5Sを通した中小企業経営改革:コントロールから継続的改善マネジメントへ


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なぜ形ばかりで継続しない5Sが横行するのか?

経営者の理想は、社員が自発的かつ継続的に業績の改善に努力してくれる体制を実現することです。そのためにTQCなど様々な取り組みを行います。

でも、その多くが形ばかりで根付かず、結果的に社員を白けさせている。そんな事態を見聞きしたり、皆さん自身が経験していたりしていることも多いですよね?

経営者は大真面目で始めているのに、なぜそうなるのでしょうか?それらの改革の中で、中小企業向けで手近で一番簡単な5Sを例にとって考えてみましょう。

長年ムダ取りの啓蒙に取り組まれた古畑友三さんが書かれた“現場改善 ムダ取りの基本”という本があります。この中で、古畑さんは実際に見聞されたことについて「こんな5Sで本当にいいのか?」と、次のように書かれています。

  • あるプレス部品工場では、ゴミひとつ落ちておらず、床面は毎日みんなで磨くので鏡のようにピカピカしており、掃除が隅々まで良く行き届いていた。ところが、プレス設備を良く観察してみると、次期仕掛かり用の型が準備されておらず、現在の仕事が終わると離れた別室の型置き場に型を取りに行かねばならない。設備の稼働率について何も考慮されておらず、5Sだけが先行してしまっている
  • ある工場で、工場内には幅の広い通路が縦横に確保され、通路を区別する線は綺麗に引かれていた。工場を案内してくれた人は、5Sの基本は直角、平行、垂直であり、これらの通路はこの基本をベースに設計されていると説明してくれた。しかし、この通路は誰も通らず、利用されていなかった。一方、この通路によって仕切られた作業領域を見ると、足の踏み場もないくらい狭く、そこには部品や工具などがギッシリ詰め込まれている。その中で、作業者がところ狭しと動き回っている。これでは、生産性が全く無視されてしまう。

なぜ、このような事態が発生するのでしょうか?その理由を探るために、元々の5Sの定義をネットで調べてみると、たとえば次のようになっています。

  1. 整理: 要るモノと、要らないモノを分類し、要らないものを捨てること
  2. 整頓: 要るモノを、誰にでも、すぐに取り出せるようにすること
  3. 清掃: ゴミや汚れがない綺麗な状態を維持すること
  4. 清潔: 3S(整理・整頓・整頓)が維持されている状態
  5. 躾:  3Sが定着し、決められたことを守れる風土になっている状態

この定義だけを見ると、床磨きの例は「清掃」の条件を満たしており、それだけで非難される理由はなさそうです。にも関わらず問題が感じられるとすれば、それは5Sのそもそもの目的が忘れ去られ、手段だけが追求されているからだということになります。

床面を綺麗に磨く「清掃」の目的は、常に綺麗にしておけば、汚れが生じたときにその原因となる異常がすぐ発見できるからです。事故の防止をし、それを生産性や安全性の向上につなげることが、清掃の目的なのです。

そもそもの5Sの目的にこの生産性の向上があることが理解されていれば、床面はピカピカだけれど、次の作業の準備がされていない、などのことは起こらないはずです。

通路の確保も、その目的は通路に余計なものを置かせないことで整理・整頓を迫ることにあります。整理・整頓がされていれば、生産性が上がるからです。ですから、通路が広くても作業場所の生産性が下がるようでは、本末転倒なのです。

このような目的が理解されないまま行動が起こるのは、手段の実行だけを命令する管理者側のスタイルの方に問題がありそうだということに気がつきます。

中小企業経営者が学ぶべき管理スタイル:コントロールからマネジメントへ

現場が闇雲に清掃だけを行い生産性の向上を考慮しなくなるのは、管理者が清掃を「命令」するからです。この管理スタイルでは、現場は命じられたことだけをやれば良いでのです。それ以外の余計なことをすると、却って怒られます。

