顧客満足度とキャッシュフローを同時に向上させるための能率的な生産とは


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受注があるのにキャッシュが枯渇する原因は経営者の思い込み

今日は、B2Bで顧客企業の量産製品の部品を多品種作っている企業について考えてみましょう。

量産品でも専用ラインを作るのはリスクが高いし、そこまでの体力もない、という部品製造業は多いものです。このような企業が抱える次のような問題を検討してみることにします。

“顧客企業からの受注はある。でも、生産現場が混乱し在庫の山となっている。受注に追いつかずお金は入らないのに、サプライヤーや従業員への支払いは待ったなしで、キャッシュは減るばかり。こういうことが度重なると銀行もいい顔をしなくなり、資金繰りに七転八倒し倒産しそうになる。”

コンサルタントとして、こういう事態にどう対応すれば良いでしょうか?

実は、この内容は有名な ザ・ゴールザ・ゴールドマイン(小説トヨタ生産方式) などの本の主題となっており、世の中でよく見られる現象のようです。

これらの本は小説仕立てで面白く、一気に読めるものとなっています。でも、経営者にこれらの本から何を教訓として引き出させるべきでしょうか?

ザ・ゴールのドラム・バッファー・ロープ方式、ザ・ゴールドマインのトヨタ生産方式(カンバン、平準化、流れ生産、など)は、いずれも非常に優れた方式です。しかし、それらは How です。

それらの方式がすべての企業に最適とは限りません。どの生産方式を現場で適用すべきかどうかは、会社の経営方針や経営形態に従って判断されるべきことです。

受注があるのに資金繰りに苦しんでいる企業は、なぜそのような問題を引き起こしているかのWhyを、まず経営方針レベルで考え直すべきなのです。

当たり前のことですが、最初にすべきは、「受注があるのに資金繰りに苦しむ」原因をきちんと考えることです。

ちょっと考えれば、その原因は明白です。まず、「受注通りに作れていない」ため、お金が入ってこないことです。そしてその裏返しとして、「すぐには必要とならない余計なものを作っており」、それが在庫となる分だけ余計なお金が出ていくことです。

でも、それが分かっただけでは問題は解決しません。なぜ、そのような理屈に合わないことをしているのかという、次のレベルの原因を明確にする必要があるのです。

製造業であれば、能率的な生産をしようと工夫するのは当たり前です。しかし、何が能率的であるかの根本の定義が間違っていれば、優れた経営はできません。

キャッシュ不足に悩む経営者は、この「能率」について間違った思い込みをしているのです。「何が能率的であるか」という考え方(Why)こそを、トヨタ生産方式などの優れた事例から学ぶべきなのです。

能率の定義を稼働率から顧客満足へ転換する

社内の至る所に在庫が溢れキャッシュ不足に悩む企業は、「能率」を機械や人の「加工効率」と捉える傾向にあります。これらを向上させ製品を効率よく作れば売上が上がる、と考えるのです。

歴史的には、この考え方は正しいものでした。というのは、昔は機械加工の生産性などが非常に低く、需要が供給を上回っていたからです。

機械の性能を上げたり、労働者の作業効率を高めたりすれば、生産高は向上しました。また、機械や労働者を休みなく働かすことでも生産高は向上し、それが需要を満たすことで売り上げ向上につながりました。

生産性が低く顧客の需要を待たせているような状況では、何はおいても生産性の向上を図るべきだったのです。

しかし、前提が変わるとこうはいきません。近年のように、顧客需要が成熟化し多様化している時代では、モノを作ってもすぐに売れるとは限りません。

そのような状況で、機械や労働者に必要以上に投資したり、それらの稼働率を優先したりすると、売れる順を考慮しない加工をすることになります。その結果が、仕掛り在庫や製品在庫の山となるのです。

機械や労働者への投資が固定費を増加させ、在庫の山を売上として回収されるまでの必要運転資金が大きくなるので、その分のキャッシュが出て行きます。

実は、この必要投資額が大きくなる問題は、トヨタが自動車製造に乗り出した需要が旺盛な時代でも問題でした。

「作った側から売れていく」にしても、一旦作って在庫にする分の資金は必要です。その資金が経営を圧迫するということは、資金が潤沢なごく一部の大企業以外では大問題だったのです。

実際、 ものづくり改善入門 には、トヨタ生産方式の生みの親の大野耐一氏が、「ものが工程を通過し製品となるまでの時間(生産リードタイム)の中の正味作業時間(ものが加工される付加価値製造時間)の割合は、優良な現場で1/200、平均的な現場で1/2000、弱体現場では1/12000 」と発言していたことが記されています。

