コンサルタントの本分は、解決策を示すことではなく、正しい(クライアントの思考レベルを変える)質問を示すこと
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クライアントに解決策(答え)を教えてしまって良いのだろうか?
あるコンサルタントが「自分のやっていることは本当にコンサルティングなのだろうか?」と自問していました。
その人は大手企業の出身で、中堅企業に転じ関連会社の社長も務めた立派な経歴の持ち主です。
ある中小企業の顧問として社長の相談に乗られているのですが、経営経験豊富なので社長の疑問に対する答えはすぐに思い浮かぶそうです。社長の信頼も高いとのことです。
そのご当人が、「自分はどうもすぐに答えを教えてしまうようだ。これで本当に社長のためになっているのだろうか?別のやり方として何があるのか思いつけない。自分はコンサルティングというものを理解していないのではないか?」と考え込まれているのです。
レベルの高い自問で、さすがです。
ここまで考え込むコンサルタントは少ないと思いますが、本質的な疑問なので、今日はこのことについて考えてみましょう。
問題解決に必要なのは、「正しい問いを探す」こと
この疑問に答えるために、問題解決に関するドラッカーの考え方を参考にしてみましょう。
ドラッカーは次のように発言しています。(これらの発言は ドラッカーが教える問題解決のセオリー という本にまとめられています。この本は、本自体の主張というよりは、膨大なドラッカーの発言の中からテーマに関連する部分を抜き出してあるという点で非常に有用です。)
- 意思決定についての議論のかなりの部分が、問題の解決すなわち答えを出すことに集中している。間違った焦点の合わせ方である。(「現代の経営」)
- 問題の定義と分類なくして、事実を知ることはできない。(中略)問題の定義と分類によってのみ、意味のあるデータ、すなわち事実を知りうることができる。(「現代の経営」)
- しかし、問題が何であるかを迅速に決定させることほど愚かで、結局は無駄を招く助言はない。(「現代の経営」)
- 戦略的な意思決定では、範囲、複雑さ、重要さがどうであろうとも、初めから答えを得ようとしてはならない。重要ななことは答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。(「現代の経営」)
経営者の仕事は、意思決定をすることです。目の前にたまたま「問題らしく見えたこと」を解決することではありません。
その前に、「問題らしく見えたこと」が解決するに値するものなのか、その背後にもっと重要な問題が潜んでいないのか、ということを問う必要があるのです。
意思決定に当たって最初にすべきは、「正しい問いを探す」ことなのです。
問題解決を「支援する」というコンサルティング・モデル
このドラッカーのアドバイスに従って、、コンサルティングとはどういう商売なのかを考えてみましょう。
よく「コンサルタントとはクライアントの問題を解決する商売である」と言われます。このブログでも、誤解の恐れがない場合はそのように述べています。だとすれば、問題の解決策(=答え)を見つけて、それを提示すれば良いことになります。上記の疑問が入り込む余地はありません。
でも、この記事の流れからすると、なんか違和感がありますよね?
違和感を解消する手がかりは、「クライアントの問題」という言葉をどう解釈するかにあります。
これを「クライアントが提示した問題」と理解すれば、解決策を答えとして提示することで、何の問題もありません。
しかし、「クライアントが提示した問題」の背後にある「クライアントが抱えている問題」にまで関心がある場合に、答えの提示だけに違和感を覚えるのです。
冒頭の「社長のためになっているのだろうか?」という疑問は、背後への関心の表れなのです。
この疑問を解消するためには、クライアントの立場に立って、「社長が本当に解決すべき問題は何なのだろうか?それを見つけるための正しい問いは何なのだろうか?」と考えるべきなのです。
「目の前にある問題を解く」から「解くべき問題は何かを問う」への転換をすべきなのです。
この転換を実現するためには、コンサルタント自身が自分の立ち位置(クライアントとの関係の持ち方)をどう考えるかを、はっきりさせる必要があります。
立ち位置の手がかりを求めてネットで調べてみると、コンサルティングの語源はラテン語のconsultare (協議する)だそうです。con(共に)+sedere(座る)=共に座る、から来ているそうです。
問題解決に悩んでいる人(クライアント)と別の人(コンサルタント)が協議することで、問題の解決法が見えてくると言う訳です。
だとすると、確かにすぐ答えを与えるのは協議していることにはなりません。クライアントに寄り添い、クライアントが問題を自分で解決できるように手伝う方が、コンサルティングングの語源に近い活動と言えそうです
本ブログでは、この見方に立ち 問題解決のアドバイスができない時に考えるべきこと で、「コンサルタントはクライアントの問題解決を支援する商売である」と述べました。(次図参照)
以下、この立場に立ってさらに論を進めます。
問題解決支援のカギは質問すること
答えをすぐに与える代わりにクライアントの問題解決支援する良い方法は何でしょうか?