この現象は特に中小企業経営者にありがちですが、その管理スタイルはマネジメントではなくコントロールです。

ここで、「コントロール」とは、他人や部下を自分の思うように動かそうとする方法のことを指します。コントロールでは、「清掃」の具体的方法は現場の創意工夫に任せるとはいうものの、何のために清掃するかは伝えられません。したがって、清掃できているかどうかの評価尺度は「清掃」という言葉から推察される「キレイかどうか」だけとなります。

ですから、(特に中小企業が)形ばかりの5Sから脱却しようととするのなら、経営者の管理スタイルをコントロールからマネジメントに変革する必要があります。

ここで、「マネジメント」とは下が自ら考え動ける場をサポートすることであり、基本的に相手を尊重して細かい仕事の方法やベース等を任せ、障害が発生した時にそれを解決するために指導やフォロー等を行うことを指します。

このやり方の場合は、現場が自分で考える範囲を示唆するために、5Sの目的を示す必要があります。

それを受けて現場は、目的に照らして自分たち作業環境がどうなっていれば良いのかの「あるべき姿」を明確化します。そして、この「あるべき姿」の実現するために、手段として与えられたた5Sを使って創意工夫を重ねるのです。

あるべき姿と現状の差(課題)を認識し、課題の解決策の実行計画を作成し、その計画を推進する、という問題解決のPDCAが回るのです。

したがって、マネジメントをしようとすると、まず最初に5Sの目的とは何かを明確に示す必要が出てきます。でも、そう問われて即答できるでしょうか?

結構難しいですよね?これをきちんと考えて現場に示せるかどうかが、長い目で見た5Sの成否を分けるのです。

目的志向で結果を生む5Sの再定義

5Sの目的は、古畑さんによれば次のようになります。

  • 5Sの目的は、社内の「ムダ」を誰にでも看えるようにして、その「ムダ」を排除することで儲ける(利益を出す)ようにすることである

(このような考えに立った目的志向の5Sを、古畑さんは旧来の5Sと対比させて新5Sと呼んでいます。)

ここで、「見える」ではなくあえて「看える」という言葉を使っているのは、普通は注意して見ないとよくわからない「ムダ」を、誰が見てもすぐに「これはおかしい」と分かるレベルまで簡単にすることを意図しています。

そうすると、さらに「ムダ」とは何かの共通理解が必要となります。この理解が人によって異なると、あるべき姿についての統一見解が生まれてこなくなりからです。

ムダについての古畑さんの定義は、次の通りです。

  • 「ムダ」とは、社内に潜在している価値を生まない状態である

古畑さんは、社内の誰にでもはっきり見えている(顕在している)価値を生まない状態を「ロス」と呼び、「ロス」の排除は誰でも取り組もうとするので、特に配慮する必要はないとしています。

具体的に「ムダ」とはどのようなものでしょうか?一番わかりやすい製造現場の例で考えてみましょう。

企業活動の目的は、経営資源(人・モノ・金・時間・情報)を使って付加価値を生むことです。

製造現場では、モノが動く過程の中でこの付加価値が生み出されます。旋盤を使って部品を加工するなどです。

しかし、本当に付加価値が生まれているのは、旋盤が部品を削って切粉が発生している時だけです。旋盤に部品を取り付けている、旋盤の刃具を換えているなどの作業は付加価値を生んでいません。

製造現場では、部品の切削を「働き」、刃具の取り付けなどを「動き」と呼んで、付加価値生産に貢献しているかどうかの区別をしています。この定義に従えば、5Sは、作業環境を整えて、刃具を探す時間を短くしたり、取り付け時間を短くしたりするなどの「動き」を減らすことを意味します。