このことを次の図で説明しましょう。

図の斜線の部分が、材料が加工されて付加価値生んでいる部分です。それ以外の待ち時間、移動時間、検査時間などの白い部分は全く付加価値を生んでいません。

そこにある在庫に投資したキャッシュが寝ている時間ですから、それを短縮して早く顧客に売れば、その分キャッシュの回収が進むのです。

大野さんは、斜線の部分より白い部分の方が時間的に圧倒的であり、白い部分のムダを取り除くことでこそ、キャッシュを稼ぐことができると言っているのです。お金がない状態で自動車製造に乗り出したトヨタは、この資金がなくても済むようにトヨタ生産方式を編み出したのです。

旧来のやり方で、現代では驚くほど小さくなっている斜線の正味作業時間比率をさらに効率化しようとしても、得られる果実はさほど大きくないのです。

ですから、キャッシュ不足に悩む経営者は「能率の良い生産をする」時の、「能率」の意味を問い直すことから始めなければならないのです。

「受注通りに作っていない」だけでなく「すぐには必要とならない余計なものを作っている」という理屈に合わない状況から抜け出すカギは、顧客に価値を届ける時間を短縮するという顧客優先(キャッシュ優先)の考え方に転換することなのです。

本当の意味での能率生産:顧客が要求するペース(タクトタイム)で作る

以上の議論で明らかになったのは、経営者が能率の良い生産をしようとするときに考えるべきは、非付加価値生産時間の削減だということです。ただし、その意味は、繰り返しですが「顧客に」付加価値を届けていない時間の削減です。

ですから、冒頭のように在庫だらけで混乱している生産現場を建て直すときには、顧客側から考えることを徹底しなければなりません。

何はさておいても、顧客の注文どおりに生産することから始めるのです。顧客が要求しているものだけを作っていれば、それはすぐに売れ、中間在庫(図の白い部分)は消えて行くはずだからです。

ただし、いきなりこれを実現することは難しいでしょう。その前に、「顧客の注文どおりに」という言葉の意味を明確することから始めなければなりません。

本稿で対象としているのは量産品の部品ですから、1個単位、あるいは1日単位で注文が来ることは通常は無いと想定できます。顧客側も生産計画を立てていて、週あたりあるいは月当り何個で発注し、納品日を指定して来るのが普通です。(ここでは、すでに顧客企業とJITを実現しているというような理想的な状況は想定しません。)

とすれば、極端にいえば納品日を守りさえすれば良く、ギリギリに作っても「顧客の注文通りに」という条件は満たせます。しかし、問題はそのやり方で「常に」注文通りに作れるか、ということです。

今、顧客企業のA社が部品Xを、B社が部品Yを、ともに月に1000個ずつ作り、20日に納品するように要求したとしましょう。

部品X、Yの製造にある機械Cを共通に使用するとし、Cの生産の応力が日産500だとすると、少なくとも両者の要求を満たすには注文を4日分に分けて生産しなくてはなりません。

実際には、事態はもっと複雑です。

A社、B社が注文する部品はX、Y以外にも多種あります。また、顧客はA社、B社以外にもあり、納期の指定もバラバラなはずです。さらに、急に発注量が変化することも考えなければなりません。

このことから何がわかるでしょうか?それは、できるだけ受注の生産を分散して装置や従業員にかかる負荷を小さくすべきだということです。

分散すれば余裕ができますから、急な注文の増加にも、それだけ応えやすくなります。

部品Xのケースでは、稼働日を月に20日とすれば、1日50個作れれば良いわけです。それを、さらに1日の中で分散します。

昼休みを除いて1日の8時間働くとして、午前と午後に1回ずつ10分間の休憩時間を取るとすれば、1日あたりの稼働時間は460分となります。とすれば、460を50で割って、9.2分に1個Xを作れれば良いことになります。

この9.2分という時間を、タクトタイムと呼びます。

工場の中を見回して。タクトタイム以下でXを作れない部分があれば、A社の注文には応えられないので、受注すべきではありません。普通は、上述の大野さんの発言にあるように正味作業時間比率は1/200以下なので、余裕は十分にあるはずです。

キャッシュを稼ぐ上で重要な全ての部品について、このようなことを検討します。また、儲からない部品に対しては撤退を検討します。

「顧客の注文通りに作る」ために必要なことは、「顧客が要求するペース(タクトタイム)」で「分散」して作ることなのです。これは、装置や従業員を効率よく働かせることからの180度転換です。

さて、タクトタイムで作り顧客から安定的にキャッシュが入る目処がついたら、次にすべきことは製造に必要なキャッシュを減らすことです。そのためになすべきことは次の2つです。

