ポジショニング


Last Updated on 2021年10月25日 by 時代遅れコンサルタント

前回までで、市場で仕事を得る活動をするためには、希少資源である認知・注目と信頼を獲得する方法を身につけるべきことをお伝えしました。ここからは、注目と信頼の確保には以下の作業が必要となることを、順に説明していきます。

  1. 顧客の頭の中に、認知され易く役に立ちそうと覚えてもらえる自分の「立ち位置(ポジション)」を確立する
  2. 顧客の「注目」を惹き立ち位置を認知してもらう
  3. 「信頼」とは何かを理解する
  4. 認知された立ち位置の「信頼を高める」

まず1について、次の文を読んでください。

  • この30年間にその前の5000年間を上回る量の情報が生み出された
  • 印刷情報の総量は4年ないし5年ごとに倍増している
  • ニューヨークタイムズの1週間のウィークデイ版は、17世紀のイギリスの平均的な人が一生のうちに接したであろう以上の情報を含んでいる
  • 毎日世界中で4000冊以上の本が刊行されている
  • 平均的なホワイトカラーは1年間に250ポンドのコピー用紙を使っている、これは10年前の消費量の2倍である

実は、これらのデータは1996に出版された本から採ったものなので、書かれたのは1995年ごろだと推察されます。大体インターネット元年頃です。(最初のインターネット・ブラウザーであるモザイクがリリースされたのが1993年で、筆者が基礎研究所でモザイクのデモを見たのが1994年でした。インターネットが遅く、こんなものが実用になる訳がないと思ったことを覚えています。1995年にGoogle創業者のラリー・ペイジが学士号取得した時代です。1996年には、私はコンサルティング部門に異動していて、DECが出した高速ブラウザーAltavistaを使ってアメリカのクレジットカード業界の情報を検索していました。当時そのような調査をする人は、周りには誰もいませんでした。テクノロジーは、つくづくそれを使いこなせるものを有利にするものだと実感していました。)

これらのデータを読むと1996年当時でも、人々は相当な情報過多に悩まされていたことが窺い知れます。その後四半世紀のインターネットの猛烈な普及と情報爆発を考えると、現代人は、毎日膨大という言葉では足りないほどの情報に晒されていることになります。以前に引用したモントヤ著の「パーソナル・ブランディング」に “認知度が能力より重要” と書いてあったことと合わせると、市場で仕事を得るには、この膨大な情報を相手にしてどう自分を認知させるかの工夫が必須であることが納得できると思います。

この認知のために行うのが、以前述べた特化(ターゲティングとポジショニング)です。広い市場の中でどのような人を自分の顧客として狙う(ターゲットに選ぶ)のかを決め、選んだ人たち(だけ)の心の中で自分が占める立ち位置(ポジション)を決めるのです。ターゲティングは、皆さんのそれまでの経験をもとに自分の強みが発揮できそうな市場セグメントを選んで頂くことになるので皆さんにお任せし、ここではポジショニングについてもう少し考えてみます。

実は上記のデータは、ジャック・トラウト著、「ニューポジショニングの法則」から採ったものです。ここでポジショニングとは、市場で認知されるために、情報過多で困り果てている顧客の頭の中を理解し、もし注目されたら、その中で記憶されるように自分の立ち位置(ポジション)を構築することを指しています。

言葉の意味からも明らかなように、効果的なポジショニングをするためには、その前に顧客の頭の中を理解する必要があります。これについて、「ニューポジショニングの法則」では、顧客の頭(マインド)は情報過多に対応できないとして、次のように書いています。

  1. マインドには限界がある
  2. マインドは混乱を嫌う
  3. マインドは不安定である
  4. マインドは変化しない
  5. マインドは焦点を見失うことがある

以下、それぞれについて、もう少し詳しく述べてみます。

「マインドには限界がある」というのは、元々脳の短期記憶の容量には「同時に7つ以上のことは覚えられない」と言うように、限界があることを指しています。さらに、人間の脳には根強い確証バイアスが存在します。人は自分が抱いた信念を補強する情報を優先して取り入れ、それ以外を無視する傾向があるのです。このことについてニーチは、「人は過去の経験とつながりのないことがらには聞く耳を持たない」と言っているくらいです。