この観点から、5Sの各要素を改めて定義すると、次のような新5Sとなります。

  1. 整理: モノを「お金になるモノ」と「お金にならないモノ」に区分して表示する。お金になるモノについては「なぜお金になるのか」を明確にし、「お金にならないモノ」は処分する
  2. 整頓: 動きについては「最短距離」を心がけ、モノに関してはいつでも」ムダなく使えるように置き場所、置き方などを決める
  3. 清掃: ホコリやチリ、クズ、ゴミ、油といった汚れの発生源を立つ改善を実践して、ムダのない職場にする
  4. 清潔: 汚れがなく、綺麗で衛生的な職場。整理、整頓、清掃を実施して、クリーンで常にムダのない、誰にもムダが見える職場にする

新5S従来の旧5Sとの違いをまとめると、次のようになります。

  • 整理:従来は「要る、要らない」の基準が明確でなかったが、新5Sでは「お金になるかどうか」を基準としている
  • 整頓:旧5Sの「すぐに取り出せる」という条件だけでは個人レベルで解釈にズレが出るのを、新5Sではムダを省くために「動きを最短にする」と明確にしている
  • 清掃:旧5Sでは「綺麗にする」とだけ定義していたが、新5Sではムダのない職場を作るという目的まで立ち戻って、汚れの原因に対し手を打つことまでを求めている
  • 清潔:新5Sでは、ムダ取りの目的に照らして「ムダが見える」ことを要求している

旧5Sでは、漠然としていた基準(要る・要らない、すぐに取り出せる、綺麗、など)が、新5Sでは「お金を儲けるためのムダ取り」と明確に位置付けられており、行動の基準が明確になっていることがわかります。

これが、目的志向の管理です。

さて、この新5Sの定義には、一つ問題があります。それは「躾」の定義が明確でないことです。古畑さんの本に書いてあることを引用すると、次のようになります。

“「しつけ」は、5Sの中でも実践していくのが最も難しい。しかし、「しつけ」がしっかりとできていれば、ほかの4Sは自然にうまく進めることができる。いわば、「しつけ」はほかの4Sの基本なのである”

これでは旧5Sとの違いが明確でないので、不十分と言わざるを得ません。(実は古畑さんは他の場所でこのことに言及しているのですが、紙面の関係でそれは省きます。)

新旧5Sの最大の違いは、「決められたことを守る」ことと「目的に向かって進む」ことの差です。つまり、旧5Sの最大の目的は、3Sの定着とその「維持」です。

それに対し新5Sでは、ムダ取りの状態を何か一つ定めたらそれを実現するための努力することは当然ですが、その状態を達成したら目的に向かってさらに進むことが求められます。つまり、標準を定めそれが維持できるようになったら、次の段階に向けてカイゼンすることまでが求められるのです。

このカイゼンする風土の実現が、新5Sでの「しつけ」がやるべきことなのです。しかし、この実現は簡単なことではありません。

コントロールの発想に染まっている中小企業の経営者の変革をガイドするためには、何らかの方法論めいたものが欲しいところなのです。

「しつけ」の理想型:トヨタ・ウェイの継続的改善

経営者なら誰でも、社員が自発的にカイゼンに取り組む風土を確立したいと思っています。しかし、なかなかそれができなくて皆困っています。

それを全社的に成功させいるのがトヨタです。そこで、まずはトヨタのやり方をベスト・プラクティスとして研究し、そこから何が学べるかを考えてみましょう。

トヨタのやり方をうまく説明しているのが、トヨタ・ウェイで説明されている図に示す4Pモデルです。

トヨタの全社的改善は、まず全社的に思想を共有するところから始まります。すぐに改善作業に手をつけることは、決してしません。

何のために活動するかの思想の共有がないところでは、活動が継続しないからです。ですから、社員教育を通して全社的に長期的な利益を優先する方針を徹底して共有し、その上で具体的な改善の施策に取り組みます。

思想が共有されると次に、改善に用いるムダ取りプロセスを設定し、従業員を教育してそれに従わせます。トヨタは正しい結果は正しいプロセスを通して生まれるという信念を持っているので、使用するプロセスにこだわります。