  1. 工程内作業のスピードを上げ、必要人員を減らす
  2. 工程間の製造ペースを整合させ中間在庫を減らす

以下、それぞれについて検討しましょう。

工程内生産性のカイゼン

各工程で最初にやるべきことは、タクトタイム以下で作れる体制の確立です。

まず、その工程内作業のベテランの作業を計測します。たとえば、ベテランが上記の部品Xを1個作るのに必要な時間が、27分だとします。その場合は、ベテランと同じ能力を持った作業者が3人いれば、タクトタイムを守れることになります。

それより低い能力の作業者しかいなければ、人数を増やします。あるいは、工程を分割し、分業をすることで生産性を向上させます。

このような手当てをした上で、タクトタイム以下での生産を開始します。

その次にやるべきことは、工程内カイゼンです。具体的には、以下のことをします。

  1. サイクルタイム(その工程内での部品1個に必要な作業にかかる目標作業時間。当然タクトタイムより小さい必要がある)を設定する
  2. ムダ(付加価値生産に貢献しない設備や作業者の動き)を削除しサイクルタイム内での部品生産を可能にする標準作業を設計する
  3. 作業者を教育し、標準作業に基づいた作業を実施する
  4. 標準作業に基づいた作業時間のばらつきの原因究明を行い、作業時間を安定化させる
  5. 安定化したら、1に戻りサイクルタイムをさらに削減する
  6. サイクルタイムが十分に小さくなったら、工程内の作業人員を削減し、1に戻る

このようなことを工程が扱う各部品について繰り返していけば、設備投資などの固定費増加をすることなく、工程の生産性が向上していき費用が低減します。

工程間同期による中間在庫の削減

各工程の生産性が向上したとしても、隣接する工程で作る部品の順番が一致していなければ、その間に中間在庫が滞留するという現象は解消しません。複数の工程が同期して生産することが必要です。

同期で実現すべきことは、量と順番の一致です。まず量について議論します。

上流工程がプレス機のような高速で加工ができ、かつ段取り替えに時間がかかるものの場合は、どうしても一回の段取り替えで多くの部品をまとめて(大きなバッチで)作ろうという動機が働きます。この時、下流の工程の処理能力がプレス機より低いと、そのスピード差で両者の間に在庫が滞留します。

これが冒頭の設備などの稼働率を優先する考え方が在庫を増大させる原因です。プレス機の加工スピードと同等のスピードで部品が売れて行かない限り、この考え方ではキャッシュを圧迫します。

従って、正しい考え方は、下流の(売れる)スピードに合わせて、出来るだけバッチ・サイズを小さくすることです。そのために段取り替え時間の短縮に取り組むべきなのです。

次に順番ですが、下流の工程が必要とするものを上流で直前に作ることにすれば、在庫はなくて済みます。その逆に、下流の工程が必要とするものではない別のものを作ると、下流工程は部品や材料不足でアイドルになり生産性は低下します。

つまり、工程間では下流工程が必要とするものを必要なタイミングで上流が作るプル生産を実施するべきなのです。トヨタのカンバンなどのような高度なものを使うかどうかは別にして、ある程度の中間在庫を設けておき、上流工程ではその在庫が減った分だけを作るというような仕組みの確立が求められるのです。

まとめ

  • ザ・ゴール や ザ・ゴールドマイン などの本でも例として取り上げられるように、「受注があるのに資金繰りに困り倒産しそうになる」という製造業が多く見られる
  • それらの問題の原因は、経営者の「能率よく生産する」ことに関する思い込みにあることが多い。「能率」を「設備や作業者を働かせ加工効率を上げること」と捉える間違いをしているのである
  • 顧客需要が旺盛で生産性が低い時代には、この考え方でうまくいっていた。しかし、顧客の需要が多様化した近年では、この考え方は「顧客の需要に迅速に対応しないのでキャッシュが入らない」、「すぐには売れないものを作るので必要以上のキャッシュが出て行く」という問題を引き起こす
  • これらの問題を解決する鍵は、社内の効率視点ではなく顧客視点に転換すること。すなわち、顧客の需要に直結しない「非付加価値生産」をしているムダの排除を考えることである
  • 具体的な解決策は、顧客の発注ペース(タクトタイム)に合わせて生産する体制を確立し顧客満足とキャッシュを獲得すること、および、それを受けて工程内の生産性をカイゼンし工程間生産を同期させ出て行くキャッシュを削減することである
  • これらのことはリーン生産などでは背景(Why)として心得ておくべき常識であるが、手法(How)中心の解説本などには必ずしも明記されていない。クライアント企業の改革を図るコンサルタントはこれらのことを心得て、まず経営者にWhyを理解させることから始める必要がある