たちに欠けている専門能力を教育してくれる経験者へのニーズがあるからです。

でも、独立してしまうと中々それだけではすみません。

コンサルタントとして独立すると、経営者と直接話すことになります。そうすると、相手の経営全般の悩み事の相談相手をせざるをえず、自分の得意領域に閉じこもっていることが難しくなります。

また、独立業者には仕事がないことは致命傷です。それを回避するために、得意でもないのにクライアントの赤字解消策支援などに手を出してしまったりもします。

このような時に準備不足だと、経営全般ではなく自分の得意な業務領域での改善策を考えて何とかしようとしがちです。ボトムアップですが、それしか思いつかないからです。

たまたまその改善策がヒットすれば良いですが、そうでないとコンサルタントとしての資質を疑われ、進退に窮します。

このような事態に遭遇しても、コンサルタントらしく振舞うにはどうすれば良いでしょうか?

大局的に経営を論じる考え方のようなものがあれば助かりますよね?今日は、そのことについて考えてみましょう。

扱うべき経営イシューを確定する

コンサルティングの始まりは、クライアントのイシュー(心配事)の理解です。それが理解できたら、問題を定式化し、解決策を考案します。

もう少し正確に言うと、イシューが理解できた時点で、自分が役に立てるかどうかを判断します。役に立てると思えば、クライアントの合意を得て問題の定式化に取り掛かります。

ということで、経営者から相談を持ちかけられた時に、コンサルタントらしく振舞うには、次の4つができる必要があります。

  1. その時のクライアントのイシューが何かが分かる
  2. そのイシューをクライアントが解決できない理由の見当がつく
  3. その理由の解消に自分が貢献できるかどうかを判断できる
  4. 2、3の答えがNOの時の対処法がわかる

経営者のイシューを知り選択する

そこで、まず経営者のイシューにはどのようなものがあるかの理解から始めましょう。参考までに中小企業基盤整備機構のホームページを見ると、「中小企業経営者の悩みランキング トップ5」として、以下が挙げられています。

  1. 売り上げが伸びない
  2. コストがかかりすぎる
  3. 後継者や幹部を育てられない
  4. 運転資金が回らない
  5. パートナーを探せない

業務改革コンサルタントとして活動している人には、クライアントの経営者もc、d、eは期待しないでしょうから、自分たちはaとbだけを守備範囲として取り上げる心構えをしましょう。

一方、c、d、eなどに関しては、そのようなイシューがあることは承知しておいて、あらかじめ自分の得意分野ではないことを明言しておく必要があります。

そのイシューをクライアントが解決できない理由の見当をつける

さて次は、クライアントがa、bのイシューを解決できない理由をどう見るかです。

その手がかりは、「売り上げが伸びない」、「コストがかかりすぎる」というイシューの述べ方そのものに求められます。これらのイシューを単独で解決するのは、専門家の領域です。売上を上げるのならマーケティングの専門家、コストを下げるのなら製造工程の専門家など、を紹介しましょう。素人は挑戦すべきではありません。

しかし、それらとは違った問題もあります。このようなイシューの述べ方をしているクライアントは、売り上げとコストの連動性をよく理解できていない可能性があります。この場合であれば、専門家でなくても対応できる可能性があるのです。

売上向上やコスト削減などの個別ではない問題とはなんでしょうか。それは、当たり前ですが次の等式の利益をどう上げるかという問題です。

利益 = 売上高 — コスト

実は、この引き算の意味が本当には理解できていないために、次のような問題を引き起こす経営者は数多いのです。

  • 売上をあげようと投資したが却って利益が減少した
  • 利益をあげようとコストカットしたら、売上が減って利益も減少した

ある程度クライアント経営者との付き合いがあるコンサルタントは、経営者との会話を通して、このような勘違いがあるかどうかを判定することができるので、付き合いの浅い専門家よりアドバンテージがあるのです。

イシューの解決方法を仕入れる

クライアントが引き算の意味(売上とコストは連動するので、それぞれ単独では利益をコントロールできない)を理解していないために問題を起こしている時に取れる対策は何でしょうか?