改善に持ちられるプロセスは、問題を表面化させるための流れ生産、安定的生産を可能にする平準化など、よく知られているトヨタ生産方式のツール群です。

これらの有効性を実験的に確かめた後、全社に横展開するのです。

次の段階は、プロセスを通した人の育成です。(ここで人にはパートナー企業も含みます。)導入したプロセスを安定化させ、そのレベルアップを図るという作業を繰り返させることで、自分から考える人を育成するのです。

この育成方法についての考え方を示したものが図のリーダーシップ・モデルです。

図の左下は、冒頭に述べた旧5Sをやっている中小企業経営者のコントロールに相当します。そこでは、5Sのやり方を示して(5Sの中身の工夫は許すものの)それを遵守することを命じます。これでは、自主的な従業員は育ちません。

トヨタでは同じ5Sでも、図右上のやり方(上述のマネジメントに相当)を実施します。経験があり内容をよく理解した上司が、次世代リーダー候補にコーチとしてつきます。

思想や方向を共有した上で、リーダー候補に色々と工夫をさせます。時には失敗することもありますが、その時は正しい方向に向かうようにアドバイスをしてくれます。権限を与えられ試行錯誤することで、次の世代のリーダーが育つのです。

最後のレベルでは、事実に基づいて考えるべきこと、十分に時間をかけて意思決定すべきことなどが教えられ、継続的改善ができるリーダーが育つのです。そして、このリーダーがまた次の世代のリーダーを育てるわけです。

トヨタでは、このようにして 思想の共有→プロセスの設定→人の育成→継続的改善ができる学習組織 のループを回すことで、全社に渡って継続的改善を実現させているのです。

トヨタに学ぶ中小企業の「しつけ」方法論

この4Pモデルは、トヨタだからこそできるもので、普通の企業が実施するにはハードルが高すぎると感じられるかもしれません。しかし、思想の共有→プロセスの設定→人の育成→継続的改善ができる学習組織 という順は、教えられてしまえばごく常識的なものです。ですから、他の企業も大いに参考とすべきです。

ですから、これを5Sに限って簡易版を作るという応用方法が考えられます。そうすれば、次の図に示す中小企業にもできる継続的改善方法が得られます。この方法論こそが、古畑さんがうまく言語化できなかった新5Sの「しつけ」なのです。

まとめ

  • 企業経営者の理想は、社員が自発的かつ継続的に業績の改善に努力してくれる体制を実現すことである。しかし、中小企業が手近に始められる改革の代表的なものである5Sを例にとってみても、形ばかりで本来の目的に反するようなケースを数多く見かける
  • その原因は、中小企業経営者が5Sの表面的な実行を「命令」し、背後の目的を社員に理解させていないことにある。この状態から脱却するためには、管理スタイルをコントロールからマネジメントに転換する必要があある
  • 5Sの本来の目的は、社内に潜在して付加価値を生まない「ムダ」を誰にでも看えるようにして、その「ムダ」を排除することで儲けることである
  • この目的を明確化した新5Sでは、「しつけ」は「継続的改善」ができるようにすることを指す。しかし、中小企業が「継続的改善」ができるようになることは簡単ではなく、そこに何らかの方法論が必要になる
  • 全社的に継続的改善の仕組みが回っている理想型のトヨタをベンチマークしてみると、トヨタでは、4Pと呼ばれる4つのレベルに渡って改革が工夫されていることがわかる。すなわち、思想の共有→プロセスの設定→人の育成→継続的改善ができる学習組織の確立 のループが回っている
  • これを中小企業向けに簡便化すると、「付加価値を生まないムダの排除」→「整理、整頓、清掃、清潔」→「率先垂範で5Sリーダーを育てる」→「継続的な5S改善」というサイクルを回せば良いことがわかる。これが、目的志向の新5Sを実現する「しつけ」に相当する
  • 中小企業が継続的改善ができるようにガイドしようとするコンサルタントは、目前のプロセスの導入だけでなく、企業の思想レベル、人の育成、組織学習を含めた4Pのレベルでの改革が必要となることを心得ておくべきである