「マインドは混乱を嫌う」と言うのは、人間には複雑なものは頭に入らない傾向にあることを指しています。わかりにくいコンセプトや理解を超える(比較するものがない)大きな数字を咀嚼することは苦手なのです。これに対応して、伝える情報は小口化する、物事を単純化して議論する、などの工夫が必要とされます。

「マインドは不安定である」は、マインドは理性的であるより、感情的になりがちだと言うことを述べています。そして、人間はリスクを避けるために群れに従う傾向があります。ものを買うときに、他人が買うものを買う、推奨に従う、伝統に従う、などのことが起こります。バンドワゴン効果が生じるのは、このことが原因です。

一方で、「マインドは変化しない」で示されるように、マインドは頑固です。市場でメーカーが消費者のマインドを変えようとする試みは、ほとんどムダとなっています。ですから、新しいものを受け入れてもらうためには、古いアイデアを再生してそれに関連づけるなどの工夫が必要となります。

最後の「マインドは焦点を見失うことがある」は、ある製品ラインが成功したときに、そのラインにバリエーションを追加してラインを拡張するとマインドは混乱することを意味しています。ラインを拡張するよりは、焦点の合ったスペシャリストの方が強いのです。

元々以上のような限界を持つマインドが、マスコミやインターネット上の膨大な情報に晒されると、ほとんどの情報を単に無視するしか無くなります。尋常な手段では、顧客の頭の中に入り込むことはできません。自分の売りをプロダクトアウトで発信しても、顧客の届く確率はほとんどゼロです。ですから、もし顧客の目に留まったら、そのとき自然に顧客の頭の中に入り込むポジションを考えておかなければ、話にならないということになります。

顧客の頭に入り込む方法として考えられる一つは、新たな市場に一番乗りすることです。「日本で一番大きな湖は?」と聞かれたら、琵琶湖と即答できますよね?でも2番目に大きな湖はどこでしょうか?その答えは、霞ヶ浦なのですが、多くの人にとっては調べなければわからないですよね?それほど、一番は覚えてもらいやすいのです。小さい「お山の大将」でも大将の方がいいのです。

マインドに覚えてもらおうとするのなら、マインドがよく知っているもの(業界リーダーなど)と関連づけるも有効な方法です。これを、対抗型ポジショニングと呼びます。「第二のコーラ」などがこの方法です。顧客の心を掴むには、彼らの頭の中に既に存在しているものと結びつけなければ効果がないという訳です。

もう一つ有効なのは、未開拓分野(穴)を探すというものです。その昔のアメリカの車市場で、フォルクスワーゲンが “Think Small”という広告を打って、大評判になりました。それまで大型車一辺倒だったアメリカ市場で、小型車にもお金のない若者向けやセカンド・カーの用途があることを知らしめたのです。“広告の目的は、消費者に働きかけることではない。ライバル商品のコピーライターを攻撃することだ”という言葉があるように、ライバルのポジションを崩し、穴を見つけるという方法です。

たとえば、単に営業支援と言えば月並みですが、「食のセレクトショップ(成城石井や明治屋など)」に対する営業の支援と言えば、相手が手強そうなので、周りに同業がいなければかなり目立ちます。最近流行の事業承継に関連しても、技能承継支援というポジションを取れば、それだけでも競合はかなり減り、注目される可能性が高まります。

因みに私のポジションは、「パートナー型コンサルタントの顧問」です。うまく表現できているどうか自信はないですが、コンサルタントのコンサルタントという市場をターゲットにしています。その中で、ほとんどの人は実はコンサルタント経験者ではなく市場での売り方しかアドバイスしない中で、私は実経験に基づいて契約後のコンサルティングの実施法も支援する、という「穴」を狙っています。

このように、顧客の頭に入り込もうとするのなら、万人受けの幻想を捨てる必要があります。自分の市場での立ち位置を市場で認知されやすいように確立することが、スキルの養成にはるかに優先する、ということを肝に銘じておく必要があるのです。これらのポジショニング方法の詳細については、アル・ライズとジャック・トラウトの「ポジショニング戦略(新版)」を読むと良いでしょう。

今回は、顧客の目を引いたときに頭の中に入り込むポジショニングについて説明しました。次回は、そもそも顧客に注目される方法について説明します。