その一つの方法は、売上とコストの連動関係を明示することです。すなわち、上記の等式を次のように書き直すのです。

営業利益 = 売上高 – 変動費 – 固定費

= 限界利益 — 固定費

ここで、念のために説明しておくと、変動費とは売上に連動して増減する経費のことであり、固定費とは売上高の増減に関係なく固定的に発生する経費のことです。

必要なのは、図1に示すような損益分岐点分析に関わる知識のインプットです。これは中小企業診断士の1次試験に出てくるような基本的なことなので、これくらいのことは知っておきましょう。

経営者が変動費や固定費という言葉を使いこなしていなければ、この知識だけでかなり貢献できるのです。そして、実際そのような経営者は数多いのです。

このことを事例で検討してみましょう。

変動費と固定費

簡単な知識と常識を使った経営分析例

ぎりぎりの赤字を解消する例

年間売上1億5千万円の板金工場が数年前に600万円の赤字を出しました。それまでほんのわずかですが黒字を出していたのですが、東日本大震災の影響を受けたので、経営者は仕方がないと考えていました。

板金工場では、板金を機械で切断、穴あけ、折り曲げなどを行った後、溶接をして顧客の要求する形状物を製作します。それに加えて、溶接単独の仕事もあり、この場合溶接対象の部材は顧客から支給されます。

この事情を見ると、600万円の赤字は仕方がないのか疑問になります。というのは、溶接工は社員なので給料は支払済だからです。さらに、溶接対象部材も支給されるのですから、変動費もかかりません。

ということは、あと600万円溶接の仕事を取ってくれば、その増加分は丸々利益に貢献します。(図2の右側参照)

経営者が加工ごとの変動費と固定費の構造を理解していれば、月当たりわずか50万円の溶接仕事を取ってくるだけで、この会社は赤字から脱却できたのです。

経営者は自社の利益全体だけを見ていて、板金加工と溶接との費用構造の差を見ていなかったので、このように考えることができなかったのです。

このケースでコンサルタントに必要なのは、限界利益に関する知識とクライアントが問題を分解して原因追求をしているかどうかを観察する眼だけなのです。

変動費がないと

季節変動に対処する例

雪国で冬季に需要がある食材を生産している会社があります。夏季には生産量が減るだけでなく、需要減に伴い販売価格も低減するので、売上が大きく落ち込みます。

夏季の売り上げ減少をカバーするために、食材を使った加工食品なども作っているのですが、それだけでは経営が安定せず、コンサルタントにアドバイスを求めてきました。

この問題を解決するためには、図3のような月別の限界利益と固定費の比較をしてみれば良いのです。ここで、限界利益が固定費を上回っている月は営業利益はプラス、そうでなければ営業利益はマイナスです。

この図をみれば、夏季の売り上げ落ち込みに対して固定費が大きすぎることが一目瞭然です。経営者は固定費削減の必要性を直感的に理解はしていたのですが、データとして把握していなかったので、思い切った対策が取れずにいたのです。

雪国ですから、夏は農業に従事していて冬の別の仕事だけを必要としている人を雇用するなどして、固定費のかなりの部分を占める人件費の流動化が図れるはずです。それでも足らなければ、夏季の売り上げを伸ばす新商品開発を本格的に考える必要があることもわかります。

このケースは、次のことを知っていれば問題解決できることを示しています。

  • 経営者は現状をデータで見ないために問題解決できない
  • その根本原因は、現状の見方(限界利益と固定費の対比)を知らないことである

月別の限界利益と固定費

何を学んだか

  • 独立コンサルタントとクライアントの付き合いが長くなると、自分の専門外の経営的な問題も相談されるようになる
  • その場合、苦手意識を持って逃げ回るのではなく、先行対処して自分の扱える領域を考えておいたほうが良い
  • その理由は、経営的な問題の多くは、常識的な知識の積み重ねで解けることが多いからである
  • 経営的な問題を常識で解決するコツは、次のような経営者の弱点を理解し観察する眼を持つことである
    • 複数のこと(売上とコストなど)の関連を理解することが得意でない(これに対処するために、限界利益と固定費の比較などの知識を仕入れておく)
    • 問題の全体を眺めるだけで、それを要素に分解して原因の所在を追及することをしない
    • 現状を直感的に判断しデータで見ないので、思い切った対策が取れない