今想定しているのは、コンサルタントは問題の解決方法と答えを知っているが、クライアントはそのどちらも知らないというケースです。ですから、クライアントは自分一人では問題解決ができずにいるのです。
このクライアントの状態を示す適切な言葉が、このブログで何度も引用している次の言です。
- 我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ思考のレベルで解決することはできない (アルベルト・アインシュタイン)
クライアントの現在の思考のレベルをAとしましょう。これでは問題が解けません。
一方、コンサルタントには問題が解けます。その思考レベルをBとしましょう。そうすると、クライアントの思考レベルをAからBに変えることができれば、問題解決の支援ができたことになり、あとはクライアントが自分で問題解決します。
ただし、答えを与えてはいけないので、クライアントにAよりBの方が良いと気づかせる必要があります。そして、気づきを与えるためにできることは質問です。
コンサルタントがすべき作業は、Aを理解すること、Bの方が良いと気づかせる質問を考えること、の2つです。(図の中央)
これだけではあまりにも一般的なので、例に沿って考えてみましょう
クライアントの思考レベルを変える質問:板金工場の例
以前にこのブログ(クライアントをリードして現状分析をするために必要な心構えと手順、および 問題解決に行き詰まった時に最初に問うべきはプロセス質問)でも取り上げた板金工場は、次のような状態でした。
- 社員10人ちょっとの町工場。若社長が経営を継いで社内改革を進め、ようやく毎年黒字が出るようになった
- ところが東日本大震災が起こり、需要が減ってまた赤字になってしまった
- 若社長はがっかりしたものの、「震災だから仕方がない」と気を取り直そうとしていた
- その年の売上げは1億5千万円で、赤字は600万円
- この会社の加工工程は、高速の板金加工機を使って板金を切り出す前工程と、切り出された板金を手仕事で溶接して構造物を作り出す後工程の2つからなる
- 溶接だけの仕事もある。その場合の材料は客先から支給される。また、溶接工は正社員
この会社の顧問コンサルタントが、赤字は防げたはずだと、次のように社長を諭しました。
- 溶接の仕事は手仕事で、すでに社員には給料を払っているので、追加の固定費はゼロ。
- 溶接だけの仕事は材料は客先支給なので、変動費も電気代などを除けばほぼゼロ
- したがって、溶接だけの仕事を取ってくれば、売上増加分がそのまま利益増に貢献する。
- 月あたりわずか50万円の溶接仕事を追加して取らなかったのは、この限界利益構造を理解していなかった経営者のエラーである
若社長は、このコメントを理解して反省しました。しかし、これは答えを与えるタイプのコンサルティングです。
これをクライアントの問題解決を支援するタイプのコンサルティングでやるとしたら、どのような手順になるでしょうか?
ここで、Bは「限界利益で考える」です。でも、若社長は売り上げと利益を総計で考えていて分解していませんでした。これがAです。
ですから、気づきを与える質問は、「あと少しだけ売り上げを上げて赤字を解消できたとしたら、一番効果的だったのはどの方法でしょうか?」です。
こう質問されれば、売り上げを上げる方法は板金加工+溶接と溶接単独の2種類しかありませんから、そのどちらだろうと分解して考え始めます。
また、「あと少しだけ」という言葉で固定費は影響しないことに気づき、変動費だけを考え始めます。
このようにして、自然に固変分解と限界利益の概念を理解するというわけです。(図の右側)
思考パターン別の問題解決支援質問例
さて、ここまでの議論で、クライアントの問題解決を支援するには、クライアントの現在の思考パターンAと、問題を解決するのに適した思考パターンBの対を見つける必要があることを示しました。
一見すると、これはかなり難しい作業のようです。経験豊富なコンサルタントと若手との分れ目となりそうに思えます。
しかし、それを逆手にとって経験豊富なコンサルタントから学ぶ方法があります。彼らの事例やそこから抽出された問題解決メソッドを研究すれば良いのです。
それが上手くいく理由は、人間の思考パターンは大体共通しているということにあります。実は、既存の成功事例や問題解決メソッドは何かしらの人間が陥りやすい失敗思考パターンにもとづいているのです。
それらを他に応用できるように抽象化して学べば良いのです。
以下、代表的失敗思考パターンごとに、具体的な支援の例を紹介しておきますので、そこから学習してみてください。
なお、支援例は「事例あるいは問題解決メソッド」、「A: クライアントの思考とそれが引き起こしている問題」、「Q: 気づきを与える質問」、「B: 気づきとそれにもとづく対応策」の順で表記します。
全体を見て部分を見ない
黒字化策が見つからない(板金工場の例)
A: 売り上げ全体を見るので黒字化策が見つからない
Q: 「あと少しだけ売り上げを上げて赤字を解消できたとしたら、一番効果的だったのはどの方法でしょうか?」
B: 限界利益率の高い部分に注力する
資源を根拠なく均一に配分する
製品開発の費用対効果が低い
A: 一旦開発を決めた製品開発プロジェクトは、売り上げの上がらないものでも途中で中止しないので、売り上げに対する開発費用の割合が高い
Q: 「開発の後期になってくれば、売り上げが上がるかどうかがはっきりしてきませんか?その観点から、使われた開発費用にムダはありませんか?」
B: 売り上げにつながらない開発プロジェクトを早期発見し、より費用のかかる開発後期への投資をストップする。その費用を他の成功確率の高いプロジェクトに回す(段階的投資でリスク管理する)
工場内の在庫が多く生産効率が悪い
A: 工場全体の効率化をしようとするので、生産効率化の費用がかさむ
Q: 「スピードの速い工程を改善しても、遅いところがあれば、そこで止まりますよね?スピードの速い工程の改善努力はムダになりませんか?」
B: ボトルネック工程から順に効率化する(制約理論を適用する)
アウトプットにばかり目を向けてインプットに配慮しない
売り上げの変動が大きい
A: 契約金額が月ごとに大きく変化し、生産やサービスなどの後工程が非効率になる
Q: 「契約金額が少ない月には後工程の人員が遊んでいませんか?」
B: 直近の契約獲得だけでなく引き合い処理にもバランスよく工数をかける(案件の段階管理を行う)
一つの視点でのみ最適化する
購買金額が下がらない
A: 部品購買額の割合が高まっているのに、昔からの製品開発プロジェクト主導の部品購買体制をとっているので、部品購買金額が下がらない
Q: 「設計の付加価値額と購入部品原価額の経年変化はどうなっていますか?」
B: 製品開発プロジェクト単位での管理容易性だけではなく、共通部品の購買額削減効果を考慮し、部品単位購買とのマトリクス管理と併用する(部品カテゴリごとの購買)
まとめ
- コンサルティングを「クライアントの問題を解決する商売」と捉えれば、解決策(答え)を与えれば役割を果たしたことになる。ただし、この見方はクライアントが問題をきちんと提示できることを前提としているので、効果が挙げられる範囲には当然限界がある
- 特にクライアントの成長などもコンサルタントの責任範囲と考えた場合は、コンサルティングを「クライアントの問題解決を支援する商売」と捉えたほうが良い。この方がクライアントとの関係も長続きするし、コンサルタント自身もより成長できる
- クライアントが自分で問題を解決できない原因は、問題を正しく認識できていないことにある。そして、その理由はアインシュタインが言う問題解決を妨げる思考レベルに囚われているからである
- 問題解決を支援するコンサルタントがなすべきことは、クライアントを現在の思考レベルから解放し、問題解決ができる思考レベルへと導くことである。ただし、支援であるから直接の答えを与えてはならない。適切な質問をすることにより、クライアントの自発的な気づきを促す必要がある
- クライアントをある思考レベルから別の思考レベルに誘導することは、一見難しそうに思えるが実はそうではない。人間には共通の失敗思考パターンがあるので、それを理解すればかなり広い範囲の誘導ができる
- 問題解決支援のために覚えておいて良い失敗思考パターンには、例えば次のようなものがある
- 全体を見て部分を見ない
- 資源を根拠なく均一に配分する
- アウトプットばかりに目を向けてインプットに配慮しない
- 一つの視点でのみ最適化する